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六六六回目の奇跡

手探りでやっているのでおかしな文章があるかもしれません。ご了承下さい。

8月18日細かな修正を行いました。

2022/04/02 文章の改稿しました。

2022/08/11 文章を改稿しました。

『―――成功だ』



気が付くと僕はここにいた。

 


 白い清潔感のある部屋。

 中心には模様が刻まれており、その中央に僕は倒れている。

 

 いつも通りの学校の帰って......それで......。


 脳内をフルで回転し、現状の把握に努める。が、努力虚しく何一つ判明する事はなかった。

 

 周りには白衣を着た男達が一人の男に向って拍手をしている。

 賞賛を受けている男は染めているのか青い髪の色をしており、菫色の瞳をこちらに向けて、遂にやったと言った感じの達成感を抱きながら立っていた。


『さっそくデータを収集します。―――首輪を付けなさい』


 聞き覚えのない言語で男達に短く言葉を飛ばす。


 英語、中国語、日本語でもない。発音も発生も聞き覚えがない。

 

 自身が受け止められる許容量を大きく逸脱した、非現実的な出来事に、半ば放心状態で居る、部屋の端に控えていた銃を持っていた男達に背中を掴まれ、床に押さえつけられる。

 

 未だに、何かの番組が企画したドッキリなんじゃないか?

 

 全体重を乗せる様に、地面に倒れさせられ、上半身全体に鈍痛を感じながら。

 なお、何かの間違いだと甘い平和的な思考の僕。

 だが、目の前の大人達は真剣。

 肩から伝わる無骨な手の力の強さからこれは冗談でもいたずらでもない本気だと言うのが伝わってきた。


 ―――ヤバイ


 脳が警鐘を鳴らす。

 身体全体に逃げろと伝達する。

 気付いた時には時すでに遅し。

 僕は既に床にうつ伏せに倒れており、上からは先ほどの抑えつけた男達とは別にさらに数人の大人達が僕の身体を拘束している為、身じろぎ一つすることが出来ない。


 ただの子供の僕に屈強な大人が大勢で押し倒している異様な光景。


「え? ちょっ、何々? 嫌だ! やめて!」


 やっと拒絶の声を出す事に出来た僕は首を回しながら、辺りの人達に何かの間違いだと訴える。

 しかし、幾ら叫んでも声は届かず、返答の代わりにと頭を手で押さえつけられ、両腕は後ろに身体をそして、両足を何本もの腕が上から強い力で固定した。

 

 蜘蛛の巣に捕えられた蝶。

 今まで感じた事が無い程の不安と恐怖に涙を流し、拘束を振り解こうと必死に暴れる。

 しかし、抵抗は報われる事はなく。


 大粒の涙で地面を濡らし、もはや何を言っているのか自身でも分からない程の助けを呼ぶ声。

 激しく取り乱す僕とは逆に落ち着き、作業的に僕に首輪を取り付けた。

 それは、冷たく、何かの金属で出来ているようで、首周りに重く重厚感のあるものが現れ、形状しがたい不快感が湧き上がって来た。


『コラ。暴れるな』


『どんな能力を持っているか分からない! 絶対に油断するなよ!』


『分かってる!』


「いたっ、痛い! 誰か! 誰か助けてぇぇっ!!!」


 首輪を付けられても尚、拘束を解かれることなく動けなくいる僕を見下ろすように立つ白衣を着た人達。


『にしてもこうも高品質な実験体が手に入るなんてな』


『本当だよ。召喚術式様様だな』


 涙を流しながら枯れた声で訴える僕の言葉を無視し、男達は離れていく。

 それから、僕の周りを一定の間隔を空けるように立つと小銃を構え、照準を倒れた僕に向けた。


 ―――今しかない!


