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間話 作戦準備

8月30日。加筆致しました。

2022/09/03 文を修正しました。

 日が昇り少し立った頃。

 多くの人達は自分の仕事場に到着し、働き出している時間帯だ。

 作戦説明室から出てきたライラ達は入室した時とは違い、真剣な面持ちでこれから行う任務に備え、武器科にある兵器庫に向かっていた。


「持っていく装備の確認と魔導強化外骨格の整備状況の確認と調整。あとは......」


 オリヴィアは呟きながら自身の端末にこれからやるべきことのタスクを作成している。


「極秘任務か」


「これは大変だなぁ」


 アランの言葉にアレクサンドラが続ける。

 そう、今回の任務は極秘。任務の情報を他の誰にも漏れてはいけない。

 もしも情報の漏洩が確認された場合は漏らした当人と漏れた対象を排除しないといけない。老若男女関係なく。

 グングニルに回ってくる極秘任務はそれ程重要なものだ。


「今回は完全装備で行く......」


「そうね。その為の魔石と交換部品、後糧食も余裕を持って持っていきたい所だけど」


「魔石の申請が通るかね......」


「「「「......」」」」


 エイル王国の知識の粋を結集させた兵器。

 魔導強化外骨格(パワードスーツ)と呼ばれる兵器は陸戦型の『ハウンド』、空戦型の『レイブン』海戦型の『オルカ』三つの形態が存在し、その機動力、戦闘力は他の国の兵器を凌駕する程だ。

 しかし、その力にも代価は必要。

 先ずは動力源であるエンジンを動かす為の魔力。

 これは、自身の魔力ではなく、魔石と呼ばれる特別な石で代用する。

 だが、エイル国内には魔石が採掘出来る場所が限られている為、貴重で満足に数が揃わないこともしばしば。

 それに、東のロプト帝国に睨みを聞かせているフリック要塞には常に一定数魔石が必要で、そちらに優先的に供与される。

 だから、中央に届くのは更に少ないのだ。


 廊下の突き当たりに行き着くと、そこには一層重厚な扉が。

 オリヴィアが扉の傍にある液晶パネルを操作する。


「オリヴィエ・ラングナー」


『声紋確認。ロックを解除にします』


 扉が開く。

 そこには大きな空間が広がっていた。

 作業着を着た人達がせわしなく動き、兵士達が銃を手に取り的に向かって発砲している。

 時より兵士は隣に立っている作業員に言葉を交わし、また、弾倉を入れ替え、再び射撃を開始する。


 此処は兵器科の整備場。

 私達は作業を行っている人達を尻目に奥にある専用の整備場に向かっている最中。


「先に強化外骨格の確認をしましょうか」


「そうだね」


「じゃあまた後でな」


「うん」


 私達はそのまま各々の整備場に向かった。


 班毎ではなく一人一人個人に整備場が与えられており、その為の専属の整備員も用意されているのだから最初はあまりの高待遇に遠慮したものだ。

 だが、初任務でこれだけの手厚さにも納得出来た。

 余りにも苛烈で困難。

 隊員の腕だけではなく上質な装備と優秀なバックアップがなければ任務達成は有り得ない。


「ライラ様!」


「「「ライラ様!!」」」


「様はやめて。サラ」


「そうは参りません! ライラ様は私達の上司なのですから」


「我ら専属整備班貴方に拾ってもらわなければ今頃どうなっていたか」


 そう言うと筋骨隆々の男達は揃って敬礼の姿勢を取っている。

 そして、歴戦の戦士のような容貌の男達の前に同じように作業着に身を包んだ小柄な少女。

 短い薄い桃色の髪、翡翠色の瞳、庇護欲を掻きたてる幼い顔立ちに似合わない大きな器具を担ぎ、ライラの元へと駆け寄る。


「スーツのメンテナンスは終わった?」


「はい! 次の任務に伴い、部品の交換、銃器の点検に制御魔石の調整まで全て終了いたしました」


「そう」


 少女の後ろに続くように数人の作業員が


 尻尾が付いていたら千切れる程振っているだろうと思いながら件の物に視線を見やる。

 人工的に創られた筋肉の手足には鉤爪、金属で覆われた身体、胸には光りの失った宝石の様な物が埋め込まれている。尾の部分には三本からなるアームが付いており、物を掴めるようになっている。

