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オスカー・シェルヴィーノ

一章が終ったら他の小説を書こうと思ったのですが、やっぱり奴隷実験体を引き続き執筆していこうと思います。


「ん......んん......」


 目が覚めた時。そこは、土の上。木々の間から光が差し込み、霧がかった頭に朝を告げる。


「ここは?」


「君。無事か? ケガはないか?」


 目の前に兵士が膝を付き、僕の身体に傷がないか調べる。爽やかな顔立ちベリーショートの髪の両側をツーブロックに翡翠の如き瞳は真っすぐと僕の身体を見ている。


 そうだ、僕は落ちたんだった。それでハンナが―――。


「―――ハンナ!」


 途端、意識が覚醒。

 左、右と首を振り、彼女を探す。僕から少し離れた所に横になっているが見えた。右足に添え木をされており包帯で巻かれているのが分かる。ケガをしたのだろう。

 自分のケガを負っているのを忘れ、ハンナの元に駆け寄る。汚れた白衣を丸め、簡易的な枕にして規則正しく息を吐く。その姿を見てホッと息を吐く僕。


「足が折れているようだったから簡単ではあるが処置をしておいた。それと、もう一人の彼はケガがないようだから安心してくれ」


「......ありがとうございます」


 そっちはどうでもいい。そう言いかけるが、少し考えてからグッと押し込めて礼を言った。


「礼はいらないよ。これも仕事だからね。―――そう言えば君の名前を聞いていなかったね。僕の名前はオスカー・シェルヴィーノ。君の名前は?」


「名前は―――......六六六と呼ばれています」


「そうか、変わった名前なんだね。良し! 君のことはロクちゃんと呼ぼう!」


 膝を付き、顔だけをオスカーの方に向けると、オスカーは僕に向かって手を伸ばしていた。立ち上がるのに補助をしてくれる為に手を出してくれているのだと思い、行為に甘えようと手を掴だ。しかし、腰を上げる途中に手を離された。


「え? ちょっ!?―――い゛っだっ!!」


 『別に名前じゃない』。そう声を出そうとするが、助けを失った僕の身体は、重力に引き寄せられ地面に力強く激突する。勢い良く転んだものだから、そのまま後ろに倒れ、ハンナの添え木された足に頭が当たってしまう。


「いっ!!??」


「あぁ! ごめんハンナ!」


 こっちの世界では握手をする文化があったのか。今まで殆ど握手なんてやってこなかったから忘れてた。

 そんな事を思いながらも焦り気味に謝る僕に、乾いた笑い声を出すハンナは「大丈夫だから」と言いながら半身を起こす。


 原因の一旦を担ったオスカーはというと、気づいていないのかそのまま「退路の安全を確保してくるから君たちはもう少し休んでおいてくれ!」言い残し、森の中へと消えて行った。


「それより、貴方は大丈夫だった? 転がり落ちる時、頭を打ったみたいだけど?」


「頭? そう言えば」


 ハンナが僕の頭をそっと掴み、傷を確認する。


「傷がない......。―――うん。上手く能力が発動したみたいね」


「?」


「うんん、何にもないの。それより、彼は大丈夫だった? 一緒に落ちたみたいだけど?」


「彼? ......あぁ、大丈夫って言ってたよ。そんな事より、ハンナは大丈夫なの?」


「少し足が痛むけど、大丈夫よ」


「良かった......」


 それから、暫くオスカーが帰ってくるまで他愛のない話をしながら互いの無事を確かめ合った。






「これからの事を説明する。みんな良く聞いていてくれ」


 現在地はフリック要塞のあるフリック領とオフェニア領の丁度領境に位置するルフ山。その麓に広がるルフの樹海。

 樹海から駐屯地に戻るには徒歩で戻るには要塞とその要塞を中心に左右に伸びる山脈が障害になり不可能。

 唯一戻る方法として、ヘミングと呼ばれる兵士の能力が必要だったようで、そのヘミングが居ない今駐屯地に戻る手段はないに等しい。


「じゃあ。僕たちは帰れないってことですか?」


「いいや。そう言う訳でもない。我々の任務は要塞の防衛能力を削ぐ事ともう一つ、研究所の職員及び実験体を守る事だ。君たち職員―――特に実験体は最優先で守るよう中佐から指令があった。つまりそれだけ重要で替えがきかないという事。中佐は合理的なお人だから、きっと捜索隊を編成し、探しに来てくれるだろう。だから、我々の最善の策は動かずこの場で待つ。これだけだ」


