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石神村の反対派の“の”

 少し昔の話。石神村にて。兄妹の散歩。


「読書は学問の手段である。学問は実践の方法である。実地に臨み経験を積んでこそ、勇気と力が生まれるはずである。福沢諭吉の『学問のすすめ』を要約したものだ」


 兄は学問の大切さを語る。不平等は、学んだか学ばなかったかの違いによって生まれると説明した。


 すると妹は、こんなことを言いだした。


「ねえ、お兄ちゃん」


「なんだい?」


「学校って不要だよね」


「どうしてそう思うんだい?」


「勉強したければ塾に行けばいい。家庭教師を雇えばいい。小学校っていう場所は子どもたちの可能性を狭めているんだよ」


 妹の考えに兄は苦笑した。


「義務教育は大切だよ。義務教育の有無はさらなる不平等を引き起こす」


「いいんだよ、それで」


 この時。兄は妹の深淵を覗いた気がした。深淵を覗く時深淵もまたあなたを覗いているのだ。


「お兄ちゃん。私は日本からすべての義務教育を取り除こうと考えている」


 と妹は静かに言った。


「なぜだい? 学問の差によって貧富の差はますます拡大する」


「いらないじゃん」


「え?」


「食料がたくさん手に入る時代。いくら貧しくても飢えることはない。なら、別にいいじゃん。どんどん不平等になればいい」


 妹の考えはユートピア的発想だった。たしかに科学が発達すれば最終的にすべての人類が働かなくても暮らせていけるかもしれない。貧富の差はあれど、食べるもので差が出ることはない。今後、義務教育をなくして小卒とか中卒とか関係のない、学歴のない世界をつくろう、と妹は言った。


「勉強できる人が勉強できない人を養う時代にする。もう学歴によって収入の差が出るのはごめんだよ。私は将来、日本中からすべての小学校や中学校を消し去る」


「君は革命家にでもなるつもりかい?」


 と兄は怖気づきながら聞いた。


 妹は笑った。


「かもね。私は学歴不要論を唱える。不平等は学んだか学ばなかったかの差で生まれるんじゃない。努力したか努力しなかったかの差だよ」妹は続けて、「そして私は、まったく努力しなくても生活できる世界をつくる」と断言した。


 石神魅空は兄の前で、小学校や中学校を消し去り学歴のない世界をつくると言った。努力したものと努力しなかったものでさらなる差が付く、超の付く資本主義の世界。貧富の差はますます拡大するけれどもまったく努力しない最底辺でも飢えることなく幸せな生活を保障するとも言った。


 今後、資本主義はますます拡大し、金持ちと貧乏人はさらなる差が出る。しかし、貧乏人が飢えることはなく金持ちと同等の食生活が保証される世界をつくる、と幼き日の魅空は考えた。


 まずは小学校や中学校をぶっ壊そう、と。

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