表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/69

ごめんね 

次回から回想を数話入れます。それがちょっと難航しそうなのでもしかしたら来週の金曜日に間に合わないかもしれません。あらかじめご了承を。

 走って、走って、走って、上り、下り、沼の中を歩いたり草木の中に隠れたりと、何とか兵から逃げる事ができ、今は洞窟の中に潜んでいる。


「―――雨か。困ったな......」


「最悪?」


「そうだな。最悪だ。雨は人の体温を奪い、水分を含んで抜かるんだ地面は歩行に支障をきたす」


「......そうなんだ」


「濡れる前に木材を集めておいて良かった」 


 火打石(ファイアースターター)で付けた火に手早く木材を並べ火にくべる。ハンナとコリンは疲れたのか洞窟について早々に寝てしまった。

 僕はというと、気が高ぶって寝る気になれず、こうしてオスカーと一緒に火の見張り番をしているのだ。


「......」


「......」


 しかし、身体は疲れているようでオスカーと話す気になれず、火をじっと見つめている。


 グゥ~。

 

「お腹すいた......」


「そうだな。―――ほら、これをあげよう」


 そう言うと腰部のポーチから取り出したスナックバーを四等分にし、一つを僕に差し出した。


「これは......」


「軍隊の緊急非常食だ。酷い味だが一日分の栄養をこれ一本で賄う事が出来る」


「―――んく。......確かに」


「ははは。すまないがこれしかないんだ我慢してくれ」


「うん」


 敵から鹵獲した銃器を分解し、簡易的な整備をしながら少しずつカロリーバーを口に含む。


「......君に聞いておきたい事がある」


「?」


 銃を組み立てると脇に置き、真剣な面持ちへと変わる。


「君の様子を見ていると、望んでその立場に立ったとは思えない。恐らく、強制的に連れてこられたか奴隷として研究所に買われたかだろう。―――君達の居る研究所を運営しているのはロプト帝国だと言うのは知っているだろう?」


「......うん」


「......帝国はな。昔は平和で平穏だった。少なくとも非合法な研究に手を出すような国じゃなかったんだ」


銃の握る手に力が自然と籠る。


「おかしくなり始めたのは他国から侵略され暫く経った時のことだ。ある時、皇帝陛下の娘、レイザ皇女殿下が、風邪で寝込んでいた陛下の代わりに前線で戦っている兵士達の激励の為に向かっている最中、何者かにより暗殺された。爆弾の衝撃で車は吹き飛び、燃える炎でレイザ皇女殿下は悶え苦しみながら死んだと言われている。陛下は三日三晩皇女殿下の名を呼びながら泣いていた。そして、自室から出て来た時から陛下は全くの別人に変わられていた。敵への苛烈な拷問、未成年の徴兵、敵兵でも躊躇するような作戦を立て、思える限りの全ての手段を用いて敵を撃滅していった。降伏しようとも撃ち殺せ、強力な能力者を取り込め、あの時は本当に気が滅入ったよ。―――......君は軍人が最初に殺さないといけないのは何だと思う?」


「......軍人なんだから敵じゃないの?」


「いいや、違う。最初に殺さなければいけないのは自分の心だ」


「心?」


オスカーは頷き傍に置いてあった薪を投げ入れると再度話始める。


「戦いに勝つには自身の心を殺さないといけない。目の前で『死にたくない』と命乞いをする敵を殺さなければならない。必要な情報を得る為に(おぞ)ましい行為を捕虜に行わなければやらなければならない。国が敗北すれば、蹂躙が待っている。故郷の妻と娘を敵兵に犯されたくなかったら敵の国を潰すしかない。死にたくないから殺す。傷つきたくないから傷つける。そう、自分言い聞かせ引き金を引いてきた。......戦争を起こった原因は誰かの欲望によるものだろう。だが、戦争が起こった時点で正義も悪もない。勝敗を決めるのは結局どちらがより悪魔になれるかなのだ。人の誇りをもって死ぬか悪魔になって生き続けるか、その二択しか存在しない。だから私は家族を守る為に、故郷を守る為に悪魔になる道を選んだ。―――君の境遇は知らない。だが、あの拘束具合からして少なくとも好きでやっている訳ではないのだろう。だから、その上で聞きたい。......君は僕達を恨んでいるか?」


