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虹の目

 一章最終話まで書き上げる事が出来ましたので、twitterで告知した通りに今日から最終話まで毎日投稿致します。

 これも一重に皆さまのお陰です。

 

 注意事項

 本来なら回想で主人公とヘズのいちゃいちゃを書きたかったのですが、モチベが上がらない為保留にしています。

 ですから、色々あってヘズは主人公に好意を抱いているという事を頭に入れて読んで頂ければと思います。

『貴方なら何でも出来る。どんな事も叶えられる』


 頭の中でその言葉が反復するように絶えず響き。怖さや恐れが現れる度に心を浄化していく。


 自分の揺れる髪を視線の端に見える。

 『また、髪伸びたかな』なんて考えながら、軽い身体で飛び跳ねるように研究所を目指した。

 距離も方角も分かっていない。

 完全に勘頼りだ。

 なのに何故だか間違っているとは微塵も思えない。

 それどころか絶対にこっちの方角で間違いないと確信を持っている。


「ヘズ......」


 ポツリと呟く様に愛しの少女の名前を呼ぶ。

 

 当たりは暗く。

 月の出ない曇り気味の空から光はなく、真っ暗な森林はしんとした静謐な空間が漂っている。


 木々を抜け、坂を駆け下り、気付けば見知らぬ湖の前。

 心地の良い風が肌に感じる。

 ふと結んだ三つ編みを片手で取ると、ヘズから貰った髪飾り見た。

 泥や血で汚れたそれを見つめていると思い付いたかのようにそれを外し、湖に近づき、洗い流そうと膝を付き水面に顔を出すとある事に気が気付く。


「? 目の色が......」


 両目が七色に光っている。

 まるでオーロラのように揺れ動いているのを見て、思わず片手で目をこすった。

 そして、目を開き再度水面を覗き込む。


「......」


 やはり、見間違いではなかった。

 この特徴、研究所で読んだあの本に載っていた。

 戦乙女に見初められた選ばれた存在。

 神々の化身、世界の調停者。


虹の目(ビフレスト)......」


 何で僕に......。

 不意打ちを食らったかのようにどんな反応をすれば分からなかった。


「......」


 今は取り敢えず保留だ。

 全部終わったその後で考えればいい。

 今は他に集中して考える事があるだろう。


 頭に思い浮かべるのは此方に来る時に使った転送術式陣。


 あれが今使う事が出来たら研究所まで一瞬だ。

 果たして僕に出来るだろうか? 普通は出来ない。気合で祝福が発現するなんて都合の良い事が起こるわけがないのだ。


 しかし、それは普通の人の話。


 今の僕は違う。

 今の僕は何でも出来る。

 目の前の湖を一瞬の内に干上がせる事も、目の前の木々を消し去る事も夜を朝に変える事だって出来る......気がする。


「やってみせる」


 拘束具の袖まくり上げ、右手に髪飾りを括り付ける。

 両手で水を救い上げ顔を洗い、気持ちを切り替え、そして、目を閉じ、意識を集中させる。

 すると、夜空にちりばめられた星々の如く、無数の光る球が自身の周囲に現れた。

 よく見ると、それぞれ僅かに違っており。雷を纏っている球、霧を発し続ける球、獣の様な雄叫びを発する球、etc......etc.......。

 

 数ある球体の中から今、必要なそれを右手を伸ばし掴み取る。


 それは、青白く光る球。

 その周りには土星の環の様なモノが三重に回っている。

 そして、掴み取った光球を自分の胸に―――


 パンッ!!


