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奴隷実験体が幸せになるまで  作者: 柊なつこ
エイル王国編
41/69

奴隷との邂逅

 面白ければブックマークを押してくれると嬉しいです。

 また、誤字脱字があれば報告をお願いします。

 今回から毎日投稿を始めます。取り敢えず二十話を予定しており、筆の乗り次第で続けて更に数話増やしていこうと思いますので宜しくお願いします。

 風呂から上がると、タオルを持ったメイドが待ち構えており頭からつま先、果ては髪の毛まで三人がかりで丁寧に身体に付いた水分を拭きとる。

 

 自由がないのは同じだが、研究所とは大違いだ。


「お嬢様。お食事になさいますか?」


「おじょっ!? ―――お願いします」


 未だになれないお嬢様呼びにどぎまぎしながら答える僕。


「かしこまりました。エイルと和どちらに致しますか?」


「エイルで」


「はい」

 

 エイルか和かと言うのは食事を取る時のテーブルで取るか和食のように床に座って取るかということ。

 エイルだとエイルの料理が、和だと和食......のような料理が出てくる。

 始めての時は、それはそれは驚いた。

 なにせ、この世界で日本の料理が食べられるのだから驚かない方が無理な話じゃないか。


 しかし、出てきた料理は......何と言うか、微妙に違う。


 お米、みそ汁、漬物、焼き魚、どれをとっても何か物足りない気がする。

 違う世界の料理をこの世界の食材で作ろうとするのだから、無理ないのだが、見た目がそっくりなだけに残念感が凄い。

 

 思えば研究所では肉料理ばかり食べていた気がする。

 米や魚料理もあったのだが、日ごろのストレス発散にそれはもう好物の肉ばかりとっていた。

 だから、お米がこんな味だとは知らなかったのだ。

 子供達があんなにおいしそうに食べていたから間違いないだろうと思っていたのに、肩透かしを食らった気分になる。


 げんなりとしている僕を他所に、メイドの何人かはスタスタとその場を去って行った。


 そうメイド。メイドの話もしておこう。 

 僕一人に対して六人のメイドが付いてくる。

 屋敷なのにメイドとはこれいかにと最初は思っていたが、思えば召喚術式で呼び出された人間経由の知識だから、細かな所がいい加減なのは仕方がない事。

 逆にこれだけの日本屋敷や畳を再現出来ているのは普通に凄いと褒めるべきだ。

 呼び出された奴はどれだけ博識だったかがうかがえる。


 まあ、あの(奈鬼羅)先祖だからろくでもないのは確かだろう。


 そんなことよりメイドだ。

 この人たちは凄い。朝の早くから、夜遅くまで、疲れた表情一つ見せることなく、朝の身支度は洗顔から歯磨き、夜は風呂。

 ため息を付けば、そっとお茶を用意してくれ。

 肩こったと自身で筋肉を解していたら、両手足に加え両肩をそれぞれ六人で揉み解してくれる。

 僕の一挙手一投足に目を配り、一手先の物事を予測し、気か遣う。まさに、メイドの中のメイド。

 その気遣いに果てはなく、トイレにまでついてこようとした程だ......手洗いの扉一つ隔てて互いにドアノブを引き合ったのは記憶に新しい。

 ほんと、説得するのに苦労した。


「食事のご用意が出来ました」


「ありがとう」


 畳の上に敷物を敷いて、その上にテーブルを置いているのを見ると、多少違和感があるな。


 引かれた椅子に座り、綺麗に花のように折られたナプキンを解き膝に乗せると、ナイフとフォークを左右に持ち、食べ始めた。


「......」


 た、食べにくい。

 

 食べる時は基本的メイド達が手持無沙汰になる。

 飲み物を入れる時や、食器を落とした時は交換する為動くがそれ以外は皆部屋の端に立ち、僕が食べ終わるのを持っているのだ。

 それに加えメイド達の態度。

 一見普通に接しているように見えるが、頬から汗が滴っており、緊張しているようで、偶に声が震えている事がある。

 最初は、知らない人の世話をするから緊張しているのか? と思っていたがどうやら違うらしい。

 

