石神村の反対派の“は”
ある人物の独白。
――高校生の頃。一流大学の赤本が好きだった。東京から大阪、京都までの国公立大学。有名私立大学。医学部や税理士、公認会計士などの専門学部を除く、一般的な一流大学の赤本を買って並べるのが好きだった。
私自身はあまり頭が良くなくて全国模試ではいつもC判定をもらっていたのだけれど。
けれども、点数の届くはずのない一流、二流大学の赤本を読んで答えに詰まり、自分の頭の悪さを肯定できる感覚にぞくぞくした。こう思った。私は一生超えることがないのだ。偏差値で平均を越したことは結局なかったが、私は大学生活を夢見て勉強を続けた。
なのに。なのになのになのに。
な! の! に!
私は結局大学に行くことはなくそのまま就職した。高卒だ。知り合いに学歴ロンダリングに成功した人がいた。一流ではない大学から超有名の大学院に合格し、ストレートで大企業に就職した。私はその人が羨ましかったし、私自身、学歴がこんなにも自分を苦しめるとは思ってもみなかった。
これは高卒で学歴コンプレックスに悩まされた一人の悲しい少女の物語だ。
いくら勉強しても、毎日八時間勉強しても結局は頭の良くならなかった、高卒のお話。
私は学歴が憎い。毎年のように学歴フィルターという名のふるい分けをする社会を呪った。
その矛先は経団連へ向かい。いつか私は経団連をぶっ潰そうと心に決めた。
学歴社会である日本をぶっ殺してやる。そう絶叫してやった。
独白終わり。
石神魅空とのサバイバルゲームが始まり、休憩、憩い、反対派チームは校内を走った。10分間の猶予に魔王汽笛を軸とした作戦を立てた。
「大晦日さん。このゲームの本質は大将を叩くこと一点のみです。青チームの石神さんさえ叩けばテイムの能力が切れ、私たちの勝ちです」
休憩は説明する。赤チームの休憩たちが先に全滅するか、青チームの警察官を操っている魅空を倒すかのどちらかで決着がつく。狭い廊下を走りながら、的確に要点をまとめる。
「石神さんは強敵です。いくら思い出した大晦日さんでも銃撃による勝ちは不可能。だから私は石神さんの身を封じることを提案します」
石神魅空は頭の切れる女の子。彼女を倒すにはイースターのような天才狙撃手でなければならない。しかし、イースターはテイムによって操られる。それは他の殺し屋たちも同じ。なので勝利する絶対条件として休憩か憩い、どちらかが射撃によって魅空を倒さなければならなかった。
休憩は追ってくる殺し屋たちに目配せした。
「今回、イースターさんたちは盾になってもらいます」
「お任せください。ミスター正月」
休憩の立てた作戦ではこう。何十人と迫ってくる警察官は精鋭三人が相手する。そのすきに休憩もしくは憩いのどちらかが魅空に近づき、射撃して倒す。今回のゲームに追加でプレイヤー同士の戦争を禁止するという項目を加えたので、拳銃で撃っても魅空は死なない。ハッピーエンド万々歳だ。
「拳銃は警察官から奪います。相手は石神さんの得意な戦術、数の暴力で勝ちにきます。いくら警察官とはいえ操られていては単調な動きしかできません。私たちはそのすきに身体能力のある殺し屋さんたちで拳銃を奪い、石神さんの自由を奪い、勝ちます」
「そのための魔王さんね」
憩いはとある違和感を覚えた。しかし、今は緊急事態。走りながらということもあって違和を後回しにする。まずは魔王汽笛に会うことから始めなければならない。
休憩は息を切らしながら言う。この体は相性が悪いと思った。
「ハァ……ハァ……。浅薄な知識ではありますが、魔王の憑依は石神さんのテイムと比肩する能力。魔王の憑依を使えば一時的に石神さんを無防備にできます」
「残念ながら無理よ。魔王さんの憑依はプレイヤーには言葉だけしか操ることができない。今のままだと私たちは全滅ね」
ナイトシーフ憩いならば身体能力の高さで警察官の散弾を躱せるかもしれない。しかし、多勢に無勢。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるのだ。いずれ時間の問題で赤チームは全員やられる。やはり早期決着がベストと判断された。そして、休憩は早期決着の戦術を持っていた。
「任せてください。魔王でも一時的にプレイヤーを操ることができるんです」
「え?」
「マクガフィン。ご存知ですよね?」
休憩の言葉に憩いの目が見開かれる。確かに憩いは知っていた。老婆から奪い、ラノベ警察が保管しているマクガフィン。それを使えば魔王汽笛は一時的に石神魅空を超えられた。
「そうね。確かにマクガフィンを使えば可能でしょう。でもあなたがなぜマクガフィンの存在を? これはラノベ警察が情報統制を敷いているはずよ」
「ハァ……ハァ……。大晦日さん。私にも独自の情報ルートがあるんですよ」
走りながら会話し疲れているのは休憩のみ。憩いも精鋭三人も黙々と走っていた。
「正月、それは、情報屋かしら。あなた、じゃなくて、レストが情報屋と繋がっているのはラノベ警察を通じて知っているわ」
憩いの言葉を聞き、自分だけ仲間外れにされているような感じを覚え、休憩は強がりをして見せた。
「さあ、どうでしょうか。ちょっと言葉にしづらいです。私は頭が悪いのでうまく伝えられません」
「正月?」
憩いが次の言葉を発しようとした瞬間、銃声が響く。なろう高の窓ガラスがいくつも割れる音がする。魅空が警察官の顔を覚え、操作し、一斉に発砲したのだ。10分間、経過した合図だった。
窓ガラスを破壊した警察官たちが一斉になだれこむ。みな赤チームを殺すためにゾンビのように蠢く。数は三十を超えていた。
「浅薄でした。時間がありません。早く魔王に会わせてください」
「ええ、そうね。魔王さんを監禁している部屋はこっちよ」
ラノベ警察の管轄下に移動する。殺し屋たちは「オ~ウ!」とか「イエ~イ!」とか楽しんでいる様子だった。このゲームの勝敗で逮捕されるかどうかが決まるというのに、お国柄というやつか、焦っている様子はない。少しだけ、ほんの少しだけ、就職先のない休憩は、彼らが羨ましいと感じた。
赤チームVS青チームのサバイバルゲームが幕を開ける。




