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奴隷実験体が幸せになるまで  作者: 柊なつこ
エイル王国編
39/69

アレクの受難

 エイル王国編も中盤まで書き上げることが出来ました。

 きりの良い所まできましたら、また毎日投稿を再開します。

 会場に居る、誰もが息を呑んだ。

 

 夜を溶かしたような腰まである、長い黒い髪。

 少女から女性の丁度中間と言った感じの風貌、それに加え、見た者を引き付けて離さない大人びた整った顔立ちをしている。

 赤い瞳は正面を向き、小さめの歩幅で悠然と歩くその姿はまさに女神。


 四方に散っていた七氏族の面々は、入場口の門から王の座する席までの間、中央に敷かれた敷物の左右に立ち、深く頭を下げる。


「頭を上げなさい。今日はは特別な日。無礼講、皆で今日と言う日を楽しみましょう」


「奈鬼羅様がそうおっしゃられるならば」


 七五三木家当主。正十郎がそう言いうと頭を上げる。

 それに続く様に皆、正面を向き、奈鬼羅が王の元へとゆくのを見守った。


「ニコライ殿」


「奈鬼羅殿。少し遅れると聞いていたが?」


「私の遅れると他の者の遅れるを一緒にしてはいけないわ」



 敬語をなく、軽い口調で話す奈鬼羅。

 それを、咎める事なく会話するエイル王。

 と言うのも、奈鬼羅を含め、七氏族の者達は従者でなければ国民ではない。

 今から、五百十年前。

 エイルを救った、異界の英雄に多大なる恩を感じた、エイル王が『かしづくのではなく、共に肩を並べよう』と提案。

 それから、異界の英雄は武を提供する代わりに、エイル王は平穏な土地を与える。かなり特殊な関係になっている。

 その為、異界の英雄、その末裔たる七氏族たちは、税金を免除され、区画内での自治権を認められ、小さな国と呼べれる程の権利を手にした。

 故に、七氏族は厳密にいえば貴族ではない。国民でもない。同盟者。


 

 王族は七名。

 王と王妃、それに王子が三人、王女が二人。

 第一王子は壮年の男性。王譲りの金色の髪に、整った容姿、口周りや顎にかけて伸びた髭は、優れた風貌も相まって。逞しさを感じる。

 第二王子を一言で表すなら優男。細い身体に、スラっとした顔つき。物腰は柔らかく、ややたれ目の目元で女性の目をくぎ付けにする。

 第三王子、第四王女は双子。

 幼さを感じる、庇護欲をそそられる風貌。

 華奢で線が細く、服装を入れ替えれば、そのまま気付かれない程そっくりだ。

 しかし、よく見ると、兄の方は勝気のある、妹の方は第二王子と同じようなそれぞれ目をしている。

 そして、最後に第五王女。

 彼女はまだ幼く、子供。

 第四王女に似た顔立ちで、顔を伏せがちで目だけで辺りを見渡し、王妃のドレスの裾をちょこんと握っている。

 

 そんな、王族であっても、奈鬼羅の魅力に釘付けで、男共は皆、奈鬼羅を見つめ、第三王子に限っては、顔を赤らめながらもじもじと視線を外し、二人の王女は顔を真っ赤にしながら王妃の後ろに隠れてしまう。


「そうだな。これは失礼した」


「いいえ。いいのよ」


「―――さて、我が息子達がゆで上がってしまう前に始めるとするか」


 王が王子達を一瞥し微笑むとそう言いながら立ち上がる。

 奈鬼羅は王の隣に移動し、王妃の後ろに隠れ、ぴょこっと顔を出す王女の頭を撫でるとその隣で止まり、正面に視線を固定した。


「そろそろ始まりますな......」


 貴族の誰かがそう言うと、自ずと王に身体を向けた。


「皆、今日は良く来てくれた。皆の尽力もあって、今年もエイル王国は大きな戦火に晒されることなく平和な一年を過ごすことが出来た。これらは一重に皆の力があってこそである。これからも、その力を貸してもらいたい。エイル王国永遠なれ!」


 給仕が持ってきたグラスを持ち空へと掲げる。

 それに続くように皆、王に向け掲げ、声高らかに開宴の口火を切った。


「「「永遠なれ!」」」


 


