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奴隷実験体が幸せになるまで  作者: 柊なつこ
エイル王国編
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閑話 Sideハウメア 不出来な妹

 面白ければブックマークを押してくれると嬉しいです。

 また、誤字脱字があれば報告をお願いします。

 私をお前呼びした身の程知らずの子供。

 今までの不満が引っ込むぐらいの怒りが湧き立ち、己の拳を持って制裁を下す。


 剣は使わない。

 幾ら、無礼を働いたからと言って、子供の同族。殺すほどではない。しかし、多少痛い目に遭って貰わないと、家の名誉にかかる。


「絶対に見つけ出して、私が誰だか分からせてやるから!」


 建物内へと逃げた礼儀知らずの少女を追って、縁側から飛び入る。土足何て関係ない、今は制裁(こち)の方が大事だ。 

 隅から隅まで探す勢いで、走り回りあらゆる蓋を開き、中に隠れていないか探し始める。

 それから直ぐに、風呂場の湯舟。

 その蓋を持ち、開くと彼女がいた。


「見つけたわ!」


 仕置きの時間だ。

 

 そんな時に、ちょうど現れた彩華に止められてしまった。

 

「今すぐその手を放さないともう口を利きません! 絶交です!」


 彩華には珍しい剣幕で、私を制止するのを見て、こいつがそれなりの人間だということを察し、勘弁してやることにした。

 本当なら、少なくともに二、三発はやっておきたかったが、友達には替えられない。


「分かった! 分かったわよ! ―――あんた、この程度ですんでよかったわね!」


 聞くところによると、この少女はあの、奈鬼羅の奴隷だというではないか。

 気に入らないと思ったらそういうことだったのか。でも、手首に奴隷の腕輪をしていない。奴隷ならしなければならない筈だ。

 腕輪を付けていないと言うのは、国に承認されていない奴隷ということ。

 承認を得ない奴隷何て、訳ありに決まっている、今の私の状況で面倒事に巻き込まれるのは御免だ。

 こいつとは距離を取っておこう。


 そう結論付けたのもつかの間、この少女と一緒に、祝福の制御を習わなくてはいけなくなった。

 一体彩華は何を考えてるのか分からない。

 散々調べて『祝福制御は関係ない』結論が出たではないか。勿論、それらの情報は彩華と共有しているし、彩華自身も同様の結論に辿り着いていた。

 なのに、今更、祝福制御の練習なんて......それも、初歩の初歩、魔力を発動箇所に送るところからだというから気が抜ける。

 

 心の中でため息を吐き、これもまた気分転換と割り切ることに。


 どうせ無駄だろうが、万に一つの確率で何かが起こることがあるかもしれないと、己を言い聞かせ、彩華の動向を見守る事にした。


 色々と話が進めていく内に少女の持っている力や、不思議な点が明らかになる。

 まず、少女は名前がなく、自身の名前を憶えていないと言うのだ。記憶自体がすっぽり抜けているようで、ふと気づいたように自分の名前が分からないと言った。

 呼ぶ名がないのは、この先不便だ。主人である奈鬼羅は用事でしばらくいないと言うから、このままでは奈鬼羅が帰ってくるまで、こいつは名無しになってしまう。

 それではあんまりだと、思案を巡らした結果、自分が名付けてやることにした。

 昔、父の書斎で盗み見た名前の羅列がふと思い浮かんだ。少し悩んだが結果、エリスにした。

 奴隷の分際で、七五三木の令嬢に名付けて貰える幸運に歓喜しているに違いない......何て、思ったが、特に反応を見せることもなく、彼女の名前はエリスに決まった。


 それからは、三つの複合型を保有し、虹の目(ビフレスト)の開眼者ということが分かり、驚いたりしながらも彩華がエリスに対して指南しているのを傍で見ていた。

 基礎から始めると言っていたから分かっていたことだが、魔力制御が下手くそ。

 まるで、今初めてやったかのような腕で、余りにもおかしいため、からかってやろうと軽口を飛ばしたら、逆に軽口で返された。

 こんなのは初めてだ。生まれて初めて親以外に言い返された。





 一ヵ月後。

 エリスが六花に現れてから、六花の屋敷に通う事にした。

 家にいてても、習うものも調べることも、もはや存在しない。なら、あんな所にいる必要もないからと、半ば思い付きで通うことにしたのだが、これがまた面白く。

 日がな一日、魔力制御上達に必死になっているエリスを見ているのは、不出来の妹が出来たようで楽しく、愉快。

 偶に彩華が不在の時に私が教えて上げるが、どうも理解出来ていないようで、全く改善されていない。

 その時のエリスの、不服そうな顔がまた傑作だ。


「何でこんなことが分からないのよ!」


「いっ! 別に殴らなくてもいいじゃないですか......」


「フンッ! これは躾よ! 良いからさっさと練習に戻りなさい」


 だが、あまり覚えが悪いと身体に覚えさせる必要が出て来る。と言うか、全然言った通りにしないからイライラして遂、手が出てしまうのだ。

 自分でも、何でも手を上げればいいとは思っていない。しかし、感情が高ぶると身体がどうしようもなくなってしまう悪癖があるので仕方ない......訳ではないが、対処のしようがない。

 全ては己の精神が未熟の為。

 それが、分かっていたから、本当なら剣術も嵐水流ではなく、最も精神を鍛える必要あると言われる心眼流を習いたかった。

 だが、心眼流というのは如何せん取得難易度が高いため、剣士としての数が少ない。

 その上、エイル王国は平和で武力を用いた仕事が少なく来るものと言ったら、腰かけの冒険者か、安寧を求める中途半端な力を持った職業の前に元が付く者。

 元々、強い者が集まりにくいお国柄故に剣術の師には恵まれなかった。


 話を戻そう。


 エリスは今まで見た人達とは何かが違う。

 幾ら、私が殴ったとしてもケロッとしている。

 祝福を使った時の私を見ていないから、と言えなくもないが、名前も知らぬ男爵を殴った後の貴族共の態度から見て、少なくとも大人が委縮するぐらいには凄味が出ていると思う。

