表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷実験体が幸せになるまで  作者: 柊なつこ
エイル王国編
47/69

閑話 Sideハウメア 欲求

 面白ければブックマークを押してくれると嬉しいです。

 また、誤字脱字があれば報告をお願いします。

 『覚えておいてハウメア。力だけでは手に入らないこともあるんだよ』


また、彼女の夢を見た。


 物心付いた時には、いなくなっていた女性。誰に聞いても『そんな人はいなかった』と言うだけの、

 私の中にだけ存在する、私の顔に似ている優しい表情の女の人。

 手がかりは、彼女の持っていたウルス教の信者が持っている、ウルスのペンダント。

 彼女が首にかけていたもの。それは、今は私の首にかかっている。


 偶にふと思い返すことはあるが、別に探そうとは思ったことはない。

 懐かしくはあるが、寂しいとかまた会いたいとか、そんな風に思える程長い時間一緒に過ごしていないからだ。


 でも、こうして偶に夢に出てくる。

 悪夢と言うほど嫌な夢ではないが、別に見たいと思うほどよい夢でもない。

 

 『お願いだからハウメアは、人の心が分かる優しい女の子になってね?』


 『約束よ』の言葉を最後に、再び微睡の中に落ちていく。





「......はぁ」


 最近よく彼女の夢を見る。

 具体的には、エリスが現れた事から。これは、何かのお告げか暗示なのだろうか、何て思ったりもしたが、調べる気もないし知りたいとも思わないから放置している。


「まだ、夜明けじゃない」


 カーテンから漏れる僅かな明かり。

 ベッドから降りて、乱暴に開くと、太陽が出たばかりでまだ薄っすらと影が落ちている。

 

 あの夢のせいだ。

 右手でガシガシと頭をかきながら、今更眠る気にもなれず、仕方ないと寝間着から服に着替えた。

 

 年明けから四ヵ月が経った。

 しかし、未だ回復の兆しが見えない。

 七五三木の書庫を粗方あさったが、それらしき情報は出てこなかった。彩華にも聞いたが回答は同じようなもの。

 とすると、祝福でも魔力でもない、第三の原因があるのかもしれない。

 そうなってくると、また厄介なことになってくる。

 と言うのも、情報を手に入れようにも、秘密が漏れないように人から聞くのは厳禁だ。そうすると、自然と手に入れられる手段も限られてくる。

 その最たるものが本であり、その本も、家でも結構な数を揃えているのだが、大体戦いに必要なものや、政治関連の教本と言った偏りのあるラインナップとなっている。六花も同じようなもので、外部から入手する必要が出てくる。となると、区画から出なければならないのだが―――


 着替えが終り、姿見の前に立つと自分の姿を観察した。


 基本的に氏族の者は区画の外に出ない。

 出てはならないと言うルールがないから、出ようと思ったら何時でも出ることが出来るのだが、如何せん区画内の物事が完結してしまうので、滅多に出る者はいない。

 買う物をしたければ、抱えの使いを出す。

 病気になれば、屋敷で雇っている薬師や医療者が見てくれる。

 極々偶に、遊びに出かける者がいるが、七氏族の黒髪を受け継いだものは総じて四六時中、自己鍛錬に勤しむ。つまり、何が言いたいかと言うと、区画の外に出ると目立つのだ。


 自身の髪を一房持つと、ため息を吐き、外へと出た。


 赤毛が混じっているとはいえ、私の髪は大半が黒髪。

 この世界で黒は目立つ。見た目の意味でも、評判的な意味でも。

 世界を救った英雄も、戦争に勝利した戦士も、黒い髪をしていた。だから、半ば神格化されている節があるようで、七氏族の面々も例に漏れず、畏敬の目を向けられる。

 

 フードを被って出るか? いや、メイド同士の会話を聞いた話では、区画の外は人でごった返しているという。

 信じられない、区画内ならどんなに込み合っていても人が十人横にならんで歩けるぐらいの広さはある。

 嘘か真か分からないが、頭の隅に留意しておくことにしよう。

 

 考え事をしていたら、気付けば六花の門の前。

 くぐる前に、深呼吸をして心を入れ替え、手で軽く髪を時衣服を正す。


「......何で私こんなことしてるんだろう」


 スカートに付いた埃を払っている最中に、ふと気付いたかのように中断し、そのまま門をくぐった。





 屋敷の扉を横目に、離れ家に向かった。

 そこには、縁側でムムムと庭に掌を翳し、研鑽を重ねるエリスが。

 今となってはお馴染みの光景で、唸っている彼女に向かって足を進めた。


「今日も来てやったわよ!」


「おはようございます」


 現在、三月九日。この三ヵ月で、エリスの表情も少しずつ柔らかいものになっているような気がする。

 私も私で、家のこと、ペンダントのこと、少しずつエリスに話すようになった。これも、心の距離が縮まったからだろうか。

 思い返せば、会う前に無意識に服装を正したのも私自身が、エリスに対して気遣いをしている証拠。

 これはもう、友達といってもいいのではないだろうか。


 なんて考えてはいるが。


「......」


「―――? どうかしましたか?」


「な、なんでもないわ」


 最後の一歩が踏み出せない。

 昔、彩華とどういう風に友達になったのか思い出そうとするが、その時の記憶は曖昧で、どうも要領を得ない。

 『友達になろう』......恥ずかしいから却下。

 なら成り行きで......いつになるか分からない。

 どうも、攻めあぐねている。これじゃあ、恋する乙女のようではないか。


 切っ掛け。そう、何か友達になれる切っ掛けがあれば。


「......」


「七五三木様。長いこと魔力が散ってますけど」


「え?」


 集中していても能力が発動しないのに、考え事をしているたら発動する訳もなく、気が付けば、手からビリビリと魔力が溢れていた。

 ダメだ。今日は、調子が悪い。

 肩を落とすと、魔力を切り、立ち上がった。

 

