水泳部の話
19回目の夏
その日は初夏を感じさせる暑さではなく梅雨がつづいているんじゃないかと思うくらいジメジメとした嫌な暑さだった。
鉛色の空の下蝉の声がうるさく響く中で僕は町の市民プールに来ていた。
きっかけは母の一言「最近運動してないんだから泳ぎに行け!」そう言われ仕方なく僕は泳ぎに来た。
小学校から水泳を習っていて中学では水泳部に所属して毎日泳いでいた。だけど中学三年の夏のあの日僕は泳ぐのを辞めた。
その日は中学最後の大会だった。僕は人より体力が無く大会には出ないようにしていた、めんどくさいから逃げていたと理由もあるのだが最後だからと周りに言われて参加することにした。
三年間も泳げば自信もついていて僕は大会に向けて燃えていた。
種目は平泳ぎ 僕が二番目に得意とする泳ぎだ。一番はクロールだけどそこにはたくさんの人が出るからという理由。また一年の頃に当時三年生の先輩にたくさん指導してもらった思い出の泳ぎだったので平泳ぎにした。たくさん練習をして迎えた本番、今までで一番良い泳ぎができた、そう思い仲間のいる場所へ行き結果を聞いた。
結果は…失格だった。
原因は最後壁に手をつく時両手でつかなければならなかったのだが僕は片手でついてしまっていたようだ。
その悔しさが泳ぐ度に蘇り引退と同時に泳ぐことを辞めた。
なので本当は来たくなかっが運動不足と言うのも事実だ。
着替えが終わりいざ入水。準備体操を飛ばして僕は久しぶりにプールへ入った。
水に身体を慣らせるためまずフリーコースでウォーキングを始めた。この日は夏休みの日曜日ということもあり小学生が水遊びを楽しんでいた。
そんな小学生を避けつつ50m歩ききった。
さぁそろそろ泳ぎだそう。そう思い僕は隣のスイムコースへと移った。最初はアップを兼ねた軽いクロール。無事50m泳ぎきり本格的なクロールを始めた。最初は順調だっでルーティーンをしようかと思ったが辞めた。僕はただ泳ぎにきたのだと、しかし二回目25mを泳いだ頃には息があがりかけていたなんとか50泳ぎきりまた泳ぎだすと途中でクロールが苦しくなり平泳ぎに切り替えた。
そうするとあの夏を思い出す。あの大会を……。
そうして僕は泳いでいるのに溺れている感覚でなんとか泳ぎきった。その頃にはもう息があがり僕はフリーコースで休憩をとることにした。
息があがり疲れている自分をやっぱ衰えたなぁ~なんて思っていた。
フリーコースに移り改めて自分が泳いでいたコースを見ると大人が泳いでいたがその中に小学生位の少女が泳いでいた。自分の目の前で水遊びを楽しんでいる子供達と同じくらいの少女は真剣な顔をして平泳ぎをしていた。
綺麗だった。凄い泳ぎをしていて僕の心の中に何かが芽生えた。それが何か考えていると少女は帰ってきた。するとすぐに泳ぐ準備を始めた。そんな彼女と目があった。彼女は笑みを浮かべていた。
僕にたいしてなのかわからない、でも僕はそんな彼女を見て悔しくなった。彼女がスタートすると僕はすぐにスイムコースに移りクロールで泳ぎだした。すぐに追いついてやるそう思ったがダメだった。僕がゴールすると休憩時間になった。
プールサイドにあがって彼女をみたら驚愕した。大会に出れる競泳水着を来ていたのだ。他の同い年くらいの子達はフリフリした水着であったり学校で使うようなものばかりなのに。
そりゃ速い訳だそう無理やりなっとくした僕だったが彼女の笑った顔がよぎった。このまま負けて良いのか?嫌だ。その思いから僕は自らを奮い立たせた。
休憩が終わり水泳が再開されると、僕はまたスイムコースに来た。すると偶然か隣には彼女が。彼女は先にスタートするとすぐ僕もスタートした。腕がパンパンでクロールができそうになかった僕は平泳ぎを始めた。彼女も平泳ぎだった。条件は同じ次こそは!そう思って僕はゴーグルに手をかけた。ゴーグルを外せばなにも見えなくなり泳ぐことだけに集中して速く泳げるようになる、自己暗示に近い僕のルーティーンだ。ゴーグルを外した瞬間声がした。それはともに泳いだ仲間の声だった。あの夏と同じ仲間たちの声、そんな声に背中を押されて僕は水をかいた。何度も何度も。彼女を、抜いた気がしたが後ろに存在を感じる。抜くなら抜け僕は抜かれるつもりはない!そう心で叫びながら僕は水をかいた。霞んだ水中を見るともうすぐゴールが見える。壁は両手でつけ。その声が聞こえた。もう逃げ続けたあの夏を思い出してはいなかった。僕はあの日以来初めてあの夏と戦った。
そして……。
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