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灰被りの少年 中編

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 2022/09/03 文を修正しました。

 ナイフを入れると力を込めなくてもするりと肉が切れた。

 滴る肉汁が服に付かないように気をつけながらソースを付け、一気に口に放り込む。


「美味しい......」


 口の中に広がるソースに絡まった肉の味。

 自分の世界でこの質の肉を食べようと思うときっと何人もの札を犠牲にしないといけないだろう。

 それぐらい美味な味だ。

 付け合せのポテトを口に放り込み、また肉を食べる。

 食べる時はよく噛むように躾けられていたのだが、今は次の肉、次の肉と欲しくなってしまう。


「ふぅ......」


 気が付くと鉄板のプレートに載せられていたステーキは、付け合せと一緒に綺麗になくなっていた。

 それから、しばらく口の中に残ってあるステーキソースの余韻に浸っていると、ヘズの控えめな笑い声が聞こえてくる。

 片手で小さな歯形が付いたサンドウィッチを持ちながらもう片手で軽く口元を隠していた。


「そんなに美味しそうに食べる人初めて見ました」


「見てたの?」


「あまり美味しそうに食べるので思わず聞き入ってしまいました。ご不快でしたか?」


「いや。ヘズなら良い」


 そんな悲しそうな顔で見られたらダメなんて言えない。

 ナプキンを手に持つといそいそと口元を拭うとヘズと子供達の食べ終わるのを待った。

 残りの時間は二日と半年。とりあえず今日ははヘズと一緒に過ごそう。ゆっくりシャワーを浴びてゆっくり寝よう。 それから―――。


「―――あれは」


 そんなことを考えながら頬をつき、ふと廊下の方を見る。

 そこにはあの青髪の男とハンナが、その横には見知らぬ服装の人達。


「帝国の軍人の方ですね」


「え? ヘズ目が見えてないのに何で......」


「音です。以前、帝国の軍隊の方と会う機会がございました。その時に聞いた靴の音に似ています」


「帝国......」


「もしかして、知らないのですか? ロプト帝国」


「え? いいや。知っている」


「すごくおおきいんだよ!」


「わたしあのくにこわいからきらい」


 歯切れの悪い返事をし、子供達の言葉を聞きながらも視線は以前、廊下を歩いている青髪を見る。

 軍服に身を包んだ二人の人。一人は黒い色の軍服の青髪と話してる口ひげの生やした初老の男性。もう一人の着ているより細かい造りで恐らく上の階級に属する人物だろう。

そして、もう一人は、緑色の服の長い赤い髪を束ねた若い女性。

 男の後ろを付いて行くように歩き。気の強そうな切れ目は時折、顔を動かさず辺りを見渡す。こっち護衛か?

 男性と青髪は話しながら歩き、こちらを見ると指をさした。


「チッ......」


 あの男に見られているだけで、気分が悪くなる。


 僕は隣に食べている子供達に聞こえないように小さく舌打ちをし、あからさまに目を逸らすように廊下から反対方向に顔を向けた。


「どうかしましたか?」


「何でもないよ」


「貴方の周りの空気が変わりました。......その、ピリピリとした何かにイラついているような感じがします。やはり、音を聞かれるのが不快でしたか? もしそうなら―――」


