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オティックス・フォンゲルステア・アーベル

 目の前が晴れる。

 漂う空気がガラリと変わり、景色がさっきとは違うのに気付く。


 光で目が眩む。

 目を閉じては開き、袖で擦り、首を上に横に振りながら瞳のピントが合うのを待つと、今自分が居る場所を確かめる。


「―――っ!? こ、れは......」


 焦点が定まり辺りを見回す。

 そこは確かに見覚えのある場所だった。


 研究所の入り口だった所は地震が起こったかのようにボロボロに崩れ落ちており、僅かに面影を残し壊れている。

 所々に倒れていること切れた兵士や研究員の死体はそのどれもが原型を留めておらず、飛び出した内臓や肉片には羽虫が絶えず旋回していた。。


「一体何が......ヘズ、アメリア、シグルド、みんな............」


 僅かに空いた入口だった瓦礫に飛び込み、研究所の中へと入って行った。


 今にも崩れ落ちそうな研究所内は吐きそうな程の血生臭いさをより濃縮したかのような悪臭が絶えず漂っていた。


 盛り上がった瓦礫を上り、床一面に肉の塊と血に満ちている。

 天井が落ち細くなった通路を這いながら進んだ。


「うっ!」


 途中何度も吐きそうになりながらも、記憶を辿りに孤児達が居る居住区にたどり着く。


「ヘズ!! っ! ―――」


 息を引き込んだ。

 目の前に広がっているのは記憶の中に存在する安息の空間ではなく不自然に床が繰り抜かれたかのような無数の傷痕。

 それ以外は何もなかった。

 子供達も、子供達の死体すらも、血液も何もなかった。


 理解が追いつかない事にイラつき、困惑してしまう。

 身体が動かせず、その場で膝を付き俯く。


「―――」


 だが、それも一瞬。

 直ぐに気分が晴れ、高揚に似た感情が心の底から湧き上がった。


『『『『『『『はやくハヤクはやくはやくハヤクはやく...........』』』』』』』


「分かってる。分かっているから」


 今にも頭の中から飛び出してきそうな懇願の声が響く。


 篝達と会ってから頭の中に響く声が止まらない。

 まるで、耳元で大声を出されているかのような不快感と謎の焦りが湧いてくる。


 一度ぎゅっと目を閉じ、自身を落ち着かせると、宥める様に独り言を呟きながら立ち上がり、実験場へと足を向けた。


「大丈夫。ヘズはきっと大丈夫」 

 

 微かな希望。

 心の何処かでは覚悟を決め始めている自分を否定しながら、進みたくない気持ちを抑え込み唯ひたすら突き進む。


 この先。

 この曲がり角を曲がった所に実験場はある......。


 ふと足が止めた。


 大丈夫、きっとヘズ達は生きている。

 そう、自分自身に言い聞かせ、意を決して角を曲がり扉を開くと実験場へと入っていく。


「っ!? ヘズ!!」


 人が走り回れる程の広さがあるその空間は壁がひび割れ、ガラスが割れ、死体が散乱していた。

 そして、そこには倒れたヘズと傍に腰を落とした青髪の男。


 ヤバい......コロシタイ。


 視界に青髪の男が入った瞬間、まるでスイッチが入ったかのように一瞬にして自分の中に存在する憎悪と言う感情が噴き出してきた。

 

 全身の血液が沸騰する。

 毛が逆立ち、体内で魔力が震えているのが分かる。


『私達の復讐を』


 また、先ほどの少女の声が聞こえて来た。


 身体が動く。

 地面を蹴り上げ、青髪の男に手を伸ばす。

 相手も僕を認識しているようで、此方に顔を向けている。


「!?」

  