「......分かりません。僕は僕をこんな風にした人達を恨んでいます。でも、それを知っていたからと言って助けなかったから同罪な訳ではないと思います。みんながみんな善人ではないようにみんながみんな悪人な訳じゃない。研究所(あそこ)には僕をモノの様に扱う人達が居ました。でも、僕を守ろうとしてくれる人も居ました、僕に優しくしてくれる人も居ました。研究所に居る以上、何等かの形で研究に加担しているのでしょう。でも、僕を連れて来たのは研究所に居る全員ではありませんし、使い捨ての実験体にしようと考えているのも全員じゃない。だから、もし殺す事が出来る機会があったのなら僕の身体を嬉々として研究の為の材料に使っていた人なら僕は殺してしまうかもしれません。しかし、僕に優しくしてくれた人なら殺すのではなく助けてしまうかもしれません」


「ははは。ロクちゃんは不思議な考えを持っているんだな。うん。......だがまぁ。そう言ってくれると私は嬉しいよ」


 優しく微笑むと「少しでも、寝ておきなさい」とそう言い残し、また薪を焚火にくべた。

 僕は、残りのカロリーバーを口の中に放り込むと、焚火から少し離れ、ハンナの傍に寝そべる。


 みんながみんな悪人じゃない。

 自分で言った事を嚙み砕く様に思考を巡らせる。そうだ、別に全員を恨む必要なんてないんだ。ハンナを好きになってもいいんだ。


 不思議と頬が緩む、安心感と共に訪れた心地の良い眠気が僕の意識を夢想の大空へ導いた。






「お......きろ......きろ......起きろ!」


「っ!?」


 外部の接触で無理やり意識を覚醒する。目の前にはオスカー。焚火は既に消され、二人は準備が出来ているのか立ち上がり、僕が起きるのを待ってた。


「今、戦闘音が聞こえだした。誰かと誰かが戦っているのだろう。ここも見つかるのも時間の問題だ」


「捜索隊が来たんじゃないの?」


「いいや聞こえる銃声からして違う。我々の知らない所でまた盗賊とは異なる勢力が居ると言う事だ。さぁ、立てるか?」


「うん」


 出された手に掴むと、そのまま持ち上げる様に立ち上がる。


「それじゃあ行くぞ。戦闘地域を迂回し、もう一度脱出ポイントに向かう。捜索隊が編成されているのならばその周辺に展開しているだろう」


「も、もし。捜索隊が居なかったら?」


「歩いて研究所まで行く」


「そんな! 幾ら同じエイル国内と言っても領を三つ超えないといけない距離ですよ! それまで、バレずに、それも徒歩で行くなんて無謀ですよ!」


「無謀でも行くしかない。だが、どうか安心して欲しい。君達の命は私が命に代えても守ろう!」


「そう言うもんだいじゃなくて!」


「いい加減にしなさいコリン! ここで弱音を吐いていても仕方ないでしょ。ここに残って死ぬか。少しでも助かる確率のある所に向かうか、今選びなさい!」


「オスカーさんについて行きますぅ......」


 珍しく声を荒げるハンナに驚いたのか身体をビクッと震わせ、細々とした声音で答えた


「良し! よく言ったコリン君! それじゃあ向かうとしよう」


 撃って走る。やる事は前日と変わらない。一人で倒し、僕達に道を作り、先導する。


「うわぁぁぁっ!!」


