王城へ
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奈鬼羅が帰って来てから、王宮に出向くまでの一週間。
僕は、奈鬼羅の家で過ごした。
どういう訳か、態度が軟化した奈鬼羅は能力を教えてくれた。
魔力の流れや、手足の曲げることによる、魔力路の曲がりに対応した魔力制御のコツ何かを教えてもらうことができた。
奈鬼羅は教えるのが上手く、一を聞いて十を知るタイプで、ハウメアの時みたく『何でこんなことも分からないの?』と拳ならぬ短剣が飛んでくるかと冷や冷やしたが、蓋を開けてみれば、基礎のが分かっているか確認をとり、筋道を立てて、一から具体的に教え、分からない所を聞けば、どこがどのように分からないか聞いて、欲しい答えだけではなく、この先立ち止まるかもしれない問題も対策と一緒に教えてくれた。
おかげで、念動力を腕を突き出さないまま、発動させることに成功した。
これには奈鬼羅も『才能があるみたいね』とご満月。
彩華がA級の先生だとすれば、奈鬼羅は間違いなくS級。
祝福の学校を開けば、あらゆる能力者が教えを乞うレベルの分かりやすさだった。
因みにハウメアはD級以下。
あれは教えているとは言わない。
奈鬼羅が六花にいた頃に行ったあの罰以外、特に何もされていない。
ハウメアと抜け出した時のこともお咎めなし。
足を投げ出しただけで、右腕を切り落とした人間とはとても一緒だろ思えない。
まだ、奈鬼羅の双子だと言われた方が信じれる。
それに加え、出かけたかと思えば帰って来る時にやれ花束だ、やれ髪飾りだ、と外に出る度に何かをくれる。
元の性別が男と知っているのに、何で女性が好きそうなものばかり買って来るのか疑問だ。
だが、かと言っていらないと言えば、態度が急転直下。罰が下るかもしれないので、取り敢えず礼を言ってから受け取っておいた。
人間と言うのは愚かなもので。
どれだけ、残酷な所業にあわされようと、どれだけ虐げられてようと、優しくされれば恨みが薄まる。
それが、良いか悪いかはさておいて。
奈鬼羅を見ても、気が動転しなくなったのは良かった。
これだけの短時間の間にトラウマは治るものか? と疑問に思ったが、肉体の性別から構造まで変化させることが出来るこの世界で、元の世界で培った常識を当てはめた所で、あまり意味がないと気付かされ、治ったのだからそれでいいかと考えるのを止め、今日と言う日を健やかに生きていることに感謝するのだった。
そして、一週間経った今日。
僕は、奈鬼羅の家で着せ替え人形と化していた。
「......あの」
「なに?」
メイド達が慌ただしく動き回る。
その手には、見ただけで高そうなドレスの数々。手間暇かけて、着させられたと思ったら、奈鬼羅の合否を見て彼女が首を振った瞬間、次の服へ。
それを繰り返すこと次で十着目。
朝、起きてからずっとこの調子で、奈鬼羅はと言うと、一歩引いた所で椅子に腰かけ、着せ替えの監督をしている。
「今更ですけど、男物の服ではダメですか?」
「ダメよ。今回の名目は礼と褒賞授与だけど、こちらから王族に対してのお披露目になるのよ。今はまだ、エリスには男の人と結婚してもらう予定だから、そのつもりで結婚相手を見定める為にも、今回は女性として式に出なさい」
「......はい」
「―――良いわね。このドレスでいきなさい」
「これは......少し、歩きにくいですね」
黒いブリオードレス。
スカート部分は勿論、袖、肩部にドレスと一体となったマント、その全てが大きく、歩く度にずるずると引きずらなければいけない。
また、ドレスの各所に魔石や宝石、金、銀を使った装飾品を付けている為凄く重い。
その上、頭には同じく黒色のベールに、またその上には黒く光る髪飾りを付けないといけないのだから、気分は十二単を着た平安の公家女子のよう。
「我慢なさい。何も走り回れと言ってるんじゃないの」
「それに、このドレス。全体的に黒で縁起が悪くありませんか?」
黒い服と言ったら、葬式で着る喪服が真っ先に上がる。
更に、黒いウエディングドレスには『あなたには染まらない』と言う意味があるらしく。