 名もなき職員の不安な声に答えるオスカー。

 確かに、下手に動くより探しに来てくれるのなら動かないに越したことはない。


「どれぐらいで助けは来るの?」


「分からんな! 私達に出来るのは待つことそれだけだ!」


 僕の疑問に歯切れ良く話していると、僕とオスカーの間の茂みから男が現れた。私服の上から乱雑に着たリグからは弾倉(マガジン)が覗かせており、右手には土まみれの汚れた小銃。兵士と呼ぶにはいささか汚らしい姿。そう、言葉で表すのなら兵士ではなく―――


「いたぞ!」


パァンッ!!


 限りなく、流れる動作でホルスターから拳銃を引き抜き、男に向かって引き金を引く。二発の銃弾が男の身体に命中し、その場で倒れる。それから間髪入れずにもう一度、眉間と心臓を狙い二発、銃弾を放った。


「盗賊!?」


 名もなき研究者は上ずった声でそう言う。オスカーはと言うと倒した盗賊から小銃を取り上げ、リグの中にある弾薬、手榴弾等の物資を自分のリグへと入れていった。


「そこの君!」


「へ? 僕ですか?」


「そう、君の名前は?」


「こ、コリン・ウィリアムズです」


「よし! コリン君! これから君がこの銃を持て! 弾薬も少ししかないが渡しておこう!」


 オスカーは自分の持っていた小銃をコリンに渡し、男から脱がしたリグに残り一つの弾倉を押し込むと、困惑気味のコリンに着せた。


「え、ええ!? 僕、銃なんか撃ったことないです!」


「そうは言ってられん状況になった。これが、安全装置(セーフティー)。これは弾倉を抜く為のリリースボタンだ。銃弾がなくなればこのボタンを押し、新しい弾倉を入れ、この棹桿(コッキングレバー)を引けば初弾が装填される。後はサイトの点を敵の胸に狙って撃て! 良いか? 単発(セミオート)にしておくが、もし、至近距離で複数の敵と接敵した時は直ぐにこのレバーを上げて所構わず連射しろ」


「だから僕は銃なんて「安心しろ!」......え?」


「基本的には私一人で射撃を行う。ただ、敵の数が分からない以上、不意に敵を取りこぼしてしまう事があるかもしれない。その時だけ、君が彼女らを守りなさい!」


「そんなぁ。―――そ、そうだ。この実験体の力を使って」


「ダメだ。彼女の能力の露見は盗賊相手でも禁止されている。もし、使用したらこんな明るい場所だ。一瞬で補足され奈鬼羅が再び襲ってくるだろう。―――ハンナ主任。歩けますか?」


「え、ええ何とか」


「結構。ロクちゃんはハンナ主任の歩行の補助をしてほしい」


「うん。分かった。ハンナ肩持って」


「ありがろう」


「よし行こうか! 一先ず、我々の目標だった脱出ポイントに向かう!」


 地面に置いたヘルメットを被ると、「遅れるな!」と言いながら前へ前へ進んで行った。それに続く様に僕たちも進む。


ダダダダッ! パァンッ! パァンッ!


 草木生い茂る場所、道なき道を進む、生い茂る植物の間から見えるオスカーの背中を必死に追いかける。両手で銃を構えながら的確に敵の身体を撃ち抜いていく様はまさに軍人。時折、進みすぎたと思うとその場で止まり、周囲を警戒する姿は実に頼もしかった。


「ま、待ってください」


「済まんがそうも言ってられん。どうやら敵に囲まれているみたいだ。もっと、進んで包囲の輪を突っ切る。悪いがコリン君。もっと急ぐぞ!」


「えぇぇええっ!?」


オスカー素早く空の弾倉を外すと、その場に捨て、新しく出した弾倉を装填し、遊底を引いた。それから、単発で数度、周囲の敵に向かってばら撒くとそのまま進んで行く。


「弱音吐かないで進んで」


「す、すみません」


ハンナの腕を掴んだ僕はへっぴり腰のコリンに向かって苛立ちの籠った言葉を発する。何処かで音がする度に過剰に反応するコリン。こいつを見ていると何でか昔の自分を思い出すのだ。臆病で無力な弱い自分を。