 何故だ。

 何故そんな顔をするんだ......。

 怯えろよ。

 泣き喚けよ。 


 その表情は喜び半分悲しさ半分といった感じで、殺気を放ちながら迫って来る僕に対して抵抗する素振りを見せる事無くただ、僕を見ていた。


 一つの身体の中に二つの人格が同時に存在するような歪な状態。

 一方は僕自身の思っている感情、思考。もう一方は良く分からない。

 唐突に現れたモノだ。

 自分がそう感じていると言う確信はある。だけど、それとは裏腹に自分自身の新たな別の感情が生まれ、形成されていくのも確か。

 多重人格? 苛烈な状況に置いて、人は自身を守る為に自分とは全く違う人格を作り出すと言う。

 だが、とも少し違う気がする。

 人格と言うのは一つの身体に一つだけ。仮に多数の別人格が形成されたと言っても自身の基礎となるのは一つの人格であって同時に複数の人格が現れるなんてことはない筈だ。


 気持ち悪い。


 吐き気に襲われ、口元に手を持っていき俯く。


「―――どうした。殺さないのかい?」


 何度かえづいていると青髪の声が耳に入って来た。

 瞬間、思考が憎しみの色に染まり、得も言われぬ怒りが湧いてくる。


「っ!! どうして泣かない! あれだけ子供を殺したくせに何でそんな顔が出来るんだ!!!」


「............全ては娘の為に行った事だ」


「娘? ―――っ!? もしかしてヘズが?」


 僕の言葉に微笑む。


 そして、迫って来る死に土産とばかりに昔の話を話始めた。



 



 まだ、平和だった頃の話。

 帝国の国立研究所で働いていた私、オティックス・フォンゲルステア・アーベル。

 学者の妻と娘の三人で平穏な生活を送っていた。

 愛する妻、すくすくと素直に育つ娘。

 仕事もあと一歩で研究者として名が知れ渡る程までになった。

 暮らしも仕事も充実していた。


 あの時の記憶は今でも鮮明に覚えている。

 まるで、夢の中に居る様な気分だった。


 だが、平和は長くは続かなかった。


 旧カールスラント王国とロプト帝国の国境に位置する場所で部族間での大規模な部族紛争が起こった。後の大戦の引き金になったその争いに巻き込まれ妻が死んだ。

 その地域でしか手に入らない特殊な魔石を求めていった先で、許可を得ていた筈の帝国側の部族に密採取したと言う理由で殺されたのだ。


 原因は部族内での伝達のミス。


 争い事で頭に血が上った兵士達が女性の罪人を捕まえれば行う事は一つ。


 その直後、国軍が介入し、紛争が終結した。

 知らせを受けた私が到着し、冷たくなった最愛の女性を見た時には目が当てられない程になっていた。

 

 やり場の怒りで頭がどうにかなりそうだ。

 国はロクに調査する事なく終了。

 私は最愛の妻を失った。 


 それに続く形で娘の目が見えなくなった。


 妻の死に受け止めきれず、ふさぎ込んでいた時に起こった不幸。

 不安で泣く娘。

 帝国内のあらゆる医者に見せたが決まって『原因が分からない』と言い匙を投げた。


 突然、光を奪われた娘は日に日に憔悴していく。

 ベッドか起き上がれずに衰弱していく自分の子供に何もしてやれない。


「おとうさま......」


 手探りで私を探す娘の手を握りしめ、決意した。 

 

 妻は助ける事は出来なかった。

 でも、娘はまだここに居る。

 ここにこうして息をしている。

 心臓が動き、呼吸をしているのなら目を治す事も出来る筈だ。


 覚悟を決めた次の日。

 全ての研究を別の者に売り払い手に入れた金で新たに研究を開始した。

 最初は医学。

 一から医学を学び、学会に顔を出しては知見を広め、我武者羅に働き、結果数年後新たな医療法を確立させた。


 しかし、娘の目は治らなかった。


 何故だ!

 研究は成功した、被験者は皆、症状が改善された。

 理論は確立され技術は進歩した。


 何に娘は一向に良くならない!


