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Sideロプト 第401祝福歩兵大隊第四中隊

いつも感想、評価を頂きありがとうございます。これからも楽しんで頂ければ幸いです。

 フリック要塞攻略軍第四〇一祝福歩兵大隊第四中隊。

 ウィステリア・ハーノック中佐が先の戦争。カールスラント大戦で指揮した兵士達で構成された部隊。

 ギルネスト攻略戦。首都ミラス攻略戦において目まぐるしい戦果を挙げ、大戦の勝利に貢献し、一度、戦場に投入されれば炎の様に敵を殲滅し、占領範囲を広げていくさまから。ロプト軍兵士からは尊敬、または畏敬の念を込めて『レーヴァテイン部隊』と言われる最強部隊である。






「少し。昔話をしよう―――」


 薄暗い室内。引き裂かれた服を着た少女と女性。母親はすすり泣く娘を抱きしめている。顔は殴られたのか軽く変色し腫れあがっていた。

 その前には椅子に足を組み座る美青年。群青色のウルフカットの髪。深紅の瞳は地面に右手で頭にやり思い出す様に、ゆっくりとした口調で話す。時折、僅かに揺れる身体と共に緑色のアンダーシャツの上でジャラジャラと小さくドックタグがすれる音が響いた。




 私はロプトの端も端、国境の近くの辺境の小さな村に生まれた。子供の頃は今よりも領土は狭く、そして弱かった。

 そんな、弱小国だから四六時中領土を拡大しようと目論む他国の脅威にさらされていたんだ。

 そして、ある時。戦果を急いだアルステニア王国の軍上層部が暴走。上層部の独断で軍を動かし、我らがロプト帝国に侵攻を開始した。

 王国の国境が目と鼻の先にある私の故郷がなくなるのは一週間かからなかった。

 

 略奪、凌辱、虐殺。


 そう、あれはまるで地獄に居るようだった。何かが焼けた匂いが村中を包み、肌に感じる熱が体力を奪う。老若男女の悲鳴は銃声よりも響き、鼓膜にこびり付いて離れない。何時も親切にしてくれた猟師の老夫婦、遊んでいた幼馴染達、厳格だが優しかった村長。彼らが臓物をはみ出し苦悶の叫びを上げ、抵抗も許されずに蹂躙される。その光景は今も脳裏に焼き付いて忘れられない。

 私の両親もその時に私の目の前で殺された。父の目の前で母が凌辱されるのを私は、隠れて見ているしかなかった。

 それからだ、骸になった両親の前で私は決心した。例え、立場が逆になろうとも、無力な人間を辱める事はすまいと。





「それは隊を率いてからも変わらない。無論、私の部下にもそうさせているし、これからもその考えは変わる事はないだろう―――私が何で、こんな話をしているか分かっているか? ノリス軍曹」


 そう言いながら立ち上がり。親子に背を向ける。そこには、手を縛られ、跪いている兵士達が居る。その身体中傷だらけで、その顔は後ろに居る女性達の顔と比にならない程腫れあがっているのが分かる。


「貴様! こんな事をしてどうなるか分かっているのか!? 私の叔父はキリル中佐だぞ!?」


「あーあーあー。私の前に跪く奴らは決まって同じセリフを吐く。『私の上司は~』だとか『私の親は~』とな。―――今回はキリル中佐ときたか。自分では何も考えられない中佐。あのレヴォ―ヴィナ大佐の腰巾着の縁者だったのか。傑作だな。あんな無能の名前で私が怯えると思っているのか?」


「き、きさボホォっ!!」


 激昂し、何かを言おうとするノリス。しかし、話そうと口を開いた瞬間。壁際に立っていた兵士の一人が腹を蹴り上げた。

 その衝撃で、飛んだ血は青年の軍靴に掛かる。


「ッチ! 汚いな......―――話を戻そう。ハーノック中佐のご命令だったから仕方なくお前を私の隊に入隊させた。しかし、貴官は再三の規則違反に加え、他の部隊の隊員をそそのかし、近隣の村に住む男性を暴行の末に射殺。その男性の家族を強姦をしようとした。間違いないな?」


 一瞬、顔を歪め、舌を打つ。しかし、直ぐに息を整え表情を戻す。


「覚えていろ! 逮捕されようが裁判にかけられようが俺は絶対無罪になってお前らの人生ぶっ壊してやるぞ。今度はお前の部下の女を犯してやるぜ!!」


 そう吐き捨てながら先ほど腹を蹴り上げた女性兵に下卑た視線を向ける。何を考えているか想像するだけで吐き気を催す程の愚行。隊員の何人かは嫌悪の表情を露にしている。しかし、当の本人は冷やかな目で見下ろすと何度も何度も顔面を蹴り上げた。


「アビー少尉。もう良い」


「はい」


 アビーと呼ばれる少女は赤い髪をゆったりとした動作でかきあげながら下がる。


「お前は何か勘違いをしている。まず、第一に中央には報告しない。第二にお前が何をしようとも私の部下に指一本触れる事は出来ない」


「貴様何を......ッ!!」


 そう言いながら腰から拳銃を取り出し遊底(スライド)を引く。それからもう一度、半分程遊底を引き、薬室(チェンバー)に弾丸を確認すると倒れた男に向かって銃口を向ける。

