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回想 春

元々恋愛物を書きたくて五~六年前に筆をとったのですが、恋愛を描いていた筈なのにバトルものになってしまい、今に至ります。

恋愛小説を読み、少女漫画なんか見たりして、要所要所メモしたりして、評判のいい恋愛物のアニメなんかを流しながら何とか書きました。


 子供達と寝食を共にして半年。少しずつ今の生活に順応したある時の事。

 いつも通り、目覚ましの音と共に目を覚ます。

 布団の中には僕とは別の小さな物体。これも、いつも通りの事。そう思いながら布団をめくり、それが何なのかを確認する。


「......アメリア?」


「......」


 規則的な小さな寝息。クマのぬいぐるみを離し、僕の腕を抱きながら寝ている少女。それなりに大きな音の目覚ましに負けず、起きる気配がない。


 ベッドの下から身じろぐ音。ヘズが起きた合図。


「アメリア」


 抱いている腕を優しく抜き、栗色の髪を撫でながら優しく起こす。


「んん......おはよう」


「おはよう。ヘズが起きたみたいだから起きよっか」


「うん」


 先に梯子を使い下りる。寝ぼけ眼でクマのぬいぐるみを探しているアメリアに指を指し、場所を教えると、小さな身体を抱き上げるようにベッドから下ろした。


「ヘズ。おはよう」


「おはよう」


「おはようございます」


 半身を起こし、ベッドから下りようとしているヘズ。僕はヘズの手を握り、下りるのを補助する。ここに来て半年。この流れがすっかり板についてしまった。


「大丈夫?」


「大丈夫ですよ? 目が見えなくなって長いので、これぐらいの事なら一人で出来ます」


「それでも、助けれるのなら助けたい」


「そうですか。それでは洗面台まで案内してくれますか?」


 そう言いながら小さく笑うヘズ。


 ドクンッ......


「......」


 まただ。

 最近、ヘズの顔を見ていると何故か胸の奥がチクリと痛む。


「? どうかしましたか?」


「ううん。何でもない。行こ。アメリアも」


「うん」


 何時ものように身支度を済ませ。朝食を食べ、みんなが集まる区画に向かう。


「あ! くろかみのおねぇちゃん!」


「本当だ! おねぇちゃんあそぼ」


「黒い髪、綺麗だね......へへへ」


「アイリス? どうしたの急に」


 部屋の中に入ると、色とりどりの声が聞こえてくる。ここに来ると、少しだけ、ここに来る前の生活を思い出す事が出来、安心する。


「良し。今日も相手してあげるか」


 今日は男だ。ここのところ、男の身体になる頻度が高い気がする。胸の膨らみがない為、非常に動きやすく、何より生まれて十八年慣れ親しんだ身体的構造の為、安心感が違う。


「......」

 

 意気込んだ所で袖を引っ張られる。


「アメリア?」


「きょうはわたしとあそんで......ほしい」


「......分かったよ」


 誘ってくれた子供に断りを入れ手を振るとアメリアに袖を引かれながら、何時ものヘズの定位置に連れて行かれる。


「? どうかしましたか?」


「アメリアが遊ぼうって」


「さいきんほかのこばっかりであそんでくれない」


 不満げな顔でそっぽ向く。嫉妬? 怒り? 普通のアメリアも可愛いが怒っている姿も愛らしい。


「ごめんね」


「......うん」


「じゃあ、ヘズと三人で遊ぼうか」


「うん」


 可愛い。


「私もですか? でも、私も出来る遊び何て......」


 困ったといった感情を含んだ笑顔を浮かべるヘズ。アメリアはヘズを加えるのに賛成なようで三人で遊べるモノを考えている。


「おままごと」


「おままごと?」


 高校生の男の身でおままごとをするのはつらい。『恥ずかしいから別のにしよう』そうアメリアに告げようとするが、何時もは表現が乏しいアメリアから見たらわかる程の期待の眼差しで見つめられ喉の所で声が押しとどめる。

 

「あらあら」


 ヘズもアメリアの気配を感じたのか口元を手で隠し、笑う。

 

