蹂躙
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崩れた天井と一緒に降ってきたハウメア。
流れる身体運びで一人を重傷に、もう一人を殺した。
駆け足で近づいてくると、縄を切り解放される。
「どうしてここが分かったんですか?」
忌々しい布袋を取りながら聞く。
喉を傷めたみたいで若干、しがれた声音になっているが、それも直ぐに治るだろう。
「足止めの奴らに聞いたわ!」
もう一人の少女に目もくれず、『さぁ! 逃げるわよ!』と進んで行くハウメアに流石にそれはダメだと制しする。
「ちょっと待って下さい。この人も一緒に連れて行かないと」
「? 何で? 知り合いじゃないんでしょ?」
年はハウメアと同じぐらい。
碧色の瞳からは恐怖の涙が流れ出ており、傍から見ても震えているのが分かる。
金色の髪は僅かに血で汚れており、未だ繋がれた手は白く、美しかった。
手で縄を千切り、少女を立たせる。
恐怖で足が竦んだのか、倒れそうになってので仕方ないと首と膝裏を抱え上げた時、『奥の奴を殺せ!』とガルフの野太い声が聞こえて来た。
「知らない人ですけど、このままここに置いていたら可哀そうです」
「ふーん......ま、良いわ。あんた、エリスに感謝しなさいよ!」
「あ......」
扉前まで歩いていくハウメア。
声を出そう努力する少女に『大丈夫だから』と宥め、先に進むハウメアの後ろにつく。
ドタドタと向こうの部屋が騒がしくなり、人の気配が近づいてくるのが分かった。
「じゃあ先に私が部屋の中片付けるから、エリスはそこでじっとしていなさい!」
返事を聞かずに扉を蹴り壊し、突き進んで行ってしまった。
剣同士が当たる音が聞こえたと思ったが、直ぐにそれは男たちの悲鳴へと変わり、暫く経つと、その悲鳴すらも聞こえなくなっていた。
悲鳴の声で怯える少女を『大丈夫だから』と何度か励ましていると、血まみれのハウメアが剣を鞘に戻し、顔をピョコッとこちらに出すと『終わったわ!』と言いながら引っ込めた。
壊れた入口から部屋の中へ入ると、十数人程の死体が辺りへ散らばっていた。
机の上には上半身だけにも関わらず血の泡を吐きながら生きている者。
剣が刺さったまま『ママ......』と呟く者。
左足が膝下から、右足が足首から切り飛ばされ、部屋の隅にあるその足を拾おうと必死に這い進む者。
そんな、風前の灯の男達はハウメアが階段に続く出口へと足を進めながら、何もなかったかのようにとどめ刺していたいく。
「大丈夫だから。外に出るまで目を閉じていて」
「助けッ! 助けてく―――」
覚える子供に余り暴力的なものを見せるのはどうかと思った僕は、少女を抱き寄せ、顔を僕の身体の方に向けさせる。
それでも、男の命乞いの声を聞こえた時には身体の震えが強くなっていた。
鉄製の扉を先ほど同様に蹴り壊し、階段を上る。
「で! あんた誰なの?」
「わ、私は「何!? 聞こえないわ!」っ!」
か細い声にを掻き消すように、ハウメアの声が重なる。
それに、委縮してしまい、声を喉に詰まらせていた。
「ハウメア。今は怯えているようですし、もう少し落ち着いてからにしましょう」
「......まぁ、エリスがそう言うならそうするわ」
何だか不貞腐れたような声だ。
親が構ってくれない時に出す子供の声に似ている。
少し考え、もしかしてとハウメアに声をかける。
「助けてくれてありがとうございます。ハウメアが来てくれなかったらどうなるか分かりませんでした」
「ッ!!」
ボンッ! と頭が湯気だっているのが後ろからでも丸見え。
期待はしていたが、言ってくれると思わなかったようで耳まで真っ赤にして恥ずかしがっていた。
大方、勝手に連れ出された挙句に人攫いに遭ったのは全部ハウメアのせいだと内心恨まれているのではないかと思っていたのだろう。
確かに、嘘を付き、命令を破らされたことには少し思う事はある。でも、それはもう過ぎた事だし、人攫いの関してはハウメアは関係ない。
実際こうして助けに来てくれたのだから、感謝するこそすれ恨みはしない。
「人攫いに遭ったのはハウメアのせいじゃありません。気にしないで下さい」
「でもっ!」
「良いんです。最後には助けてくれましたし」
「......」
階段を上り、建物の室内に出る。
するとそこには四人の男が立っていた。
「おいクソガキ! 俺が握っているこれが見えるか!? 銃って武器で目で追えない速さで弾が飛び出す! 幾ら氏族で能力を使えるからって無事ではすまねぇ。死にたくなかったら武器を捨てて大人しく奴隷になりやがれ!」
さっき出て行ったボルズが戻って来たのか?