 それと、同時に周りに立っていた兵士達も拳銃を同じように拘束されている兵士達に向かって銃口を向けた。


「お、おい待て! 本気じゃないよな?」


「た、大尉! 私達はただ軍曹に言われてやっただけで」


「そ、そうです!! 別に俺たちは―――」


「最後に私は嫌いな人間が三つ教えてやろう。―――一つは汚い奴」


 ため息を吐くと少しも躊躇することなく引き金を引く。


 パァンッ! 青年は肩を撃つ。

 

「グァァァァッ!」


「二つは不誠実な奴」


 パァンッ! 青年は足を撃つ。


「アァァァァッ!!!」


「最後に嘘をつく奴」


 パァンッ! 青年は喉を撃つ。


「ごぉぼおぉぉっぉ......」


 血の(あぶく)を上げながら男は見上げる。その顔は冷徹。まるで、物を見るかのような何も感じていない、何も思っていないような無表情。それが、下卑た男の見る最後の光景だった。


「病気は他人に移る。お前達のような汚らしい病人が居るから死ななくていい人間が死ぬんだ。―――あの世で殺した男に詫びてこい」


「やめ―――」


パァンッ! パァンッ! パァンッ! 


 兵士の誰かが懇願の声を上げようと声を出す。しかし、青年は何も聞こえないかのように至極落ち着いた動作でしゃがみ込み、もはや、意識すら残っていない男の頭に銃口を押し付け、迷いなく引き金を引いた。

 それと同時に、兵士達も頭に向かって銃弾を撃ち込む。


 一瞬、静寂が起こる。


「さて。今回の件は我々の不始末が招いた結果だ。彼女らにはそれ相応の(つぐな)いをしなければならない」


 安全装置を掛けるとホルスターに拳銃を戻し、女性の前に膝を付き、目線を合わせる。


「大尉」


「ありがとう。アビー少尉」


 扉が開き、入ってきた兵士からアタッシュケースを受け取ったアビーは開け、中身を確認し、直ぐに閉じると青年に渡した。それから、毛布をそれぞれ女性の肩に掛ける。

 青年はそのままの体制で受け取ると、女性に向けて開いた。そのには所狭しと札束が敷き詰められている。


「......これは」


 目を見開き青年の顔を見る。


「これは、今粛清した者達の資産の一部です。用意出来次第残りも貴方に譲渡(じょうと)致します。希望するなら帝都で住めるように手配致しましょう。こことは違いあそこならば女性の働き口は幾らでもありますので。勿論、その費用も私共が負担いたしますしょう」


「......」


「無論、これらが貴方の旦那様の代わりになるとは思っておりません。ただ、形としてこれらを受け取って下さいませんか?」


「......ありがとうございます............」


「感謝は受け取れません。それでは、詳細はこの者に任せています。また何かございましたら私共にご連絡下さい。―――頼んだぞ」


「了解」


青年は兵士の一人に託すと、扉を開き、外へと出て行く。


「大尉! ライネ・ストレーム大尉!」


「どうかしましたか?」


アビーが走って来る兵士を引き留める。


「ハッ! ハーノック中佐より伝言! 『荷物の発送が終わった。しかし、発送状況に不安あり』至急、の執務室へ来るようにとの事!」


「了解した。今すぐ向かう。―――アビー少尉」


「準備を始めます」


「あぁ、頼む」






「ライネ・ストレーム大尉。参上しました」


「入りたまえ」


「はっ!」


ドアノブを捻り、入る。そこには、ちょうど休憩をしていたのかティーカップを傾ける中佐の姿。


「......」


「どうかしたのか?」


「いいえ何も」


場所が場所なら世の男達は放って置かないだろう。それほど、贔屓目を抜いてもウィステリア・ハーノックと言う少女は女性として完成していた。


「かけたまえ」


「はい」


 ゆったりとした動作でソファに腰を掛ける。背もたれに背を預け、僅かに沈む身体から力を抜いた。

 ウィステリアは何度かティーカップに入っているお茶の匂いを楽しむと受け皿(ソーサ―)ごと持ちあげそっと腰を上げる。執務の机の前に向かい合わせにして置かれているソファ、その間に(テーブル)にティーカップを置き直すとそのまま棚に向かった。