 ヘズもヘズで乗り気のようで、ここでこれ以上沈黙を貫き続けているとアメリアに感づかれてしまう。

 

「じゃ、じゃあやろうかおままごと」


 覚悟を決めた。






「ただいま帰りました」


「お、おかえりなさい」


「......」


 アメリア監督のキャスティングはこうだ。ヘズ王様役、僕姫役、アメリアメイド役。

 おかしい。三人居るのなら普通夫婦と子供とかそう言うものじゃないのか? 何でアメリアがメイド役なんだ。


 アメリアは手に持っているスケッチブックを此方に見せて来る。


『ここでハグ』


 カ、カンペ......。ハグってそんな。


 アメリアの指示に躊躇していると、表情がどんどん暗くなり、目尻に涙を貯め始めた。

 果てしない罪悪感と共にこれはいう事を聞かないと、いつまでも続く、そう思った僕は覚悟を決めて行動に移した。


「おま、おま、おまおまお待ちしていましたヘズ様!」


「ひゃっ! ―――えっと......さ、寂しい思いをさせてしまったみたいですね......」


 僕もヘズも顔は真っ赤に染まり、頭から湯気が出る程だった。互いの体温が上がり、離れれば真っ赤な顔を見られるからか、ヘズは中々離れようとせず、時間にして三十秒。

 不思議な雰囲気を醸し出しながら、謎の時間が経過していく。


「......」


 いつの間にかサングラスをかけたぬいぐるみを抱くアメリア。何やら考えると、新しくページをめくりスラスラと文字を書く。


『次は食事シーン』


「へ、ヘズ様。食事に致しませんか?」


「そ、うですね。お腹は空きました」


 僕とヘズ。二人とも上ずった声を抑えながら演技を続ける。

 僕はヘズの手を引き、さっき座っていた椅子に座らせアメリアが持ってきた椅子に僕も座った。その間に、アメリアが小さなテーブルを置き、その上に白い皿とナイフとフォークを置いていく。


 アメリアは顎で『進めろ』と促す。


『食べさせる』


「ヘズ様。食べさせますね」


「あらあら。そうですか。ありがとうございます」


「はい、あーん」


「あーん。―――おいしいですね」


 ズキンッ!


「いっ!」


 まただ。胸の中心が痛む。


「? 大丈夫ですか? もしかして、体調が悪いとか?」


「だ、大丈夫大丈夫。さ、続けようか」


 こうして、アメリアが言う通りに一通りのこなしていく。演技をしていく内に慣れていき、恥ずかしさが少しずつなくなっていった。最終的には楽しくなってしまい、ヘズと二人してノリノリにやってしまった。


「おままごとと言うのもやってみたら面白いですね」


「そうだね。―――ヘズ様。お次は何を致しましょうか?」


「そうですね......お食事もお風呂も済ませましたし、そろそろお休みしましょうか」


『添い寝』


「そい」


「どうしました? 一緒に寝るんじゃないんですか?」


 のどに詰まる声。カンペが見えている訳でもないのに普通の顔で一緒に寝る事を希望するヘズ。ここで僕とヘズの間に価値観の相違が発見された。


 嘘。ヘズは異性と一緒に寝る事に抵抗ないのか? もしかして僕異性として認識されていないのか? 