残りの三人も拳銃で武装しており、銃口は全て、剣を持っているハウメアに向いていた。
そんな状況の中においても表情に焦りや恐怖と言った色は見えず、視線をボルズに向けながら『直ぐに終わらせるから階段で待ってなさい!』と言い残し、歩いて行った。
「おいテメェこれが見えないのか! 止まれ!」
「ピーピー騒がしいわねあんた。銃ぐらい知ってるわよ。何処の生まれだと思ってるの」
僕は別に撃たれてもどうとでもなるのだが、胸の中にいるこの少女はそうもいかない。
したがって、言われた通り階段を少し降りたところで身をひそめることにした。
そこから、顔を少しだし、ハウメアの後ろ姿を眺める。背中から漂って来るあの空気は、間違いなく戦う気でいる空気だ。
でも、祝福も使えないのに一体どうやって? ......まさか。
少しの不安と共に思い浮かんだそのまさかが、眼前で披露されるのはもう少し先。
「なら威力も知ってるだろうが!」
ボルズが引き金を引く。
雑に構え、片手で持っているが、距離は十歩もなく、このままハウメアの身体に銃弾が食い込むのは明白。
発砲前に対処するものだと思っていた僕は、途端不安の色が強くなり、顔を階段外にさらけ出して行く末を見守る事しか出来ない自身を恨む。
銃撃から時間が経つ。
以前、ハウメアはそこに立っており、身体の何処かに銃弾が当たったようにも見えない。
先ほどと変った事と言えば、剣気を解放し身体中に赤色の魔力を纏わせていることと、剣を両手に持っている事。
「なっ!」
「嘘だろ!」
「あいつ!」
口々に呟くボルズ達の顔は決まって驚きの表情で、信じられない光景に固まっていた。
「―――教えて上げる。連続で撃てる型なら兎に角。単発のそれだと剣気を纏える剣士相手じゃ意味ないわよ」
「この化け物が!」
再度ボルズの発砲を皮切りに、周りの手下達が撃ち始めた。
それを、剣の向きを変え、ある時は振り下ろし、ある時は身体をずらし、無数に迫りくる弾丸のその全てを躱して見せた。
さながら、海外のSF映画のようで。
僕自身も驚愕の声を、いつの間にか胸元から顔を上げ、僕と同じようにその光景を見ている少女は感嘆の声を上げていた。
「凄いです!」
「そうだね。でも、流れ弾が飛んでくると危ないからもう少し顔を下げようね」
「っあ、はい、お姉さま」
少女の顔を一瞥し、そう言うと少女は顔を赤らめながら、ボルズ達に見えないように身体を潜める。
そうこうしていると、ハウメアの攻撃の番がやってきた。
全ての弾を弾き、避け、斬り防ぎ、銃弾の装填の隙を付き駆け、一気に距離を縮める。
初撃は四人の中で一番装填にもたついていたボルズの隣に立っていた手下。
間合いまで近づくと同時に切り上げ、胸を裂く。ボルズと後方の手下の一人の射線をかぶせ、撃てなくすると、剣を片手に逆手に持ち、視線はボルズにそのまま後ろに向かって突き刺す。
「ギャッ!」
ハウメアの後ろに立っていた手下の喉に突き刺さり、そのまま銃を放り投げ、その場で蹲り喚き始める。
しかし、そんなことはお構いなしに剣をそのまま逆手に持つと前方のボルズに向かって振り上げた。
「クソが!」
斬撃と同時に銃か構えた。
引き金の指が引き切るまえに、鋭い一閃が拳銃を捕らえる。
苦し紛れの声を上げるボルズ。
破壊された銃は高く舞い上がり、天井に直撃すると、更に銃の残骸は増え、床に四散した。