 首横を掠める空気を切り裂く物体。


「そこで止まれ実験体」


 どっかで聞いた事がある声。

 首を横に向け、飛んできた方向を見るとそこには帝国の戦闘服を着た兵士達。

 集団の先頭には酷く傷ついた青年が立っているのが見えた。


「あんたは?」


「ついさっきお前を運んでいたんだがな......。まぁ良い。私は第401祝福歩兵大隊第四中隊中隊長ライネ・ストレーム大尉。お前を連れ戻しに来た」


「連れ戻す?」


「そうだ。お前は実験の最中に奇襲に遭い、撤退している最中に隊からはぐれた。だからこうして私達がお前を迎えに来たのだ。さぁ、少々長い散歩だったが気は済んだだろう。帰るぞ」


「......貴方についていけば僕はまた実験体にされる」


「当たり前だ。お前は実験体。帝国の所有物であり財産だろうが」


「ぼ、僕は自由だ」


「......何だと?」


 冷徹な眼光が僕を捕らえ、片手で持っている拳銃の照準を此方に向ける。

 

『貴方は何でも出来る。目の前の貴方を連れて行こうとする奴らを片指を揺らすだけで殺す事が出来る』


 聞こえる。

 聞いたことがない少女の声。

 桔梗でも桜子でもない誰かの声。


「僕は自由だ。もう僕を追わないで下さい」


「それは出来ない。お前にどれだけの金が掛かっていると思っている。お前一人の命で我々の帝国の命運が分かれる程の重要な力を待っているんだぞ。絶対にお前を逃がす訳にはいかない。お前の取れる選択肢は二つ。一つ、このまま大人しく私達と共に帰る。二つ、このまま私に撃ち殺される。十秒やる。選べ」


『貴方は自由。誰にも縛られない。貴方が決めて貴方の意志で動け』


「出来れば人を殺したくないんです」


「こちらのセリフだな。......九、八―――」


『何を迷っているの? 今までだって散々殺してきたでしょう? ここは私達の故郷じゃない。殺すか殺されるかの世界。殺そうとする相手を殺しても貴方が気に病む必要はない。だから、さぁ......』


「五、四―――」


『使い方は分かる筈。今度は貴方の意志で殺してみせて。そうすれば、新しい強いお前に生まれ変わる事が出来る』


「二、一」


「ごめんなさい」


 振り向き、手を兵士に突き出す。


「っ!!?? 虹の目(ビフレスト)!!??」


 思い出すのはあの感覚。

 実験の時に一度使ったあの祝福を思い出す。

 魔力を流し、掌に収束させる。

 そして、勢い良くそれを解き放った。


 兵士と僕の距離はそれなりにあったが、光線が彼らに届くまで一瞬だった。

 光の速さで飛ぶそれは集団ごと飲み込む。

 そこには兵士達は跡形もなく存在せず、目に見えない程遠くまで一直線に抉れた地面や木々、岩はどれだけの破壊力だったか如実に表していた。


 とんでもない力だ。


 初めて自分の意志で人を殺してしまった。


「......」


 不思議と罪悪感がない。

 それどころか胸がスッとした達成感に似た何かを感じる事が出来た。

 

 この世界は残酷だ。

 弱肉強食。

 向こうの世界では生まれた時から平和で争いには縁遠い暮らしをしていた。

 生物を殺す事は悪であり、それは忌むべき行為だ。

 そう、思ってこれまで生活していた。


 しかし、この世界にはそんな常識は存在しない。


 国と国は表と裏で争い、森には山賊が闊歩し、一度庇護下から離れれば命は無い。

 そんな世界なのだ。


 身を守る為に人を殺すのは悪ではない。


「......」


 祝福を切り替え、再度魔力の炉に火を灯した。

 今一度、目を閉じ、胸に意識を向ける。

 青白い球体を再度掴み取り、胸に押し当てる。すると、先ほどまでなかった感覚が現れた。誰かの感覚。

 本人にしか分からない、能力を使う為の感覚が湧き上がって来たのだ。


 ―――いける。


 思い浮かべるのはあの研究所。

 忌々しい青い髪の男の顔。

 地面に白い三重の輪が浮かび上がり、その輪が下から上へ上がってゆき僕の身体を包み込んで行った。

 輪が上がって行くにつれ、足から消えて行く僕の身体に祝福の能力が正常に働いているのを確信し、更に自信が付いた。

 