 ここに生活し始めて一週間程経った時、ふと奈鬼羅の言葉を思い出した。



 ―――その髪色、その雰囲気オーラ......。まるで、龍か十二神王(デュオスデキム)と対峙している気分。



 そう十二神王(デュオスデキム)だ。

 自分では気付いていないが、どうやら僕から何らかの緊張する雰囲気のようなものが出ているらしく、それが原因でメイド達が怖がっているようなのである。


 謎の威圧感を探ろうと十二神王(デュオスデキム)に関する本はないかとメイド達に聞いたが、凄く申し訳なさそうに『すみません。そう言った事は長様の許可が無いとお出し出来ないのです』と返された。

 どうやら僕の一挙手一投足に奈鬼羅(あいつ)の許可がいるらしく、罰を受ける前、ちょっとぐらいと縁側から外に出ようとした時には物凄い勢いで止められた。

 なにせ、奈鬼羅のルールを『これだけは守ってね』程度に思っていた。その一件が無かったら、恐らく情報収集の為にと軽い気持ちで抜け出していたかもしれない。

 流石にそんなメイド達も、足を出すのが外出する事になるとは思わなかったらしく、縁側で空を眺めていても何も言わなかったが......。


「ご馳走様」


 息苦しい空気の中の食事を終え、ナプキンで口元を拭うと引かれた椅子から立ち上がる。

 

 今の時刻は分からないが、もう夜も夜。

 真夜中とは言わないまでも、子供が寝る時間なのは確か。


 今からは大人の時間だ。

 と言っても酒を飲むだとかタバコを吸うだとかではなく、ただ縁側で外を見るだけなのだが。


「はぁ......」


 足を家の中にしっかりとしまい、両足をそろえて崩すとため息をついて空を見上げた。

 無意識で細かな所作が女性のそれになるのは、身体が女性だからだろうかと考えながら、これからの事に思案を巡らせる。


 結婚。

 

 未だ彼女も出来た事が無い自分が見ず知らずの人、それも男と結婚して子供を産まなければならない。

 運よく身体を男に戻す事が出来てもあの奈鬼羅と結婚しないといけない。

 八方塞がりとはまさにこの事。

 無論、何もしない訳ではないが、いかんせん奈鬼羅の罰が脱出の考えを邪魔してくる。

 かと言って身体を男にしようと、胸の底に意識を集中してもどうもうまくいかない。

 祝福でも使いやすいモノと使いにくいモノがあるようで光線やバリアは直ぐに使えたがこの変身能力はどうにも難しく制御することが出来ない。

 

 これは今後の課題としよう。


 さて、今回の件で朗報がある。

 それは、奈鬼羅の居ない時間が出来るということ。

 今まで奈鬼羅が何時来るかと言う恐怖に襲われ、碌に脱出を考える事が出来なかったが何処か遠くに行くという事で話が変わる。


 今日から本格的に脱出する為のあれこれを考えようと思う。

 最初に必要なのは情報。

 眠っている内に移動させられ、気付けばここに居た。

 だから、ここが何処なのか知らないしもっと言えばなんて国なのかも知らない。

 エイルと言う単語からここがエイルなんとかと言う国なのは想像出来るがそれだけだ。

 まずは地図だな。

 何を置いても場所が分からなければ逃げようがない。

 

