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奴隷実験体が幸せになるまで  作者: 柊なつこ
エイル王国編
43/69

説明と命名

 誤字脱字があれば報告してくれると嬉しいです。

 例によって、汚れた身体をメイドに現れ、代わりの服を着させられた。勿論、代わりの服もワンピースだ。

 人に洗われると言うのは、気恥ずかしいくなれないもので、目を閉じ終わるのを待つ。。

 

 そんなこんなで綺麗にさせられた後、これからの事を考えようと居間に向かうと、いつの間にか綺麗になった室内で椅子に腰かけ、お茶をしている二人。


「貴方も飲みますか?」


「え? あ、うん」


 いると思ってなかったから、気の抜けた返事になってしまった。

 『どうぞと』椅子に座るよう促されると、四つの座席の内、余った二つの椅子に目を向ける。

 一つは僕を殴り殺そうとすた野獣の隣、足を組み、背もたれに持たれながら、カップに入っているお茶を一気に呷り、テーブルに置くと遠慮なぞ知らぬと言った感じに『お代わり!』と声高らかに言っている。

 もう一方は、助けてくれた少女。

 メイドの言動から察するに、この人が彩華と言う人物なのだろう。

 遠目から見た容姿から、僕が探していた人物だと分かった。


 空いた二つの椅子。僕は恐る恐る、彩華の隣の席に座った。

 当たり前だが、この野獣の手の届く範囲で座りたくない。


 見られてる。


「何! 何か文句でもある!?」


 視線に気づき、向かいに座る少女を見ると、大きな声で言ってきた。

 争い事はごめんだと首をフルフルと横に振り、テーブルに置かれたカップを持つと勢いよく口を付けた。


「あっつ!」


「何してんのあんた?」


 お前が焦らせたせいだろうが。

 挙動不審な僕を、訝しむ表情で睨むように見て来る少女にそう思った。

 声には出さない。

 返事の代わりに拳が飛んでくるのが分かっているからだ。


「さて、人も揃った事ですし自己紹介と致しましょうか。―――私はこの六花の長、佐々実の娘、六花彩華(ろくはないろは)です。でこっちが」


「こんな奴に名前なんか教える必要はないわ!」

 

 目の前で威張り散らす少女。

 今、まさに僕の好感度メーターは降下している。凄い勢いで落ちていき、グラフを突き抜けても尚落ち続けている。

 今まで見た中でトップに入る程に嫌いな人物になりつつある。

 

「本来なら私一人で行おうと思っていましたけど、この際です。貴方もリハビリ(・・・・)がてら一緒に学びましょう」


 彩華の言葉に焦る少女。


「ちょっとっ! こんな所で言わないでよっ!」


 後ろめたい事があるのか、声を抑え、彩華に抗議している。


「なら、さっさと自己紹介なさい」


「......七五三木(しめぎ)ハウメア。七五三木様と呼びなさい」


 七五三木ハウメア。

 どっちが苗字でどっちが名前だ?

 名前的には外国っぽいから普通は名前が前に来る筈、でも明らかに名前はハウメアの方だ。


「えっと......どっちが名前でどっちが苗字ですか?」


「喧嘩売ってんの? ハウメアが名前に決まってるじゃない」

 

 先ほどの失敗を踏まえ、このクソガキに敬語で応対する事にした僕は、意を決してハウメアに聞くと不機嫌そうな顔で答えた。


「そうですか。分かりました七五三木様」


「気安く呼んでんじゃないわよ!」


 どっちだよ。


 理不尽な口撃を受けていると彩華がこれからの事について説明をし始めた。

 どうも、奈鬼羅は出て行く前の彩華に祝福の制御について教えるように言っていたようで、これから一年間、魔力制御と合わせて教えてくれるそうだ。

 何もせずに力の使い方と情報が歩いてくるとは、一石二鳥とはまさにこの事。

 訪れた幸運を噛みしめながら心の中で喜ぶ僕に。

 

