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予定変更

朝。起きるとそこは違う部屋。周りには子供は居らず、ベッドの中に自分以外の温かさを感じない。


「......」


上体を起こし、しばらく身体が目を覚ますのを待つ。それから、完全に目を覚ますと、固まった身体伸ばし、筋肉を解していく。

そして、深呼吸。

鉄格子の付いた窓からは光りが入り、朝である事が分かる。

やる事がなくなりベッドに腰を下ろし枕の横に置いていた髪留めを拾う。


どうしよう......。


差し込む陽射しが紫色の石光らせる。それを眺めながら解いてしまった髪をどうやって結ぼうか考えている。


「ハンナに頼むしかないかな?」


結論を出しハンナが来るのを待っていると突然扉が開き、誰かが入って来た。

紫色の髪の少女。全体的に黒色の服装でスカートを揺らしながら近づいてくる。少女らしからぬ大人びた身体つきに自然と心臓の鼓動が高まった。


「おはよう。よく眠れた?」


「え? う、うん」


実験場に何で子供? そう思っていると少女の方から話し掛けてくる。


「君はそんな顔をしているんだね。昨日は顔が隠れていたから気になっていたんだ」


「えっと。君は何でこんな所に居るの? ここって実験場の筈何だけど......」


「ここの偉い人が私の両親なの。今回は見学で付いてきたのよ。―――それより。貴方、そんな顔しているのね。とっても綺麗な顔しているじゃないか」


「え? ちょっと......」


そう言うと僕の戸惑っているのもお構いなく直ぐ隣にふわりと座り、紙一重の距離まで顔を近付けてくる。見れば見るほど綺麗な顔。思い返してみれば、この世界の人達は美形な人が多い。

何でだろう。

そう考えていると唯でさえ近い顔がゆっくりと近付けてきた。


「見たことない髪。見た事ない目。見た事ないのもそうだが、凄く綺麗。出来るのなら私の物にしたい」


目を覗き込み、片手で僕の髪を一房優しく掴むと目の前でくんくんと匂いを嗅いでくる。


(何だこいつ)


感じた事がない恐怖を覚えた僕はベッドに後ろ手に下がるように逃れようとする。しかし、四つん這いになりながら追いかけて来た。

やんわりと近づいてくるなと行動で表したつもりだったのだが、彼女には待ったく真意が伝わっていない。


いいや、伝わっていないじゃなくて伝わっている上でのこの行動か?


「......あの。怖いんだけど」


「大丈夫。何も怖くないよ」


ダメだ話が通じない。


遂に背中に壁が当たりこれ以上後ろに下がれなくなった。それなのにさっき以上に近づいてくる少女。両足に跨り、壁に手を付くように再び顔を近付けてくる変人。もう片手は僕の顎を掴んでおり、前のように顔を逸らす事が出来ない。


「本当に怖いんだけど」


「こんなに君に興味を持つなんて自分でも不思議。今まで人に興味を持つなんて事なかったのに―――」


震える声で抗議する僕を無視し、今度は本気で唇を合わせようと襲ってくる。手の力が強く顔を逸らす事が出来ない。

何か、得体の知れない何かが襲ってくるような感覚が全身を襲う。




―――もう少し、あと少し、ヤバイ、当たる。




その瞬間、扉が開く。


「失礼します。アルベルティーナ様がお目見えになっておりますが」


「......何か頼んだ覚えはないのですけど」


「それが大事なお知らせとだけ」


「―――今行きます。......また、後でね」


固定している手が離れると直ぐ顔を逸らした。そして、少女が出て行くのを待っている。しかし、以前気配が離れる様子はなく、頬に水っぽい何かが下から上に上がっていく感覚。

少し遅れて身体全体が震え、悪寒が襲う。


(舐められた!)


何なんだこの女! 気持ち悪い!


彼女の方を見るとぺロリと唇を舐めながら上機嫌で出て行った。






「おはよう。あれ? もう起きていたのね」


朝食のトレーとお湯の入ったバケツ。それから歯ブラシやタオルなど身支度に必要な物が入ったバッグを持って入って来たハンナ。髪が乱れている僕を見ると「寝相が悪いのね」と笑いながらバケツを床に置いた。


「起きた」


「これ、朝食。それと、身支度の為にお湯も持ってきたわ」


「ありがとう。ハンナ、髪結べる?」


「え? 髪? ......あぁ。出来るわよ。後でやって上げるわね。昨日みたいなのでいいんでしょ?」


「うん」


膝を付きバケツに入ったお湯で顔を洗う。それから、タオルで顔に付いた水分を拭き取り歯ブラシを口に含む。


「今日は朝から身体検査。昼から実験を始めるからね」


後ろで髪を結ばれながら歯を磨き頷く。それから、バケツとは別に渡されたボトルに口を付けうがいする。そして、吐き出す場所を探し、ハンナの指差すバケツの中に吐き出した。



「さっき知らない子供が入って来た」


「......それ紫色の髪をしていた子供?」


「うん、知っているの? ここの偉い人の子供って言ってた」


「―――知っているわ。確か、子供が一人見学に来てたわね」


何とも微妙な顔で歯切れの悪い話し方。あの子供と何かあったのか? そう思いながらも言葉に出さずにもそもそと味のしない朝食を摂った。


本当にこれ何なんだ? ポテトサラダのような触感で無味無臭。お腹に溜まるかと言われればそう言う訳でもなく、栄養があるのかと思ったが違うらしい。最初は薬の類かと思ったが、苦味がなく薬っぽくない。

