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間話 研究所へ

地図かけるソフトとかないかな......

 現在地点はミグラ領とヘスアニア領の丁度領境に位置するミセリア山。山岳にポットで降下した後周りの敵を掃討、それから敵に遭遇しないように魔術迷彩を使用し下山している。


 コックピット内。モニターから見える景色はとんでもない速度で過ぎていき、ゴツゴツとした岩場、倒れた大木、所せましと生い茂る木々、それらを適切な足取りで下って行く。


 受信した新たな作戦内容はこうだ。私達の第一班は出来るだけ弾薬、魔力を温存しつつ所定の位置まで行軍、一帯の安全を確保しマーキングマシンを設置して大隊と第二班を呼び出す。それから、私達は当初の作戦通り研究所に進行を開始。同時進行で第二班はヘスアニア領主城へと行きオーズバン元辺境伯を捕縛、謀反か否かを調査する。領内に点在する武装勢力は大隊が相手する。

 

『誰にも気取られないように慎重に行動する為に苦労していつも以上の物資を持ってきたのに......』


 アランが言う。


『しょうがないわよ。こんなの誰にも予想出来なかったんだから。そんな事より何で情報が漏れたのか......』


 オリヴィアが答えた。

 確かに情報の漏洩を念頭に置いていなかった。

 と言うのも私達の所属する部隊は特別な任務を請け負う、唯の軍隊の仕事ではない。それ故に情報の秘匿は何よりも強固に守られているのだ。

 任務や作戦情報は基本的指令と七班、それから任務に向かう班の三つだ。資料や指令書は七班が管理する情報部に保管されており、そこから情報を抜き取るしか手に入れる手段がない。

 そして、その情報部よ言うのもこれまたあり得ないぐらい強固で守られており、魔導的保護は勿論七班の祝福者による保護、更に保管庫に続く廊下の至る所に監視の目が張り巡らされており、その目の位置を知っているのは七班の一部のみ。

 つまり、外部の人間が潜入し情報を盗み出すなんて事は不可能なのだ。


『それこそ予想が出来ん。本部の情報部から情報を盗み出すなんて巨人を素手で倒すようなもの。......内部に工作員(スパイ)が居るとしか考えられない』


 出し渋るように言うアラン。


『......考えたくないけど......ね』


 二人の会話を聞き流しながらサブモニターに出した地図を見ていた。本当ならスレイプニールが私達を送り込んだ後に上空からレーダーとして鷹の目になってくれる筈だった。

 しかし、予期せぬ奇襲に遭い。結果、作戦開始地点から程遠い場所に墜落。幸い、ハウンドと運搬用魔導無人機(ドローン)は無事だったがレーダーを失ったのが痛い。目で見てと方角を確認し現在地点を頭の中に導きながら行動しないといけない。


 面倒くさい。


「ここから研究所まではどれだけ?」


 周囲を警戒しながら、中々今の場所を見つけ出す事が出来きず、仕方なく無線で味方に頼る事にしたライラ。

 王直属部隊員たるものあらゆる状況に対応しないといけない。銃が無くても一キロ離れた敵を殺害し、敵の拠点のど真ん中に転移させられても見つからずに脱出する。そんな人間が命がけの試験を乗り越えたそんな人間を止めたような者達で構成されている部隊なのだ。

 勿論、方位磁石(コンパス)なしで知らない場所から目的地に到着するなんてグングニルなら朝飯前、いいや寝ぼけ眼でも出来なければならない。

 なのに戦闘以外で頭で考える事がダメダメな私が入れたのは一重に人知を超越したかのような戦闘能力を有しているから。......だと思う。多分.......。


『―――この山から北北東約二十キロ』


 ライラの問にアレクに即座に答えた。


 基地や宿舎では何時もだらけている怠惰の固まりのアレク。しかし、作戦中となると雰囲気からガラリと変わる。報告は迅速で的確。射撃精度は言わずもがな、卓越した観察眼で有力な情報を収集し私達に教えてくれる最強の狙撃手(スナイパー)


 身体全体に伝わる振動を感じながら物の数十分で平地へ到達した。

 目の前に見えるのは畑。

 作物が均等に生える様は圧巻で、都市部にはより効率良く農作物を生産する事が可能で妖精が管理するテントの中で育てられている為、このような景色は今となっては辺境の代名詞のような物だ。

