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聖女と亡霊①

やっぱり。ハードボイルドは無理だ。

やれそうなところは目指すけど難しい。

その日、民は歓喜の声を挙げていた。

美しい雪のような蒼白い髪を太陽の光で輝かせ。透き通るような白い肌を青い修道服で隠した聖女。

聖氷の僧侶セシリアが民の元へと帰ってきていたからだ。


「おかえりなさい。セシリアさま!」

「おかえり。セシリアちゃん。大変だったわね。」

「ただいま。皆さん。確かに私には荷が重い役割です。」


一人一人に律儀に言葉を返し。普通に歩けば5分もかからない帰路をセシリアは数十分かけて進んでいた。

聖女の優しさが成せる技と言うべきか。街を歩く人々は彼女を見るやその足を止めて話しかける。


それはもう人の石垣のごとく。なかなか道は開けそうにない。

だが、聖女にとってそれは本当に気にするようなことではなかった。

赤い煉瓦道が聖女が少女だったときに帰るような錯覚をさせる。

それが。堪らなく嬉しく思うのだ。

今はもはや誰とも共有できない大切な思い出を思い出しても許せる道なのだから。


「すべてはオウマ様のみこころのままに。よき繁栄がありますように。」


会話の最後にはそんな祈りを捧げる。

この世界には神はいない。昔は確かに存在していたけども。

神は結局、人を救ったことは一度もなく。人の心は存在するかも分からないが神様よりも多くの奇跡と救いをもたらしたオウマ様へと信仰心を向けるようになるのは自然の流れだったのだろう。

オウマ様への信仰心は聖女にもある。だから、その点にどの様な文句も彼女にはない。

でも、聖女が少しだけ嫌な事もあった。

ようやく辿り着いた我が家である教会にそれがある。


「お父様。ただいま戻りました。あの、やっぱりそれ」

「おお!お帰りセシリア!!元気な姿を見れて嬉しいよ!!」


聖女が苦笑いを浮かべながら父の抱擁を受けつつ、目の前のそれを見上げる。

全王オウマに腰の部分に手を添えられて支えられるように作られた聖氷の僧侶セシリア(自分)の像。

いくら、大好きな男に支えられているものだとしてもこれが一生。今後も世界中に残るのかと思うと聖女は羞恥心で涙を浮かべるしかないのだ。


――――――――――――――――


再会の喜びを分かち合った二人は談笑も僅かに教会の奥の部屋へ入った。

ここならば、人に話を聞かれることはないだろうという理由だ。


「それで、セシリア。今日はあの件で帰ってきたんだね?」

「はい。お父様。13女神の一人。炎斧の戦士アデライトが何者かによって殺されました。そして、彼女の斧も奪われ。今はその何者かによって使われているとも」

「おお。何てことだ。あの、アデライトが本当に。それも、オウマ様の生み出した13の神器のひとつが悪しきものに奪われたとは。」


父の言葉にセシリアは手に持った聖杖を強く握りしめる。

13の神器とは全王オウマが勇者であったころ。非力だった13人の少女たちへと作製した13の武具だった。

そのうちひとつがセシリアの持つ、聖杖コキュートス。

どの様なものであれ。杖をから放たれた水に触れたものを凍り付けにする品物。

それを奪われて悪用されたとなればゾッとする。


「全王オウマ様は今回の事態を重く見ています。本当はご自身で解決したいようでしたが」

「アデライトもお前もあの男にダブらかされていた所を救われた最初の仲間であったな。勿論、この街もだ。あの優しい男のことだ。気持ちは分かるが。」

「はい。王にはもはや立場というものがあります。私たち13女神を動かすことがやっとのようでした。」


全王オウマは今や世界を守る存在。

確かにアデライトという戦士は英雄の一人であるし、存在としては大きな影響力もある。

それでも、王自らが危機に身を晒すには力がない。

虐殺などが起きていれば話は別だったのだろうが。アデライト以外の被害と言えば田舎の貴族。討伐に志願したシキ・カミノが帰らぬ人になったくらいだった。


「大丈夫です。お父様。私は伝説の勇者を支えた僧侶ですよ。必ず、この街は私が守ります。」

「ああ、信じているとも。」

「はい。あと、その。お父様。少しだけ。」

「私は何も聞いてないし見てもいない。娘は自分の部屋に戻っていった。それで良いのだろう?」


セシリアは父の言葉に深く頭を下げて部屋へと戻る。

そして、修道服を脱ぎ捨てて質素な服へと着替えて聖杖には厳重な結界をかけて箱へと隠す。

帽子を深々と被って、まるで先程までのおしとやかな女性であったそれが嘘のような活発さで窓から飛び出して近くの枝に掴まり、落ちるスピードを減速させながら地面に着地した。

その慣れた動きから。このちょっとした聖女の脱走が一度や二度という生易しい数ではないことは伺える。


「えっと。護衛の騎士は。」


これも何時ものことなのだろう。

騎士たちはセシリアをみつけはしたもののスッと視線を逸らして周りに合図をとる。

彼女は気づいてはいないがこれも何時ものことなのだった。


「うん。見つかってないですね。」


そういって、教会の裏手から街へと歩き去る聖女。

その後を2名の私服姿の騎士が着いていく。

本当にこれは何時ものことなのである。


―――――――――――――――――――――


聖女が向かった先にあるのは名も刻まれていない墓であった。

いや、そもそもそれを墓と認識するのも無理があるかもしれない。

それは、ある家族が住んでいた家の跡地。

燃えて崩れたであろうその廃墟の真ん中にその岩は置かれていた。


「久しぶりね。アル。」


それは歴史上、最も忌むべき存在として刻まれた男の名。

セシリアにとって、複雑な心境をもたらすもの。

彼女の大切な幼馴染みであり、教会から抜け出す切っ掛けを作った男であり、アデライトとの繋がりをくれた人であり。


オウマ様へと歯向かった反逆者だ。


「なんで、あんなことをしたんだろうね。アルは。」


今でも分からないとセシリアは墓に問いかける。

オウマ様が倒れていたのを見つけたときは彼もまだ普通だった。

彼の傷を心配し、手当てを行うために人一倍時間を費やした。

共に旅をしているうちにおかしくなった。

オウマ様の正論に彼はどんどん反感を強めるような口調になり、時には暴力に訴えては返り討ちにあった。


そして、最後には


「未だに。未だにそれにすら気づけないのか。君も。」

「え?」


セシリアが振り返ると。そこにはナイフを突きだした男がいた。

鍛え抜かれた身体に乱雑に切られたな茶髪。顔を覆うような髭により気づきにくくはなっている。

でも、それは。


「セシリア様!!」

「ちっ」


茂みから放たれた矢が男とセシリアの間に刺さり目映い光を放つ。

男はすぐに状況は不利だと悟ったのか。光でやられた目を庇いながら、まるで見えなくても分かるかのようにその場から茂みへと駆け込む。


「セシリア様。無礼を失礼しました!ご無事ですか!?」

「大丈夫。こういうのは旅で慣れてるから。それよりも彼は?」

「逃げおおせたみたいですね。盲目となりながらも我が魔弓から逃れられるとは。修行不足か。申し訳ありません。」


そんはずはないと。セシリアは頭を降る。

だって。彼は間違いなくオウマ様とセシリア達の手で葬ったのだから。

魔王軍へと寝返り。オウマ様を殺すと宣言した彼を。魔王城で確かに。


アルフレッド・ボールドウインは確かにこのセシリア自身の魔法で殺したのだと。

基本的に被害者視点→加害者視点→被害者視点という順に書いていこうと思います。

セシリアを可愛く書けるように努力したいです。

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