 悲し気な顔をするヘズに、慌てて返事をする。


「違う! 違うから。......ちょっとだけ嫌な事思い出しただけだから。ヘズは何も悪くないから。ね?」


「そうですか......。あの、良かったらその貴方の不快の原因を話して頂けませんか? 一人で悩むより二人で考えた方がもしかしたら解決するかもしれません」


「え?」


「貴方の力になりたいんです」


 一瞬。ほんの一瞬だけ、考えてしまった。

 そして、もし僕が今、彼女に全てを話し現状を打開する手立てが出るだろうか。

 答えはノーだ。

 では、僕が今、彼女に全てを話した場合、間違いなく彼女は僕を助けようと動くだろう。

 これまで、ヘズは勿論子供達に僕と同じような事をさせているようには見えなかった。

 そうなったらヘズや子供達は果たして無事でいられるだろうか。

 答えはノーだ。

 あの男の事だ、子供達に対しても何の慈悲もなく引き金を引くことが出来るだろう。

 そんなのは絶対に嫌だ。絶対、絶対、絶対―――。


 胸の底から、黒い感情が湧き上がってくる感覚。

 身体の上から何かが覆いかぶさってくる不快感。


「―――嫌だ」


「えっと。やっぱりダメですよね。す、すみません」


「そうじゃない。ヘズに話す程のことじゃないから」


「......そうですか。分かりました」


 話が終わる頃には子供達はみんな食べ終わっており、廊下に立っていた青髪達も何処かに行ってしまった。


「じゃあ、戻りましょうか」


「うん。そうだね」


 食べ終わった食器の載ったトレーを持ち上げると、返却口に置く。それから、歩いて来た廊下を戻って行った。

 ヘズとアメリアと他愛の無い話をしながら、ゆっくりとした足取り。時折、外から射す日光が身体に当たり、心地の良い気持ちになってしまう。

 窓越しに太陽の光りを見て、眩しさで目を細める。

 前を走っている子供達が、さっき来た廊下とは別の廊下に向かって行くのが見えた。


「ヘズ。子供達が別の道に行ったけど」


「今日は外に出ていい日ですので中庭に向かっているのでしょう」


「中庭?」


「私達は外には出れないので職員の人達が、時折こうやって施設にある庭を開放してくれるんです」


 私達も行きましょうと言いながら足を止めた僕の手を握り、走っていく子供達の後を追っていく。


 知らない廊下、知らない風景。

 窓から見える景色も殺風景ではあるが、僕から見れば新鮮で心が躍った。

 まるで、遊びに出掛ける子供のように僕は足の止めずに過ぎていく窓から見える木々。その向こう側に見える研究施設の壁を夢中で眺めていた。


「外か......」


 そう言えば一度も外に出たことなかったな。


 階段を下り、エントランスホールから中庭に続く入り口に向かう。

 

「あっちはおそとのいりぐち」


 アメリアが指差す所を見る。

 分厚いガラスで出来た三重の扉が存在し、扉の外と内に重装備の兵士が警備しており、その扉と扉の間には液晶パネルがあり、許可のない者には開かないようになっている。


「......そう、なんだ」


 警備兵達は僕の姿を見ただけで、銃を手に何時でも狙えるような姿勢を保っているのが分かった。


「そっちは引き取って頂ければ通る事が出来ます。アメリアも何時か......」


「わたしはおねぇちゃんたちといっしょがいい」


 ヘズのスカートをちょこんと握り、小さく呟いた。


「私達も何時までも一緒がいいです。でも、もし貴方を引き取ってくれる方が居るのなら。そっちの方がいいのです。ここは子供が何時までも居る場所ではないのですから」


 ヘズの言葉を良く分かっていない様子のアメリアの頭を撫でながら、中庭に続く扉を開き太陽の下へと出て行った。そして、僕も外に出ようとすると、嫌な声が聞こえてきた。


「それでは私達はこれで」


「ええ、良い取引が出来たこと感謝します」


「大佐、そろそろ」


「分かっている。―――それでは所長、期待しているよ」


 軍人が僕の方に向かって歩いてくる。


「おや、君も中庭に出るのかい?」


「......悪いですか?」


「いいや。楽しむといい」


「君にも大いに期待している。頑張ってくれたまえ」


 早く離れたい気持ちで話していると、傍を通る髭の男にはそう言い残し、僕の返事を待たずに外へと出て行ってしまった。


「? は、い。ありがとうございます」


「大佐、時間です」


「分かっている。そう急かすな」


「申し訳ございません」


 外には三台の装甲車と兵士達が、二人を迎えていた。

 ここの施設の兵士達と同じような装備の兵士達。彼らが出て行くのを見届けた青髪の男はこちらに向き直り僕の頭を撫でると一緒に来たハンナに子供達に任せると何処かに消えていった。


