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聖女と亡霊③

友人と呑みに行って。一発芸でコインでちょっとした曲芸をしてたらアクシデント!

酔ってたからか、マッスルパス失敗。私のレギュラーコイン(4,500円)がコロコロと何処かへ消えました!!


七年前にマジック出来れば合コンでモテんじゃね?

という不純な動機で購入した相棒を失った・・・御守りとして大切にしてたのに。

護衛の騎士の一人。

茶髪を短く切り揃え。ピョコピョコと動く犬のような耳で音を逃すまいと茂みに目を光らせる赤黒く光る魔弓を構えた十代の少女である。

彼女は年相応のあどけない顔にどことなく凛々しさを携えて。いま、セシリアをもう一人の護衛の騎士に任せて追うべきかと考えていた。


「追うのは止めておけ。あの男、お前ひとりでどうにかなるほど甘くはないぞ。」

「しかし、今のやつは手負いです。私ならやれます。」

「忘れるな。やつは我々の監視を掻い潜ったほど隠密を得意としている。それに、やつはアデライト様の件に関わる一派かもしれん。」

「しかし。」

「囮だったらどうする?たった一人の人間がアデライト様を手にかけたと思うか?有り得ない。あのコウマ様の率いた勇者一行のアデライト様を単独で殺せるなどそれこそ勇者一行の誰かでなければ。それに、自慢じゃないが俺はセシリア様を守りきる自信はないからな。」

「本当に自慢にもなりませんね。先輩。なさけないです。分かりました。ここは私が折れます。」


少女は相方の騎士をジト目で見ながらため息をつき。セシリアへと視線を戻す。

いつの間にか目の治療を終えた聖女はそんな二人のやりとりをクスクスと笑いながら見ていた。

何処か懐かしさを感じるやり取りをしていたのは誰と誰だったか? 

そんな事を思いながらも何事もなかったようにセシリアに向き直る騎士に彼女は微笑みを浮かべていた。


「お見苦しいお姿。申し訳ありません。セシリア様。教会まで護衛いたします。」

「ええ、ありがとう。あと、お名前を教えていただけますか?」

「滅相もない。我々の名など聞かせるようなものでは。」

「いいの。私なんて聖女と言われてるけど。何処にでもいるおばちゃんよ?多分、今回の件は思ってたよりも大変なことになると思うの。私は、少なくとも今もっとも信頼できる二人の名前を知りたいわ。」