「それで、今日は初の顔合わせ。最初が肝心ですので何を話そうか考えていた所、離れの方からメイドが飛んで来たのです」


「私のせいじゃないわ! こいつが妙な雰囲気出しながら私の事『お前』呼びしたからよ」


「そんなことで血だらけになるまで殴ったの? はぁ......あら? でもその割に何処にも傷がないわね」


「そんな訳ないじゃない。少なくとも鼻の骨は折ってやったんだから! ―――ん?」


「えっと......」


 二人の視線が顔に向く。

 彩華は僕の頬に左手を添えると、鼻の所を観察した。


「やっぱり。なんともないみたいね」


「え? あり得ない。どうなってるの? ちょっとあんたどんな能力持ってるか言いなさいよ」


 テーブルから身を乗り出して言って来るハウメア。

 

 能力を言っても良いのだろうか。ここで話して後々僕に不利になる事があるかもしれない。

 でも、能力を話さないと教わる事も出来ないよな......。


 少し考え、能力のいくつかを教える事にした。


「念動力と治癒能力、それから性別変化......です」


「......三つ持ってるってこと?」


「これは......何と言うか。珍しいですね」


 頷く僕を見ると、僅かに漂わせていた不機嫌オーラを消し、真剣な表情で確認してくるハウメア。

 何をか考える素振りを見せる彩華。


「彩華さ......様は奈鬼羅様に聞いていなかったのですか?」


「ええ。何せパーティーの最中に『祝福と魔力の扱い方教えて上げなさい』と言われましたので、―――そうですか、複合型ですか。これは僥倖ですね」


「僥倖? ですか?」


 僕の言葉に小さく頷く。


「ここに居るハウメアも複合型の祝福を持っているのですよ」


 ハウメアを見ると、フンっ! とソッポ向かれた。


「はあ」


 間延びした声を出し、カップを傾ける。

 その間、彩華はメイド達に視線を飛ばし、下がらせる。それから、しばらく時間を置き誰もいないことを確認すると、話を切り出した。


「でも、この子はちょっと問題がありまして。今能力が上手く使えないのです」


「成程」


「......何? 文句ある?」


「いいえ別に」


「ですから、ハウメアにも授業にしてもらって、一対二で教えます」


「まだやるって言ってないんだけど」


 むすっとした顔のハウメアを彩華が説得する。


「同じ複合型の祝福なら、貴方が突然能力を使えなくなった原因も分かるかもしれないでしょ? 本当ならお姉さまに聞くのが一番早いのだけど」


 伺うような視線をハウメアに向けるが、ハッ! っと鼻で笑いその提案を一蹴した。


「あいつに教えてもらうぐらいなら一生能力使えない方がマシだわ」


「またそう言って......。貴方も次期当主なんだからいつまでもこのままじゃいけないでしょ?」


「っ! ......」


 言い返せないハウメアは腕を組み、ふんっと顔を背けた。


「さて、早速ですが始めましょうか」


「ちょっと待ちなさいよ」


「? どうしたの?」


「あんたの名前聞いてないわ」


 そう言ってハウメアは僕に指をさす。

 

 名前? 研究所では数字で呼ばれてたし前の世界の名前は―――


「......何だっけ?」


「? あんた自分の名前も分からないの?」


 訝し気に僕を見るハウメアの目に気付かない僕。

 前の世界の名前.......ダメだ、思い出せない。

 思い出そうとすると頭の中に靄が出来る。


「名前がないのは不便ですし......」


 必死で思い出そうとしている僕、どうしようか考える彩華。

 それを見たハウメアは、思いついたといった表情で手に持ったカップをテーブルに置き、立ち上がった。


「そうだわ! 特別に私があんたの名前考えて上げる!」


「ハウメアそれは......」


「だって自分の名前を思い出せないならしょうがないでしょ? ―――んん......」


 そう言いながらハウメアは考え込み『クアオア......マケマケ......オルクス......』と、んーんーうねりながらブツブツ呟く。


「だから、この方はお姉さまの所有「あんた、エリスとセドナどっちがいい?」ちょっと話を聞きなさい」


「えーと......」


 どうすればいいんだこれ。

 