結局、今だに何なのか分からない。


そして、再び一匙掬うと口に運び、顰めた。


「―――美味しくない」


その一言に尽きる。


朝食を早く済ませ、検査が始まった。拘束した状態では出来ないらしく、機材をこの部屋に運び込み行われた。唯でさえ狭い部屋に機材やら職員やら入るときつく暑苦しい。ベッドに寝ると、腕や胸にコードを貼り付け数値を調べられる。

それから、体温や採血等々......終わったのはお昼少し前頃。寝ているだけだったが、何故か疲れた。


身体を起し、ベッドから降りると次の実験に備えて昼食を摂った。勿論、何時もの食事だ。数値を入力し、検査結果を記録している人達の傍でもそもそと食べていると、扉が開き、兵士の一人が入って来た。


「博士。少しお話が」


「分かりました。少し席を外すわね」


「え?! あ、はい了解です」


研究者の一人がこちらを見る。ハンナが居ないと不安らしく。途端、部屋中の空気が張り詰めた感じがした。


「別に暴れないっての」


「......」


無視かよ。


目も合わせようとしない奴らを置いてハンナは出て行ってしまった。時間にして十数分。帰ってきたハンナは何処か気の抜けたような顔をしており、部屋に戻って来ると直ぐに溜め息を吐き、職員に指示を飛ばした。


「昼から行われる実験が変更になったわ。後でみんな会議をするわよ」


「変更? 何かあったんですか?」


検査が終わり機材を片付けている研究者の一人が不思議そうに尋ねた。


「それも後で説明するわ。今は機材の片付けをしましょう」


手馴れた手つきで片付け出て行ってしまった。






私はあの子の身体記録を眺めながら、先ほどの事を思い出す。


「変更......ですか?」


「そうだ」


中佐の部屋に呼び出された私は行き成りそう言い渡された。実験の変更は珍しくない。被検体の状態や不測の事態が起こった時なんかは変更や場合に寄っては中止なんて事もありえる。

問題は変更は急すぎると言うことだ。


「さすがに急すぎます。こちらにも準備もありますし、被検体に負担がかかる事は出来るだけ避けたいです」


「大きな変更はしない。唯、場所を変更するだけだ。それなら、文句はあるまい?」


「それでも急な変更はやめてください」


「私だって予定を組んだのならその通りにやりたい。しかし、今回は特別でな」


ウィステリアは机の上に乗っているファイルから一枚の写真を取り出しハンナに見せた。それには女性が写っている。彼と同じ、黒い長い髪、黒い瞳、肩にはコートを羽織っているのが分かった。

この世界で黒い髪と言ったら一つしかない。


「奈鬼羅......」


「その通り。あの世界最強の一族と謡われた奈鬼羅の一族。しかも、その今の長が現在要塞で防衛任務にあたっていると言う情報を手に入れた。先代の奈鬼羅の戦闘記録を見た事があるが、あれは祝福者の中でも別格。神の生まれ変わりと言われた虹の眼(ビフレスト)と同等かあるいかそれ以上......。これは由々しき事態であり、今回行われる予定だったフリック要塞攻略作戦も大幅に変更する事になった。それにより、君達が行うはずだった威力試験も変更される」


そう言いながら同じファイルから取り出した地図で説明を再開した。


「今回、反撃の口実を作らせないようにしたい。だから、駐屯地から離れた場所で行って欲しい。先代程の力がないのであればこのまま作戦を始める。しかし、先代と同じかそれ以上なら私達は不明の第三勢力が行った事として偽装する」


「私達を見捨てるの?」


自分でも怖ろしい程低い声が出た。目の前の少女を睨みつける。しかし、相手はそれを意に介さずと言った感じで表情一つ変えずハンナの疑問に答を投げる。


「十分離れた場所から行う。それに、私達が行ったと思わなければ下手に反撃してくる事はしないだろう」


確かに、帝国側の攻撃ではないのなら反撃してこないだろう。今は国と国が絶妙なバランスで成り立っているこの世界で確証のない反撃は攻撃と同義。下手したら重大な戦争行為として国際的に窮地に立たされる可能性がある。だから、他国側から攻撃にあったというだけで、越境してまで反撃してくる可能性は限りなく低い。


「それでも私達が危険にさらされるのは確かです。中佐だって分かっているでしょう? 今回の被検体は他の者とは違うのです。何種類ものグルヴェイグ因子を取り込「黙りなさい」っ! ―――」


ウィステリアのその静かな一言でハンナの口が閉じる。驚愕の表情を露わし、何が起こっているのか分からないと言った感じで少女の顔を見た。


「機密情報を大声で話すものではない。話を戻すが、私は貴方にお願いしているのではない。命令しているのだ。それに、彼女の重要性は良く知っている。全てを考慮した上での命令だ。つまり、この会話自体不毛であり時間の無駄である。今後二度と私の命令に逆らわない事。分かったら頷きなさい」


私の油を差していない機械のように動きの悪い動作で少しずつ顔を縦に振った。すると、ウィステリアは「自由にして良いよ」と言う。


「......いったい何が」


身体が軽くなり、口を開くようになった。


「開始時間はニ三○○。案内と護衛をつけるから君達は必要な機材を持って待機しているように。以上、退室してくれて結構」


「......失礼します」




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