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奴隷実験体が幸せになるまで  作者: 柊なつこ
エイル王国編
53/69

自由の対価

 面白ければブックマークを押してくれると嬉しいです。

 また、誤字脱字があれば報告をお願いします。

 弥乃達と会話を始めたハウメア。

 知り合いらしく、情報の共有を図っているようだ。

 

 僕はと言うと、周りに敵がいなくなったから、抱いている少女を下ろそうとする。

 しかし、『迎えが来るまで如何かこのままで......』とうるんだ瞳で懇願され、お姫様抱っこを継続してる状態。

 能力で、筋力が上がっているから辛くはない。だが、知らない女の子を抱いていると、何だかムズムズしてくるのだ。

 

 話が嚙み合ってなかった為、二人して眉間に皺を寄せていると、後から入って来た弥乃の部下に補足を入れて貰い、やっと情報が纏まった。


「で! 何でこんな所に王女がいる訳!」


「この近くで姫様が経営している孤児院の視察の終わり、帰っている途中に車列を襲われ攫われたのだ」


 弥乃の聞くところによると、本来、王族と言うのは城の外に出る時は必ず、前後装甲車で護衛され更に、弥乃達王直属の隊員が身辺の護衛を務める事になっている。

 しかし、今回の孤児院視察に当たって王女たっての希望で装甲車を護衛から外し、本人の登場する車も馬車へと変更になった。

 その全ては前回、来院した際に子供が怯えていた為らしい。

 

「そう! なら何であんたらが護衛していたのに攫われてんのよ!」


「我々が護衛の任についていれば、こんなことにはなっていない。直前に護衛を外されたのだ」


「外された?」


 アイリスの迎えの者を手配したと報告に頷き、話を続けた。


「前々から視察は予定に遭った。その為の護衛計画も存在した。それなのに、直前になって第二王子、ハーネスト・ミルダリア・アットー・エルシアナ殿下が公務の為にと人員を引き抜いていったのだ。装甲車や兵士達ならまだしも、我々グングニルの隊員は限られている。王位継承権の低い王女と高い王子。どっちを優先するかは明白。結果、王女の護衛は杜撰、こんな野盗風情に攫われたという事だ」


「ふんっ! 吐き気がするわ! どうせ、王位争いでしょ!」


「全くだ」


「―――それより。何時までエリスに抱かれてんのよ!」


 バッと振り向き、王女を睨みつける。


「エリスさまと言うのですか? わたくしエイル王国第四王女。シャーロット・ミルブリスト・ファーネルゼ・エルシアナと申します。気軽にロッテとお呼びください。エリスお姉さま」


「お姉さま?」


「話を聞きなさいよ!」


 ハウメアの降りろと言う声とは裏腹に、僕の首に手を回し。身体全体を押し付けてくる。

 少女とは言え、成長期の女性。

 胸もそれなりに膨らんでいる。そんな、物を押し付けられれば、女の身としても何も感じないわけがない。時折、シャーロットの髪から漂ってくる、妖艶的な匂いも相まって、頭がくらくらしてくるのだ。


 そんなことをしていると、ハウメアがズカズカと音を立て、シャーロットを引きずり下ろそうと手を伸ばす。


「落ち着け、七五三木ハウメア! 幾ら氏族とは言え、その態度は不敬罪で処罰されるぞ」


「ハッ! 私や七氏族を罰することが出来るのは奈鬼羅だけよ。私は二色みたいに王族に尻尾を振ったりはしないからね!」


「っ! 私達は別に王族に媚びを売っている訳で「まぁまぁ、マスターも七五三木様も」」


 喧嘩を売るような態度を取るもんだから、弥乃が怒りを覚え、突っかかろうと手を伸ばした直後、アンジェロが間に入りその場を収めた。


「無事、姫様を保護出来たのです。今日はそれを喜びましょう」


「......そうだな」


「七五三木様。姫様を助けてくれたことに感謝しますが、この場所を離れる事をおすすめします。警邏隊が、ここに来るとあれやこれやと質問攻めにあってしまいますよ?」


「―――ッ! そうだったわ! エリス! 早く帰るわよ!」


「は、はい! ―――それじゃあ、また」


「あ、......このお礼は必ずさせて頂きますお姉さま。―――それとハウメアさま。エリスさまは拷問されても最後までハウメアさまの名前を口にしませんでした。とても良いご友人を持ちましたね」