 彩華に視線を飛ばすが、仕方ないと言った感じで首を振る。


「私達の中でと言う話ならこの際いいでしょう。早く決めてさっさと初めてしまいましょう」


「彩華からお許しが出たわよ! さぁ、どっちがいい?」


「......別にどっちでも良いんですけど」


 三人の中での話なら、別に何と呼ばれようと構わない。

 どっちも女性的な名前だが、ここでどっちも嫌だなんて言おうものならどうなるか分かったもんじゃない。 

 これ以上鼻を折られるのは嫌だし、何より、早く祝福について習いたいのだ。


「じゃあこれからエリスよ! セドナはなんか海っぽいから貴方に合わないわ! エリスは私の好きな名前だしそっちにしなさい!」


 こうして僕は鼻を折られた少女に名前を頂いた。





「さて、授業を始める前に言っておきますが、基本、祝福の操り方と言うのは人それぞれで本人にしか分かりません。ですから、私達が教えるのはあくまで私達が感じた経験に基づいたことであり、必ずしもエリスに当てはまるとは限りません。良いですね?」


「はい」


「それでは今回は基礎の基礎。魔力制御の基礎である魔力を操ることに関して教えます」


「あの。奈鬼羅様の許可がないと僕能力を使えないんですけど」


「安心して下さい。私が居る時は使ってもよいと言っていました」


 よかった。

 次あった時『貴方私の許可なく能力を使ったわね?』何て理不尽を言われ、腕を切り落とされずに済む。

 聞くまでもなく、授業なのだから使わないと何も学べない。

 でも、もしかしたらさっきの様な理不尽が僕に降り注がないとも限らないからしっかり確認を取る事に越したことはない。

 

「外に出てやらないの?」


「エリスがここから出られないから基本、この建物内で全てするから、外には出ないと思うわ。―――それよりハウメア。いい加減靴を脱ぎなさい。ここは土足禁止よ」


 ハウメアに靴を脱がせている間に、僕に魔力制御なるものを教えてくれた。


「良いですか? 祝福を使うには必ず魔力を消費します。そして、その魔力にも制御する事によって様々な恩恵を受ける事が出来るのです。―――例えば」


 彩華は縁側から外に視線を移すと、扇子を庭に向けた。

 その瞳は赤く光り輝き、扇子を持つ右腕の周りには薄赤色の魔力を纏っていた。

 それから、彩華の向く方向を見ると、地面が盛り上がり、そこに一本の木が現れた。

 それは、次第に枝を伸ばし、芽が出て、蕾になり、遂には満開の花となった。

 

 僕にとって馴染のある桃色の花。


 間髪入れず、同じように木を出し、花を芽吹かせると僕の方を見る。


「はい。今の二つの違いが分かりますか?」


 扇子をテーブルに置く彩華。


「......同じに見えましたけど」


 『はい、その通り』と彩華。


「見た目は全く同じ桜の木。しかし、加えた魔力量は全く違います―――」


 魔力制御を行えば、少ない魔力で同じ効果の能力を発動する事が可能で、逆に大量に魔力を流しても魔力の制御を怠れば、祝福の制御も難しくなり思った効果が発揮しない。

 魔力供給から始まり魔力を操作し量と流れを調整し、炉に流し込む。それから自身の発動する為の部位に送り、それから、祝福を制御し、発動する。

 魔力とは水のようで、魔力路に沿った細く、適切な速さの魔力を流せば無駄なく最短で魔力が供給されるが、強い濁流のように力任せに流し込むと逆に魔力が溢れ、十分に炉に魔力が供給されずに思った力を発揮できない。

 

「―――と言う訳ですか?」


「理解が早くて助かります。魔力を流し込んだ先にも祝福の制御があるのですが、まずはこの魔力操作を正確かつ迅速に行えるようにして頂きます。魔力操作と言うのは祝福の他に剣術に使われるのですが、今回必要なのは祝福に関することなので省略致します」


「分かりました」


 剣術にも魔力は使われるのか。

 どういう風に使われるか気になるが今回は祝福関係の事だけに集中しよう。


 ん? 待てよ?