 直感的だった。

 頭で思ったのではない、身体全体、胸の奥底にある本能がそうさせたのだ。

 この扉の先に何があるだとか。ここから逃げてどうするだとか。

 そんなことは微塵も考えていなかった。

 僕はただ、今の状況から抜け出せるのならと言う生存本能に従い、身体に力を入れ、立ち上がった。

 勢い余って前に倒れそうになりながらも、無理やり姿勢を戻し、走り出した。

 目標は目の前の扉。


『おっと』


「いだっ!」


 首に電流に似た激しい痛みが走る。

 身体中を内側から針で刺されたかのような激痛に襲われ、その場に転び、勢いを殺す事なく全身を床に打ち付けた。

 身体全体で倒れ、バチンッと破裂音にも似た音が部屋に木霊す。

 直ぐに上半身を起し、男達の方向を見ると、その中の一人、青髪の男の腕に付いているブレスレッドが光っているのが分かった。


 あいつだ。きっとアイツがこの痛みを――― 


 経験したことがない激痛で思考が定まらず、狂乱する僕。

 床をのたうちまわり涙を流し、涎を垂らし、鼻水を垂らす僕を見て男達は笑う。


「あぁあああっ!! 痛い! 痛い! やめて!」


 男は容赦なく痛みを流し続けた。


『不思議かい? 君の首輪と私達の付けているこのブレスレットは繋がっているんだ。もし、君が逃げようとした時には―――』


『今回は拘束が上手くいって良かったですね主任』


『前の実験体は暴れて仕方がなかったがな』


『おい見ろ。犬の様じゃないか!』


 何を言ってるか分からない。

 しかし、何か罵倒されているのは分かった。

 罵倒され、笑われ、痛みを味わわされ、様々な感情がまるで高速道路のように現れては消えて行く。

 とどめと言わんばかりの大きな痛みが首輪から身体全体に広がり、それのあまりの痛さに遂には意識失った。






「ん......んん」


 目が覚めるとそこは同じように白い部屋。

 だけど、さっきとは違うのはベットやトイレがあり必要最低限の生活が出来る物が揃っていた。

 シャワーや風呂と言った身体を洗う為のものが存在しないのは何故だろう? と思いながら部屋の隅から隅まで歩く。

 目の前に一面に大きなガラスが嵌め込まれており。

 いつの間にか高校の制服を脱がされ、右胸に何か文字が刺繍されている白いワンピースの様な服を着させられており、天井から垂れた五本の(チューブ)は首輪と意識のない間に付けられたであろう腕輪と足輪に装着されていた。


 何が起こっていてこれから何が自分に降りかかるのか皆目見当がつかない。

 胸の奥底に沸々と燻っている恐怖から扉に一番遠い部屋の隅に足を抱え座り込んだ。


 最初に考えたのは逃げることだ。

 

 如何にかこの場所から逃げ出し、走り続け出会った人に助けを求める。

 だが、その非現実的な考えは直ぐに自身の思考によって論破され霧散した。


 

 辺りを見渡し、絶望する。


 この部屋に窓は無く、扉が一つあるだけだ。

 しかも、その扉はドアノブや取っ手と言ったものはなく押してもビクともしなかった。

 それに、身体中に付けられている(チューブ)

 これが、かなり頑丈で引き抜こうとしても抜けず、普通に動く分には問題ないのだが、この部屋から出るとなると五本全て解除しないといけない。

 平和な国で生きていた僕にそんな物を取り外す知識はなし、それに仮に取り外すことに成功し、扉を開けることが出来たとしても、どこかも分からない場所で建物の構造を把握していない自分の一人の力で脱出するなんて絶対に無理だ。


 考えれば考える程、不可能の文字が阻む。

 顔を埋めてせめてもの意地で必死に泣き声を堪えた。


 それから、時間が経つ。


 一日中、部屋は自分の心臓の音が聞こえる非常に静かで、身体中に繋がれた管のせいで歩くのも座るのも寝るのも邪魔で、その上ガラスの向こう側からは耐えず視線を感じた。


 トイレにも行為を隠す為の仕切りもなく、休まる場所が一切ない。

 