 急いでシャーロットを下ろすと、走るハウメアの後を付いていく。

 外に出る間際、後ろから聞こえてくるその言葉に、再び耳を赤くし恥ずかしがるハウメア。


「ッ!!?? ―――礼なら迎えが来てから直ぐに六花に使いを出しなさい! そうすれば、エリスも喜ぶわ!」


「分かりました」


 走り去るハウメアの声にニコニコと了承するシャーロット。

 僕自身、その言葉の真意は分からないが、ハウメアなりに思ってのことだろうと、何も言わずにそのまま後に続いた。

 

「あんな子氏族に居たかしら?」


「あれだけの美形は居たら目立つと思うけどな」


 後ろから聞こえる事を無視してそのまま建物を去った。


 暫く歩いた後、唐突に止まったハウメアに『抱かせなさい!』とド直球な言葉を掛けられる。

 困惑していると、僕の意志も聞かずにひょいっと抱きかかえられ、さっきシャーロットにしたような事を僕がされられた。

 友達を取られると思ったのか、あの時のハウメアはどうも不機嫌で、逆に今はニタニタとした笑いの上機嫌。

 やり返してやったと言わんばかりの顔でふんっ! と鼻息を鳴らし、事件を蹴り上げ、駆ける。

 表面に魔力が出ている出ている所を見ると剣気を纏ったのか、さっきとは比較にならない程の速度で走って行った。

 夕方になり、一日の疲れを癒そうと、町に繰り出し始める時間帯。

 大通りに近づくにつれて、人通りが多くなり、この速度で走るにはいささか危険である。

 しかし、そこはハウメア。一度、グッと力を貯め、真上に跳躍し、建物の屋根に着地するとそのまま屋根伝いに跳躍しながら進んで行った。


「怖い」


 無意識から出た声。

 何せこんな高い所に来た事が生まれて一度もないのだ。

 地面から遠く、落ちたら怪我じゃすまされない。治癒能力があると言って、心は唯の人間だ。

 落ちたら危ないと心の中で分かっている故の恐怖。

 思わず、走るハウメアに抱き着き身を寄せる。

 『すみません』と一言礼を言うと『そのまましっかり捕まってなさい!』と気にしていないような声音で前に向かって吠える。


 血まみれの黒髪の少女が屋上を飛んでいるのは流石に目立ち、多くの視線が身体に刺さるが、不思議と心地よかった。

 信頼出来る人とただ只管、飛び駆ける。

 快然(かいぜん)たる笑みを浮べながら髪を靡かせ、縦横無尽に風を感じながら走る。

 それはまるで物語の一幕のように幻想的で、見る人の目を魅了する力を持っているに違いない。

 

 大通りに来ると、屋上が途切れそろそろ地面に降りるのか? と思いきや、『少しの間動かないでバランスが崩れるから』と言い、等間隔に設置されている街灯の上に飛び乗り、そこからまた跳躍し街灯へ、それを数回繰り返し、昼頃通った露天立ち並ぶ区画へと到着した。


 胸一杯に溢れる程の幸せに自然と笑みが零れる。

 最初は、疑惑の念を以て挑んだ外への逃避行。世界の一旦を知り、感動を覚えたところで奈鬼羅への許可を取っていなかったことが分かり絶望するが、最後には悪くない。いいや、忘れがたい程の思い出が出来た。

 今では、外に出てよかった。

 そう思える。


「......ありがとうございます」


「? 何か言った!?」


「いいえ。何も言ってません。早く帰りましょう」


「そうね! 帰って一緒に怒られるわよ!」


「っ......そうですね」


「安心しなさい! 殴られるのは私だけにしてもらうわ!」


 一族の長の奴隷を無断で区画外に持ち出したと言うのにこの表情。

 まるで、気にしていないこの顔を見ていると、不安が吹き飛ぶような気がした。


 そうこうしていると、関所に到着。

 前に降りると、下ろされ、そこから歩くことにした。

 来た時もどうよう、並ぶ集団を掻き分け、顔パスで通り抜ける。大通りよりも、もう少し広い石畳の大道。

 二人して血まみれになりながら、今日のことを話す。

 あそこのあれが美味しかった。あの店の亭主の髪型が面白かった。

 他愛もないことで笑い合い。残りの僅かな距離まで会話を楽しんだ。

 僕はハウメアの隣を歩き、来た時よりも身体の距離が近いような気がするが、ハウメアも僕も何も思っていない。

 

 六花の屋敷門が見える。

 そこには、慌ただしく数人の従者達が門前に出て、せわしなく右へ左へと首を動かしている。

 そんな従者達の目に僕達が移ると、数人が屋敷へと駆けていき、残りが僕達に向かって走って来た。

 何かを焦っている表情を見るに、余り良い事ではないのは確かで、若干の不安を感じつつ胸を張り、悠然と歩く。

 