「でも本はなぁ......」


 本が見せて貰えない以上、誰かに聞くしかない。

 メイドは......多分無理だろう。

 本まで許可制にしているのだから余計な情報を与えないようにしているのは明白。そんな奈鬼羅が僕の身の回りを世話する者達の口を封じていない訳がない。

 他に話せる人......あ。

 いた、一人だけ。一瞬だけ見た、恐らくこの家の子供だろう。顔が奈鬼羅にそっくりだった事から妹だと思う。

 背丈からして僕より少し年下、髪型や佇まいが何処となく奈鬼羅に似ていたから、もしかしたら奈鬼羅の妹かもしれない。

 それぐらいの子供なら奈鬼羅が口封じしていない可能性がある。

 仮に漏らした事を奈鬼羅に知られても相手は血縁者、腕を切り落としたりしないだろう。

 それに、これから奈鬼羅は留守になる。一年と言う時間があるのは確かだが、ちょくちょく帰って来るとは言っていたし、時間制限(タイムリミット)があるのは確かだ。

 なら、こんな所でウジウジしていられない。

 何も考えずにいたらあっという間に、知らない男とベッドイン何て未来が冗談じゃなくあり得るものなのだ。


「よし」


 小さく気合を入れると立ち上がり、明日に備えてベッドに入り手首に巻いた髪飾りを撫でると、早々に眠りに付いた。






 朝、起きると服を着替え、朝食を取り、何時もの定位置に腰を下ろす。勿論、全部メイド達がやってくれた。

 この建物から出られない以上、人を探す手段は限られている。

 縁側だと、外に続く門が良く見えるからもしかしたら、件の子供を見つけることが出来るかもしれなおい。

 それが、一時間後か五時間後かは分からないが、ここでずっと見ていたら間違いないだろう。


「......通らない」


 結構な時間、門の方を見張っていたが目的の子供は発見できず、通った者と言えば、従者やメイドばかり。

 

 メイドと言えば。

 

 彼女達に対して、敬語や気遣いした時困った顔で『そう言ったことは必要ありません』とやんわりとやめるように言われた。

 この屋敷内で動く以上、少なくともメイドを手足のように使えるようになって損はないだろう。

 それに、年上の人達に命令するのに慣れれば、意志薄弱なこの僕でも少しは何かが変わるかもしれない。

 

 よし、次誰かに会った時はないか命令してやろう。


 そう思い、引き続き目を向けていると、一人の少女が入って来るのは見えた。

 その少女は赤毛交じりのボリュームのある僅かにウェーブの掛かった黒い長い髪を揺らしながら、くすんだ灰色の瞳で誰かを探すようにきょろきょろと辺りを見渡していた。

 そして、僕の存在に気付いたのかこっちに足を向け近づいてくるのが見える。


 肩の辺りから袖に掛けて白いスリットのトップス。入った膝下辺りの高さの黒色のバッスルスカートから見える足は健康的で、足首を覆う程の編み上げブーツをドタドタと鳴らし、腰に挿した剣は歩く度にガチャガチャと威嚇するように辺りに響く。


 ここの子供か?

 いいやここに来てこんな子は見た事が無い。

 何処かから来た使いか?

 上品の欠片もないのは歩く感じで分かる。どこかの剣士の子供が使いでここに来たのだろう。

 と言うか剣士何て本当にいるのか? 奈鬼羅も剣を使っていたが、一般人も銃があるのに剣で戦いを挑む何て事があり得るか?

 

 まあ、考えていても仕方がない。

 取り敢えず、この子供から話を聞こう。


 えーと......。人に命令するのってどうすればいいんだっけ?


 そうこうしていると少女は目の前にまで来ていた。


「......」


 首を右に左に傾けながら、腕を組み、ムムムと何か考えるようすの彼女。

 

 言うなら今だ。


「お」


「お?」


「お前、ここがど―――」


 会話は最後まで続かなかった。

 いいや、言い切る事が出来なかったのだ。

 少女に対してお前と言ったその瞬間、顔が一瞬にして怒気の籠った表情へと変わり、それはまるで地獄の閻魔様のよう。

 そして、フッと少女の手がブレた瞬間、僕は顔面に痛みを感じながらその場に倒れていた。


 時間にして三秒。


 何が起こったのか分からず、天井を見上げながら頬けていると、ズカズカと土足で縁側に上がり込み僕の身体の上に飛び乗る。


「誰に向かってそんな口聞いてんのよっ!」


 片手で胸倉を掴み、もう片手は拳を作り、勢いを付けて僕の顔面に向かって再度殴り付けた。


「ぶっ!」


 僕の上に跨っている地獄の閻魔様のパンチは本気で、手加減が一切なく、この華奢で小さな身体の何処から出て来るのかと思える程の力の籠った重い一撃を一、二、と何度も的確に同じ個所に攻撃をくわえてくる。