 この部屋に閉じ込められて暫くはベットで寝ないで座ったまま寝た。

 これ以上、自分が動いて悪い方向に傾くかもしれないと思ったからだ。

 初めて床でそれも座って寝て、自身がどれだけ恵まれていたのかを思い知らされ、また泣いてしまった。。



 そして、また更に時間は経過し地獄のような毎日が始まった。



 毎日、首と四肢に装着された管から色々な液体を身体の中に注入される。決まった時間、決まった回数で打ち込まれるそれは、血管に入ってくると同時に激しい痛みが伴った。

 身体の痛みに耐えながらガラスの向こう側に誰か居るのではないかと思い、必死にガラスを叩くが何時も返事がなく、訪れるのは首から激痛がのみ。


 日に日に精神がすり減っていく。

 心はすさみ、目の下にはきっとハッキリとしたクマが出来ているだろう。


 食事は一日二回。

 ドロドロの良く分からないモノをトレーに載せられ、運ばれてくる。

 味は無く。

 食べ物を食べたと言うより何か薬を飲まされている感じだった。

 そして、その時色々質問されたが、言葉が分からない僕は必死に助けを求めた。

 しかし、求めたモノとはやはり違い、また首輪から痛みが走る。



 心はボロボロ。

 気力が湧いてこず、一の大半は部屋の隅で座っている事が多い。

 それも、足を抱えることもできなくなり、壁を背に、茫然自失と言った感じでただひたすらに正面を見ている。



 一体何日たったのだろう。

 もしかしたら何ヶ月、一年経ったと言われても信じるかもしれない。

 それほど時間の感覚があやふやになってきた。

 薬を打たれる間隔が短くなっている様な気がしたが、それが本当に短くなっているのか、それとも自分の時間の感覚が麻痺しているのか分からない。

 そもそも、時計も窓も無いこの部屋に時間と言う概念が薄い。

 今が朝なのか夜なのかすらもう分からなくなっている。






 自分が本当に自分なのか分からない。

 いつの間にか異常なほど髪が伸びていたり、背丈が縮んでいたり、僅かに声が高くなっていたり身体的な変化が見られた。


 

 ―――身体の構造が女性のそれになっていた。


 

 それに驚いた僕は何が起こっているのか分からず、叫び、助けを求めた。しかし、返ってきた答えは同じで―――。


「痛い! 痛い! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 自分じゃない誰かを動かしている感覚だ。

 心の何処かに刹那的湧いてくる殺意と怒り。

 それは、本当に自分自身が抱いているのか、それとも、精神的に追い詰められたのが原因で別人格が生まれ、その人格が抱いているのか。

 