「素振りしていい?」


「いいですよ」


 エリスに気を遣って素振りを禁止した次の日。

 同じようにしようと、剣を家に置いてここにくると、『僕に気を遣わなくてもいいですよ』と言ってきた。

 しかし、ここで甘えたら七五三木の名折れ。このまま、続けようと一日を祝福に費やしたが、途中から『気を遣わなくてもいいですよ』から『本当に気にしなくてもいいですよ』に変わり、一日の鍛錬が終る頃には『素振りしてください』と言われてしまった。

 何でそんなこと言うのか聞いてみたところ。何時爆発してもおかしくない爆弾が横にいるようで集中出来ないらしい。

 やってしまった。

 自分では抑えているつもりでも、傍から見れば、そうは見えないようで、逆に気を遣わせてしまったようだ。

 そんなこんなで、最終的には素振りの前に了解を得ると言うところに落ち着いた。


「ふぅ......」


 鞘から剣を取り出し、構える。

 上から下に、真っ直ぐな線を引くよう振り下ろす。

 

 剣を振っている時は無駄なことを考えなくて済む。

 五分、十分、三十分と素振りを繰り返し行っていると、空から閃きが降って来た。


 それと同時に素振りを止め、エリスの方を見る。

 いつの間にか、休憩に入っていた彼女は、遠い眼で外の方を見ていた。

 偶にする、その行動。

 誰から見ても、何がしたいのか明らかだ。


「昼食のご用意が出来ました」


「うん。―――七五三木様。食事にしましょう」


 メイドの言葉に反応し、立ち上がると私に視線が移る。

 突然風が吹き、エリスのスカートが僅かにたなびいた。

 丈の短いワンピースを着ているのに、全く気にしていないような行動をとる。

 今だって、スカートを抑えるのではなく、揺れる髪を抑えていた。

 これも、元が男だからだろうか。

 

「分かったわ!」


 剣を戻し、鞘毎外すと、縁側に置く。それから、ブーツを脱ぎ捨てると椅子に座った。

 位置はエリスの向かい側。

 何時ものように、胸元からペンダントを取り出すと、祈りの言葉を呟く。それから、スプーンを持ち、食事を始めた。


「はぐっ!」


 細かく潰した肉を甘辛いソースで豆と和えた『レーデ』と言う料理。

 元々、戦争の時に兵士が食べる料理だったらしいが、手軽に出来てそこそこ美味しいことから、戦後色々な人に改良を加えられ、一般の食卓にも並ぶようになった。

  

 決して、氏族の食事のテーブルに出されることのない食事。

 これも、奈鬼羅の命令だろう。

 この建物にエリスを閉じ込めている張本人。どこから、彼女を連れて来たのか分からないが、エリスが望んできたわけではないのは確かだ。


 気に入らない。


 そんなことも気にする素振りを見せることなく、もくもくと食事をするエリスを見て、決心した。

 彼女を連れて、外に出よう。

 しばらく、二人で散策してから、昼過ぎか夕方に本屋に行って、目的の本を買おう。よし、これなら、エリスも楽しめるし、何より奈鬼羅に対して良い意趣返しになる。


「―――そんなに美味しいですか?」


「......え?」


 エリスの声で覚める。

 気付けば盛られていたレーデがなくなっていた。


「ニヤニヤ笑いながら物凄い勢いで食べていたので」


「......そ、そうね。このレーデは中々悪くないわ!」


「レーデって言うんですか」


 一匙救い上げ、見つめるエリス。


「貴方、レーデも知らないの? と言うか食事の前にメイドに説明......されてなかったわね」


 食事の前に、料理の説明があって然るべきだ。

 私の家ではそうするし、貴人の食事はどこもそういうものだろう。

 

 従者の怠慢だ。


 傍に控えるメイド達を睨むと、小さく悲鳴を上げ、弁明を始める。

 

「そ、その、奈鬼羅様がそうする必要がないと......」


「理由は?」


「......恐れながら、エリス様が奴隷であるからだと思います...........」


 俯きがちにそう言う。

 そうだ、エリスが奴隷だ。奈鬼羅のモノ(・・・・・)なのだ。

 嘆かわしい。その髪色から、どこかの氏族の者、それも、上位の者達の子供だっただろうに。奴隷に下ろされ、狭い建物に押し込められるとは。

 もしかしたら、誰かの隠し子? 

 そこいらにいるような、有象無象ならどうでもいいのだが、友達になりたいと思えるものなら話は別だ。

 色々知りたい。 

 だが、そのあたりの事は極めてデリケート。

 

 『別に僕は気にしてませんよ』とメイドを慰めているエリスの顔を一瞥する。


 それらの事とも、外に出れば話してくれるかもしれない。

 なら、何時でかけようか。奈鬼羅の居る時は論外。彩華の居ない時が望ましい。

 ここで、最近彩華が姿を現さないことを思い出す。

 

 善は急げだ。


「今日はこれで帰るわ!」


「え?」


 何か言おうとしているエリスを置いて剣を拾い上げると、そのまま家へと帰った。

 

 これから、やることはいっぱいだ。

 

 

 

 

 

 










面白いと思って頂きましたら下に御座います★★★★★を押していただけると執筆の励みになります。感想をいただけるともっと励みになります。

執筆状況を知らせる為にtwitter始めました。良かったらフォローして頂けると嬉しいです。基本執筆に関係する事しか呟きませんのでご安心ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