幸運にも腕に剣が当たらなかったボルズはそのまま、逃走を図ろうと扉に体当たりをし、外に出る。
「ラアアアアアッ!」
ボルズが逃げると思わなかったのか、逃げる背中を見つめ、茫然としている所をハウメアの雄叫びの斬撃によってこと切れる。
そして、視線を外のボルズへ。
身体を向け、足を進めようとしたその時。
店の前の道路全体が火の海と化した。
唐突に訪れた業火。窓の揺らし、店内全体が震える程の威力で僕は思わず、身体を引っ込めた。
この炎には見覚えがある。
あの時、あの研究所。
悪魔の様な少女の顔。
息を整え、意を決し階段を姿を出すと。
しかし、そこには全く知らない別の人物が立っていた。
「―――ここで間違いないのか?」
両サイドに髪を束ねた小さな少女、弥乃はコートを靡かせながら。黒い瞳は地面に転がっている、黒い塊を睨む。
右肩から手を覆う程の大きさの黒い籠手。肩部に三本もの白い突起があり、そこから小さく音を立てながら蒸気が噴き出していた。
「ああ! そうだ! ここだ!」
「姫様の捕らわれている部屋から、突然現れた子供に殺され掛けた......なんて俄かには信じられませんが」
黄金色の髪の少女の後ろで控えていた女性は、隣で同じコートを羽織った藤色の髪の男に拘束されている者に視線を飛ばす。
「お前嘘ついてねぇだろうなっ!?」
藤色の髪の男は膝を付きいる男の髪を掴み上げ、喉の奥から出したような声音で相手に詰問する。
「ついて、ついてないって! ウルスに誓ってついてねぇ!」
「だそうです」
男が怯える程の声音を戻すと、髪の毛を離す。
「......どうしますマスター?」
「アンジェロとアイリス何時でも入れるようにしておけ。―――エリナ、中を探れ」
藤色の髪、アンジェロは男を地面に転がし建物の裏手へ。
黄金色の髪、アイリス。大きく跳躍し、屋根へ。
それぞれが、動き始ると、二人の影に隠れていた弥乃と同じぐらいの背丈の濃い紫色の髪の目の下にクマの出来ている少女が恐る恐る弥乃の隣に来る。
「あ、あの、その......た、てものの中にはさ、ん人しかいません。です......」
「? 全滅したのか? 姫様にもう一人拘束されていると言っていた。それに合わせて突然現れた少女......」
正面の扉に立ち、中を見る。
そこには、エリナの報告通り、扉近くに剣を持った少女。奥の階段からはもう一人の少女とちらりと金色の髪をのぞかせている姫様の姿。
死体近くで佇む少女のその風貌を見て、直ぐに辺りに散らばった部下達を集めた。
「突入は無しだ。正面まで戻って来い」
無線で呼び戻した後、そのまま扉を開き中に入って行く。
「―――弥乃じゃない! 何でこんな所にいるのよ!」
「それはこっちのセリフだ七五三木ハウメア。何故お前が姫様と一緒にいる?」
「姫様?」
ハウメアは首を傾げ、階段から上って来る二人を一瞥する。
そして、再度弥乃のようを向き直し、腹から出したような声で言い放った。
「確かに可愛いけどプリンセスじゃないわよ!」
「? 何を言っている。姫様は姫様だぞ?」
「ん?」
「ん?」
弥乃とハウメアは互いに怪訝そうな表情で見つめ合い、再度二人の方を見た。
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