 色々な事が脳内を駆け巡る。


「ねぇ。ヘズ様はぼ、......私の性別はご存じですか?」


「? 女の子ですよね」


「あの......身体は女の子になる事もあるんですけど元々は男の子なんで......す......よ」


「......え?」


「......」


 足の先から頭の天辺まで真っ赤に染まる。そして、今度は湯気ではなく、噴火した。


「う、う、う、う、う嘘ですよね!? だって私達一緒にお風呂に―――」


「あの時は身体が女になってたから、てっきりハンナから聞いてるんだと思ってた。まさか知らなかったなんて」


 真っ赤も真っ赤。噴火が止まらない顔を両手で覆いながら視線を下にそのまま地面に座り込む。


「でもヘズ。身体は出来るだけ見ないようにしてたから! ね!」


 火に水とはこの事を言うのだろう。全くフォローになっていない。どうしたらいいか分からない僕を尻目にヘズの声につられた子供達が少しずつ集まって来るのが分かる。


「ヘズおねぇーちゃんなにしてるの?」


「ないてるの?」


「ヘズお姉さんもあれはあれでなかなか......」


「アイリス何言ってんの!?」


 僕達三人を中心に輪の様に子供達が囲む。そして、暫く経った時。不意に立ち上がりヘズ。


「あの時は女性だったのですよね?」


「う、うん」


「じゃあ、女の子同士だったって事ですよね!?」


「そ、うだね」


「それでは何も問題ですね。そうですよね!?」


「う、ん! うんそうだね」


 羞恥にまみれた顔で僕の方を向き自分に言い聞かせる様にそう言った。僕も同じ様に自分に言い聞かせるようにそう答える。


 ヘズが立ち上がり、ふぅーと熱を冷ます様に息を吐きながら歩きだす。しかし、どうもまだ熱が抜けきっていないようで、僕の座っていた椅子の端に足がぶつかりバランスを崩す。


「あっ!」


「危ない!」


 前に倒れそうになった所を抱きしめる様に受け止める僕、しかし、ギリギリで受け止めた事もあり、支えきれずそのまま二人して後ろに倒れてしまう。


「「「「「わぁぁぁぁ!」」」」」


「あぁ、......鼻血が」


「ちょっとアイリスッ!?」


 身体全体に生じる衝撃で思わず目が閉じてしまう。それから、直ぐに目を開くがそこには視界一杯にヘズの顔があった。

 そして、唇に何やら柔らかい何かが当たっている感触―――。

 

「「んんッ!!」」


 以上に顔が近い+柔らかいモノ=唇。一瞬の内に脳が理解する。理解した上で突然の事に脳がショートしているのか僕の上に乗っているヘズの身体を起こす事が出来ない。腕が動こうとしないのだ。

 十秒の間。歓声に似た子供達の声が響き、鼻血を出して倒れた子供が出る。そして、やっと身体が言う事を聞くようになった所で、優しく肩を押す様にヘズを起き上がらせる。

 半身を起こし、僕の腰部に跨るように座ってるヘズはいまだ放心状態、どうしたらいいか分からずまたそのまま、止まってしまう。


「ないなに! なにがあったの!?」


「ちょっとおさないで」


「誰かハンナさん呼んでアイリスが倒れたの!」


「あぁ......どっちもかわ、いい、な......」


「アイリスぁぁぁぁっっ!!」


 子供達の声がまた子供達を呼び。そして、円の後ろから何があったのか知りたい子供達が押すものだから前の方に居る子供が数人押し出され、バランスを崩しながら僕達の方に近づいてくる。


「わぁっ!」


 数人の内、一人が僕とヘズの方に倒れ込むように迫って来る。それから、ヘズの背中を押し、僕の足に倒れた。


「あの......すみま―――「「んっ!???」」


 突然襲う衝撃、起き上がったばかりの半身は衝撃に逆らえず、二人して再び倒れてしまう。また、衝撃。唇に感触。しかし、今度は話している最中に起こった為か、互いに唇が開いた状態で密着した。

 

「......」


 身体全体が痺れる感覚。重力に従い、口内に落ちて来るヘズの唾液が喉を伝い体内へと入っていく。高鳴る体温と鼓動。密着した身体からは心臓の音がはっきりと聞こえた。

 一秒一秒が永遠と思える程、時間が長く感じ、周りの子供達の声が遠のいていくのが分かる。


 一体、どれだけの時間がたったのだろう。最終的にはハンナが騒ぎを聞きつけ駆けつけてくるまで、二人の甘い時間は続き。

 暫く二人は放心状態だったと言う。


『見つめ合ってキス』 


 二人が倒れた衝撃でアメリア落としたスケッチブックの最後のページに書かれていたのは二人は知るすべはない。





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