 

「特に魔力を制御している訳じゃないのに治癒能力は使えているのはどうしてでしょうか?」


「それは祝福の系統が違うからです。―――良いですか。先ほど言ったように、魔力制御を行い能力を使います。エリスの言う『何もしていないのに発動した』のは常時発動型と言われる祝福」


「常時発動型? ずっと発動している状態って事ですか?」


 その問いに彩華は頷く。


「その通りです。一日中発動している能力もあれば、治癒能力のように何かが切っ掛けで自動で発動する能力も存在します。それらを総じて常時発動型と呼ばれています。そして、通常と常時発動型の他に最も珍しい系統がエリスやハウメア、後お姉さまの持つ、複合型です」


 奈鬼羅もそうなのか。


「それって魔力が枯渇するとどうなるんですか? 死んだり......はしませんよね?」


「そもそも、魔力がなくなっても、それ以上魔力を使う行為を控えれば死ぬ事はないのです。魔力がなくなれば常時発動型も自動で止まります」


 そうこう話していると、何時の間にか靴を脱いで帰っていたハウメアが何故か自慢げな顔で僕を見ていた。


「あんた魔力制御も碌にできないの? 私なんて四歳には完全にマスターしていたわ! あんた遅いのね!」


 『どう、凄いでしょう?』と自信たっぷりの笑み。

 

 イラ。


「凄いですね。でも七五三木様と違って僕は能力を使えますよ」


「っ! 何ですって!?」


「コラおやめなさい」


「っ! ふんっ!」


 一瞬にして般若のような顔になるハウメアを諫める彩華。

 だいぶご立腹のようで顔を桜の木に向け、黙ってしまった。

 

 つい売り言葉に買い言葉で乗ってしまった。


 心の中で反省しつつ続きを聞く。


「魔力の流し方は分かりますね?」


「はい」


「では一度やってみてください。―――能力を使う時とは違い、発動箇所に溜めるのではなく、そのまま流すように」


 物を着た彩華は少し袖をまくり、掌から赤色の魔力が出す。

 それは一定に出続け、手の周りに纏ったり、空中に上がって行ったり、幻想的な景色が広がっていた。


「......」


 彩華の言葉を聞きながら手に向けて魔力を流す。


 溜めないでそのまま流し出すように......。

 

 これがまた難しく、進みが早い魔力を抑えたり逆に緩めたりしながら手に集め、収束するのを感じると、そのまま進むようにもっと奥へ魔力を流すのを意識する。

 すると、不規則な勢いで七色の魔力が出た。

 彩華のとは違い、噴水のように噴き出した魔力は今一杯に広がり、まるでオーロラの様に暫く天井に漂い、少しずつ消失していった。


「「......」」


 それを見た彩華とハウメアは顔を見合わせ、漂っている魔力を半ば放心状態で見上げ、消えて暫く経つと、僕の顔、具体的には目を見ていた。


「......う、そでしょ......」


「............本でしか見た事ないわ」


 彩華は立ち上がり、両手で僕の頬を包むと、顔を近づけ瞳を覗き込んだ。

 ハウメアも同じように近づき、僕の目をじっと見つめている。


「本当にあったんだ」


「ええ。私も眉唾物の伝説とばかり思ってたわ」


「あの、顔......近いです......」


 こうして、今日の魔力に関する授業は終了した。


 

 


 




 

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