 いいや、違う。

 きっと目指すべき道が違うだけだ。

 医学ではない。

 娘を助けられるのはまた別の道なのだ。


 医学を捨て魔法、魔術学を学び始めた。


 まだ未知の部分が多い学問。

 もしかすれば、娘を治す事が出来るかもしれない。

 医学を学んだ際に手に入れた金、人脈を頼りに新たな道を進む。


 だが、神は何処までも私を好きにはさせてはくれなかった。


 学び始めて少し経ったある時、娘は死んだ。

 一人で歩いている所を車に跳ねられたのだと言う。

 生気がない、娘の身体。

 一緒に持っていた紙袋を開くと花が三束が入っていた。

 妻と私が好きだった花だ、プロポーズの時、指輪と一緒に送ったのは今も記憶に新しい。


 だが、何故こんなものを買いに一人で......。


 それは直ぐに分かった。

 花束と一緒に入っていた一枚の紙。

 そこには、崩れた文字で『お父様、お誕生日おめでとう』と書かれていた。


 その場で、膝から崩れ落ちた。


 私は何をしていたのだ。

 今の今まで数える程しか娘と言葉を交わしていなかった。

 娘を救うことにばかりで娘の事をまるで見ていなかった。

 もう、救う事が出来ない。

 何をしても、娘の目を治す事が出来ない。


 こうして、私は娘を失った。






 食事をしても味がしない。

 何をしても何も感じない。

 どんな事をしても心が満たされない。


 妻の死に、(ひび)が入った私の身体に娘の死が引き金になり完全に崩れ去った。


 家に籠り、浴びる様に酒を飲み、そして右手に持った拳銃で私は―――


 この世から永久に退場する事にした。


 そして、一週目の世界は終(・・・・・・・)わりを告げた(・・・・・・)






 目を覚ますとそこは家、医学を志すと決意した日の朝だった。

 私には祝福は無いと思っていた。しかし、違っていたらしい。私の死が能力を発動させ、時を戻したのだ。いいや、時が戻ったと言っているが、違う世界の私に意識が移ったのかもしれないし長い未来を予知していたのかもしれない。だが、そんな事はどうでも良い。仕組も理屈も関係ない。

 私は新たな機会を手に入れる事が出来た。それが重要な事だ。


 聞いたことのない祝福。特異な能力。神々は私のモノを奪うばかりだと思っていたが、どうやら違ったらしい。

 

 私は初めて神に感謝した。


 それから私は前の私の知識を元に資金を稼ぎ、魔法・魔術学の続きを学び始めた。

 今度は前とは違い、娘の事も出来うる限り気を配らせた。時間を見つけては娘と過ごし、家族の絆を深めた。

 そして、また数年が経った後に魔法や魔術では娘を救えない事が分かった。


 神代文字を学び古文書を読み解き新たな魔術系統を発見した。今まで、類を見ない程の魔術刻印を発明し、帝国の......いいや、この世界全体の魔術のレベルを引き上げる事が出来た。

 『魔術使い』『魔法使いに最も近い男』『神代人(かみしろびと)の生まれ変わり』......人々は私の偉業を称え、皇帝陛下に勲章や貴族の称号を頂いた。他国が私一人と引き換えに領土を帝国に譲渡すると言ってくる程私は大成した。


 なのに、娘の目は治らない。


 どうしたらいい。一体どうしたら娘の目は治るんだ......。


 絶望する私に追い打ちをかけるかのようにカールスラント王国が帝国に対し宣戦布告した。


 後のカールスラント大戦と呼ばれる大規模戦争の始まりだ。


 帝国が劣勢になるにつれ、より戦力を集める為に帝国内の戦闘に使える魔術刻印師も招集される事になった。

 そして、二周目の私の人生は終わりを告げた。


 間違いだ。魔法、魔術学も違う。その後も、あらゆる学問を学び、技術を研鑽し、あらゆる分野を今までにない程のレベルまで押し上げた。

 

 なのに、一向に娘の目を治療する糸口が見えない。手がかりすら掴めない。


 何でだ。どうして良くならないんだ! 


 問題はまだある。

 何周しても、大戦が始まると戦いに参加しなければならない。

 それはどの世界に於いても役職や任地が変わるだけで不変の未来。

 そして、遅かれ早かれ私は戦死する。

 今まで培った知識を合わせ、功績を上げたとしても結果は変わらなかった。

 時間制限(タイムリミット)

 死んで巻き戻り(リセット)されてから五年から七年。

 それまでの間に戦争に投入するより、帝国内で留まる方が帝国に利益があると思わせなければならない。


 その上まだ行っていない分野と言ったら、数える程しかなかった。


 失敗を数度繰り返し、最後の分野。

 

 祝福に取り掛かった。


 未知の部分が殆どで解明されていない。

 それ故、祝福を研究対象として見る者は珍しく、他の研究者から白い眼で見られる事がある。

 はっきり言ってしまえば変人だ。 

 今までは先人の積み重ねてくれた知識を学び、それを踏み台に新たな高みを目指す事が出来た。

 それが、存在しないのだから、自然と難易度は数段跳ね上がる。


 失敗した......。


 また、失敗した......。


 何度も、何度も、失敗を繰り返し。

 その度に戦いの中で娘の事を思いながら息絶えた。

 

 どうすればいい......。

 一体、どうすれば解明の光を見る事が出来る。

 努力し、挫折し、絶望し、嫌になったりもした。


 そんなある時だ。


 夜。

 一体どれだけ見たか分からない程の戦場の景色を眺めながら、遠くから聞こえる戦闘音に鬱陶しく顔を逸らし、短い休息をとっている時の事。

 