「ッチ!」


 青髪が見えなくなると、触られた部分を拭い取るように髪の毛を払い、ハンナの方に身体を向ける。

 両手で書類を抱えながら困ったように微笑む。


「彼。大丈夫。皆と仲良くしているかしら?」


「彼? あぁ、あの灰色の子供のこと?」


「ええ。彼、貴方が出て行って直ぐにここに来たんだけど、どうもここまでに何かあったみたいで人を信じることが出来ないみたいなの。その上、強力な祝福者でね。本当は他の子供達と一緒に生活出来ない程不安定なのだけど」


 貴方に話す事ではなかったわねと途中で話を中断し、片手で書類を抱え直すと僕の方に手の平を差し出した。


「僕そんな年じゃないから」


「そうだったわね。何時もの癖でつい。貴方も中庭に出るんでしょ? 一緒に行きましょうか」


「うん。ハンナ、仕事はもういいの?」


「ええ。今日はもうおしまい。午後からは貴方達と一緒にいるわ。あの子の事も気がかりだ―――」


 そう言いかけた瞬間、中庭から悲鳴が聞こえてきた。


「!」


「何!?」


 扉を警備していた兵士達が、小銃を構え薬室に弾を込める。そして、手首に付いている端末で他の兵士と連絡を取ると、中庭に向かって走っていった。

 僕も兵士達に付いていくように中庭に向かう。


「近づくんじゃねぇ!」


「落ち着け! 自分が何をしているのか分かっているのか!」


 子供達は避難したのか兵士達だけが居り、灰色の子供を半包囲している。そして、子供の傍には血を流した兵士が数人転がっているのが分かる。


 あいつがやったのか。


「何があったの!」


「ハンナ研究員! 中庭に居る少年を兵士が何か言ったようで、それに怒った少年が、攻撃を加えたようです! その際、止めに入った兵士達数名も同様に攻撃に合いました!」


「貴方達! 彼は今不安定なのを知っているでしょう! なのになんでそんなこと......」


「大人なんてどいつもこいつも! ―――」


 灰色の少年は手の平を此方に向ける。そして、手の平の前の空間が突然光りだし、円形の魔法陣が現れた。

 徐々に空中に火の玉が現れる。その玉はどんどん大きくなっていく。


「止むおえん! ハンナ研究員射殺の許可を!」


「そんなこと出来る訳「このままでは我々がやられてしまいます!」ッ!」


「注射銃を使うにしても、有効射程に近づく前に燃やされてしまいます! どうか射殺の許可を!」


「......分かり「ハンナ待って」」


「その注射銃を撃てたらあれは抑えられるの?」


「ええ! あの銃には即効性の睡眠薬が入っているわ。あれさえ打ち込めれば......」


 僕なら出来るはず。今までは無意識に使っていた。どうやるかは分からない。でも、今やらないとハンナが危ない。


「その注射貸して」


「おい!」


 兵士の腰から奪うように注射銃を取ると前に自分に使っていたのを思い出しながらボタンを押しながら中心を折り、中から注射型の弾丸を取り出す。

 そして、意識する。

 弾丸を止めたあの時の感覚を思い出す。


 動け、動け、動け。


「よし」


 僕の手から一人でに弾丸が浮き上がる。兵士達を盾に、相手から見えないように真横に移動させた。


 あいつは気付いていない、いける。


 頭の中で思い浮かぶ弾道。それと同じように弾丸が動き少年の首筋に命中した。


「いっ! 何だこ、れ―――」


 灰色の少年は首に刺さった弾丸を引き抜くと同時に倒れる。あと、もう少しと言う所で魔法陣が光りの粒になり辺りに四散し、火の玉も何処かへと消えた。


 成功した。初めて自分の意思で出来た。


 僕は心地よい達成感を感じながら投げ渡すように注射銃を返すと、少年の方を見やる。僕と同じような首輪を付けられ、両脇をそれぞれ抱えながら何処かへ連れて行かれた。


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