「おお! よくやったコリン君!」


 オスカーが取りこぼした敵をコリンが見つけ、攻撃する。

 いつの間にか連射(フルオート)に変えていたようで、当たり構わず敵の居た方向に向かって乱射。

 運よく倒せたのか、硝煙が消えた時には誰も立っている者はいなかった。


「や、やった......」


 息も絶え絶えの声で小さく喜ぶ。安堵の歓喜もつかの間、それは突然訪れた。


「む!?」


「いっ!」


 空気を切る音と共に、後ろに居たコリンが倒れる。足を撃たれたらしく、銃を地面に落とし苦悶の表情を浮かべていた。

 倒れた音で気が付いたのか前を進んでいたオスカーは下がって来る。


 マズルフラッシュが見えた場所に向かって数発撃つとコリンの肩を掴み、木に隠れる。


「くっ! ロクちゃん。ハンナ主任を連れて隠れなさい!」


「うん!」


 コリンを陰に座らせると、半身を出し、射撃。しかし、失速した今、数をモノに言わせ包囲の輪を形成し始める盗賊に押され始める。

 次第に強くなっていく銃声。数メートル先には敵の影が見え始めた。それから、じりじりと距離を詰めらる。




「おい! そこの攻撃してる奴! 撃つのをやめろ! 話し合いで解決しようじゃないか!」


 相手の銃声が鳴りやむと同時に、相手側から声が聞こえてくる。


「話し合いだと? 貴様らに交渉をする気があるとは思えんがな!」


「そう言うな。あんた達を追う為に此方も多くの手下が死んだ。今も他の奴らが良くわからねぇボケ共と戦ってやがる。これ以上人数を減らされるのはこれからの活動に支障が出ちまう。だから、交渉で今回の事を解決しようと思ってな」


「......条件はなんだ!?」


「あんたが護衛しているガキの身柄をこっちによこしな! それで、俺たちは手を引く。もし引き渡してくれるんなら、この樹海から出るまで案内と護衛をやってやってもいいぞ!」


「残念だがそれは出来ない! この子は私の大切な仲間だ! それを、誰とも分からない人間に引き渡す事は出来ない!」


オスカーの答えに大きく笑う。


「お前正気か? 周りを見て見ろ。もうお前たちは囲まれている。速度が急に落ちたのは誰かがケガをしたからだろう? 動けない人間を守りながら、この数の手下と渡り合えると思っているのか? 後、弾薬はどれくらいある? ケガした人間を手当てできる物はあるのか? なぁ! もっとかしこくなれよ。お前が何処の誰かなんざ知らんし知りたいとも思わない。ここに何をしに来たかもこの際だ聞かないでおこう! お前がガキを此方に渡すだけで助かるんだぜ!」


 後方の木の陰に隠れる僕を一瞥すると、フッと笑い。銃を構え直す。


「私は任務を全うする。それだけだ」


「そうかい。それは残念だ」


 再び始まる銃弾の雨。オスカーはリグから取り出した注射器をコリンの太ももに打ち込む。すると、蒸気のような湯気が立ち、みるみる内に傷が塞がれていくのが分かる。


「コリン君。今打った薬で出血を止め、傷を塞いだ。これで走る事が出来るだろう。―――さぁ、銃を持て、これから私は出来るだけ君達が逃げれるように時間を稼ぐ。出来るだけ数を減らすが、全員を殺しきるのは流石に無理だろう。だから、私が居なくなったら君が彼女らを守ってほしい」


