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紫の瞳

消し忘れていたプロットをそのまま載せてしまいました申し訳ありません。

書類を見ていると扉を叩く音が聞こえた。扉を開けるとそこにはここに来る時に私たちを護衛した部隊長が立っている。


「博士。そろそろ準備を始めて下さい」


「了解です」


防弾チョッキにリグ、脇にヘルメットを挟み準備完了といった感じだ。私の言葉を聞くと「それでは」と言い残し、返事を待たずに彼は行ってしまった。


「はぁ......」


扉を閉めると、机の上に広げている書類を片付ける。言われずともすでに出発の準備は出来ていた。今は、あの子のデータを見ながらこれからの事を考えていたのだ。



―――数値が安定しない。



と言うのも祝福保有者の魔力は必然的に多い。そして、年齢に比例して大なり小なり自然に増えるのだ。

思えば、あの子のデータを最初に取った時から異質だった。

今まで見てきたどの祝福者よりも多かったのだ。それなのに、自身の能力を使おうとしない。

研究所が連れてくるのとは別に、時折所長はどこからか連れてきた子供達は誰もが強力な能力を有していたが、使い方を知らなかった。

祝福と言うのは生まれ持っての能力で、歩くのと同じように誰かに教えられる訳でもなく、気が付いたら使えているものなのだ。

その事を一度、所長に聞いた事がある。しかし、答えてくれる訳もなく。最上位機密に類するものらしい。その答えを知っているのは一部の幹部達と所長。それに、ロプト帝国の将校達だけだろう。

それを今考えた所で意味はないだろう。

問題は数値だ。今まで計測する度に異常なまでの上昇をしていた。それが今になって魔力値が上下している。こんな事例見たことがない。

しかし、だからと言って少佐達は今回の実験を中止することはないだろう。


「油断できないわね......」


書類をファイルに入れると、机の引き出しを開き、黒い小さな箱に埋め込まれている液晶画面に手を触れる。すると一から九までの数字が浮かび上がった。数字を打ち込むと小さな金属音と共に開く。そこに、ファイルを入れるともう一度、画面に触れ施錠した。

