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奴隷実験体が幸せになるまで  作者: 柊なつこ
エイル王国編
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自己弁護

 面白ければブックマークを押してくれると嬉しいです。

 また、誤字脱字があれば報告をお願いします。

 僅かに出るその声。


「何を驚いているの? 貴方が命令を破るから私も貴方の約束を破ってしまったのよ? 恨むなら自分とその隣に居るそれ(・・)を恨みなさい」


 隣に目を移すと、両手を畳に付け、頭を下げている。しかし、その礼は見かけだけで、両腕には震える程力が入っており、掴んだ畳は捩じ切られ、抉れていた。

 今までにない以上怒っている。

 いいや、怒り狂っている。


「だ、って! 能力で男になれればいいって!」


「もうダメよ。この先、彩華とメイド以外言葉を交わす事は禁止、それ(・・)とももう会わないようにね。残りの九か月は他の祝福の鍛錬に全ての時間を使いなさい。それから、次の年になったら、まず私と子供作って......。そうね......取り敢えず、こっちで選定した者と十人程産んでもらおうかしら」


 瞬間、下座に座る者達が湧き立つ。

 それもそうだ。

 奈鬼羅の奴隷、それも飛び切りの美麗な少女の身体を味わうことが出来るのだ。

 先ほどまで奴隷だ何だと嘲っていた男達も例に漏れず、色めきだっているのが二人の耳に入ってくる。


 怒りで震えるハウメアとは真逆に、後悔で身体を震わす。


 やってしまった。

 これまでの時間してきたことを全て無駄にした。

 もう、何をやっても逃げられない。

 今回のことで目が厳しくなるだろう。見張りが付くかもしれない。

 その中で、ここから逃げる手立て考える何て出来るのか? 一年も満たない時間でそんな出来ない。

 でも、出来ないと知らない男の相手をさせられる。


 『あれ程の力を持つ母体なら、きっと素晴らしい子供が生まれるわ』と言う奈鬼羅の言葉が身体に刺さる。


「健康な子供を産むことが出来たら、その次は王族と結婚。確か、第三王子が後二年で成人だったはね?」


「はい」


 奈鬼羅の視線に彩華が答える。


「なら、丁度いい、そいつと結婚してもらいましょう。......ああ、別に私は王族なら誰とも結婚してくれて構わないからね、貴方が嫌と言うのなら、もっと年上の第一王子か、少し年上の第二王子がいた筈。それが良いならそっちにしなさい。選択は貴方に一任するわ」