「早く進んで」


「は、はいぃ......」


 それから、オスカーの類まれなる射撃能力と相手の行動を正確に予測する状況把握力のお陰で、僕達は一度も盗賊と接敵する事無く目的の場所に到着する事が出来た。


「......予想はしていたが」


 歯切れの悪い口調で呟くオスカー。


 そこには、消えかけの術式陣と血にまみれた地面だけ、他には何もなく、味方の兵士一人としてそこには居なかった。 

 術式陣に駆け寄り、腰を下ろし膝をつく、それから調べるとやはり使えないのか立ち上がり、足で術式陣を消し始める。


「あの! 何してるんですか? これで帰れるんじゃ―――」


「残念だがそれは無理だ。この術式陣はヘミング二等兵が居て初めて機能する。だから、出来るだけ相手に情報を与えないようにこうして隠滅しているんだ。―――良し。じゃあ、次は相手をまこう!」


「まくって......そんなの出来っこないよ......」


「いいや出来る! 何故なら私が居るからだ! ―――まいて態勢を整える。それから、これからの事を考える。以上! 出発!」


「そんなぁっ!」


「相手はおそらくここいらの地形を熟知している! だが、相手は大所帯、こちらは僅か四人。行軍速度は此方の方が上。だから、我々相手が追いつけない程の速度でまく」


 そう言うと、弱音を吐くコリンを置いて、来た方向とは別の方向に足を進めた。





 オスカー達の後方、盗賊の集団。各々装備が異なり、顔や身体には泥と汗で汚れている。

 そんな奴らが立ち止まり、前で追っている別の盗賊達に腕輪型の魔導機を用いて指示を飛ばす。いいや、より正確に言えば野次だ。


「クソっ! 相手はたった四人だぞ!? まだ、ぶっ殺せねぇのか!?」


『お頭に何て言えばいい。逃げられました? そんな事言ったらぶっ殺されるに決まってる......』


「んな事分かってんだよ! だからぶっ殺せっつってんだ!」


 周りの人を気にする事なく喚き散らす男。その眼は血走っており、身体は何故か僅かに痙攣していた。


『あ!? 相手の姿が見えた!? 良し! そのまま―――おい! 返事しろおい!』


「兎に角早くぶっ殺して死体をここに持ってこい! あぁガキは殺すなよ。ガキを殺したら金は入ってこねぇんだから! いいか!?」


『りょ、了解!!』


「クソ!!」


 いきなり入った仕事。相手は誰だか分からない。だが、あのお頭の興奮具合を見たら飛んでもない人物の依頼だったのだろう。依頼内容は簡単。ガキを一匹さらうだけ、護衛は一人、残りは非戦闘員。場所は俺達が良く知ってるこの樹海。失敗する要素は皆無だった。

 だが、蓋を開けてみればどうだ。一人、また一人と倒されていく。近づいたと思ったら離され、此方の銃まで奪われる始末。

 能力を使ったと言う情報はなかった。唯の兵士一人に遊ばれているのか? 軍隊とは何度か戦った事がある。だが、こんな得体の知れなさを感じるのは初めてだ。


「存外。野盗と言うモノは使えないね」


「誰だ!」


 木の幹の上に見える三人の影。一人は声の発した初老の男。オールバックにした白髪交じりの黒髪(・・)。糸のような細い眼で盗賊達を見下ろしている。一人は壮年の男性。黒い髪(・・・)を背中に束ね、薄い紅色の瞳でこちらを見つめる。最後に可憐な少女。黒い長い髪(・・・・・)を両側で三つ編みにし、丸眼鏡を掛けた琥珀色の瞳は右手に取り付けられた魔動機を見つめている。


「千弦殿。目標との距離は一キロと五百。ここで遊んでいる場合では」


「落ち着きなさいって常盤(ときわ)ちゃん。戦いにおいて一番重要なのは心の余裕を保つ事だよ?」


「......」


「テメェらは誰だっつってんだよ!」


 唾を飛ばいながら銃口を集団に向ける。それに、続く様に取り巻き達も同じように彼らに向かって臨戦態勢を取った。ピンと張り詰める空気。一気に緊張状態になり盗賊達は汗を流し、息を荒くする。