 そんな畑に人影はなく、遠くに見える建物からは光が見えない。

 真夜中なのだから当たり前と言えば当たり前。だが、あれだけの武装勢力が行動しているのだ。領民に何かお触れが出されているのが道理で、そうなれば武装勢力と領民を見分けながら戦わないといけないから厄介なのだ。


 それがどういう訳か動きが無い。

 戦いの空気が感じられない。自領が仕える国に戦いを挑んでいるとは思えないこの平穏な光景。


『01からハウンド各機。建物の陰、畑の中に兵士が潜伏しているかもしれないから注意して。それから、地雷を踏まないように慎重に』


「02から01戦いの空気が感じられない」


『貴方何言って―――......確かにピりついた感じがしない............』


『自分の領主が裏切ったって知らないのか?』


『04から03まだ決まった訳じゃない。憶測でものを言うな』


『.....そうだっ―――止まって!』


『『「っ!?」』』


 アレクの突然の声にハウンドを止める。


『03どうしたの?』


『十時の方向、二百メートル先。建物の扉が開いた。―――中から子供......女の子が出て来た。後ろに男の人も居る』


 私達はアレクの言う方向を見ると、扉が開き今まさに外に出ようとする二つの人影。望遠モードに切り替え目を凝らす。すると、確かに少女と男性が見る事が出来た。

 二人は周りを見渡しながら首をかしげている。先ほどのスレイプニールの戦闘で騒ぎを聞きつけた者達だろうか。


「......どう思う?」


『......騒ぎを聞きつけて外に確かめに来たって感じね』

 

『警戒していないし、武器も持っていない。明らかに戦闘に備えていないな。領主は何も知らせていないのか? あり得ない』

 

 オリヴィアの言葉に続くようにアランが口を開いた。

 

 それから、次々に家から出てきて周りの人達と言葉を交わしている。


『ちょっと本当に何も知らない感じなんだけど。領民の命何て何とも思ってないのかクソ貴族がっ!』


 アレクが困惑と怒りが混じった声音で言うとオリヴィアは少し考え結論を出す。


『01からハウンド各機。騒ぎが起きないように人の住んでいる場所を出来るだけ避けていきます。―――地図を見て。指示されたマーキングポイント地点を変更。このままミセリア山沿いを北上、ザッカリアとヘスアニアの間を通り領境にある平原にマシンを設置し増援を呼びます』


『確かにこの状態だと無駄に騒ぎを招くね。―――うん。良いと思うよ』


『右に同じく』


「うん」


『―――ハウンド01からゲイルドリブル。領内に潜入に成功。しかし、領民に不可解な行動が......』


『ゲイルドリブルから01。不可解とはなんだ。具体的に報告しろ』


『申し訳ありません。明らかに戦いに備えていない感じがします。バリケードは存在せず、巡回している兵士の陰もありません。領民を不用意に刺激しない為にマーキングポイントをミーシング平原に変更を提案します』


『―――......許可する。ついさっきアーサー達の準備は完了したと報告があった。平原に到着する頃には大隊の方も完了しているだろう』


『01了解。通信終了。―――聞いたわね03。ここから平原までの時間は?』


『地図だけ見るなら約五十分。でも平原に行く道は途中までミセリアの平野や麓を通る事になるから敵と接触する可能性が高い』


「迷彩をかけているから大丈夫では?」


『迷彩はあくまで視覚的な隠匿にすぎない。対空砲を要する程の連中だ、狙撃手対策に赤外線(サーモ)センサーや赤外線(サーモ)グラフィーなんか用意していると考えた方が良い』


「......」


 ライラの言葉にアランが諭すように言った。


『01からハウンド各機。移動を開始します』


 足を曲げ、身体を低くした鉄の猟犬達はそのまま後ろ歩きで村から離れる。ハウンドが動く事でつられて辺りの植物が動かないように意識して確実に村人の視覚可能な距離外まで移動した。

 

 出来るだけ植物が生えていない場所を選び、跳ねるように走る。


 そこから、あと少しで平原と言う所で予想通りの事態が起こった。


 山の方向、森林の中から閃光。数は十二......いや、十五。聞こえる銃声からエイル軍に正式採用されている小銃の銃声だ。

 