「そ、そんな! お願いします! どうか、それだけは―――」


 姿勢を正し、両手で身体の前でパンッ と一度叩き『はい、これで貴方の話はおしまい』と軽やかな口調で切り上げる。

 反論を許さないという強固な信念の表れ。

 声は途中でバッサリと斬り阻まれ、それから先の言葉が出なかった。

 絶望に、力が抜ける僕を一瞥すると、冷徹な表情へと変わり、僕の隣に座しているハウメアに視線を移した。


「さて、お前の処分がまだだったわね? この責任はどう取ってくれる?」


 この先、言葉を間違えてはいけない。

 もし、選択を間違えれば、奈鬼羅の手がハウメアの身体へと伸びる。誰もがそう思う程の、危なげな空気を感じる。


「いかようにも。しかし、一つわたくしの話をお聞きいただけませんでしょうか」


 何時ものように、大声で威圧するように話す口調ではなく、凛とした声で控えめな語調、思わず聞き入ってしまう程の美麗な声音で話すハウメア。

 一瞬、誰かと思ってしまった、僕を置いて話を続けた。


「言い訳? 良いわ、聴いてあげる」


「私達七氏族に於いて物事を決定するのは、力。そうですね?」


「そうよ」


「では、その理念を以て、私は奈鬼羅様に申し上げます」


 ―――この者を私に下さい。


 場が凍り付く。

 誰もが期待していた、謝罪ではない予想もしていなかった言葉が今、ハウメアから飛び出した。


 この場に居る者の中で、今の奈鬼羅の姿を直視できるものはいるだろうか。

 いいや。いない。

 右手を添えていた脇息を握りつぶし、見上げるハウメアを睨みつけ見下ろす。

 身体中から魔力が溢れ、大広間に広がって行く。


「お前、死にたいのか?」


「いいえ。死んだら、友と言の葉を交わすことも出来ませんので」


「ならどうして今、この瞬間、この場所でそんな妄言を吐く? この先、少しでも私の意に沿った言葉を選ばないと、跡形もなく消してやるから覚悟しなさい」


 傍に座っているだけで、逃げ出したくなる程のさっき。

 身体の芯まで、響く程の恐怖が内側から心を侵食していく。

 僕だけじゃない。この場に居る殆どの者が、その覇気に押し続され、恐怖でその身を震わせる。

 そんな中でも悠然とした態度で、奈鬼羅を見上げる豪傑。


「奈鬼羅様はわたくしの能力をご存じでしょうか?」


「それがどうした」


 苛立ちを隠さない、眉間に皺をよせ、怒りを露にする奈鬼羅を見て、僅かに口角を上げる。


「わたくしの能力『七星七権(しちせいななけん)』は一つで七つの能力を有している複合型の祝福です」


 はったりだ。

 あれだけ、頑張っても能力が発動しなかった。能力のあるなしは兎に角、その能力が使えない以上、ないのと同義。

 それなのに、この場で声高らかに『私には最強の祝福が七つある』と宣言したのだ。

 自身の罪を問いただされている最中の告白。

 それが、意味するのはそれ即ち、奈鬼羅に向かって『お前よりも強いから私の言う事に指図するな』と言っているのと同じ。

 例え、その意図が無かったと言っても。

 ここに座している誰もが、先のように思うだろう。勿論、奈鬼羅も。

 勿論、僕と彩華はその秘密をしっているからはったりだと分かる。

 

「......」


 以前、目を伏せ、沈黙を貫く彩華。

 どうやらここで、それは嘘だと断じるつもりはないらしい。

 

 ハウメアの度胸に心の中で驚いていると再び場が荒れた。


「な、七つだと!? そんな世迷言、この場で吐くか!」


「そうだ! 長の御前での虚偽は即刻死刑! それを、分かっていて申しておるのか!」


「黙れ!!」


「「っ!! ......」


 佐々実の言葉で場が鎮まる。

 ハウメアのその言葉の真偽を確かめる為に、視線を正十郎に向けた。

 

「......我が娘の言葉に嘘偽りはございませぬ。屋敷内で三つの能力を使っているのをこの目で見ました。七つあるとは存じませんでしたが......複合型の祝福である事は、我が先祖、三代目の名に誓い真であると保証致します」


 大広間が湧く。

 『何と!』と言った驚愕の声。

 『信じられぬ』と未だ、懐疑的な者達。


 それから長い時間、考える素振りを見せる奈鬼羅。

 その間、室内はしんと鎮まり、物音を鳴らすのが憚られる程の静謐な空気。

 思案を巡らせるには、決して短くない時間が経過し、そこでようやっと目を開きハウメアを見下ろした。

 

「それで、自身の能力を、こんな公の場で話して一体何が目的?」


 ここで、襖の外から声が聞こえてくる。

 

「会議の最中失礼致します! 只今、城より使いの者がお見えになりました!」


「ようは?」


「王より『悪漢共から我が娘を救い出したその手腕見事、正式に礼と褒美を取らせる。この日より一週の後に城に来られるよう』とのこと!」


 言葉を聞いた瞬間。まるでパズルのピースが埋まる様に、これまでの一連の行動を理解した。

 六花に使いを出すように言ったのはこの為のか。

 使いが来るまでの時間稼ぎとして自分の力の情報を、この場で情報を奈鬼羅に渡した。

 でも、もしあの人攫いの一見が無ければ、この盤面をどう、切り抜けていたのか?

 もしかしたら、何も考えておらず、行き当たりばったりで動いているのではないか等を考え、ふと奈鬼羅を見上げる。

 入って来た、使いの者が手に持った手紙を奈鬼羅に渡す。

 手紙を開き、目を通すと、ハウメアに向かって手紙を投げた。


「―――それはお前が?」


「はい。私とエリス(・・・)が行いました」


 『そう』と言いまた物思いに耽る。

 それもその筈で、使いが来た瞬間にハウメアに対する罰を与えるのが難しくなったからだ。

 七氏族と王族、ひいてはエイル王国の関係は主従と言うよりも、同盟に近い。


 国の危機には率先して、問題を解決に尽力するし、氏族の長たる奈鬼羅もエイル国の安永の為に直属部隊に所属している。

 しかし、本来ならば、王が氏族に行使出来るのは、『命令』ではなく『お願い』。

 つまり、極端な事を言えば、氏族の人間が盗みを働こうが、殺人を起こそうがエイルの国は処罰することが出来ず、戦争が勃発したとしても、王は氏族に対して、徴兵は出来ない。

