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灰被りの少年 前編

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 2022/09/03 文を修正しました。

 隔離室から出て、子供達の居る居住区に戻ってくると、一人見知らぬ少年がいた。

 その灰色の髪をした少年は、遊んでいる子供達と距離を取り、一人部屋の隅で視線を下に足を抱えながらただ座っていた。


「あの子、貴方が出て行ってから直ぐに大人の人達が連れて来たんです。でも、あの通り他の子供達と遊ぼうとしませんし、遊びに誘っても威嚇しちゃって遊ぼうとしないんです」


 ヘズが困り顔でそう言うとアメリアに手を引かれながら灰色の少年に近づく。

 ヘズが話しかけると睨みつけるように彼女を見る。それにアメリアはヘズの後ろに隠れてしまった。数回言葉を交わすが、声を荒げる少年にどうすることも出来ず僕の方に戻ってきた。


「困りました......」


「......こわかった」


「放って置けばいい」


「そう言う訳には......」


「ヘズは優しいんだね」


「このままでは子供達が怯えたままですし、それに、誰でも寂しいのは嫌ですから......」


 腰に抱きついたアメリアの頭を撫でながら憂いの含んだ笑顔。

 確かに時折、子供達はあの少年の方を気遣うように見ている。

 このままじゃ気持ちよく遊べないか......。

 せっかくの平穏なのにこれじゃ台無しだ。


「しょうがない......」


「え? あのどこに」


 胸の膨らみを鬱陶しく思いながら少年の方に近づく。


「おい」


「......なんだよ」


「お前、ずっとそうしているつもりか?」


「......うっせ」


「お前のせいで子供が怯える。その態度何とかしろ」


「知るか」


「お前のせいでヘズが困ってる」


 少年はいらついた表情を浮べ、乱暴な語調で威嚇する。


「だから知らねぇっつってんだろ。どっかいって―――」


 少年は顔を上げると。

 呆けた顔で僕の顔を見る少年は数秒固まると、顔を赤らめながらそっと顔を横に向け視界から僕を視界から外した。


「ヘズが困っている何とかしろ」


「知るか」


「ヘズが困っている」


 だが、僕はそのまま横に移動し、視界に入ろうとする。

 しかし、また顔を動かし、移動する。


「うざいんだよ!」


 何回か繰り返すと痺れを切らした灰被りの少年は、声を荒げながら立ち上がり僕に向かって殴りに来た。


 ......おっそ。


 まるで、止まって見える。

 と言うか止まっている、これは本気で殴っているのか? 

 こっちは貴重な平穏の時間をゆっくり過ごしたいのだ。多少荒くても直ぐにでも状況を改善したい。


「うざいのはお前だバカ」


「いった!」


 殴ってきた拳を難なく交わし、軽く指で額を弾いた。

 ほんの少ししか力を入れていない筈なのだが、少年は尻餅を付く形で倒れる。

 両手に額を痛そうに押さえながら涙目で僕を睨みつけてきた。


「お前がどういう経緯でここに来たのかもお前がどうしてそんな態度を取るのかも知らないし、知りたいとも思わない。でも、ここに居る子供達やヘズを困らせたり怯えさせるようなことをしたら僕は容赦なくお前を黙らせる。分かったな?」


「......」


 へんじがないただのくそがきのようだ。


「そうか。分からないようならもう一度」


「ッチ! 分かった! 分かったよ!」


 今度はさっきの二倍の力を込めて額に照準を合わせる。

 少年は涙目になりながら座りながら後ろに下がり、僕から距離を取る。

 まったく納得しているような様子ではなく、この状況を打開しようとした感じではあったが、また、同じようなことをしようとしたらその都度、額に一発くれてやるつもりなので今回はこれでいいだろう。


「ふん」


 面倒くさい。

 そう思いながら、今だ反抗的な少年の所を離れ、ヘズの所へ戻った。


「......ゴリラ女」


「......チッ! 鬱陶しい。―――ねぇ。そのボールちょっと借りていい?」

 

