閑話 Sideハウメア 追跡
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「エリスッ!!」
目の前で連れ去られた、友の名を叫ぶ。
蛮行に走った下郎は既に剣の間合いにはおらず、代わりに走り去っていく三体の馬の背中が見えた。
手に持った食べ物を地面に投げ捨て、剣気を解放し、エリスを攫い離れていく奴らの後を追いかける。
剣気を纏った人間は馬の速さを凌駕する。
徐々に、私と男達の距離が詰まっていく、。
男の一人が、ちらっと後ろを一瞥。残りの二人に何やら指示を飛ばした。すると、エリスを乗せた男以外の二人が速度を落とし始めた。
場所は大通りから少し離れた下層の平民達が多く住む居住区。
ここから少し東に行けば貧困街が広がっている。底辺とそうでない者の境。碌に舗装もされておらず、地面には物乞いや花を売り歩く子供達。
そんな場所で二人は馬から飛び降り、私の行く手を阻むように横一列に立っている。
瞬間、頭の中に地図で現在の位置を掴む。
お家柄、国の有事の際、子供であっても戦闘に参加しなければならない。そのため幼少期より、国全体の地形は勿論、王都の地図まで頭の中に入ってある。
この先は入り組んだ道が多い。
目の前の奴らを倒してからじゃ距離が開いて、追いつける可能性が下がる。
ここいらは悪事を働く人が多いから、逃げる時に地図にない道や潜伏する為の場所を作る事があるってばあやが言っていたっけ......。
幾ら、地形を把握しているからといっても、そんな場所に隠れられれば見失い、手に負えなくなる。
立ちはだかる敵に接触する間に、情報を整理し、行動に移す。
走る速度を殺すことなく駆け、一定の距離まで近づいた所で横に飛び、建物の壁を蹴り上げると、勢いそのままで右に立っている男の顎横を殴り付ける。
糸が切れたかのようにその場で倒れた。
もう一方の男は剣を抜き、雄叫びと共に振り上げながら襲い掛かって来た。
距離は五歩。
右手で左腰の鞘を握り、左手は掌底を敵に向け、鳥の爪のように指を曲げる。
嵐水流。
「死ねオラァァァッ!」
如月
六つの技と六つの奥義で構成された剣術。
最もシンプルで最も防御力の高い流派。それが嵐水流。
斬撃を見切り、振り下ろされる相手の手首に左手で掴むと、鞘から剣を抜き隙の出来た腰部に向かって横一文字に切り払った。
剣気を纏った斬撃。
それは、剣筋に魔力の軌跡を残し、辺りの空気が震える程の威力。
「死ぬのはあんたよ!」
「あ、ああ......」
腹が裂け、臓物が飛び出す。
剣を捨て、両手で外に出ようとしている内臓を押しながら、指の間から血が溢れ、やがて意味のなさない言葉を呟きなが前に倒れるように崩れ落ちると、そのまま動かなくなってしまった。
そんな哀れな男の死体を一瞥し、『ふんっ!』と興味なさげにもう一人の方に視線を移す。
「起きなさい!」
「グッ!」
一撃目で気絶している男の腹部に蹴りを入れると男は飛び起きた。
「あんたと遊んでいる暇はないわ! ああなりたくないなら質問に答えなさい!!」
剣先を死んだ男に向け、言い放った。
「わ、分かったから殺さないでくれ!」
「攫った子供は何処に行った!?」
「あ、......それは......」
自身の身が危機に直面しても尚、情報を渋る男に苛立つハウメア。
上体を起こした状態で倒れている男の胸部を踏みつけ寝かせると、手に持った剣の先を相手の太ももに突き刺した。
「グァァァァッ!!!」
「時間がないっていってるでしょ! 早く吐きなさい! それとも、左足もやって欲しいのかしら!?」
「わ、わがった! この先の東の貧民街との境目にある『アドノ―スの墓場』って飲み屋の地下に居る筈だ! 奴隷商に売る前に何時もそこに閉じ込めておく! 本当だ!」
「嘘じゃないでしょうね!?」
首が千切れんばかりに頷く男。
虚偽の情報を掴まされていない。そう
確信したハウメアは躊躇することなく、太ももから剣を引き抜き、相手の首を切り落とす。
それから、死体の方を見る事無く、血を払い剣を収めると頭の地図を元に、再び走り始めた。
場所は分かった。
後は、アジトに入って相手を殺し、エリスを助ける。
足を動かし、最短の道を駆け抜けながら、己の行動に対して後悔する。
エリスに渡したポンチョ。自身が愛用していたモノで視線からエリスを隠す目的で着せたもの。
自分が来ている外套は、従者に支給される安物。
一つしたない外套、どちらか渡すとなった時、作りの良いのをと思い自分のモノを渡した。
それが、仇になった。
もし、気遣いをせずに、あれを私が来ていたら、連れ去られていたのは私だ。
「クソッ!」
考えろ。敵の正体を。
三人と言うごく少人数。氏族を襲うには少なすぎる戦力だ。
精鋭とも言えない技量を見るに、今回の誘拐を計画していたとは思え難い。
偶然襲われたのだろう。
結論に至ると共に、得も言われぬ悔しさと怒りが心の底から湧き上がって来る。
この日、この時に歩いていたから友達が攫われたのだ。
それは、すなわち私が家紋入りの外套を渡したせい、気を抜いて両手が塞がった状態を作り、剣を抜くのに隙が出来たのも、その為初動が遅れたのも私のせいだ。
自分に罰が下るのに、無理やり連れだした私に『遊ぼう』と言ってくれた。
そんなエリスがなんでこんな目に......