 それは現れた。


 全身を覆う程の大きなボロボロのローブに身を包んだ人。

 フードを目深に被り、今まさに戦場となっている方向から砲弾で荒れた道を歩いてくる。


 そんな得体のしれない者が兵士達の横をすり抜け、私の直ぐ傍まで近寄り、細い声音で言うのだ。


『お前からは可能性の波動を感じる。白く波のような波動が......。故に与えよう、お前は何を望む?』


 男か女か分からないそれは感情を感じない冷たい声で私に問いかけた。

 言っている意味が分からない私は、行き場を失った浮浪者なのだと相手にしなかった。だが、その考えは直ぐに霧散する。


『お前は神の下賜した尊き加護。その心理を知りたいと思っている。相違ないか?』


 妙に訛った古代の言葉。

 共用語の元になったアースラス語だ。 

 学問として知っている者はいてもそれを会話として使う者は世界のどこにもおらず、すたれた言葉。

 そんな言葉でそいつは私の長年の悲願を言い当てた。

 思わず立ち上がり、目の前の人間かどうかすら怪しい人物に近づく。


 狼狽える私に淡々と話を始める。


(きた)るべき黄昏の時。再び立ち上がった巨大な咎人が引き起こすあらゆる世界に対しての挑戦。それに相対する英雄たちの数が足りぬ。このままでは争いにすらならず非力なお前達は容易く蹂躙されるだろう。故に調停者たる私が久遠の時を跨ぎ、新たなる超越者足り得る者達を探している』


 目の前の調停者と名乗る人物の話を理解するのに全神経を使う。


 地獄の底に突然現れた一本の雲糸。

 どんなことがあっても掴み取らねばならない。


『―――私と契約を結んだ暁には神々の奇跡を用いてかの者の願いを一つ叶えよう。さぁ、どうする人の子よ』


 お前の言う通りにすれば私の望みは叶うのか?


『相違ない。お前の了承を得たその時、瞬きの内にお前の願いは叶うだろう......その後に契約を結ぶ事にしよう』


 つまり私の願いが叶った後で契約と言うことか?


 調停者はゆっくりと頷く。


 つま先から頭の天辺まで得体のしれない何か。

 普段の私ならどんな状況になったとしてもこんな奴の手を握るような事はしない。

 そんな発想すら出てこなかっただろう。

 しかし、今この状況に於いては別、一歩下がれば崖から落ちる後のない。どんなモノでも縋りたいこの絶望の中でなら私は―――


『相分かった』


 短くそう言い残すと、私の前から音もなく消え失せた。

  

 そして、次の瞬間、私の頭の中に荒れ狂う知識の波が押し寄せた。

 

 脳髄の隅から隅まで焼き切れるような痛みと共に人類が未だ到達しえない知識が流れ込んでくる。

 千年間の研究の後に得た知識が一瞬の内に習得する事が出来た感じだ。


 そして、僅かな希望は確かな光へと変わった。


 調停者に出会った世界を終わらせ、私は新たな世界で希望を形にすべく行動を開始した。


 調停者から贈られた知識によると、娘の盲目の原因は発現した祝福が体内に何らかの力が働きかけた事。

 万に一人、億に一人と言う途方もない確率で訪れるそれは医療や魔術では治す事は出来ないと言う。

 ならどうするか? 