「君を呼んだのは他でもない」


「任務......ですか?」


「ふむ。いつも通り話が早くて助かるよ」


 棚からもう一つティーカップを取り出しながら話すウィステリア。お茶の入ったティーポットを数度揺らし、カップに傾ける。


 心地の良い静寂の中でカップに注がれる音。


「それは一体どのような任務で?」


「ほんの数日前。この駐屯地に運ばれたモノは知っているかね?」


「―――確か、私が護衛を行った研究所の......」


 ウィステリアから受け取ったカップを数度回し、匂いを楽しむと口を付け、喉を潤す。


「そうそれだ。今回の任務。第一中隊のノーリア大尉きっての希望でベートル軍曹とその小隊を今回の任務にあたらせたのだが......」


「雲行きがよろしくないと?」


「雲行き? ―――まぁ。そうだな。今回の作戦は失敗だ」


「その根拠は?」


 目の前の少女は表情一つ変えず、まるで今日の天気を告げる様にまだ始まってすらない作戦。それも、かなり大きな作戦の失敗を断言したのだ。今回の作戦はただの軍事作戦ではない。ロプトの領土が大きく広がるか否かが決まる重要なモノなのだ。中央の上層部は勿論、皇帝陛下までもが今回の作戦に注目している。


 相変わらず底が知れない。


 この中佐についてもう七年になるだろうか。彼女の指揮で幾千もの戦火を潜り抜けてきたが、今だにこの人と言うモノが分からない。

 まるで、霧のような。そんな曖昧なモノで包まれているように掴もうとするとひらりと交わされてしまう。


「―――王国側に潜り込ませている者達がこの一か月で使い物にならなくなってしまった」


「バレてしまったのですか?」


「いいや。至極普通に任務をこなしているよ」


「? それは」


「普通過ぎる。普通に報告し、時折使える情報をよこしてくる。だが、ある種の規則性が感じられるのだ」


「操られていると?」


「可能性は高い。覗いてみてみたが(・・・・・・・・・)どうやら本人には自覚がないらしい」


「では。祝福者の仕業だと?」


「十中八九そうだろう。違和感がし始めたのはあの奈鬼羅が砦に現れてからだ」


「それはそれは。また、大物が出たものですね」


「そうだ、大物だ。仮に作戦に成功したとして砦を突破し、幾つかの領地を占領したとしよう。もし、そうなったとしても、奈鬼羅によって直ぐに取り戻されるだろう。奈鬼羅だけではない。エイル王国にはグングニルの連中、奈鬼羅の分家の七氏族の猛者達。さらには魔導機の技術すら我ら帝国より数段上だ。成功した後にそれを防衛する力はまだ我々にはない。いや、逆に今回の作戦。失敗してくれた方が国際世論の批判を受けない分良い。だから私はこう思った。『どうせ失敗するのなら。上手い事実験体を餌にして今代の奈鬼羅の能力を確認しよう』」


「ではベートル軍曹は」


「あぁ。餌になって貰ってるよ」


「......酷いお方だ」


「軍人になったのなら国の利益の為に命を捧げる覚悟は出来ているだろうよ。―――そんな事より。問題は餌の方だ。兵士は兎に角、研究所の連中とその実験体は絶対他国に渡ってはいけない。そこで君には奈鬼羅の能力データともし荷物が危なくなった時には小隊に引き継ぎ君が荷物を守って欲しい」


「最初から私達第四中隊にお任せいただければ良かったのでは?」


「貴官らには貴官らの役目があったのだ。それに、切り札はここぞという時に隠しておくものだよ」


「―――了解しました。では、準備出来次第出撃します。詳細は追って送信してください」


「ん。ご苦労。―――あぁそうだ。出撃するときは貴重品等は一緒に持っていく事を許可する」


「? また、何かお考えが?」


「何。ただの保険だ。保険はやっておいて悪い事はないだろう?」


「......承知しました。こちらからも一つ宜しいでしょうか?」


「何だね?」


「中佐に任されていたノリス軍曹。以下数名の兵士を粛清いたしましたので処理の方をよろしくお願いします」


「あぁ、了解した。適当に理由を付けておくよしよう」


「それでは」


「任務、頑張りたまえ」


 扉を開き外に出る。すると、そこには、アビーと小隊長達が直立の姿勢で立っていた。


「「「「中隊長殿!!!」」」」


「あぁ、任務だ。直ぐに出撃する」


 歩きながら言う。


「今回はどのような任務でありますか?」


 右目に眼帯をまいた初老の男性がガラガラ声で問いかける。


「分かり切った事を聞くなよシリル軍曹。大尉に降りて来る任務と言えば無茶な任務に決まっている」

 

 眼帯の男性をシリル軍曹と呼ぶ眼鏡をかけたビジネスマンのような風貌の男性。それに続く様に細身の男がねっとりとした女性のような話し方で口を出す。


「違いないわザカライア軍曹。これまでまともな任務に付いたためしがないもの」


「シリル軍曹、ザカライア軍曹、ジェレマイア軍曹。今回は遠足だ。第一中隊から任務に出た小隊の救援と荷物の回収、それから敵勢力祝福者の能力のデータを収集を行う」


「能力の使用は?」


「中佐殿は何もおっしゃらなかった。つまり―――好きにするさ」


 感じる。肌から伝わるひりひりとしたピりつく感覚。間違いない。この任務、大きな戦いが起こる。

そう思うと、不思議と口角が上がり、歩幅が広くなっていく。


 戦いだ。これから一体どんな相手が現れるのか。気分が高揚し、早く仕事がしたくてたまらい。





―――戦いが始まる。






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