 パーティーが本格的に始まり、奈鬼羅も大勢の貴族に囲まれる。

 その全ての言葉に適切な回答で返す、それはまるで一対多数の乱取りのようで、ばったばったと倒し、時折混ぜる冗談は笑いを起こした。

 こうして、時間が経っていく内に立ち向かう者は減り、手持無沙汰になった奈鬼羅は周りに聞こえない程度にため息をつくと片手に持ったグラスを傾け喉を潤した。


「「奈鬼羅さま!」」


 それを見計らったかのようにアレクと弥乃が駆け寄る。

 事前に打ち合わせたかのように全く同じタイミングで近づく二人。

 勿論、そんな打ち合わせはしておらず、邪魔をするのは誰だと訝しげな顔で互いに見合わせた。


「私が先だった」


「いや私が先だった」


「負けを認めろチビ」

 

「誰だチビだデコ助!」


「何を!」


「何だ!」


 後一歩で掴みかかろうとしていた時、二人の間に奈鬼羅が身体を刺し込んだ。


「コラ。二人ともやめなさい。全くお前達はいつ見ても仲が良くて羨ましいわ」


「「ごめんなさい......」」


 まさに鶴の一声。

 今まさに、手を出そうとする雰囲気を出していた二人を一言で収めた。


「それでどうしたの?」


「「聞いて下さい奈鬼羅様!」」


「私は逃げないから一人ずつ言いなさい。まずは弥乃から」


 にやりと勝ち誇った笑みをアレクに見せると直ぐに元の年相応の少女の表情に戻し、褒めて貰おうとする子供のように話し始めた。


「聞いて下さい奈鬼羅様。私、また能力の威力が伸びました!」


「それは凄いわね。祝福の能力を伸ばすのは容易ではなかったでしょう?」


「い、いいえそんな。そのようなことは......」


 気恥ずかしそうにもじもじと身体を捩る弥乃を見て笑う奈鬼羅。


「もし、行き詰ったら私の所へ来なさい。何とか時間を作って貴方の能力を見て上げるから」


「っ! 本当ですか!? 約束ですよ!!??」


「ええ。私は嘘はつかないわ」


 今まで見た事が無い程の花丸笑顔。

 それから弥乃は部下に呼ばれるまで、まるで機関銃のように会話を途切れさせることなく話続けていた。




「それでは奈鬼羅様。名残惜しいですが一旦失礼させて頂きます」


「ええ。また後でね」


 弥乃とそれに追従する部下に手を振る奈鬼羅。

 人の壁に阻まれ見えなくなると、身体を向き直しアレクに視線を移した。


 餌を前に待てを命令されている犬のように落ち着きのない感じで今か今かと待ちわびている。

 そんなアレクを見た、口元に手を充て吹き出すように笑う。


「―――それで。今日は一人? アリスは連れてこなかったの?」


 アリスと言うのはアレクの妹で、昔ある事が切っ掛けで奈鬼羅にアレク達は救われ、暫くの間、親の居ないアレク達の生活を支えていたことがある。

 そんなことがあったから、アレクは家族ぐるみで奈鬼羅に恩があり、アレク自身も奈鬼羅に強い憧れを抱いているのだ。


「妹も奈鬼羅様にお会いしたいと言ってましたけど―――ここは少し騒がしいので連れて来ませんでした」


 含みのある言い方に『確かにね』と納得する奈鬼羅。


「貴方達もまた私の家に来なさい。久しぶりにアリスの顔も見たいし、貴方ともゆっくり話もしたいからね」


「っ! はい! 必ず!」


 『あの......それで奈鬼羅様』と言いにくそうにアレクは続ける。


「あの子はどうしましたか?」


 あの子と言うのは去年。

 研究所の跡地で見つけた少女(・・・・・・)のことだ。


「あの子? ―――ああ、あれの事......。今は六花に預けてあるわ」


「六花に、ですか?」


 首をかしげるアレク。 

 

「来年から少し、留守にすることが多くからその間、信頼出来る者に見張っておいて欲しいのよ」


 確かに、六花は奈鬼羅の生まれた家。奈鬼羅が一番信頼できる人達が揃っている。

 

「ん? 留守にする? お仕事、ですよね?」


「ええ、少し遠くにね」


「遠く......」


「国を出るの」


「え゛!?」


 飲み物を落としそうになるアレク。

 それもその筈。

  奈鬼羅は国の鉾であり鉄壁の盾、同盟国の救援だったり、王族の護衛であったりと余程の事情が無ければあり得ないことなのだ。


 驚いているアレクに口元に人差し指を宛てる奈鬼羅。


「このことは内緒ね」


「そんな、えぇ......分かりました」


 己の中で感情が暴走しているのを抑え込み、何とか頷く。

 