 しかし、対照的に三人は先ほどと変わらず涼し気な顔で依然として同じような行動をしていた。


「こんにちわ。盗賊の皆さん。僕らは君達に依頼した者です。今から我々が仕事を引き継ぎますので貴方達はお役目御免だと伝えに来ました」


「あ!? ふざけたこと言ってんじゃねぇ! お頭からは何も聞いてねぇぞ!」


「お頭? ......あぁ、あの方ならここに」


 そう言いながら腰に掛けていた麻袋からあるモノを取り出す。


「なぁっ!」

 

 それは、男がお頭と呼ぶ男の首だった。その顔はまるで、生きているように生気を帯びる表情を浮かべている。そう、まるで痛みを感じる間もない程、素早い斬撃で一瞬の内に殺したかのような。

 見たことが無いほどの切り口に思わず見惚れていると続けるように話し出す。


「このような形で対面をさせてしまい申し訳ございません。しかし、『もし、手こずるようなら依頼した盗賊らを殺害してお前達が引き継げ』との当主のご命令。非常に心苦しい決断でしたが、殺害を執行しました」


「ふざけやがって」


「千弦殿、常盤殿。ここは僕が」


「え? いいの? じゃあ頼んじゃおうかな」


「構いませんが早急に完了して下さい」


「分かっています」


 男は腰に挿した刀剣を鞘から抜き出す。それは、剣と呼ぶには余りにも細く、数度打ち合えば折れてしまうほど繊細な形をした刀と呼ばれる剣。

 男が飛び降りる。それと、同時に男に向かって無数の銃弾が放たれた。


「う、そだろ......」


 盗賊の一人が絞り出すように呟く。それもその筈。男は今、あの細い剣で何発もの銃弾を切り伏せたのだ。落下している最中、そんな不安定な所で一瞬の内に銃弾の軌道を読み取り、一斬りで同時に自身に当たるであろう銃弾を真っ二つに切り伏せた。


「御免」


「ぎゃぁ!」


一刀。


「この野郎!」


 金切り音に似た小銃の連射音。焦る盗賊達とは違い落ち着いた面持ちで避けながら、或いは銃弾を刃で斬り防ぎながら、一人、二人とまるで演武のような軽やかな足どりで斬っていく。その斬撃の軌跡は美しく、全くのブレのない直線を描いており、余りの見事な切り口であるが故に切られた事すら気づかず絶命する者が居る程だ。


「どうなってんだ。て、テメェら何なんだよ」


「これは失礼を。僕らは王直属独立部隊第十班。僕の名前は五宝家和彦(ごほうけかずひこ)と申します」


 気付けば残りは男一人、和彦は名乗りを上げるのと同時に構え直し、『御免』と掛け声と同時に男の首を一閃。


「ッ!! ―――あ? はは! お前の攻撃当たってねぇじゃねぇか!! ......え? あ? ......」


 首を落ちたのに気付かず、攻撃が当たってないと錯覚した男は威勢を取り戻し、和彦に向かって吠える。しかし、気づいた時には視線は地面に向いており、首は土の地面に付いていた。

 コロコロ転がり、木の幹に当たって転がる。首が切れ、少ししてから身体がその場で倒れたのが見えた。薄れていく意識の中、和彦と木から降りて来た二人の隊員を見ながら、どこで選択しを間違ったのかを考える。だが、それももう手遅れ。名もない盗賊は眠る様にこの世を去って行った。


「彼らに神の祝福があらんことを」


 そう言いながら、刀に付いた血を払い、左手で刀の鞘、鯉口を掴み少し上にあげると鮮麗された動作で刀を鞘にしまう。


 彼らは太古の昔、召喚術式により呼び出された勇者の末裔。奈鬼羅を主とし、一度戦場に向かえば一騎当千の強さをもって敵を滅する力を持つ武士(もののふ)の集団。

 七つの家紋からなる一族。人は彼らを『七氏族』と呼んだ。


 氏族序列五位。一刎(ひとはね)家当主。一刎千弦(ひとはねちづる)


 氏族序列六位。三大寺(さんだいじ)家次期当主。三大寺常盤(さんだいじときわ)


 氏族序列二位。五家宝(ごかほう)家当主。五家宝和彦(ごかほうかずひこ)


 








 

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[一言] 国家試験やら何やらで忙しくてあまり読めてないのでお久しぶりです… 幾らか忘れてしまってる部分もあったので読み直しながら読んでますけど、相変わらず読んでいて没入感あって面白いです…!
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