それから、実験に必要な物を入れたバックを肩に下げると、忘れ物がないか確認する。


「よし」


全てあることを確認すると、小さく深呼吸。彼の所に向かった。






「実験の為に彼を移動させます」


「少々お待ちください。こちら実験体警備。博士から扉の要請がありました。中佐に確認を――――了解しました。博士どうぞ」


「ありがとう」


扉の両脇に立っていた警備兵が横に移動するのを待ち、扉の前に立つと暗証番号を打ち込み開く。


「あらあら......」


部屋の中に入るとベッドの上にすやすやと小さな寝息をさせながら静かに眠る天使がそこにいた。

艶のある長い黒い髪を撫でながら寝顔を眺める。


移動しないといけないのは分かっているがこの寝顔を見ていたいと言う欲望が彼を起こそうとする私の腕を止めるのだ。


「可愛い......」


ヘズ達の居る居住区で過ごしている子供たちはみな奴隷や何かの理由で家族と住む事が出来なくなった子供達だ。その子達の役目はただ一つ。毎日一定数の魔力の提供だけ。

それから一定の歳を超えると、必要最低限の知識を教え、ゆくゆくはロプトに送られる。

当初は魔力の生成が悪くなったモノは処分せよとロプトからの指示であったが、どうやったのか所長が今の指示へと取り変えさせた。

幾ら研究所の所長とは言え、一介の研究者が軍の上層部の指令を取り換えるなんて絶対に不可能。その時は一体どうやって変えさせたのか研究者の間で噂になったものだ。


話を戻そう。


魔力目的で連れてこられた子供達は大半は十五を迎える前に出て行く、長く残っても成人するまで、それからは人としての普通の暮らしを送っていくだろう。

だが彼のような子供は別だ。所長が何処からか連れてきた子供達は初日から過剰とも言える拘束を施し、窓のない監視された部屋に入れられる。

それから、毎日地獄のような実験の日々。もちろん、そんな日々で身体が耐えれる訳もなく毎回のように死んでいく。

今回は今まで会ってきた子供達のどの子より生きている。それも、彼が持っている特異な能力が理由だろう。

しかし、私達の(おこな)っている事は未知な所が殆ど。その為、いつ彼が今までの子供の様に事切れるかは予想できない。

毎日のように投与している劇薬が、いつこの子を死に至らしめるか分からないのだ。

普通ならもうとっくに死んでいる筈なのにこの子は生きている。

その事はもちろんこの子は知らない。知っているならこんな穏やかな顔では寝ていられないだろう。


「博士? 大丈夫ですか?」


「大丈夫です。少し整理をしていただけですから」


「......そうですか。指令部から連絡が入りました。いつでも出発できる状態ですので準備を急ぐようにと」


「分かりました」


少し考え部屋にある拘束具を取り出すと、丁寧に彼に施していく。途中、一度も起きる事無く私になすが儘にされる彼に思わず笑ってしまう。しかし、すぐに時間がないのを思い出すと、寝ている身体の背中と膝裏に手を通し、抱え上げた。


「軽い......」


そんな事を呟くと両手が塞がっているので、警備の人に開けて貰うと外の車に向かった。


「主任。機材の積み込み完了しました。―――それは......」


外に出るとそこにはここに来た時のような数台の装甲車が止まっており、先に来ていた研究員達が機材の積み込みやこれからのことを部隊長と確認していた。

私が来たのを見るとちょうど積み込みが終わった研究員の一人が駆け寄ってくると困惑ぎみな表情で腕の中で眠っている彼を見る。


「起こすよりこちらの方が早かったからこのまま連れてきたわ。問題ないでしょ?」


「え、えぇ。まぁ、問題はありませんが」


「じゃあ。行きましょうか」


「総員乗車!」


部隊長の号令と共に数十人の隊員が一斉に各々の車に乗り込む。その後に私達研究員達は真ん中とその後ろの車に乗り込んだ。


「基地から出たら帰ってくるまで絶対に気を抜くなよ! 荷物と博士を命を懸けて守れ! 彼女らはこの国の未来がかかっている!」


「「「「了解!!」」」」


部隊長の号令と共に動き出す車列が今駐屯地から出てきた時とは別の方向に向かって走り出した。


それを、窓から見送るウィステリア。視線をそのままに、部下に指示を飛ばす。


「ストレーム大尉を呼びなさい。荷物の発送が終わった。しかし、発送状況に不安ありと」


「は! 只今」


敬礼をし、部屋から出て行く。


「出来れば彼にはこちらに残っていて欲しかったのだが......。仕方ない。私の(プリンセス)になにかあったら大変だからね」


窓に手を置き、駐屯地から出て行く車列を見送りながら微笑む。その眼は紫の妖光が宿っているのだった。





出発してしばらくしてから彼は起きた。


「っん......」


寝た時にはなかった窮屈さを感じ身じろぎする。それから、身体を起こし、周りを見渡した。特製の目隠しをしている為、目が見えないのだが寝ぼけているのか、暗い場所にいるのだと勘違いをし照明のスイッチに手を伸ばそうとする。だが、それも拘束具のせいで叶わず、ここでようやく自分の置かれている状況が掴めてのか席に座り直し、大人しくする。


「起きたの?」


声のする方向に顔を向け、こくりと一度頷いた。その後は背もたれに身体を預け虚ろ虚ろしている。


「こうして見ると普通の少女ですね」


「まぁ、そうだな。博士。ここまで拘束する必要があるのですか?」


私達の正面に座っている隊員の一人が彼を見ながら、話し始めた。その言葉にその隣に座っていた隊員が呼応するように口を開く。


「少女じゃなくて少年ですよ。こんな可愛い風貌していますがね」


私が答えると隊員が驚き彼の顔を見た。


「え!? そうなんですか!」


「確かに可愛い顔していますが主任と研究所の子供達以外は凶暴でいつ暴れだすか分かりませんよ」


「ちょっと!」


質問に答えていると別の研究員が話の間に入ってきた。私の静止を振り切り話始める。


「いいじゃありませんか主任。部隊の人にもこれ(・・)の凶暴さを知ってもらった方がいいですよ。これが、研究所に来て直ぐに暴れて警備兵と研究員を大勢殺したんです。そのせいで精神を病んでやめてしまった兵士が居るくらいひど「やめなさい!」す、すみませんでした......」