 それから、目に付くのは背部に設置(マウント)されている二門の回転式魔導機関砲(ガトリングガン)

 毎分三千発もの銃弾を発射することが可能で、一瞬で相手の身体を粉々にすることが出来る。

 これが、私の漆黒の猟犬。

 戦場を共に駆ける猟犬(ハウンド)である。


「装弾数は?」


「左右千五百発の合計三千発です!」


「魔石の申請は?」


「それがびっくり予定していた数量で申請が通りました」


「......え?」


 渡された資料の入った端末を見ながら、ライラは少し驚いた表情を見せた。

 それ程まで、魔石が回ってこないのだ。

 それ故の驚愕。

 

「私共も驚きました。しかし、この通り―――」


 厳重な金属で出来た箱のロックを外し、中身を見せる。

 そこには紫色に光る、水晶のような石が整頓されて収納されている。

 数は十個。そのどれもが拳ほどの大きさで貴重なエネルギー源。


「これは......」


「数もそうなのですが、かなりの質。これなら一つ二十四、いいや四十八時間は持つでしょう」


「念のため詳細な魔力保有量を知りたい。これ、測定器に掛けておいて」


「は!」


 ライラはコートを脱ぎサラに投げ渡すと、座っている状態の強化外骨格に背部にハッチを開き、操縦席に座った。


 狭く、前かがみの状態に座り操作する操縦席。

 全部には三つのモニターに左右に操作レバー。まるでピアノを弾くようにリズムよくボタンを操作し、モニターの前に小さな試験管のような筒状の者が下から出てくる。


「ルイン」


 ライラがそう呟くと胸の中から小さな赤く光る球体が現れ、操作席にあるガラスの筒へと入っていった。

 それからまた、操作し、ガラスの筒を収納すると。


『任務?』


「もう直ぐね」


『もう起きる?』


「まだ寝ていい」


『はぁい......』


 どこからともなく声が聞こえてくる。

 この声の正体は私の契約している妖精であるルイン。

 妖精は身体自体が魔力で出来ている実態のない生命体であり、私達人族と唯一安定して対話を出来る、他世界の生き物である。

 そんな妖精と契約して初めて、この強化外骨格を操ることが出来るのだ。

 だが、その契約妖精と言うの契約してはい、終わり、と言う訳にはいかなく。

 力を借りるには定期的な魔力の提供。それから、遊んであげたり、兎に角妖精を飽きさせないようにしなくてはいけない。

 積極的にコミュニケーションを取り信頼関係を築かなければ契約を解除されることも珍しくないのだ。

 だが、良いのか悪いのか。

 私の契約している契約妖精は、他の妖精とは異なりおっとりとしており、偶に戯れたりはするが、基本的には寝ていることの方が多い。

 本人曰く『ライラの傍にいるとポカポカして安心するから』らしい。


 機体の調整具合を確認する。画面に表示する複雑な文字と数字の列やパラメーター。ボタンや操作レバーを動かし、時より微調整を加えながら最終調整を行う。

 武器にアーム、手足にモニター。全てを確認し終わる。


「ルイン」


『もどる~』


 再び筒を取り出すと、ルインに戻ってくるよう言う。すると、光りの玉はぷかぷかと筒から出て、ライラの身体の中へと戻っていく。

 それを見ると、筒を元に戻し、操作席から降りた。


「個人装備の方は?」


「其方も既に用意できております」


 機体の後ろ机に広げられているライラの持っていく個人装備。小銃に予備の弾倉、拳銃や小銃をメンテナンスする為のツール。魔導爆弾と魔導閃光弾。医療キットに野戦糧食(レーション)。無線機に手首に装着する形の位置情報を取得する為の端末。