 私はそこから探求を開始する事にした。

 帝国には祝福の研究者として手に入れた知識を元に研究成果を積み重ね資金と徴兵免除を。

 それから、本格的に研究を開始する。


 最初は、祝福自体を無効にする。

 あるいは取り除く事は出来ないかを試した。


 結果は失敗。

 無効化しても身体の中から消える訳ではないから意味がない、かといって取り除くと保有者は死んでしまう。

 そして、最も重大な問題が被験体の確保だ。

 祝福を保有する奴隷は能力の強弱によって変わるが総じて高価だ。

 研究で消費する量と手に入れれる量が釣り合わない。

 その上、強力な祝福者は奴隷になる事が滅多にない為確保する確実な手段が存在しない。

 資金はある。施設も職員も揃ってきている。なのに肝心な研究に必要な素材がないのだ。


 世界を一巡させる程の歳月をかけて、私は遂に一つの結論へと至る。


 この世界に存在しないのなら。他の世界から連れてくれば良いのだ。


 隣国、エイル王国では太古の昔、戦乱の世の中で異界の英雄を呼び出して戦争に勝利したと言う。

 それを知った私は書籍や文献を読み漁り、あらゆる伝手を用いて召喚術式陣を手に入れた。

 第一回の召喚を行い、遂に最高の被検体を手に入れる事が出来た。

 その少女は黒い髪に茶色の瞳、この世界では見ない特異な容姿をしており言葉も理解出来ず、祝福の使い方も分からないみたいだった。

 検査では確かに祝福は保有している。

 なのに存在すら知らない。


 呼び出された時に発現した。


 そう考えれば合点がいく。

 それからは少女に言葉を教え、祝福の使い方を伝授した。

 貴重な強力な能力者。

 召喚術と言うのは途方もない量の魔力が必要になる。

 おいそれと召喚術が使えない今、何時ものように使い潰すわけにはいかない。

 

 出来うる限り、彼女の事を想い、彼女から出るありとあらゆる情報を取り込み精査し記録した。

 そして、彼女を調べる過程で分かった事がある。

 彼女は複合型の能力を持っていたのだ。

 一つの祝福に多数の能力を内包されている。

 祝福を持つ者の身体には特別な因子、グルヴェイグ因子と言うものがある。

 普通なら祝福者一人に因子は一つ。

 だが、複合型は異なり、因子の中に存在する核が複数あり、それが、混じり合ったような特異な形をしている。

 つまり性質が変化しているのだ。


 なら、娘の因子に他者から取り出した因子を上手く合わせる事が出来れば性質が変化し、力が変わり、視覚を阻害する何かが消失するかもしれない。

 

 しかし、私は失敗した。

 感応系の能力を隠し持っていた彼女にそれを悟られてしまい、暴れ始めた。


 怒り狂った少女はあらゆる物を破壊しあらゆる者を殺し尽くし、何処かに消えてしまった。


 そして、世界が周る。


 失敗を踏まえ、召喚術式を使い、再び異世界人を召喚する。

 すると、今度は少年が召喚された。

 髪は前の世界と同じ黒色、特異な容姿。

 しかし、前の少女とは違う。

 戻ってから今まで前の世界と同じ行動をした。

 だからこそ、同じ結果を私にもたらしたのだ。

 原因には結果が伴う。

 同じ行動をすれば同じ結果が訪れる。


 因果律が働くからだ。


 なのに、別の子供が召喚された。

 どうやら、召喚術式は因果律の外にあるようだ。


 今度こそ上手くやる。


 私は一生を使い少年を被検体に因子を取り出す研究を始めた。


 だが、世界と言うのは私が思っているよりずっと複雑だ。

 一つの手法を確立させるのに途方もない時間が必要で思うように結果が付いてこない。

 

 次の世界では取り出した因子を保存しておく方法を。

 その次の世界では被験者に因子を移植する方法を。

 またその次の世界では.............。 


 失敗し、失敗し、その度に世界は巻き戻り別の手を打つ。


 極秘ではあるが研究所を手に入れた、魔力不足で一周に一度しか使えなかった召喚術式を魔力を有する孤児や奴隷を使い何度も使える様にした。

 なのに、上手くいかない。

 どうしても因子の核を移植する時に拒絶反応が出て移植者(ホスト)が死んでしまう。


 どうすればいい。

 どうすれば他者に拒絶反応を起こさせずに組み込むことが出来る......。


 目の下にくまを作り、床に所狭しと散らばる資料の中キーボードを叩く手を止め、隔離室の中を見えるモニターを見る。

 そこには、被験者が繋がれ虚ろな目で空を見つめていた。


 この世界も失敗だ......。


 世界を巻き戻す事六百六十六回目。

 遂に私の元に希望が訪れた。


 それは少女の様な少年。

 彼が発現させた祝福は『あらゆるモノを包み込み自身のモノにする』能力。


 どんなに因子を打ち込んでも、被験者の組織で作り出した適合率を上げる為の因子食を食べさせても、全てを取り込み自分の組織の一部として何事もなかったかのように生きる事が出来る。

 それどころか、取り込んだ性質を自身の元として使い操る事も可能だった。


 見つけた。

 やっとだ、......この子だ。

 


 この子が私の―――


 


 



 



 

 

 

 


 


 


 


 


 

 ミゼリット語 ミゼリット大陸で広く使われる言語。


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