友達
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「.......」
「奈鬼羅?」
否定しないことに確信を得たようで、傍から見ただけで分かる程怒りを露にした。
歯をむき出しにしているその顔は、辺りの者達が蜘蛛の子を散らすように、離れていく。
だが、直ぐに自身でその怒気を抑え込むと今度は、目を瞑り、物思いにふけるのだった。
何時ものような、考える時に出すうめき声を上げないその姿はボーイッシュな服装も相まって、大人びて見えた。
それから、時間が進み、気持ちを落ち着かせ、涙が収まったところで瞼を開ける。
「あの......七五三木様?」
「―――今回のことは私が悪かったわ。ごめんなさい」
「え?」
それは唐突な謝罪に驚く。
これまでの間。
どんなことがあっても、自分の非を認めなかったあのハウメアが初めて自分が悪いと認め、その上謝罪してきたのだ。
「自分で言うのもあれだけど......私、怒りっぽいの」
「......そうですね」
「そのくせ力は強くて、権力もあるわ。......だから、友達って呼べる人は彩華以外殆ど居なかったは」
「......」
「私ずっと......その......エリスと友達になりたいと思っていたの」
「友達? ですか?」
予想外のその言葉に疑問を浮べる。
ハウメアは薄っすら頬を赤らめ、顔を逸らす。
「ええ。でも如何すれば良いか分からなかったから色々考えたの。―――それで、エリスが外に出たそうにしてたから......」
後悔の表情。
眉間に皺をよせ、両手は音が聞こえる程の力が入っている。
一度、息を吐き、再度話始めた。
「―――こんなことだったら。連れて来るんじゃなかった。まさか、あいつがそこまでの外道だったなんて」
初めて会った時には見せなかった表情。
傍若無人で自己中心的。
他人の事なんて関係なく自分が良ければそれでいい、たてつく奴は暴力で解決する。
そんな、少女が今僕の隣で、自身の行いに後悔し、一度としてやらなかった謝罪をしているではないか。
それに、今回の行動は気を遣っての行動で、決して僕自身を陥れる為にやったことじゃない。
全てはハウメアの優しさだろう。
なら、ここは先で起こる事に怯え震えているのではなく、ハウメアの優しさに感謝をするところではないのか?
「七五三木様。もう良いです。僕を思っての行動なのでしょ? ......痛いのは嫌ですが死ぬわけじゃありません。なら、今この時を楽しむことにします」
『そう決めました』とハウメアの方を見る。
眉間に皺を寄せたと思ったら、僅かに口の端を上げ笑う、感情が入り乱れている様子でバッと立ち上がり、右手を差し伸べる。
「―――うん。分かったわ! エリスがそれでいいのならもう私は何も思わない! これからは私の事はハウメアと呼びなさい。様はいらないわ!」
「はい。ハウメア」
フードを取り、そう言って差し出された右手を掴み立ち上がる。
心の中の暗雲が晴れていく。裂け目から日が差し込んでくるのが見える。
手から伝わるハウメアの体温は温かく、豆の出来た感触が何だか心が安らぐ。
昔の記憶によるものなのか。はたまた、心の中に住まう誰かによるものなのか、僕には分からない。
だが、今分かった事は一つある。
それは、ハウメアが信頼できる者となったということだ。
現在の時刻は昼前。
帰宅予定が夕方頃だから、まだかなりの時間がある。
せっかくの自由だ、こうしちゃいられないと二人で噴水の広場から飛び出し、さっき来た道に戻り、散策の再開した。
「ハウメア。あの果物は何ですか?」
「知らないわ! でも、食べれるのは確かよ!」
見た事のない紫色のリンゴの様な果物を指さすと、ハウメアが二つ取ると、金を払い渡してきた。
感触も味も、リンゴに近い。
違いはリンゴより少し瑞々しいと言った感じ。
「冒険者って何をする人達なのですか?」
「殆どは魔物か魔獣の討伐ね。その他にはダンジョンか迷宮に入って財宝とか魔法道具を取ってお金にしたり、自分の武器にしたりしているわ! 生憎、この国は平和だから、多分誰かの家庭教師として雇われてる奴らね! 偶に家の誰かが教わってるのを見るわ!」