 ちょうど、前を横切る子供達が視界に入ると、ある事を閃いた。


「うんいいよ!」


「ちょっとだけだからね!」


 ボールを投げ合いながら遊んでいる子供からボールを借りると、十数メートル離れた所から少年に向かって投げる。


「いっ!」


 投げたボールはレーザービームの如く軌道で少年の顔面にめり込んだ。

 そして、先ほどと同じように後ろに倒れると今度は起き上がらず、そのまま身体を横にしたままだった。

 気絶でもしているのだろうか、それなら静かでいい。

 少年の顔面から返ってきたボールを拾い上げ、子供達に返すと頭を撫でてやり、改めてヘズの元に帰っていった。


「話は付けたから」


「そうですか! あの子、大丈夫でしたか? 私と話した時はかなり警戒した様子だったので」


「うん。ちゃんとお話したら分かってくれた。でも、もしまた同じようなことがあればまたお話するからヘズは安心して」


 僕はそう言うと先の一連の出来事を見ていて困惑気味はアメリアに人差し指を口元にあて、『黙っていてね』と合図を送ると、一瞬遅れて僕と同じようにジェスチャーをした。

 分かってくれたんだろう。

 ヘズの手を握っているアメリアの頭をゆっくりと丁寧に撫でてやる。

 それを、気持ち良さそうに目を細めているのを見て思わず頬が緩んでしまった。


「そう言えば身体の方は大丈夫ですか?」


「?」


「ハンナさんから聞きました。生まれつきの病気で定期的に身体を診てもらわないといけないって」


「......う、うん。大丈夫。検査で一日他の場所に居ただけだから」


 そんなふうに聞いていたのか。

 一瞬遅れて言葉を返した僕に『それはよかったです』と言いながらポケットから何やら取り出した。


「あの。これ前言っていた髪を止める為のヘアゴム手に入れましたので後で編み込んであげます」


 そう言って薄紫色の石の付いたヘアゴムを見せてきた。


 髪の毛か......。


 髪の毛を気にするほどの余裕が無かったから何も思わなかったが、意識した途端、鬱陶しくなってきた。

 生まれてからこんなに髪が伸びたことがなかった対処法が毛を切る以外検討が付かない。


 後はゴムで纏めるぐらいだけど。


「......」


 自分が可愛く髪の毛を編み込んでめかし込んだ姿を想像すると、悶えるくらい恥ずかしい。

 だからって、目の前で綺麗な笑顔を見せているヘズの手前『あ、やっぱり恥ずかしいから髪の毛結ぶのなしで』なんて言えない。


「あの、このヘアゴムじゃダメでしょうか? ごめんなさい、私の力じゃこれくらいしか用意する事が出来ませんでした」


「え? い、いいや! ......嬉しいよ。ありがとう」


 間髪を容れずに申し訳なさそうに眉を落としたヘズに礼を言う。


 大丈夫、大丈夫。

 想像しないで、鏡の前に立たないと大丈夫な筈。

 ............多分。


「そうですか! 喜んでくれて私も嬉しいです」


「僕は男、僕は男」


「おねぇーちゃん。おひるごはん」


「お昼? あぁ、そうですねそう言えばそろそろお昼の時間でしたね。それじゃあ、お昼が済んでから行いましょうか」


「うん......」


 椅子に座ったヘズの手を取り、立ち上がるのを手伝うと子供達を呼び一緒に食堂へと移動する。

 後ろ当たりにあの少年も付いてきてるのが見えた。

 額を赤くしながらこちらを睨んでいる。

 不貞腐れた顔がイラつく、少しでもヘズを困らせるようなことをしたらお話してやろう(・・・・・・・)


「警備も付けないで所長は何を考えているんだ......」


「もし前みたいに暴走したら、今度こそ研究どころじゃなくなるわよ。あんな最低限の拘束具だけじゃ気休めにしかならないわ」


「今日は騒がしいですね。何かあったんでしょうか?」


「ヘズは気にすることじゃない。早く、食堂へ行こう。お腹すいた」


「そうですね。子供達もお腹を鳴らしているみたいですし」


 ヘズを誤魔化しながら、いつの間にか僕の手を握っていた子供達を引っ張るように足を進める。

 途中、通り過ぎる兵士や研究者達が僕の方を見て、何やら言っているのが分かったが、全く気にしない。

 それは何故か。


「今日は何を食べよう」


 まともな食事が食べれるからである。


 実験中は何故かあの味の無いドロドロの食べ物を食べさせられた。だから、味のある物を早く食べたいのだ。そう考えると人の陰口何て気にならなくなる。

 今日は味の濃いものを食べよう。ミートボール、グラタン、ステーキ、ベーコン......。

 兎に角、今は肉が食べたい。まあ、毎日肉しか食べてないのだが。


 僕自身、そこまで食と言うモノに興味は無かった。

 せいぜい、不味くなかったらよし。

 美味しかったらラッキー程度に思っていたのだが、こちらに来てからは毎日食べ物かどうか分からないモノを食べさせられていた反動からか、自分でも驚くほど食べ物に興味を示すようになった。

 ここに来て初めてチョコバーを食べた感動が忘れられない。


「くろかみのおねぇーちゃん! いっしょにすわろー」


「わたしもいっしょにすわる!」


「わたしがすわるのー」


「わたしよー!」


 四人の子供達が僕の隣の席を取り合うように喧嘩をしている。

 子供にあまり強く出れないことを知っていたヘズが馴れたように子供達を宥め、結果交代制で座る席を替えることに決まり注文するために端末に手を伸ばし、子供達に見えるようにテーブルの上に置く。

 ここは端末で注文をしてから出来上がった料理を取りに行くという感じだ。


「ステーキかハンバーグ......」


「わたしお子さまランチ!」


「わたしも!」


 この施設の料理の種類の豊富さに驚いた。

 普通、こういった施設は決まった食事が出される筈。

 なのにこの種類、この美味しさ。明らかにレストランと同じかそれ以上。

 居住区に来て初めての食事の時。何人かの子供達にどうしてここに連れてこられたのか聞いた事がある。

 皆、『助けられてここに来た』とか『奴隷として売られたのを買われてここに来た』とか総じて何かに巻き込まれたのを助けられてこの研究所にやって来ている。

 しかし、だからと言って何かをさせられている訳ではなく。

 偶にある身体検査の他には何時もの様に過ごしている。

 そして、偶に子供を引き取りに来ることもあり、研究所と言うより孤児院といった感じである。

 おかしい。明らかにおかしい。あの男がこんな何のメリットのない事をする筈がない。


「いったい何を考えてる......」


「子供達は決まったみたいですけど、どれにするか決まりましたか?」


「......え? あ、じゃ、じゃあステーキにする」


 端末にステーキの項目を探すと注文を打ち、他の子供のメニューを確認すると確定ボタンを押した。





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