 辺りは騒然。

 メイド達は悲鳴を上げ、『彩華様を呼んできなさい!』と一番年長者っぽいメイドが焦りながら言うと、残りのメイドでマウントを取り殴打し続けている少女を必死に宥めようとしていた。


「ハウメア様! どうかお静まりを!」


「その方は、奈鬼羅様の大事な奴隷でございます!」


「どうかお怒りをお沈め下さい!!」


「どうりで! 気に入らないと思ったわ! あいつに変わって私が二度とあんな口聞けないように躾てやるんだから!」


 そう言いながら攻撃の手を緩めない少女。

 流石にこれ以上は勘弁してほしい為、加減して少女の身体を押す。

 後ろ手にストンと倒れた少女。その顔は以前怒りに満ち満ちており、額の血管が浮き出て、口からは火を噴き出さん勢いでフシューフシューと荒い息で僕を睨みつける。


 どんだけ怒りっぽいんだこいつは。

 

 ボタボタと鼻から垂れる血に構わず、逃げる。

 屋敷の離れと言ってもこの建物は大きい。

 中身は普通の家よりずっと広い。

 子供一人から逃げるには十分だ。


 自分より少し下か? 身長は同じぐらいだけど、沸点が低い所を見ると年齢は僕の方が断然上の筈。

 そんな事を考えながら、鼻を抑え、逃げ回る。


 靴をそのままに追いかけて来る少女、縁側を走り、テーブルの下へ潜り込み、最終的には風呂場の湯舟の中に隠れた。


 自身を守ろうにも、加減が分からない僕は少女をうっかり殺しかねない。

 防衛が出来ない以上、救援が来るまで隠れる以外の方法はなく、治った顔を手で触り確認すると、鼻を覆っていた手を口へ移動し、息を殺し、メイドの助けを待った。


 ドタドタッ!


「絶対に見つけ出して私が誰だか分からせてやるから!」


 建物内に響き渡る、叫びにも似た大声。

 足音と剣が揺れる音が近づき、遠のき、また近づく。

 高鳴る心臓を抑えようと吸う息を抑え、さらにグッと身体を強張らせる。


「っ......」


 風呂場の前に足が止まる。

 ドンっ! と勢いよく開かれ、中に誰か入って来る。


 少女が身体を動かす度にガチャガチャと擦れる音が聞こえた。

 その音から察するにここに僕が隠れているのに気づいていない......筈だ。


 だが、そんな甘い憶測は辛い現実によって掻き消される。


「見つけたわ!」


「わ! わわ!」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべ、再び胸倉を掴み上げ、立たせられると拳を作り―――


「コラ!」


 殴られる直前、少女を静止する声。

 その声のする方向に目を向けると、僕が朝から待っていた目的の少女が立っていた。

 その顔は若干起こり気味で、両手で持っている扇子は力が入っているのか若干しなっていた。


「ちょっと待ちなさい! 今こいつに躾をしてる所なの!」


「何が躾よ! その者は奈鬼羅様の奴隷。所有物! この事がお姉さまに露見すれば貴方だけではなく七五三木家の責任問題にされるのよ!」


「っ......」


 態勢を維持し、止まる少女に追い打ちをかける。


「今すぐその手を放さないともう口を利きません! 絶交です!」


「分かった! 分かったわよ! ―――あんた、この程度ですんでよかったわね!」


 そう言ってポイっと僕を突き放し、風呂場から出て行った。


 


 

 

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