『攻撃が弱い! このまま突っ切る』


 オリヴィアの号令に更に速度を上げ、射程圏外に退避しようとした。しかし―――


 小銃とは違うより大きく、より重い銃声。直ぐ傍から風を切る音が聞こえた時にやっとその正体に気付いた。


『七時方向距離百五十に機関砲!! 九時の方向同じ距離に野砲も見える!!』


『02は機関砲! 04は野砲! 掃射開始!』


『「了解」』


 アレクと私は速度を落とし、ハウンドの揺れを抑える事に集中した。


「安全装置解除。―――ルイン」


回転式魔導機関(ガトリング)砲に魔力供給かいしー。照準あわせてー』


「ん」


 サブモニターに機関砲の照準(サイト)を表示し、レバーを倒しアレクの言う方向に銃口を向ける。

 

 ―――あった。


 兵士達が両手で押しながら、機関砲の方向を変え撃とうと射手が此方に睨みこんでいるのが見えた。 


「発射」


 操縦レバーの引き金(トリガー)を引いた。


 甲高い連射音と共に標的周囲の木々に無数の穴が開き倒れ、サブモニターに映し出された兵士達に命中。ある者は腕が、ある者は足が千切れ飛び、ここからでも分かる程の血飛沫を上げながら倒れる。

 そして、機関砲の攻撃が止まったのを確認した。


 アランは......終わったようだ。


「機関砲の射手とその周りに居た兵士を排除した」


『同じく兵士を排除』


『まだ直ぐ傍に敵兵がいる筈。このまま速度を落とさず逃げるわよ!』






 景色が変わりそこは平坦な大地。膝上まで生い茂った草が夜風に揺られており、辺りは穏やかな空気に包まれていた。

 そこに、現れた獣の足の音。

 鉄と鉄が擦れる音と共に現れたそれは獣のそれではなかった。水晶のような赤い眼光は八。絵具を垂らしたかのように身体の所々が姿を現し、気が付くとそこには巨大な体躯の四つの猛犬。そして、その直ぐ後ろに一回り小さな箱に足が生えた不思議な物体。

 

 犬達は暫く辺りを警戒するように歩き、誰も居ないのを確認すると背中部分が開き、そこから人が出て来た。


「手早くやるわよ。03は周囲を警戒。残りはマーキングマシンの設置。パプチ!」


『pipi』


 パプチと呼ばれる歩く箱はオリヴィエの言葉に反応するように近づいてくると蓋が開き中身を見せるように身体を寄せて来る。私達三人はそこにあった筒状の魔動機取り出し、円状にそれを置いた。そして、手を翳し、オリヴィアの声でタイミングを合わせ―――


「3、2、1......今!」


 魔動機に魔力を流し込んだ。すると、魔動機上部が開き、青白い光を発した。その光は少しずつだが大きくなってき、最終的には周囲を覆う程の光量で私達を包み込んだ。

 

 そして、目を閉じ開いた時そこには無数の兵士達。

 何台もの戦車に装甲車。

 それから私達と同じハウンドの姿がそこにはあった。


 戦闘の兵士が私達の前に出て来る。


「遅れてしまい申し訳ありません。エイル軍第七機械化歩兵大隊大隊長のブルクハルト・エデルトルート中佐であります」


「そして! ―――」


 ブルクハルトの言葉に続く様に大きな声と共にハッチが開き美青年が飛び降り近づいてきた。


「っげ......」


 見張りから戻って来たアレクが露骨に嫌な顔をしている。


「この私! アーサー・ナイトレイが来てやった!! 下賤な愚鈍な腐れ豚共! 私の登場に涙を流し、頭を垂れろ!」


 夜風に靡く美しく艶やかな金髪。結んだ長い襟足は青年と共に横に縦に踊る様に揺れている。

 そして、極めつけは顔付きだ。

 彫の深い一見女性と見間違うような線の細い顔つき。深緑の瞳は自身に満ち満ちており、自身の考える事が全て正しいと思っている表情は森羅万象ありとあらゆる女性を引き付ける未知の色気を放っている。


 その神々からあらん限りの寵愛を受け生まれ落ちた存在。それがアーサー・ナイトレイと言う人物である。

 

「あ......」


「おい、嘘だろ......」


「......え?」


 さて、ライラ達が驚愕の表情でアーサーを見ている訳を説明しよう。


 グングニルの隊員は任務に向かう時は身元を隠す為、コートを脱いで事に当たる。普段なら着用を義務付けられたそれらも任務の時は例外で外して向かう事が当たり前であり常識、ましてやバッチや宝飾剣を付けて来る者は一人もいない。