目的地に到着する。
少しの間、辺りを見回ったが、この酒場周辺だけ以上に人通りが少ない。
恐らく、この場所に住んでいる者達はここがアジトだって分かっているのだろう。その為、この通りを避けて通っているのだ。
足音を殺し、中に入る。
閑散とした店内。
営業中ではないが、それでも仕込みや仕入れた酒類を整理する人がいる筈。
木で出来た床を鳴らさないように注意しながら奥に進むと、下の方から声が耳に入った。
『ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛んッ!!!』
その声は紛れもなくエリスの声。
何時もは平坦で感情の起伏が少ないエリスとは思えない程の叫び声。
この床の下で何が行われているのは想像できた。
ポタリッ
身体の中で何かが滴る音がする。
声の居場所を探し、真上に位置する所を探る。
怒りを抑え。自身を制御し、冷静に作業のように動く。
叫び声が止んだと同時に探し当てた床に膝を付き、耳を床に押し当てながら、息を殺し、心臓を遅め心拍音を下げる。
指の甲。中指第一関節で床を数度叩いた。
扉を叩く様に軽く、音が響く様に。
コンコン。
目を閉じ、耳を澄ませ、放たれた音波が部屋に伝わり、反響する。
『? 何だこの音』
コンコン、コンコン。
『部屋の外にいる連中に調べさせてこい!』
『わ、わかりやした!』
苛立ちの籠った男の声と恐怖の色を見せる男の声。扉の音がする。一人外に出て行った。その近くには小さな物体が一つ......二つ存在する。荒くなった息遣いが聞こえたからその物体が人間だという事が分かった。
それに加え、さっきのエリスの叫び声。
見つけた。
コンコンコンコン。
『たく良い所でよぉ......』
男が離れた。......ん? もう一人誰か増えた? ......分かった。エリスの身体の上に乗っていたんだ。
これで、二人とも離れ、エリスから距離が出来た。
静かに立ち上がり、音を立てずに剣を抜く。
最初に狙うのは緊張の色が薄い声だった男、恐らく立場の上の者。
声の真上まで移動し、剣気を纏う。
剣先を真下に、大きく振り上げると、全ての力を振り絞り、振り下ろす。
木の割れる音。
床が崩れ落ち、下に広がる光景が目に入った。
血だまりの中で縛られているエリスの姿。その後ろには金色の髪の女の子。
そして、真下に男が立っている。
こいつがエリスを......。
「ラァァァアアアッ!!」
怒気の籠った叫び声と共に男に剣先を突き刺す。
だが、咄嗟に態勢を崩し、躱すと、右腕を犠牲に扉に向かって走り出す。
人質よりも生存を優先したと判断した私は、目標を変更し、未だに座っている男に向かって地面を蹴り上げた。
瞬く間に距離を詰め、間抜け面を浮かべたその顔に向かって振り下ろす。
肉の避ける感覚が刃から腕に伝わってきた。
声も出さずに座ったまま絶命した男。
身体中に返り血を浴びながらも、振り向き、床に座らされている友の元に駆け寄った。
「エリス!」
「ハ、ウメア? ......」
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