七色の子供達
戦闘掛けないとやる気にならないので回想飛ばします。暇があればまた回想書きますので許してください。
血まみれの彼女の横で俯き座る僕。
土や泥、そして血液、あらゆる汚れに塗れた姿を気にする事なくただ放心の状態で動かない。
普通に生まれ、普通に成長し、ささやかな幸せと共に日々を過ごしていた。この世に生を受け、悪事など一度として行った事がなかった。
何だ、この目の前に広がる光栄は.....。
「中隊長殿。発見しました―――了解」
茂みから現れた、武装した人影達。身に着けている装備からして帝国側の兵士だろう。その中で一際がたいの良い兵士が喉の潰れたようなガラガラ声で無線でどこかに連絡を取っている。
身体を動かそうにも力が入らない。足が動かない。いいや、動いた所で無駄だと心の何処かでそう思っているのだろう。
それから、直ぐに兵士の集団が現れた。
先に来た兵士の本体だろう。皆がマスクで表情は分からないようにしており、唯一見えているその瞳からは明らかに先の護衛の兵士達とは違い歴戦の兵士の雰囲気を漂わせている。
「ご苦労シリル軍曹。―――さて、実験体。遠足は終いだ、お帰りの時間だよ」
隊長らしき者がそう言うと僕の方に手を伸ばす。
「これは貴方達がしたの?」
「いいや。我々が設置した物ではない。我々の任務は実験体と研究者の保護にある。保護対象を傷つけかねない地雷を使用はしない」
無意識に出た僕の問に、隊長の隣に立っていた女性が答える。
そうか。じゃあ、あいつらが。
隊長が兵士の一人に視線を飛ばす、それを受け取った一人は僕の腕を掴み無理やり立たせた。そして、そのまま隊列を維持しながら行動を開始する。僕の意志とは関係なく引っ張るように連れ出す。何度も倒れそうになり、石に躓き足から血が出る。
もうどうでもいい。自分の事も何もかもどうでも良い。何も考えたくない、何もしたくない。もう家族の元に帰られなくても良い。いっそこのまま死んでしまいたい。
「......ヘズ」
全てを投げだそうと思った時、ふと彼女の顔が脳裏を過ぎった。あの笑顔、あの優しさ、あの温かさ。この絶望しかない世界の中で希望をくれた優しい少女。
「失礼、此方に少女はいらっしゃいますでしょうか?」
木の上から聞こえる声。聞こえた瞬間、全員が銃口を声のする方向に向けた。僕の腕を掴んだ兵士も恐るべき速さで腰から拳銃を抜き、向けている。
「おやおや。こんな辺境の場所に栄えある王直属のエリート様がお見えとは。一体どんな御用向きでしょうか?」
「頭上から失礼。我々は一人の少女をお迎えに参りました。私の名前は五宝家和彦と申します」
「これはご丁寧に。私はライネ・ストレーム。偶然にも貴君と同じでこの娘を保護する為にここにやって来たのだ。見ての通り、無事娘は保護した。此方も無用な争いは好まない。どうかお引き取り願おうか」
「残念ですがそれは出来かねます。私の使命はその子をある方に送り届ける事。貴方達に任せたらそれは叶わないのは明白。此方としても貴方と同じで争い事は好みません。どうか、その子を此方に」
そう言いながら、刀を抜く。
息を呑むのも躊躇う程のピンと張った空気の中。誰も動かず......いいや。誰も動けずに辺りには風の音と隣に立つ者の息を吐く音が聞こえた。
「残念だ」
ライネが話終わると同時に兵士の集団の後方、深い草木の中から三つの閃光と共に起こる破裂音。それに続く形で和彦に向かって一斉に銃弾が解き放たれた。
「っ!」
一瞬、驚いた表情を見せながら茂みの暗闇の中から現れた銃弾を切り飛ばし、そして流れる様な動作で木から飛び降りた。降りている間も空中で自身に命中する銃弾を導き出し、少ない動作で斬り伏せ、または身体を捻りながら紙一重の距離で避け無事地面に着地する。
その数秒程の時間で人間では有り得ない事を同時にやり遂げた、それも余裕を感じさせる程の涼し気な表情で。
普通ならこんな以上な者と遭遇すれば、狼狽えるものであるがライネの隊は違う。
「掃射しつつ散開! プランアルファ、撤退を開始する」
『『『『了解』』』』
一部の集団を残し、兵士達は背を向け走り出した。それに、連れられるように放心状態の僕は肩に抱えられながら運ばれる。