「何時も通り防弾チョッキのほうは......」


「ん、必要ない」


 小銃を分解しながら答えるライラにサラは不満げな表情を見せる。


「ライラ様! 着ないと生存リスクが低くなります。お願いですから来てください!」


「前にも言ったでしょ。そんなの着てたら動きにくいって」


「ですが!」


「それより魔剣は?」


 深刻そうな顔とは裏腹にライラは何時もの様に涼しそうな顔でサラに手を差し出す。

 サラは子供っぽく頬を膨らませながら奥に消え、戻ってくる。そして、両手に抱くようにして持ってきたそれをライラに渡した。

 鞘から取り出し、刀身を見る。

 柄を握っている手から魔力を流すと、淡い紫色の刀身が光りを放つ。

 感触を確かめるように数度素振りを行うと柄に戻し、机の上に戻した。


「ちょっと人の話しを―――」


 そう言いかけたその瞬間、隣から大きな声が聞こえてきた。


「アレク」


「何時も言い合ってますね」


「サラ。あそこに行くの怖いです。......て話を逸らさないで下さい! 生存確率が少しでも上がるのなら多少機動力が下がっても着るべきです!」


「ちょっとアレクの所覗いてくる。魔石の魔力量が分かったら知らせに来て」


「了解です」


 一つずつ測定器に掛ける作業員にそう言い残すと「話は終わってませんよ!!」とお叱りモードのサラから逃げるように隣の整備場に向かった。






 ライラと同じ整備場に同じハウンド。

 しかし、違う所がある。

 ライラには二門の回転式魔導機関砲が取り付けられていたが、アレクサンドラのハウンドには回転式魔導機関砲ではなく、変わりに大型の狙撃銃が設置されていた。そして、腰部の所に左右に三門つづ煙幕発射機に似た装置が取り付けられている。


「おいジジイ!! 照準器の高さ勝手に弄っただろ!」


 ハウンドの操縦席で狙撃銃を構るアレクサンドラは、下に居る大きなヒゲを貯えた筋骨隆々と言った感じの服の上からでも分かる程の筋肉を持った初老の男性に向かって吠えるように問い詰める。しかし、ジジイと呼ばれた男は負けじと大声で答えた。


「あぁ!? 弄ってねぇよ! テメェがボケて弄ったの忘れたんだろうが!」


「ボケてんのはテメェだジジイ! 言っておいた特殊術式弾の数とここにある特殊術式弾の数全然あってねぇんだよ!」


 男と同じ銀の長い髪を後ろで結んだ少女が恐る恐る二人の仲を取り持つように真ん中に入る。


「あのアレクさ「お前の申請した数がおかしいんだよ! 何だ爆発術式弾百発に散弾術式弾百発それに貫通術式弾百発って。一人で国と戦争する気か馬鹿野朗が!」


「お父さんもおねが「いっつも申請通りに寄越さねぇから多めに言っておくのは常識だろうが! それぐらい察しろ。ボケてんのかジジイ!」


「んだと!? 今日と言う今日はぶちのめしてくれる!」


 大きなレンチを携えアレクサンドラに歩み寄る男。それに答えるように操縦席から降りると、近くにあった工具箱からトンカチを取り出し迎え撃つ準備を整えた。


「ちょちょちょちょっと! レンチは、レンチは不味いから! お父さんちょっと落ち着いて!」


「アレクサンドラ様。お怒りかと存じますが、流石に武器はやめておきましょう。けが人が出ますから。ね?」


「どけ! ミリア。もう我慢の限界だ! 今日こそそこの頭ぶち割って二度と軽口を叩けんように脳みそを調整してくれるわ!」


「ミハエル、そこ退いて。じゃないと後ろの耄碌(もうろく)ジジイ殺せないから。おいガルノフのジジイ! 任務に行く前に先にお前を片つけてやるから覚悟しろ!」


「ほざけぇ!!」


 男はミリアが、アレクサンドラはミハエルと呼ばれる青年が必死に止める。男の方はミリアだけではなく肩や足にも作業員が抱きつき、総出で食い止めている。


「ちょっとお父さん! みんなも見てないで止めなさい!」


「りょ、了解です!」


「お、親方。お静まり下さい! お静まり下さい!」


 激高し、頭から湯気が出るほど怒りくるった父親を見て見物している周りの作業員にも助けを求め、自分も父親に正面から抱きつくように踏ん張り、動きを止めようとする。

 両肩に一人ずつ、両足に一人、後ろに一人とその後ろに腰を掴み引きずられないように食い止めている。

 そして、ミリア。それでやっと動きを止めることに成功した。


「お前達離さんか!」


「離しちゃダメよみんな!」


 音を聞きつけライラが来るまでの十数分間、ガルノフに投げ飛ばされても何度も取り付き、宥め続けるのだった。





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