「ハウメアの剣術はその冒険者から学んだのですか?」
「違うわ! ばあやからよ!」
そこからハウメアは自身の事を色々教えてくれた。
剣術はハウメアがばあやと呼んでいる、元冒険者のお世話係に教わったと言う。
流派は嵐水流。
防御主体の反撃で相手を倒す剣術で、その性質上護身術として重宝されており、貴族や王族なんかの要人が剣術を学ぶと言ったら皆、嵐水流を学ぶとか。
ハウメア本人も剣術の才能があったようで、あっという間に上級まで登り詰め、ばあやと肩を並べたと言う。
本当なら上級よりもっと上の剣士に習いたいのだが、平和な上に迷宮どころか魔物すらいないエイルでは中々見つからないらしい。
上級以上の階級は下から天級、聖級、神級でハウメアに由来は何だと尋ねたところ『十二神王に名を連ねる者達は天から特別な力を授かり、聖なる力を以て困難に打ち勝ち、やがて神の名を冠する強者となった』アルトン・スベ二ルクスの『神になった者達』という本の文章から取られたと言っていた。
「ずっと気になってたんですけど。十二神王って何ですか?」
「え! エリスそんなことも知らないの!?」
さっき屋台で買った薄い皮のような生地に果物やクリームを包んだクレープの様な食べ物をぱくつきながらそう呟くと、ハウメアが驚いていた。
それは、魔術制御のような馬鹿にするような口調ではなく、本気で驚いた時の声音だ。
「はい。以前奈鬼羅様に『十二神王のような雰囲気』と言われた事を思い出しまして」
あ、機嫌が悪くなった。
奈鬼羅の事が相当嫌いらしく、その言葉を聞くと無意識に敵意が現れるようだ。
「んんっ! ―――知らないのなら私が教えて上げる! 十二神王って言うのはラグナロク歴九十六年に知神メレクが魔族を率いて人族を滅亡させようと戦いを仕掛けた『知神大戦』の時、ウルス教始祖、聖ウルス様がラグナロク歴百年に定めた十二人の最強の人達のことよ! 下から魔剣神、聖剣神、火炎神、極神、拳神、英雄神、異神、魔神、龍神、覇神、知神、破壊神、選ばれた人達は三百十一年間一度も負けなかったんだから!」
クレープを持った逆の手で胸元からペンダントを取り出し、僕に見せつけながら自分のことのように誇らしげに話すハウメアは、相変わらず口元はベトベトで、クレープと一緒に貰った紙ナプキンで口元を拭いて上げると、終わるまで大人しくしていた。
これぐらい自分でやって欲しいんだけど。
名家のお嬢様とは思えない食べ方だな......もしかして家でもこんな感じなのか?
そんな事を考えているとふと疑問が浮かぶ。
「ハウメア、今年は何年ですか?」
「ん? えーと......五百六十一年だったかしら! それがどうしたの?」
「百年に選ばれて三百十一年間ってことは四百十一年に誰か負けたんですか?」
よくぞ聞いてくれたとばかりの満面の笑顔。
丁度、白い建物が視界に入り、それを見たハウメアはそこを指さすと『あそこに行くわよ!』と手に持った残りのクレープを放り込み、僕の手を掴むと駆け出した。
白亜の石柱、石で出来た大きな門には、色あせ、所々削れているが彫刻が施されており、そこが神殿だという事に気付く。
神殿って寺とか神社みないなものだよな。じゃあ中は飲食禁止の筈だ。
相変わらず自身のペースで突っ走るハウメア。
走っている最中、必死に僕も残りを口に放り込み、ちょうど食べ終わると同時に神殿前に到着した。
『入るわよ!』と早歩きで神殿へと入って行く。
あまりに早く食べたものだから、ハウメアと同じように口元がクリーム塗れになってしまった。
全ては急がせたハウメアに原因がある。キッと睨むと『何で睨んでいるの?』なんて笑いながらそのまま進む。
中も外同様、白い石材で出来ており、剣を持った女性の形に削られた石柱が並び、入り口正面の最奥の祭壇には石の板のようなものが置かれていた。
僅かに暗く、祈る人達や純粋に観光で来た人達が疎らにおり、まるで図書館のようにしっとりとした静謐な空気が流れている中を足音を鳴らしながら、奥まで突き進み、バッと指さす。