どっちにしろ、祝い等の場で袖を通す、服の色ではない。
だが、それはエリスの住んでいた前の世界の話。
「? 黒は、世界を平和に導いた覇神や異神の色。災厄を跳ね除け、困難に対する勇気を与えてくれる色よ?」
「―――そ、そうでしたね。恥ずかしすぎて頭が混乱していました」
「......まぁ、いいわ。次は―――」
それから、王宮から使いが来るまでの間。
簡単な礼儀作法を学び、王の言葉に返事をする内容をざっくりと、それから注意するべきことを教えて貰っていると、同時に迎えの者がやってきた。
着せ替え人形で息を付かぬ間に、今度は馬車に乗せられ、王宮へと連行される。
大人四人が入れる程の二頭立ての馬車。
前後左右には、七氏族の者だと思われる黒髪の男女が八人護衛に付き。耐えず、辺りを見渡している。
今回の式に、奈鬼羅も出席するらしく、一緒の馬車に乗っていく。
「車ではないのですね」
「あれは軍隊にしか配備されてないわ。王族なら兎に角、そこら辺の貴族は乗れないのよ」
「氏族の人達もですか?」
「私達は強いから、別にあんなの必要ないのよ」
流れゆく景色を眺める奈鬼羅。
頭にのっている髪飾りの位置を調節していると、向かいに座っていた奈鬼羅の手が伸びる。
髪を整え、ベールと髪飾りの位置を直すと『崩れるから触ってわダメよ』と釘を刺された。
石畳の上。馬車が進む度に車輪から振動が伝わり、車内が揺れる。
本格的に話が進んできた。
僕が結婚? 知らない相手と、それも男と子供をつくる? 冗談じゃない。
そんなの、絶対に嫌だ。
このまま大人しくしていても、結局は誰かと結婚しないといけない。
男か女かとかではなく、知らない国で、知らない人と結婚なんてしたくないのだ。ましてや、子供をつくるなんて......。
兎に角、残りの時間で出来るだけ、この世界の情報を集めて脱出する。
あの一件で、ハウメアも脱出を手伝ってくれそうな感じがした。それに、今の奈鬼羅は何故だか優しい。
この機に乗じて出来るだけ、僕の拘束を解いておきたい。
外出......までは無理としても、本や彩華達に役に立つ情報を教えてもらえるように許可が欲しい所。
最悪、機を見計らってハウメアに聞くと言う手もあるが、それは最終手段に取って置こう。
これ以上、奈鬼羅を怒らせたくはない。
罰も何も受けずにいられたのは、単純に幸運だっただけだ。次も、許してくれるとは限らない。いいや、絶対に許さないだろう。
そうなったら悲惨。僕は罰を受けた上で、子供をつくらされる。
子供を十人。
一年で一人として、十年。
妊娠するまで、毎日男の相手をしなければならない。
そんなの、性奴隷と変らないじゃないか。
沸々と湧き立つ、願いを胸に、区画を出る。
ハウメアと行った通りを正面に、進路を左へ曲がり、横幅が広い道を通って行く。
「注目されますね」
「当たり前よ、エリスの乗っているこれ王族専用車よ。嫌でもこちらに視線を向くわ。我慢なさい」
「だからですか」
外を見ていると、皆立ち止まり、窓から中を覗き込むように見ているのが分かる。
だが、中に居るのが王族でないと分かると、あれは誰だと隣の人同士で話し、区画から出てきたのだから、七氏族の誰かだろうと結論が出て、見送って行く。
人の視線と言うのは、肌が感じるもので、チクチクと視線刺さり、落ち着かない。
思わず、俯こうとすると、奈鬼羅に止められた。
「王族専用の乗り物に乗れるのは、それだけの功績を上げたってこと。それは決して恥ずべきことではないわ。だから、堂々としていなさい。そうね......手でも振って上げれば、エリスも慣れるんじゃないかしら?」
奈鬼羅は外に視線を向け、手を振る。
流石、七氏族の長で、直ぐに歓声が上がった。
「奈鬼羅様だ!」
「守護神様が乗ってなさる!」
「一緒にのってる女の子は誰だ?」
「さぁ? 髪は黒かったから氏族の人だろうよ」
「にしても、綺麗だったなぁ」
「氏族の長様なんて中々見れるもんじゃないからな。俺達は運が良いぜ」
そんな声を耳にしながら、道を抜け、王宮に続く大通りへ抜ける。
事前に計画されており、先回りで行っていた氏族の人達が、スムーズに進めるように車列一台分を確保していてくれた。