 だが、それは同盟関係の上、信頼の中で培われた特例であり、その様な蛮行を行おうものなら氏族内で組織された警邏隊に捕まり、奈鬼羅や七氏族の長達から罰が下される。

 

 話を戻そう。

 

 同盟関係にある以上。相手の顔もある程度たてなければいけない。

 もし、この場で奈鬼羅が王女の恩人であるハウメアを罰するのなら、それは相手の顔に泥を塗るのに等しい。

 そんなことをしたら、何代にもわたって育んできた信頼に罅が入りかねない愚かな行為。

 奈鬼羅とて馬鹿ではない。

 王からの使いが来た時から、なんと気なしに分かっていた。

 

 しかし、ここで不問にすれば、奈鬼羅自身の威信に傷がついてしまうかもしれない。

 だから、考えている。

 今回の一見の落とし所を。





 思考の海へと身体を浸し、周りの目を気にする事無く、思案を巡らせる。

 

「......七五三木ハウメアの処遇を下す。―――今回の一見、長である私の所有する奴隷を無断で持ち出し、区画から出た行為は奈鬼羅に反逆を起こしたのと同義」


 『しかし』と話は続く。


「盟友であるディビット王の娘、シャーロットを悪漢から救い出し、その命を救った行為は称賛に値する。これらを含めて、今回の七五三木ハウメアが引き起こした件については、不問とする」


 その言葉に安堵の息を漏らす正十郎。

 佐々実と彩華も心なしか肩の力が抜けたような気がする。


「ありがとうございます。では、エリスの件については?」


 依然として奈鬼羅に食い入るハウメア。


「それとこれとは別よ。私のエリス(・・・・・)が欲しいのなら私から奪えば良いわ。その力が本当にあるのならね? ―――まあでもシャーロットを助け出したのは、褒めて上げる。だから、褒美として会うのを禁止するのは取り消して上げる。これは、私からの最大限の譲歩と思い、感謝しなさい」


「っ......かしこまりました。此度の私の蛮行に於いて、寛大な処罰を頂き感謝いたします」

 

 思ってもない事をすらすらと言い放つ。

 頭を下げ、伏せているが、口元は歯が見える程食いしばっており、悔しさがにじみ出ている。


「さて、ディビット王には必ず向かうと言っておいて。―――それと、他の氏族長に連絡。今日の決議は中止だから来なくていいわと伝えなさい」


 手紙の返答を受け取ると使いは『はっ!』と頭を下げ、大広間後方に控えていた従者達と共にそのまま足早に出て行った。

 

 張り詰めた空気はほぐれ、何時しか奈鬼羅から溢れ出している怒りの色はなりを広めていた。

 

「これにて七五三木ハウメアの件は終い。解散しなさい」


 奈鬼羅の言葉に各々立ち上がると、奈鬼羅や他の族長に向け、一礼をし、退室していく。

 これからどうしたらいいか分からないでいると、奈鬼羅が近づいてきて腕を掴まれ立たされる。


「貴方は私の家に来なさい」


「え? ちょっ!」


 逃げないようにか右手でがっちりと掴まれ、余りの強さに骨が軋み、痛みが走る。

 痛みで思わず顔を顰め、反射的に手を振り払おうするが、この先のことを考えて、このままついていく事にした。


「エリス......ね。良い響きだわ。戦いを魅了し、争いが向こうからやってきそうなそんな名前......。私のエリス(・・・・・)。今夜はとことん楽しませて貰おうかしらね?」


 自身に引き寄せると、腰に手を回し、まるで誰かに聞こえるように言っているような声、挑発ともとれるその言動。

 腰を抱かれながら外へと足を進めていると、後ろからダンッ! と言う音が聞こえて来た。

 その正体は、床に鞘毎剣を突き刺した音。

 こちらを向いて佇んでいたハウメアがはっきりと奈鬼羅を睨みつけているのが見える。


「ハウメア、今日はありがとう。凄く楽しかった」


 去り際にそう言うと、表情は一転、悲し気な面持ちで僕に視線を移す。

 その表情は大広間から出て行くまで続くのだった。




 

 


 


 

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