 徐々に消えてゆく身体。

 仕舞には身体全体が無へと化し、森には異形の爪痕のみを残し再び穏やかな時が流れ始めた。






 研究所内第一実験場。


「実験は成功だ!!」


 監視台の下、実験場の中心で青い髪の男がそう宣言した。

 周りの研究所は喝采と共に男に有り余る程の賛辞を嬉々として浴びせかける。


「おめでとうございます! 所長!」


「これで私達は英雄の仲間入りだ!」


「まさか......まさか本当に成し遂げる何て......」


 笑い合い、肩を抱き合い、喜び合う。

 それもその筈だ、不可能と言われた研究を敵国の中で短期間の内に成し遂げる事に成功したのだから。

 青髪の男とは別に視線を集める存在。ペタンと地面に座り込み、今自身に起きている状況を飲み込む事が出来ない少女は、大きく目を開け(・・・・・・・)辺りを見渡している。


「嗚呼......ああ。み、える......。目が見える」


 青い長い髪を揺らしながら半ば放心状態で天井の照明を見つめている少女。

 その瞳は七色に光輝いて(・・・・・・・)おり(・・)、その眼は研究者達の視線を一点に集めていた。

 それから、隣に青い髪の男が直ぐ隣に来ると膝を付き後ろから両手で包み込むように抱き着いた。


「長い......本当に長い時間を待たせた」


「......はい」


「約束は守ったよ」


「はい、お父様(・・・)


「ヘズ......」


 優しさに満ちた空間。空気を読んだ研究者達は離れる。


「嬉しい! やっと、やっとお父様のお顔を見て話しをする事が出来ました。私、お父様にたくさんお話したい事があるんです!! 今までの事とかアメリア達の事とかそ、それにこ、こいび「ヘズ」―――? どうかなさいましたか? お父様」


「ごめんよヘズ。お父さんはまだ、やる事が残っているんだ。ヘズと一緒に過ごすのはまだ先になりそうだ」


「そ、うですか......。そうですよね。お父様は私と違ってお忙しですから......」


 がっかりするヘズに青髪は更に強く抱き、どれだけ大切かを語った。

 そして、暫くすると手を解き立ち上がる。


「すまないヘズ。もう少しだ、もう少しで全てがおわる。そしたら、また二人で暮らそう」


「っ! お父様!」


 今まで見た事も無いほどの太陽のように明るい笑顔を青髪に向けると、立ち上がる。


「約束だ」


「しゅ、主任! これを見て下さい」


 突然家族の輪の中に入る存在。

 二人の間に入り、青髪にノート程の端末を見せる。

 そこには、あらゆる数値がリアルタイムに表示されていた。


「っ!! 痛い!」


 端末に目を向けていると、突如としてヘズが倒れ込む。

 両手で頭を抱きながら痛みを訴え蹲る。


「魔力値が安定しません!」


「安定剤投与します!!」


「こ、ここは危険です! 念のため我らは外に」


「ヘズ......」


「痛い! 痛い! 痛い! お父様! 助けて下さいお父様!!」


「この世界も......」


 まただ。

 やっと、やっとここまでこれたのに。


 今まで見た実験体のように痛みにのたうつ愛しの娘の姿を見ながら自身の無力さを恨んだ。


 失敗だ。また、やり直しだ。


「誰? この声!? そんな......私はそんな事っ! 違う! 私はそんな事望んでいない! あの子だって戻って来るのに。そしたら、あの子の顔を見る事が出来るのに......私はそんな事思った事なんてない!! 止んで......止んでよ。泣き止んでよっ!!!


 瞬間、圧倒的な魔力が解放され、辺りを爆発に似た破壊をもたらした。


 私は後何回やり直せば......。


 そこで、青髪の意識は途切れてしまう。

 


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