 コリンが落とした銃を拾い上げ、弾倉を取り出し、コリンの付けているリグから最後の弾倉を装填すると、コリンの胸に突き出すように渡す。


「僕にそんな事」


「重要なのは出来るかどうかではない。やるかどうかだ。―――やってくれるか?」


「―――......やってみます」


「ありがとう。君達も聞こえたな? 前回いった脱出ポイントに向かいなさい」


「オスカーさん!!」


 後ろに居る僕に向かって拳銃を投げ渡した。


「行くんだ。子供を見捨てたとなれば妻と娘に怒られてしまう。私は誇りをもって家族に会いに行きたいんだ......―――いいな? 三、二、一―――走れ!!」


 リグから全ての手榴弾を取り出し、ピンを抜くと敵の密集しているであろう場所に投げ込んだ。それから、銃声が少なくなると、空かさず銃弾をばら撒く。


 オスカーの掛け声と共に一斉に飛び出す。


 ハンナの手を肩に回し、今出せる速度一杯に走る。後ろから聞こえる銃声が遠くなり、次第には聞こえなくなった。

 それでも、前を行くコリンの背中を見ながら必死に走った。


 どれだけ走っただろうか。

 木々を抜け、走る。斜面を這い上り、また走る。抜かるんだ地面を走り抜け。気づけば目の前には術式陣があるあの開けた場所が見えていた。


「相手を上手く撒けましたね」


「そうね......」


「......」


 既に息も絶え絶え。疲れからか歩幅が乱れ、視界が大きく揺れる。


「もう直ぐです。行きましょう」


 肌を刺すようなピりついた感じがしなくなった。敵が居なくなったから? でも、普通敵の戻ってきそうな場所には敵が潜んでいるモノじゃないのか? 敵が居そうな感じはしない。なのに何なんだこの違和感は。


「敵はいないみたい......ですね」


「ハンナ。何か変な感じがする」


「変な感じ? ―――ッ! コリン!!」


「え?」


 開けた場所にコリンが右足を踏み入れた、その瞬間、ピピピッ!! と森とは場違いな音が聞こえる。何故だかは分からない。その音はどうしてか、心臓を掴まれたような感覚に苛まれた。

 気が付くと僕の身体を抱きしめるようとするハンナの驚愕の表情が見えた。


 ポンと土の中から円盤状の物が膝上辺りまで飛びそして―――。


 バババババッ!


 小さな銃声に似た破裂音。

 

 ハンナに抱きしめられるようにして地面に倒れ込む。立ち上がろうにも、ハンナの身体が重く、立つ事が出来ない。だが、幾ら待っても立ち上がろうとしないハンナ。


「いっ! ―――......ハンナ? ハンナ!?」


 身体を揺らすが、反応がない。身体をよじりながら抜け出すとうつ伏せの身体を仰向けにする。


「い! いたい! いたい......」


 身体中に出来た無数の傷。そこから血液がにじみ出て服をゆっくりと赤に染め上げていく。小さな声で『痛い、痛い』と苦悶の表情を浮かべながら目には涙を浮かべている。

 見たことがないハンナの表情。狼狽する僕は唯、ハンナの名前を呼ぶことしか出来なかった。


「ハンナ! ハンナ!」


「に、逃げなさい......」


「え?」


「......所長は明言していなかった、けど、今回の実験......いいえ、任務の為に軍に貸し出された時点で貴方の役目が終っていた」


「ど、いうこと?」


手を握り、どうしようも出来ない僕。口から血を吐き出しながら、僕の目を見つめて苦しそうに話す。


「より強力な能力の開発を名目で作られた研究所。でも、本当の、目的は、......違う。本当の目的は祝福を他者に移す研究(・・・・・・・)。私、ある書類を見たの、そこには、はっきりと書かれていたわ。


能力移植実験及び移植した能力を正常に行使する研究。







最終被験者―――


「ヘズ・アーベル」


「え?」


「本当の被験者はヘズ。貴方の実験で手に入れたデータで完成した技術を使って行われる、の。だから、貴方はもう不要。不安定で強力な祝福を持っている貴方が仮に研究所に帰れたとしてどうなるか分からない。良くて殺処分。悪ければ身体を―――。ゴホッ! ゴホッ! だから、貴方は逃げなさい。このままエイルに逃げればて、いこくも、かん、たん、には......いま、まで。ゴホゴホッ! 今までごめんね―――」



 ―――守ってあげれなくて。


「......ハンナ?」




















面白いと思って頂きましたら下に御座います★★★★★を押していただけると執筆の励みになります。感想をいただけるともっと励みになります。

執筆状況を知らせる為にtwitter始めました。良かったらフォローして頂けると嬉しいです。基本執筆に関係する事しか呟きませんのでご安心ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