いつか、オウマ様は味方に裏切られることの恐ろしさを語っていた。

身内の誰かが敵と内通していたとき。自分達の身の守りがどれだけ薄くなるかも語っていた。

今回の件はまさにそれだとセシリアは思う。


誰かが。内通していなければこんなにも簡単に自分の動きに相手は対処出来るわけがないと。

それを妨害した二人の騎士。セシリアはこの場にいた二人を全面的に信じ、他を疑う道を選んだ。


「それに、彼が相手なら。」


アルフレッド。

今は遠き日の友人だった男であり。世界を混沌に沈めようとした反逆者。彼は基本的に十二女神と呼ばれる者たちに比べれば明らかに格上の敵。

そして、おそらく世界で唯一オウマ様にかすり傷を負わせた戦士。

自分にあるアドバンテージは聖杖の有無程度。

その絶大な力があっても勝率は・・・


「良くて五分五分・・それ以下ね。」


前衛を張っていたアデリーが殺されたのだ。

後衛。それも支援がメインの自分だけでは勝ち目はないとセシリアは杖への過信を捨てる。

騎士たちはそのセシリアの姿に気を引き締める。


「第八女神護衛騎士団。一小隊。一分隊。アダム・プライシオ!」

「同じく。ガリーナ・・・・・」


ガリーナはその先を名を名乗ろうとして表情をしかめた。

セシリアは不思議そうに顔を向けるとアダムは割り込むように立ち上がる。


「セシリア様!彼女にはセシリア様同様、家名はございません!見ての通り獣人と人間のクォーターであります。あとは、お察しいただけると。」


ハッとした表情でセシリアはガリーナをみた。

この世界には家名を持つ者と持たない者がいる。

家名を持つ者は何処にでもいる市民たち。問題の大小はあれど平和を生きる人たちだ。

家名を持たぬ者は大きく二つに分けられる。

ひとつはセシリアのような聖職者。正しくは家名がないのではなく、聖職者は己の今までの生を神に捧げ。クレールスという共通の名を与えられていた。

だが、オウマ様が信仰されている今。その名は神聖な物から忌まわしき名として変わった。

その恥なる名を形だけでも捨てているから。聖職者には家名はないのだ。


もうひとつは奴隷だ。

オウマ様が即位されてからは奴隷は解放されたものの、それでもやはり名残はある。

元の名を覚えている者はかつての名を名乗ることもあったが、生まれも育ちも奴隷であればそんなものは存在しない。

更に言えば、獣人と人間の女のそれは当時の権力者たちの娯楽として人気があったことも知識にある。

クォーターであると言うのならガリーナは先々代からきっとその手の奴隷であったのだと嫌な想像をよぎらせた。


「お気になさらずに。私の母は奴隷の身からある男に救われて添い遂げております。ただ、その男は旅から帰ることなく。私は顔すら見たことないのです。母もなき今、その男の家名を名乗るべきか悩んでいまして。」

「そうですか。いえ、貴女の事情を深く追求はしませんよ。ごめんなさい。ガリーナ。」


セシリアは自分が思っていたよりも穏やかでありながら、それでも悲惨な結末であったろう夫婦に祈りを捧げる。

ガリーナはそんなセシリアに軽く頭を下げた。


―――――――――――――――――――――――


セシリアを何事もなく無事に帰還させた二人の騎士は休む間もなく哨戒任務を言い渡されマーケットを歩いていた。

あの、ボサボサの髪にモジャモジャの髭を生やした男がこんな目立つような場所に居るわけがないと思いながらも与えられた任務を淡々とこなしていた。


「さて、セシリア様から頼まれた魔道具は。」

「それにしても人が多いですね。それに色んな臭いが混ざってて鼻が。」

「ガーリャは鼻も耳も良いからな。ごくろーさん。」


アダムが鼻をひくひくと辛そうにしている後輩を見ながら笑うと。ガリーナは恨めしそうな視線を向けた。

他人事のように言われたその言葉に報復しようと頭の中で嫌味のひとつやふたつを考えながら、ふとセシリアとのやり取りでの礼を言っていなかった事を思い出した。


「先輩。先程は有り難うございます。庇ってくれて。」

「何のことだ?俺はウジウジといつまでも家名を名乗らないお前に呆れて代わりに報告しただけだぞ。」

「いえ、庇ってくれました。先輩は私が家名を名乗りたがらない理由。知ってますよね?」


ガリーナの言葉にアダムは頬を人差し指でかきながら、困った表情を浮かべた。

確かに。彼はガリーナの秘密を知っている。

かつて、聞く気はなかったのだが。たまたま耳にしてしまったその名を。


「でも、重要なことじゃないだろ。少なくとも、俺は重要視していない。」

「ですが。」

「いいか。ガリーナはガリーナだ。名前の重さと重要さなんて関係ない。それに、俺はそこまでセシリア様に後輩が嫌がることをするほど忠誠心があるわけじゃない。報告は誰にもしないさ。」

「先輩。それは騎士として如何なものかと。」

「そうね。騎士様が聖女様へ報告を怠るなんて大変なことよ?」


二人の騎士は驚いた表情を浮かべて振り返る。

そこにはニコニコと無邪気な笑みを浮かべる女性が立っていた。

今回の新キャラコンセプト。

アダムは王道主人公。王道騎士。つまり、王道をイメージして描いていくキャラです。

熱血系であり。卑怯なことを嫌い。正しい道を行こうとするタイプ。


ガリーナは影のあるヒロインをイメージ。

生真面目で優秀なルーキー。重要な秘密を抱えている少女。主人公だけがその事を知っている的な王道ヒロインを目指して描いていきます。


まあ、主人公じゃないけどね。

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