「し、七五三木様! 六花邸で彩華様、佐々実様、正十郎様並びに奈鬼羅様がお待ちです! どうぞこちらに」


「っ!」


 奈鬼羅。

 その言葉が耳に入っただけで、身体が震え、恐怖と不安が起きる。


「案内しなさい!」


「はっ!」


 奴隷の僕には目もくれず、そのまま足早に先導する。

 門をくぐり、正面玄関へ。

 靴を脱ぎ、上がると、長い廊下を経て、襖の前に通される。

 その襖には桜の木と龍の絵が施されており、これまで横切った際に目に見えた襖より造形が凝っているのを見ると、この先の部屋が重要な場所だという事が分かる。


「七五三木ハウメア様! ご到着なされました!」


「......通せ」


「はッ!」

 

 二人のメイドが襖を開き、僕達は中へと入る。

 そこは、一度に百人が入れる程の大広間。

 畳の上には、何人もの人たちが正座の態勢で左右に分かれ座っており、上座近くには恐らく六花と七五三木の当主だろう人物が座っていた。

 彩華の隣に座っているのが六花の当主だろうか。

 そんなことを考えていると、大広間の奥、上座に彼女がいた。


「おかえりなさい。初めての外界は楽しめたかしら?」


「え、あ......」


 足を崩し、脇息(きょうそく)に体重を預け、捕食者の目で僕達を見る。

 その目は僅かに怒りの色が見え、思わず足がすくんでしまう。

 そんな中でも、胸を張り正面を見て、しっかりとした足どりで奈鬼羅の前まで進んで行くハウメアを見て、少し視線を落とし、後に続く。


「奴隷の分際で何ということ......」


「聞けば、ハウメア様がたぶらかしたとか」


「何と、奈鬼羅様の所有物に気を持つなど身の程知らずな」


「所詮、混じり物(・・・・)の血。裏切り者の売女が何処の男とも知らぬ子を孕んだ結果よの......」


 上座にたどり着く間に、僕達に聞こえる事で罵詈雑言を浴びせる者達。

 歯をむき出しにして飛びつくのではないかとハウメアの方を見るが、流石にこの場を弁えてか、そのまま一定の足取りで進み続け、正面まで来ると、剣帯から鞘を外し、その場で正座の姿勢で座る。

 奈鬼羅を見る目は、僅かに鋭く角度によっては睨んでいるともとれない危うい目つき。

 その隣に僕はハウメアに倣って正座で座った。

 何時もと変らない、美麗な顔、女性らしい容姿、唯一つ、左手が肘から先がなくなっているのが見えた。


「外界は楽しめた?」


「......はい」


「そう。良かったわね」


 優しさの含んだ声音。

 語調は穏やかで、本性が分かっているのに安堵が現れる。

 

「奈鬼羅様今回の「貴方は黙っていなさい」っ......」


「私が出て行く時に言いつけた事は覚えているかしら?」


「は、い......」


「じゃあ、ここに居る皆に聞こえるように言って聞かせて貰えないかしら。ゆっくりと落ち着いた声、でね?」


 表面上だった震えが、身体の芯からに変わる。

 全身が震え、声がつまり、考えが定まらない。

 言わないと......。


「な、奈鬼羅様の命令は絶対。どんな、こ、ことがあっても許可なく建物から出るのは禁止。許可なく祝福を使うのは禁......止。です」


「偉い偉い。ちゃんと覚えてくれていたのね。―――てっきり忘れてしまったのだと思っていたわ」


 パチパチと手を叩き、演技くさい言葉を大広間に響かせる。

 

「この世界の事を知らないだろうから教えて上げる。奴隷って言うのはね。主人の言う事を聞き、主人のして欲しい事をするのが奴隷の仕事なのよ? 貴方、あの時、『奴隷になります』って確かに言ったわよね?」


「はい......」


「じゃあ何で私の命令を無視するの?」


「それは私が「黙りなさい」」


 焦点が定まらない、息が荒れる。汗も止まらない。

 何を言うのが正解? どうすれば最悪を回避出来る? 分からない、何も考えられない。

 

 暫くの後にため息を吐きながら奈鬼羅が口を開いた。


「彩華から聞いたわ。性別を変えられるようになったらしいじゃない。それどころか生物そのものを変化させられるようになったとか。龍になることが出来ると聞いて、少し胸が高鳴ったわ。......話がそれたわね」


 『ああそうそう』とワザとらしく思い出したかのように口を開き、言葉を紡ぐ。


「貴方()子供を産む為の相手を選定するから、その気でいなさい」


「............え?」


 

 


 


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