そこに入り込み、行った事のない道を進んで行く。
王宮に近づくにつれ、景色がより華やかに、より鮮麗されていくのが目に入る。
店は、金持ちが通いそうな所ばかり、歩いている人達も、ハウメアと一緒に行った所に比べて、身綺麗でいい服を着ていた。
中には護衛らしき人を従えている者もいた為、王宮に近づくに従い、貴族や金持ちが住む仕組みになっているのだろう。
そんな人達も、例に漏れず。車列が目に行った瞬間、立ち止まり、敬服の姿勢を取る。
やはりむずがゆいな。
「確認するわ。今回貴方は六花家の三女として向こうに通してある。長い事病に臥せっていたのが、最近になって良くなった。良い?」
「六花エリスですね」
奈鬼羅は頷く。
「―――もう直ぐ付くわ。ベールで顔を隠しなさい」
「はい」
位置がずれないように、ゆっくりと前に垂らす。
これじゃあまるでウエディングドレスだと思ってると、奈鬼羅が理由を教えてくれた。
「そのベールと髪飾りは一種の合図のもの、これを付けた氏族の者は王族に嫁ぎますってことで、意志表示をして王族に認識してもらうのよ」
女性はベールと髪飾り、男性ならネックレス。
また、男の場合は領地と爵位を貰い、そこで貴族として暮らす。
十年か二十年か、王族と結婚させるタイミングを決めるのは奈鬼羅で、嫁がせる氏族を決めるのも、また奈鬼羅の役目。
五十年間嫁がせないこともあれば、二年連続で結婚したこともある。
政治的なものと言うよりも、どっちかというと伝統のようなものであり、『そう言えばあれやってなかったな』と思い付きで、やったりもするみたいで、結構いい加減な行事なのだ。
しかし、血のつながりが出来るのは確かで、本人の意志は兎に角、両家に特にない。
門の前で馬車が止まると、扉が開かる。
「どうぞ」
黒髪の男性が、手を差し伸べ、それに手を乗せながら、外へ出た。
僕の前に他の馬車から降りたメイド達が、歩いてくると、地面をする程の長い裾を掴み、床につかないように僅かに上げた。
「床に敷かれているカーペットに沿ってゆっくり進みなさい。彼女達はエリスに合わせてくれるから気にしないでいいわ」
僕と同じように男に手を差し出されるが、小さく手を払い、それを下がらせると、そのまま飛び降り僕の近くに来て耳打ちする。
ゆっくり......ゆっくり......。
歩くのと同時に、馬車が進み、別の馬車が止まったのが分かった。
小さく振り返る、一瞥すると、それは僕の乗ったのと同じ、即ち王族専用車。
扉が開かれ、中から出て来た人物には見覚えがあった。
黒と赤のドレスに身を包み、腰には何時もの剣を。
「エスコートは不要よ! 自分で降りられるわ!」
聞こえるのは僅かに苛立ちを含んだ少女の声。
奈鬼羅と同じくピョンっと飛び降りると、乱れた髪を払い上げ、こちらと目が合った。
「エリ―――っ!!??」
駆け寄ってとした際。何かが目に入ったのか、石のように固まり、見る見る内に眉間に皺をよせ、毎日見た不機嫌モードに移行した。
そんなハウメアを見た奈鬼羅はニヤリと笑い、唐突に僕に近づき、腰に手を回した。
「さぁ、行きましょう。エリス」
「え? はい」
再び足を進めようと、最後にもう一度ハウメアを見ると、歯ぎしりする程の悔しさを顔一杯に表現し、両手で握り拳を作っていた。
あれはこっちに飛んでこないよな?
そんなことを想いながら進む。
門を通り、奈鬼羅の指示通り進む。
そして、また、門の前へと。
奈鬼羅が門の直ぐ傍で控えている、執事に視線を飛ばす。
すると、門を数回叩き、小さく開かれた所に身体を滑り込ませ入って行った。
「いい。王の前だけど、跪いたり、かしこまったりする必要はないわ。ただ、私のする事を倣ってしなさい。後はこっちでやってげる」
「分かりました」
深呼吸する。
一度、二度としていると、門の向こうから男の声が響き、開かれていく。
「奈鬼羅様並びに、七五三木家ご令嬢! 七五三木ハウメア様! 六花家ご令嬢! 六花エリス様! 御入来!」
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