「この私が撃たれるまで気づけないとは......。唯者ではないようですね―――常盤殿!」
避け、銃弾を弾きながら名を呼ぶと傍の木の影に潜んでいる二人が姿を現した。千弦は木の影で隠れ、常盤は背嚢のように背負った機械から六個の球体を射出し、周囲に漂わせその球体によって放たれた衝撃波を敵に飛ばし加勢した。
「補捉しております」
「この者達は少々手こずりそうです。ここは私が抑えますので常盤殿と千弦殿は追って下さい」
「りょーかい。行こうか常盤ちゃん」
「ちゃん付けはやめて下さい」
千弦と常盤はそのまま跳躍し、木から木へと飛び移りながら移動を開始した。
それを追撃しようと照準を二人に向けようとするが、その兵士に対して和彦が羽織に隠れた腰から取り出した回転式の拳銃を取り出し発砲、阻止した。だが、兵士側も咄嗟に狙われている者を見抜き、傍に立っていた兵士が銃弾から守り被弾を防ぐ。
「練度も良い。素晴らしい隊だ」
呟くような声で称賛を送ると、残りの銃弾をばら撒き空になった拳銃を放り捨てると集団の中へと突っ込んでいった。
「隊長殿。何者かの気配を感じます」
アビーが言う。
「人数は?」
「一......いや二名。地面から離れた高さで此方に迫ってきます。おそらく木々を跳躍して追ってきていいると思われます」
「ふっ。成程、地雷を警戒していているのだろう」
「中隊長殿! ここは俺に!」
シリルが声を上げる。
「―――良いだろう任せた。ジェレマイア軍曹!」
「アデーレ! シリルの隊を援護なさい!」
「はっ! シリル小隊の後方に移動! その場で小隊の援護を行います!」
「マクシミリアン! お前はそのまま荷物を連れていけ! ザカライア! お前の隊から一人貸せ!」
「中隊長殿!」
「許可する」
「良し、マイルズ!」
「了解しました!」
再び中隊を割き、追手の足止めにその場に残った。そして、数分後。二人の影が見える。
「うてぇ!!」
号令と共に放たれる不意打ち。人の目で捉えられるような速さではない。それを意識外から襲ってこられれば回避も防御も不可能だ。しかし、この二人は違った。
「おっと」
腰から刀を抜き、いとも容易く銃弾を防ぐ千弦。常盤は防ぐ動作すら行わず、自身の周囲を飛んでいる球体が不可視の壁を出現させ弾いていた。
「ここは任せますので」
「はいはい、頑張ってねー」
間延びした声を無視し、そのまま進む常盤を見届けるともう一振りの短刀を抜き二本の剣先を兵士達に向けた。
「くっ! 取り逃がした!」
「まぁまぁそう焦んないでゆっくりやろうや」
「余裕な顔しやがって!」
銃声の号令と共に殺し合いが始まる。
白い空間の中。丸まりながら蹲る僕の傍にあの女が現れた。
「何をそんなに悲観しているの?」
「......」
「おーい。聞いてますかー?」
「もう嫌だ......」
「んー?」
「僕が何したんだ。何もしてないのに何でこんな目にばかり合わないといけないんだ」
どうしようもない理不尽に打ちひしがれて涙を流す。
「しんどい? つらい?」
「しんどいよ辛いに決まってるじゃん......」
泣きながら少女を見上げる。少女の顔は満面の笑顔、まるで僕が泣いているのが嬉しいと言いたげなその表情に不気味さを覚え、しかしそんな事どうでも良いと直ぐに下を向き泣き腫らす。
「じゃあさじゃあさ。私のお願い聞いてくれれば今すぐその絶望から私が払って上げる」
その場にしゃがむと僕の頭を優しく撫でながらそう言う。
お前に何が出来る。そう言おうと再び見上げるが、その表情、その眼差しを見る限り嘘を言っているように見えなかった。自分が簡単な嘘を見破れない程憔悴しているのかと思ったが、もうどうでもいい。やれると言うのならやらせてやろう。
「僕は何もお前に出せる物ない」
「あるよ。だから私―――私達のお願い聞いてくれる?」
「私達? ―――ひっ!」
気づかない内に僕の周りには少女と同じく大勢の子供達が立っていた。その眼は赤く、青く、紫色に光り輝いており、その顔立ちは僕と同じ日本人その者だ。
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