表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/26

石神村の姫の“し”

 護衛クラスの仕事は多岐にわたる。一口に護衛と言っても要人への介入度によって危険が数段変わってくるため、そこはそれ、生徒の自主性に任せられる。正月休憩が大晦日憩いにゲームで勝ち、もぎ取った護衛クラス。できたばかりのためマニュアル的なものが不十分だった。


 護衛クラスの要人への介入度は五段階。レベル1からレベル5まであり、通常の生徒はレベル1の範囲で護衛する。レベル1は校内でのプレイヤーを護衛すること。つまり、必要最低限の護衛であり、校外は免除されている。レベル2が通学を含む護衛。レベル3が要人が明らかに不審者に狙われている場合。そして、レベル4は命を狙われている場合であり、レベル5は常に衣食住を護衛しなければならないほど危険な状態を指す。


 護衛を了承した魅空は介入度を示す。


「レベル5でお願いします」


「へえ」


 意外だった。いくら反対派から狙われているとはいえ、いきなり最高難度の護衛を任されるとは思っていなかった。レストはひとしきり魅空の体を値踏みした後、言葉を発した。


「いいのかよ? レベル5は常に命を狙われていていついかなるときも護衛が必要な状態。戦争中の紛争地帯と同程度かそれ以上の警護が必要になってくる。衣食住を常に俺としなくちゃならないんだぞ?」


「ええ、そこはそれ。あなたの戦闘力を買っていますから。できますよね、護衛クラスさん」


「初対面の男とこれから同居同然の生活をするなんて気が狂ってる。乙女の嗜みはないのか?」


「ですが実際に私はかなりやばい状況に追い込まれています。それこそ異性の目を気にする余裕がないくらいやばいです。石神村の男たちは普通の護衛では歯が立たないほど強いのです」


 石神魅空は明け透けと話を進める。護衛の料金プラン、石神村の男たちの特徴、などなど。話を進めていくうちに魅空は典型的なお嬢様であることが分かる。それも悪い方向で。


「つまりなんだ? お前の家は執事やメイドを常駐させていたのか?」


「はい」


 魅空がにっこりと微笑む。彼女は家事をすべて女中にやらせている生粋のお嬢様だった。洗濯機を回したこともなければ、包丁を持ったこともない。なろう高に編入の際、家の執事、メイド、女中をすべて置いてきてしまったため早急に家事のできる使用人を欲していた。そこに睦月レストなる人物が天啓を得たがごとく現れた、というわけだ。


 魅空がにっこにこな理由がもう一つある。


「それに、窮地を救ってくれた殿方に好意を持つというのも乙女の嗜みではございませんか?」


 もう少しレストとお喋りしてみたくなったのだ。護衛、使用人、窮地を救ってくれたヒーロー。三拍子揃った人物を無下に扱う理由もない。ぜひ、魅空の一人暮らしの家へご招待! というわけだ。


「訂正する。俺は何でも屋でも便利屋でもねえ。他人の家事をするのはまっぴらごめんだ。そんなことのために護衛クラスになったわけじゃない。悪いがこの話はなかったことにしてくれ」


 レストは踵を返して去ろうとする。


「待ってください。破格の料金プランじゃありませんか?」


 魅空が錦糸町にいる客引きのごとくレストにすがる。見るものが見れば女子高生リフレにレストを誘っている店員さんだろう。レストはうざくなってきたので魅空を払いのけ、帰りにパチ屋でも寄って競馬の勝ちをさらに増やそうかと考え始める。


「待ってください。女子高生と同居するんですよ? しかも給料付きですぞ!?」


「いらない。悪いがしょんべん臭いガキは嫌いなんだ。今から風俗に行くから帰ってくれ」


 睦月レストが初めて風俗に忍び込んだのは15の時。当時の彼からしたら一回り以上年の離れたおばちゃんが相手だった。が、中学生の性欲とはとんでもないもので化け物相手でも最高に興奮した。


 魅空の体は不十分だった。まだ熟しきっていない果実。将来有望ではあるが、一緒に同居して興奮するほどのものでもない。リコーダーを舐めたりパンツを嗅いだりして興奮する年齢を、レストはとっくの昔に通り過ぎてしまった。護衛の代償に一発やらせてくれるならわかる。一発どころか二、三発やっても少ないくらいだ。命をかけて護衛する労力とは全然釣り合わなかった。


「俺の命は金じゃ買えない。いきなり村人に命狙われててレベル5の護衛を指定して給与で大金吹っ掛けてくるやつにロクなやつはいない。絶対にやばいよ、お前」


「分かってるなら助けてくださいよ!」


「別のやつに頼みな。護衛クラスは俺だけじゃない。日本各地からケンカに腕のあるやつが集められる」


 睦月レストはお人好しではない。自分の欲望に素直なだけだ。競馬で大勝ちしたから魅空を助けてやったまでだし、簡単に抱けそうだったから護衛すると言い出した。そして100万や200万の大金を給与に積まれてやばそうだったから一目散に逃げた。それだけだ。ギャンブルや風俗、女に忠実であり、きな臭い話には敏感なのだ。


「参りましたね。睦月さん、どうすれば私の護衛を引き受けてくれます?」


「そうだな。1000万なら考えてやる。キャッシュで即払いな」


「仕方ないですね」


「え?」


 魅空がどこかに電話する。数分後、現れた黒塗りの高級車から老執事と思しき人物がトランスケースに一杯の札束を抱えて登場した。現金で即払いの1000万だった。


「これでどうですか?」


「悪かった。金は要らないから、お前の護衛を引き受けるよ」


 魅空の本気度がうかがえる。これ以上金銭を要求すると逆に命を奪われかねないと判断したレストは、給与をすべて返上で魅空の護衛をすることに決めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