「あれよ!」
仮にも信者だろうに、礼儀のれの字も見えないその行動に思わず声に出てしまった。
「ちょっとハウメア。そんなに大きい声出したら迷惑でしょっ」
「大丈夫よ! 教会と違って、この神殿は殆ど観光スポットみたいなものだし。一々マナーなんか気にする必要はないわ!」
『それよりもあれを見なさい!』指さす所を見ると、そこにある石の板には文字が刻まれており、その文字は白く光りを帯びている。
ミゼリット語で書かれたそれは人の名前の様で十二人の名前が刻まれており、各々の名前の左側に数字が書かれていた。
これが十二神王の名前か。
「百五十一年前に魔神ルーガを倒した片魂のアマナンティスって奴が五位に、五十年前に火炎神ボーディーを倒した恥知らずのリンデンビウムって奴が十位になったわ! 何時か私も入れるような強くなりたいわね!」
「それがハウメアの夢ですか?」
「夢? ......そうね。それが私の夢よ! エリスの夢は何?」
花丸笑顔のその問いに僕は少し困惑した。
元の世界に帰りたい。
それは変わらない。
でも、果たして帰る手段はあるのだろうか? と考える事が多くなってきた。
此方に呼び出す手段はあれど、此方から元の世界に戻す手段は存在しないかもしれない。
仮にあったとしても、今のこの状況じゃ動きようがない。
結局、奈鬼羅の手から逃げない以上、元の世界に変えるどころか自由すらないに等しい。
「......生まれ故郷に帰る事、ですかね」
考えに考え絞り出すように出した返答に『ふーん』とハウメアが石の板を見ながら言った。
「エリスの故郷は遠いの?」
「......そうですね。生きている内に帰れるか分からない程遠いです」
以前として靄の掛かった元の世界の記憶にやりようのない悲しみを抱きながらポツリと呟く。
「なら、エリスが故郷に戻る時に、私も連れて行きなさい!」
「......え?」
「私もこんな所で死ぬたくないわ! 好きな所に行って、好きな物を食べて、強い奴と戦って強くなってから死にたいもの! だから、エリスがここから出て行く時に私も連れて行きなさい。遠いのなら、その間に強くなれるわ!」
『冒険も出来て一石二鳥ね!』と豪快に笑う.
そんなハウメアを見ていると、胸の中で燻っている不安が少しだけ吹き飛んだ。
「その時はお願いします。お金の管理は僕がしますからね?」
「ご飯と寝床と剣のお金以外はエリスに上げるわ!」
僕達はそう言いながら神殿を去って行った。
神殿の通りを抜け、王宮に続く大通りに出る。
そこは、軍隊の車と一緒に馬車が行き交い、商人の積み荷を積載しているような馬車から家紋の入った貴族が乗るような豪華な馬車まで種類は様々で、車と馬車の割合は一対九と言った感じだ。
「本当に要らないの?」
「流石にもうお腹一杯です。ハウメアが食べてください」
僕の隣を歩きながら両手に持った細く切ったタレ付き肉をパンに挟んだ『ショルツ』と言う料理と僕を交互に見るハウメアは、『全然食べてないじゃない』とぼやくように右手に持ったショルツを口一杯に頬張る。
全然食べてないと言ってはいるが、此処まで串焼き一本、クレープ一個、リンゴ一つ、神殿を出てからもう一度串焼きを三本と何かの果汁水一杯、と暇なしに食べていたおかげでお腹はもう破裂寸前。
それなのに、ハウメアを見ると、腹をすかした野獣のように我武者羅に胃に食べ物を送っていた。
ハウメアには満腹と言う概念がないのか? 僕より小さい身体をしているのに何処に入れる所があるんだよ......。
そう思って居るとショルツがお気に召したのか、目頭が下がり口角が上がり更に食べる速度を速める。
ハグハグっ! と気持ちい食べっぷりを披露しているのを楽しんでいると唐突にそれを訪れた。
蹄音響かせ、近づく者。
その者の手が、僕の身体を抱え上げあげたのに気付いたのは馬に乗せられた後だった。
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