 これが良いのか悪いのかは置いておいて。

 それを受けて、私からの攻撃を喰らっても尚、今まで通りの態度で接してくるのは私の目から見ても特異。

 初めて会った時は『いけ好かない奈鬼羅の奴隷』だったが。

 今となっては『出来の悪い妹』になっていた。

 不快な奴から、居ても良いと思える奴に格上げだ。


 そんなエリスは、魔術制御を無事修め。次の祝福制御に移ることに。

 ここから、私も授業に参加する。

 祝福の扱い方というのは、人によって様々であり、難しい能力もあれば、簡単な能力もある。しかし、使い方は潜在的に身体に刷り込まれているので、発動自体は難しい事ではない筈。


 と思ったら発動箇所が分からないと言い出した。

 本当に抜けている子供だと、剣を振りながら思ったものだ。


 結局、発動箇所が分からず、最終的には四肢と頭、の五か所を同時に流せば良いのではないかという結論に至った。

 つまりは剣気を纏えば、能力が発動するかもと。

 彩華は剣気を纏えなかった為、必然的に私が教えることに。


 エリスが外に出られないからと、室内で授業を行う事にした。

 授業、と言ってもそう大層なことは教えなかったが......。

 と言うのも、少し教えただけで、剣気を纏うことが出来てしまったのだ。

 色々教えてやろうと、意気込んでいたのが肩透かしを喰らった気分でエリスを見た。彼女は彼に無事戻ることが出来たようで喜んでいた。

 

 ここで、初めてエリスが彼女ではなく彼だと言うことが判明した。

 つまり、エリスは男だった。


 目的を達成することが出来たエリスは珍しく、頬を緩め笑いながら彩華に感謝をし頭を下げている。なのに、一向に私には礼を言わないのだ。

 私だって、色々教えて上げたつもりだったのに、これじゃあ仲間はずれにされた気分になってしまう。


「ちょっと私には!」


 我慢できずに自分から言ってしまった。

 これは、幾ら私でも恥ずかしい。こういう所を直していかなければならないのだと、自身を言わしめていると。


「......あざっしたー」

 

「何でそんなに投げやりなのよ!」


 少し考えたエリスは、そっぽ向いた状態でかなりおざなりな態度で身近な感謝を述べる。

 これも、自分にとって初めて。

 今までは、大人であっても敬語で、何かしてやったら深々と頭を下げ、仰々しい言葉を並べながら礼を言ってきたものだ。

 私自身、声を荒げているが、この新鮮な態度に毒気を抜かれてしまう。


 昔、ばあやから聞いたことがある。

 友と言うのは軽口を叩き合う関係だと。

 ならば、エリスと私の関係は友だと言って良いのではないか? 

 

 そんなことを考えながら、エリスの能力が性別変化ではなく生物変化でわないか? と話題が変わり、そこで龍になってと頼んだら、本当に龍になってしまった。


「ちょ、ちょっと! 本当に出来るなんて! あー建物が!」


「凄いわ! 凄いわ! 見て見て彩華! 本物の龍よ!」


「そんなこと分かってるわよ! お父様に何て報告すれば......」


 顔を青くしている彩華からエリスに視線を移す。


 建物をぶち破り、大きな翼を広げたトカゲにも似た容貌。

 本か人からしか聞いたことがない、存在が目の前に悠然と立っていた。

 その光景を見れば、友かどうかなんて考えは遠く彼方まで吹っ飛んでしまった。


「AAaaaaaaaaaaa!!」


 空気が震える程の轟音。

 屋敷中の者達が、焦りの声を上げながら、庭に飛び出してくる景色は爽快そのもの。


「ああ......お父様に怒られる......」


「おー! 凄いわね!」


 月並みな感想しか出てこなかったが、そんなことはどうでも良い。

 久しぶりにスッとした気分になれたのだ、気分は上機嫌で頭の中は晴天といった感じだ。

 窮屈そうに動かないエリスに近づき、『触って良い!?』と一言告げると、指先でちょんと触れる。

 

 石のように固い。

 今度は抱き着いてみると、ひんやりとしていて気持ち良かった。


 そんなことをしていると、『もう戻っても良い?』と言いたげな表情で私を見下ろすエリス。


「何事だ」


「お、お父様! えーとこれは......」


 ちょうど、佐々実達が見えた所で、エリスの身体から虹色の光に包まれ、元の女の身体へと戻った。

 光は小さく、少女の身体を形成すると、少しずつ光は晴れていき。そして、男達の驚く声が聞こえた。


「ぬ......」


「? ―――わっ!」


「っ! 男は見るな!」


 変身する際に、服が破れたようで、全裸のエリスがそこに立っていた。

 佐々実が困惑の声を漏らしながら、身体ごと後ろに振り向いたのを見たエリスは、自身の身体に視線を落とし、時間差で頬を紅潮させると、その場にしゃがみ込んだ。

 咄嗟に私が声を上げ、集まった六花の男達を振り返らせる。


「彩華。これはどういうことだ?」


「祝福の制御を師事していたところ、予想以上の結果が出まして......」


「......後で私の部屋に来なさい」


「ええ、そんな......」


 がっくりとその場に膝を付く彩華。

 耳を赤くしながら去って行く男達。

 騒ぎを聞きつけたエリスのメイド達が、小走りでエリスに駆け寄り、数人が壁に、残りのメイドが半壊した建物にエリスを連れて行った。

 

 因みに胸は私より大きかった。

 

 

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