 なのに、目の前の自信満々の青年は。コートを羽織り、宝飾剣を腰に挿し、胸のバッチを輝かせながら歩いてくるではないか。

 だから、余りの事態にライラ達は思わず二度見し、その場に固まってしまったのだ。

 まるで、式典の会場に向かうような姿で自身が場違いだと微塵も思っていない顔で歩いているものだから、驚きの余り固まってしまうのは無理もない。


 オリヴィエは意識的にアーサーから視線を逸らし、目の前のブルクハルトに集中させる。


「エデルトルート中佐。指令から作戦は?」


「はい。全て聞き及んでおります。我々はこのまま領内の鎮圧を行います」


「どうした。私を称賛する声が聞こえんぞ!?」


 アーサーが中佐とオリヴィアの間に入って来るが構わず話を続けた。


「お願いします。私達一班はこの後研究所に向かいますので」


「はい。それでは我々はこれで」


「ん!? ん!? 何だ! 何だ! 嬉しくて声も出ないのか!?」


「だーっ! もううっさい!」


 しびれを切らしたアレクが抑え気味に声を荒げる。


「何だ愚民。照れているのか?」


「ちっがうわよバカ! そのウザい態度を止めろって言ってるの! てかあんた生まれも育ちも平民でしょうが!」


「生まれが平民。しかし、産み落としたのは神であり。つまり、生まれた時点で私は万物の人間の上位に位置する選ばれし存在! す! な!! わ!!! ち!!!! 私は貴族よりも上なのだ!!!!!」


 演技くさい言動で意味不明な言葉をアレクに浴びせる。それを聞いているアレクはと言うと、イラつきの表情は怒りへと変わり、怒髪天を衝くさまはまるで悪魔のよう。しかし、それすらも過ぎ。逆立った毛は元へ戻り、徐々に表情は無へと化した。

 

「............もう、いいわ」


「そうか! 分かればそれでよい! では私達も行くとしよう。また作戦が成功した時にな!」


 アーサーはそう言い残すと、ハウンドに飛び乗り、そのまま大隊を追い越し同じ隊員を残し走り去っていった。


『ちょっと! 班長(マスター)の私を差し置いて勝手に進むんじゃない! ―――あーもう! 私達も行くわよ!』


 一拍おいてアーサーを追うように二班の班長(マスター)とその隊員達も走り去ってしまった。


「じゃあ私達も行きましょうか」


「やっとだね」


 オリヴィアの言葉にアレクが両手を組み空に掲げ身体を伸ばしながら答えた。


 戦いの匂いがする。肌がピりつき全身の毛が逆立っているのが分かった。

 やっとだ......やっと始まる、闘争が戦いが命を賭けて己の全ての力を使って生き残りをかけたぶつかり合いが......。


 自然と口角が緩み、顔に笑みを浮かべながらオリヴィアの言葉が右から左へ流れていく。


「ちょ......ちょっ......ちょっとライラ!」


「っ......どうしたの?」


「どうしたのじゃないわよ。ちゃんと話聞いてたの?」


「作戦内容は変わらない。ルートはこのまま北北東約十六キロ、ウスト山脈の麓の極秘研究所」


「何で確実に聞いてなかったのにちゃんと聞こえてるのよ」


 呆れるオリヴィア。マーキングマシンをパプチに戻すアラン。


「はーい02が天才だからです」


 アレクがハウンドに乗り込みながら肩に掛けた狙撃銃を操縦席に仕舞いながら言う。

 そう、私は何かをしながら別の何かを行う事が出来る。例えば、それぞれの質を落とすことなく剣術を習いながら脳内で学術を学ぶ事が出来る。

 私の祝福以外の特技の一つで何かを学ぶ時にかなり重宝している。


「はぁ......まぁ良いわ。それじゃあ総員搭乗!」


「そろそろ本番だな......」


「全くこんなグダグダな作戦は初めてね」


「......行こう」


 再び、ハウンドに乗り込み、任務を再開する。目標は研究所。


 意気揚々と向かった私達はまだ知らない。研究所に居た化け物(・・・)の存在を......。


 




 


 

 

 

 




 



 





 




 


 









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