 分からない。


 それすら考える気力がなくなっていたからだ。


 怖い。


 もうこんな所に居たくない。





 それからまた暫く経つと、体育館ほどの大きさの空間に連れて行かれ、何かするよう命令された。

 口を開くといつものように激痛が起こり、必死でこの激痛から逃れようと身体中の力を全て使った。

 すると、少し間を置いて目の前の標的がプカプカ浮き始めた。

 時間にして十六秒。

 まるで宇宙空間に放り出したかのように空中に浮いている

 それを見ていた大人達は互いの顔を見やり、笑いながら手に持っているタブレット型の端末に記録していた。

 それから何やら言葉を投げ掛けられた。僕はそれが何と言っているのか分からず、恐る恐る問いかける。

 が、帰ってきたのは激痛だけ。



 それからまた別の日。



 目が覚めると、身体の構造が男に戻っていた。

 懐かしい身体の感覚にほんの僅かだが、気力が戻ってきた。

 その日から、座るのを止め、寝るときはちゃんとベッドで寝ることにした。久しぶりのベッドは柔らかく、ここに連れてこられて初めて熟睡することが出来た。



 また、少し時間が経った何時もの様に食事を運ばれた時だ。受け取ろうとトレーを掴むと、まるで紙のように歪みひしゃげてしまった。

 自分では力を全く入れていないのにも関わらず、硬いトレーを潰していた。

 驚く研究員に助けを求めようと手を伸ばすが、迷いのない動作で手首に付けてある装置で激痛を流された。


「ッ! ―――」


 床に食べ物が落ちると同時にその場に倒れる。それを見た、研究員は怯えた表情で逃げる様に部屋から出て行ってしまった。


 唯、助けて欲しかっただけなのに。その思いも踏みにじられた。必死でやめてくれるようガラスに向って泣きながら懇願する。


 何度もガラスを叩き、叫んだ。


 すると、ガラスにヒビが入り、次第にそのヒビは大きく深くなっていき穴が開く。

 その時、自分の中に溜め込んでいたものが爆発した。

 まるで、別の人格が乗り(・・・・・・・)移ったかのよう(・・・・・・・)()感情が百八十度切り替わった。


 警報が研究所内に鳴り響く。甲高い音が鳴り響き、異常事態を周囲に知らせる。


 ガラス崩れ向こう側には数人の研究員が怯えた表情でこちらを凝視している。

 しかし、一人だけ違う。

 捕まる時に大人達の中心にいた男。恐らく僕が此処に居る原因を作った男。

 そいつだけは僕を見ながら泣いていた。

 だが、悲しくて泣いている訳ではない。悲しくて泣いているのであれば、笑ったりしない筈だ。

 青い髪の男は感涙を流している。

 自身の行いがやっと報われたかのように、結果を少しずつ味わうように涙を流してい。

 

 

 ―――殺してやるっ!!



 感情と言う炎が爆発した。

 

 脳裏でその言葉とともに今まで感じた事が無いハッキリとした殺意が身体を支配していた。


 右の管を力任せに引きちぎり、痛みを歯を食いしばり耐えながら今出せる最大の力でガラスの穴の開いた辺りを殴る。


「あぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛ぁあああああああああっぁああっっ!!!」


 すると、地震の似た振動と共に砕けていく。

 片手が入る程の穴が開くとその穴に手を突っ込み、身体を引き寄せ首を千切ってやろうと青い髪の男に向って力を使う。

 しかし、男には届かず、振り回す血まみれの手は一人の研究員の服を捕らえた。


『だ、誰か助け―――』


 別の男の首を掴むと構わず、手繰り寄せ、腕を掴み直すと勢いよく引き抜いた。

 一瞬だった。

 名もなき研究員は悲鳴を上げながらブチブチと身体の肉が千切れ始め、肩回りの肉を腕ごと引きちぎれ、僕の部屋に着いたときには向こう側に取り残された本体は激しい叫び声を上げながら床をのたうち回り、十秒もしない内に身体の力が抜け、こと切れる。


 始めて人を殺した。

 何てこともない。何も感じなかった。むしろ少し胸がすっとした。

 

 まるで、誰かが身体の中で動かしているような自分じゃない気分。違和感のようなものを感じたが、今の僕にはそんなことどうでもよかった。


 身体が血まみれになる。

 引き抜いた腕を床に放り投げ、再び青髪に迫る。


「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!」


 自分が入れる程の穴を開けようと何度も何度もガラスを殴った。


 自身の殴打する音に、次第に水水しい音が加わり、果ては拳から赤い鮮血が殴り度に周囲に散らばる。それを超えると、腕の骨が折れる、感じがした。そして、最後には拳の形が崩れ、肘と手の間から肉を突き破り、折れた骨が飛び出す。


 既に腕はボロボロ。

 素人目から見ても大きな手術が必要な程、僕の腕は崩れていた。

 それでも、関係なく叫び殴り続ける。

 片腕一本よりも、優先する事があったからだ。


『今の彼なら致死量を投入しても構いません。早く彼を眠らせなさい』


『了解しました! おい! 早くしろ!』


 管から液体が流れてきた。直ぐに僕の意志に反し、徐々に身体が睡眠を受け入れ始めた。

 絶対に眠るまいとガラスに頭を打ちつけ眠気を飛ばそうとするが、痛覚が鈍くなっているのか以前、強烈な眠気は収まらず、次第にはその場に倒れてしまった。


「もうイヤだっ! 誰か殺して! 殺してよ!」


『素晴らしい。予想以上の成果です。被験者六六六。今はおやすみなさい』


 意識が薄れていく中、肉の付いたガラスの穴から気色の悪い笑顔が僕を見下ろしていた。

















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