 恐らく、私用だろう......。


 そんなことを想いながら恩人の頼みを聞き入れるのだった。


 それから暫く話していると、唐突にアレクが顔を顰める。

 それを見た奈鬼羅は何事かとアレクの見る方向に目を向ける。


「成程......」


 視線の先に見えるのは一人の男。

 貴族の中でも一段と煌びやかな衣装に身を包み、物腰柔らかな表情でエイル王と歓談を楽しんでいる。

 男がアレクを見つけると、王に一礼し此方へ歩いてくる。


「奈鬼羅様。私はこれで」


「まぁ。待ちなさい」


「しかし......」


 奈鬼羅はそう言うとアレクの手からグラスを取り上げ、自分のグラスと一緒に近くの給仕に下げさせた。

 それから、アレクの手を引き、男の方に向かって歩く。


「奈鬼羅様。そちらのレディーを少しお貸し頂いてもよろしいでしょうか?」


 不快感を隠すことなく男の顔を視界外すアレク。


「これはスクルネン侯爵。―――ごめんなさい。この子は、今から私と大事な話をしなければいけないの。またの機会にして下さる?」


「―――そのようですな」


 『それではまたの機会に』とアレクを一瞥し、ニコリと微笑むとそのまま横を通り過ぎて行った。


「すみません。お手を煩わせてしまって」


「これぐらいの事手を煩わせるとは言わないわ」


 そう言いながら目的の人物を探す。


「彩華」


「お姉さま、如何しましたか?」


 彩華を見るとハウメアと話している最中だったようで、奈鬼羅を見たハウメアはふんっ! と見る見るうちにぶすっとした不貞腐れたような表情になり、乱暴に手に持った皿にフォークを突き刺すと、ソッポ向きながら料理を口に放り込んだ。

 彩華はと言うと、手に惹かれるアレクと去って行くスクルネン侯爵が目に入ったようで「成程」と奈鬼羅と同じ顔で口元に扇子を充てる。


「私はまだ何人かと言の葉を交わさないといけないの」


「ええ、構いませんよ」


 傍から見ればやや言葉足らずに見えるが姉妹の間ではこれで十分な様で彩華潔く了承する。


「じゃあアレクまた後でね」


「はい!」


 奈鬼羅はハウメアを一瞥し笑うとそのまま去って行ってしまう。


「ふん! 相変わらずいけ好かない奴ね!」


「いけすっ! ―――」


 思わず声に出てしまうアレク。

 

「ハウメア。一応、私の姉なんですけど」


「そんなの知らないわ。私が嫌いと言ったら嫌いなのよ!」


 空いた皿を給仕を呼び下げさせると、代わりに盆に載った飲み物の入ったグラスをひったくるように奪いゴクゴクと勢いよく飲みほした。

 そして、グラスをアレクに突き出し『そんな事よりあんた!』と言い話を続ける。


「よくも私のこと子龍なんて言ってくれたわね!」


「え!? き、聞こえてたんだ」


「聞こえてなかったわ。―――でも、今ので分かったわね」


 してやったと言った感じで笑うハウメア。

 墓穴を掘ったアレクは再び危機が訪れた。

 周囲を見渡し助け舟を求める。

 彩華は笑っているばかりで止めようとしない。ライラとオリヴィアはエインヘリアル侯爵と話しをしている。

 アランはと言うと先ほどから色々な貴族と話し込み、人脈形成にせいを出していた。


 ダメだ。

 誰も居ない。

 仕方がない。最終手段を取るか―――


「ごめんなさい!」


「お前の謝罪で私の怒りが収まると思ってるのかしら!」


「おも、ってないです......」


 誰か助けてーーーっ!!!


 空になったグラスを下げさせると代わりに受け取ったグラスを呷り、半分程飲むと何か思いついたように笑った。


「面白い事しなさい」


「え?」


「だから私を笑わせろって言ってるのよ。笑わせる事が出来れば許してあげる」


「それは流石に無茶じゃ」


「彩華は黙ってなさい! ―――ほら、早くやりなさいよ」


 目を閉じ、何かを決意するアレク。

 それから、プライドを捨て、あの手この手でハウメアを笑わせようと奔走し、最終的には髪の毛で耳を作りうさぎの物真似をした所、「悪くないわね!」と許しが出た。

 パーティーが終り、自室に戻ったアレクが、余りの恥ずかしさに枕に顔を埋め、悶絶していたのは誰も知らないだろう。






 

 


 




 


 




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