思わず声を荒げてしまった。


「すみません驚かせるような事を言って。しかし、あれは私達のミスが招いた結果です。普段通り子供を接するようにして頂ければそのような事は起きませんのでご安心ください」


とっさにその場を濁し、少しの間兵士達と話しをした。それから、数時間たち何事もなく走っている時に車列が止まった。


「博士、ここからは徒歩で移動します」


「? 徒歩......ですか?」


「はい、これより先は車では目立ち過ぎますので。機材の運搬は魔導無人機(ドローン)が行いますのでご安心ください。―――ヘミングの班はヘミングが術式陣を完成させられるよう補助と援護。マルセルの班は車両の偽装と物資を魔導無人機に積み込み。他は作業終了まで周囲を警戒!。いいか、迅速に行動しろ! いいな!?」


隊長が指示を飛ばすと、隊員達はまるでスイッチが入ったかのように動きが変わり、行動を始めた。


「ロプトにもこう言った魔導機があるのですか」


「ええ。と言ってもエイル程ではありませんがね。精々、兵士達の雑用をする程度ですよ」


魔導無人機を起動する兵士は答えた。数は六台。長方形の身体に獣のような足を持ち、四足で歩いている。なんとも不思議なフォルムだ。腕輪状の装置を付けた二人の兵士が移動すると、三台づつに分かれその後ろをトコトコと歩く姿はシュールで思わず吹き出してしまう。

上部の平らな部分に次々と機材や必要な物資を積み込む。その高さは魔導無人機の足から身体の高さとほぼ同じで荷物を載せる度に僅かに揺れる所を見ると、何となく頼りない。

しかし、実戦に投入される事もあって、載せた衝撃で横に倒れそうになると器用に足を使い、身体のバランスをとっていた。

研究所にも配膳用の魔導機はあるが、これ程高性能ではない。


「た、隊長。術式陣が完成しました」


「よし。総員警戒を維持したままヘミングの所に集合しろ」


技術の進歩に感心していると、準備が整ったのか部隊長が集合を掛けた。周りを警戒していた兵士達は私達研究員を守るように囲みながらヘミングと呼ばれる兵士の所に足を進める。

普段、研究所に引きこもって守られる経験がない私達は少し戸惑いながらも、兵士達が編隊を崩ずれないように一定の速度を意識しながら動いた。


「博士。我々は警護の訓練が受けております。どうぞ、気を遣う必要はございません」


「すみません。つい」


「いえ。謝ることではありませんよ。では博士の方々はここに来た時のように目をつぶっておいて下さい。転移の準備―――今だ」


「飛びます!」


隊長の言った通り、目をつぶった。






「隊長。成功しました」


「周囲を警戒。博士。我々は今、ロプトからエイルに転移しました。今回はエイルからロプトに向かって能力を使っていただきます」


「......そういうことですか」


平原から能力を使えばどうやってもロプトからの攻撃だと相手に侵攻するきっかけを与えてしまう。だが、エイルからロプトに向かって能力を使えば、仮に要塞を破壊出来なかったとしてもロプトから防衛行為として攻撃をする切っ掛けを作る事が出来る。どう転んでもロプトに有利な場面になる。



だが―――。



「もしも、失敗すれば。一瞬の内に要塞からの兵士に居場所がバレてしまいます。彼の能力はそれ程目立つ。その時、転移の祝福者が行動不能になった場合。私達はどう逃げるのですか......」


「博士。我々は軍人です。今回の命令はそういった事態に陥った際の指令も受理しております。博士はどうか実験の事だけをお考え下さい」


言葉を聞いた瞬間。理解した。ロプトはどんな手を使っても研究の事を隠匿するだろう。例え。我々を殺す事になったとしても。

































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[一言] いつものことなんですけど。後書きみて星押したいなって星欄みると既に5つついててこれ以上押せないというジレンマに陥ります。 続きを楽しみにしてます(*´ω`*) 作者様もご無理なさらない程度で…
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