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第2話 深級ダンジョン最下層ボス

 マッケンジーの罠にかかり賢治が転移してきた先は、先ほど居た深級ダンジョン最下層のボス部屋だった。

 1アール以上はある広い床面積に、高さも20メートル前後あるだろうか。

 灯りはないが壁や床や天井が光るため、部屋の見通しは悪くない。


 そして部屋の奥には遠目で見ても巨大な狼が寝ていた。

 見た目にはなんの変哲もない黒い狼なのだが、部屋の端と端から見ても豆粒サイズには見えない。

 むしろ丸まって寝ているのに、この距離で自分より大きく見える。


 転移の光か魔力の波か。

 賢治が現れた事に気がついた狼は立ち上がる。

(デカイってもんじゃねぇ、天井までの高さが足りずに頭下げてるじゃねえか!)

 すなわち狼の体高…前足の肩までの高さが20メートル前後もあり、その巨体で姿勢を低くしなければ立ち上がれない。

 低い天井に頭を垂れながらも、その威風は堂々として王者の風格を体現。

 表情と瞳には理性と深い知性を感じさせる。

 ひと目で並の深級ラスボスではないと知れる。

 様子見等、以ての他。最初から全力で戦わないと、瞬殺される。

 短くない探索者歴を持つ賢治は、そう判断して戦闘態勢に移行した。



 それほどの巨狼が賢治を認識すると、一直線に突進してきた。

 初速から最高速を叩き出した巨狼の、突進からの爪撃を躱しきれず。賢治は左の脇腹を裂かれ、魔法袋も破壊された。

「がぁぁぁぁぁ!!」


 巨狼は勢い余り、破壊され散乱した魔法袋の中身に突っ込み。何故か悶え苦しみ始める。

(理由は分からねえが、殺すなら今しかねえ!!)

 弾き飛ばされ壁に叩きつけられ、なんとか倒れる事だけはしなかったが重症だ。

 (呑気にポーション探して治療してる暇なんてねえんだよ!!)


 走りながら背中の鞘からオリハルコンの愛刀を引き抜くと跳び上がり、のたうちまわる巨狼の首に突き刺した。

「死ねえええーーー!!」

 人生最高の集中力で上手く頚椎の合間を貫き、賢治はなんとか巨狼を一撃で即死させる事に成功した。


 反射で体を硬直させた巨狼に吹き飛ばされ、魔法袋の残骸付近まで地面を転げる。

「がっ、ぐふっ…げふぉっ!」

 血を吐き朦朧とする意識の中、回復アイテムのポーションを探す。


 薪、炭、新聞紙、鍋、カップ、七輪。

 ロープ、タオル、包丁、ナイフ。

 テント、寝袋、ポーション、香辛料入りの缶。

(あの狼。香辛料入ったの缶を破壊して、舞った香辛料に顔を突っ込んだのか)

 ようやく見つけたポーションの瓶は割れていて、現実を直視せずに関係のない事を考えてしまう。


 カラン。


 音の先を見ると死んだ巨狼が魔石化して、刺した愛刀が地面に落ちていた。

 拾ったタオルで脇腹を押さえ、探索者としての本能で刀を拾って背中の鞘に仕舞う。


(こりゃ長くねえな。どうせ死ぬんだ。ついでにダンジョンコアでも、ぶっ壊しときますかー)


 血を流しすぎた。

 意識は更に朦朧として、いつ途切れても不思議じゃない。

 歩く足は覚束なく、力なき足取りは亀の様に遅い。

 巨狼の寝ていた位置に浮かび上がってきたダンジョンコアを目指すも、残り50メートル足らずの距離が遠い。


 タオルがポーションを吸収していたのが幸いし、出血が鈍化したのが唯一の救いか。

 このままなんとか、ダンジョンコアまで辿り着けそうだ。



 3分かけてようやく、ダンジョンコアに左手が届いた。

 だがもう、背中の刀を抜く力も残っていない。

 ダンジョンコアに突き立てようと、右腿のナイフの柄を握った瞬間。

 つい十数分前に見た光が、ダンジョンコアと触れている賢治を包みこみ…





 10日後。深級探索者、忍野賢治の死亡を探索者ギルドは正式に発表した。

 マッケンジーの目撃情報から、死んだ深級ダンジョンの最下層を捜索。

 同氏の魔法袋の残骸と巨大な魔石のみが発見され、同氏の死体は発見出来なかった。

 状況から見て最下層ボス…守護ボスと相打ちになりながらも、ダンジョンコアを破壊。

 破壊時のダンジョンコアの消滅に巻き込まれたものと思われる。

 以上の状況情報から生存の可能性は絶望的であり、探索者ギルドは賢治を死亡したと断定した。


 1人ほくそ笑む男には、誰も気付く事はなかった。


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