石神村の反対派の“ら”
第二戦。柔道。レストのフリをした休憩とオボンが対戦する。互いに柔道着を着こみ、マットの上で対戦するのだが、まず最初に知っておいてほしいのは休憩におこった劇的な変化だった。
二重人格による浸食。今まで正月休憩と睦月レストはお互いに不干渉を取り決めていた。休憩はレストの記憶を持っていない。レストは休憩の記憶を持っている。だから普段は休憩が表に出て行動していた。それが最近、本当に奇妙な現象が起こっている。
「僕がケンカのやり方を知っている?」
現実やアナザーアースでレストが経験してきた戦い方をやんわりと休憩も意識するようになっている。その最もたる例が今だろう。第二戦。柔道。殺し屋のオボン相手に、休憩は、何の能力も使わずに、素の身体能力で勝ってしまった。これはレストならば当然のことだった。あの、けんかっ早い猛牛のような男なら、単純な力比べで殺し屋に勝ってしまうだろう。しかし、今、柔道を取り組んだのは正月休憩だ。読書好きの何の変哲もない高校生。周りはレストと誤解してるが、オボンに勝ってしまったのは紛れもなく弱かったはずの正月休憩だった。
休憩は考える。
――僕に起きている現象。これは表人格の休憩が裏人格のレストに影響を受けていることを意味している。原因は不明。しかし、間違いなくこの僕休憩がレスト化している。もちろん体は共有しているのだから、鍛えまくっていたレストと同様に僕も鍛えられているのかもしれない。しかし、戦い方はどうだ? 僕はこのかた柔道をやったことがない。高校で芸術家クラスに入るような読書家だ。まんざらでもないがスポーツは得意じゃない。なのに柔道のやり方を、ケンカの仕方を体が覚えていた。これはどういうことだ?
休憩は二つの仮説を立てた。一つは内的な要因。ある日突然、内面的変化が起き、正月休憩という人格が睦月レストという人格に徐々に変化しているというもの。しかし、原因が思い当たらない。これは保留で。もう一つの仮説は、外的な要因。つまり、休憩やレストの知らないところで外部から刺激を受けて、休憩がレスト化してしまったのだ。これは釈然としている。
人間だれしも問題が発生すれば、自分ではなく他人のせいにしがちだ。それは休憩も同様である。
プレイヤーになったことは別として、この二年間、休憩とレストの関係は非常に友好的だった。休憩が何かをしたからレストが、レストが何かをしたから休憩が、というように片方がもう一方に迷惑をかけたことなど一度もなかった。
――考えられるとすれば三人。大晦日憩い、石神魅空、魔王汽笛。彼女らの誰かが僕をレスト化させたのだ。
憩いはアナザーアースで、魅空はテイムで、それぞれが休憩とレストに影響を与えた。しかし、二人が何かをやっていたのならレストが必ず気づく。もし気づかないのであれば、それほど巧妙な能力だったのだろう。それは憑依能力者の魔王汽笛ただ一人。休憩は汽笛が犯人ではないかと疑った。
とにもかくにも、ただの素人の休憩が殺し屋のオボンを圧倒してしまう。ゲーム内容は柔道のルールを無視したオボンのタックルを、休憩は一通り受け、多少傷つきながらもほぼ無傷の状態をキープし、逆に焦ったオボンをカウンターで一本背負いした。そんなところだ。コンクリートを砕くというオボンのタックルを受けて平然としている一般人は、休憩は、この世でレストしか知らない。それだけ休憩がレスト化しているということだ。
「ゲーム終了。なんかつまんな~い」
魅空の声を聞いて、ふっと休憩は現実に引き戻される。
休憩は集中すると周りの声が聞こえなくなることがある。ほとんどは本を読んでいるときか考え事をしている時なのだが、今回は考え事をしている時だった。内容は深刻。このままでは正月休憩という人格は睦月レストという人格に食われて消えてしまうのではないかと恐れた。まるで人間は死んだらどこに行くのかという哲学的な議題を思い出した。ただ消えてなくなるのか天国に行くのか幽霊になるのか、休憩は中学生の時、この議題を考えたせいで夜眠れなくなったのを思い出した。どうでもよいことではあるが。
休憩としてはこのままゲームがすんなり終わるのはまずかった。まず第一に魔王汽笛という人物に会いたい。しかし、今は大晦日憩いが匿っているはずなので憩いに紹介してもらうしかない。第二の理由に、殺し屋たちとコミュニケーションを図っておきたかった。魅空はゲーム終了次第反対派を潰すために精鋭三人を警察に引き渡すと言っていたが、それは非常に困る。今後、魅空が日本を裏切った時のために手駒は揃えておきたかった。
「待ってくれ」だから休憩は叫んだ。できるだけレストの真似をして。
「何かな~?」
「ゲームを続けよう。三本先取では俺の勝ちだ。ただもう一つだけゲームしたい。もし俺が勝てば反対派の身柄を一旦預けてほしい」
休憩の提案に魅空が首を傾げる。頭の良い彼女のことだ。数秒の間に休憩の狙いに感づいたかもしれない。兄に会う、精鋭三人を警察から逃がす、この二つから考えられる結論は、反魅空勢力の結成だ。魅空に対抗できる勢力を組織する。そこまで魅空は考えてから、レストと反対派だけでは障害にはならないと判断し、休憩の提案を受け入れた。
「いいよ~。延長戦だね。私が勝てばさっきのやつ守ってね」
レストが魅空の味方になり、憩い(日本)に魅空の秘密を喋らない。そんな条件だったはず。
「了解した。引き分けた場合は二人の勝利した時の約束を叶えよう。それでどうだ?」
「むむ~。そこまでして精鋭三人が欲しいのかな~。いいよ。ただしゲームルールは私が決める。そだね。サバゲ―でどうかな?」
・サバイバルゲーム。赤チームと青チームに分かれる。場所は校内限定。日本政府チームと反対派チームは結託し、赤チームに。周囲にいる警察官を操った魅空が青チームに。赤チームが勝てば精鋭三人の逮捕は免除される。青チームが勝てばレストは魅空の仲間になり、秘密を守る。引き分けの場合、その二つが同時に果たされる。
「そのルールでいいぜ。作戦会議したいから10分だけ時間をくれ。お前も外の警官の顔を覚えないと操れないだろ」
「そだね~。作戦会議として10分だけ猶予を。10分後にサバイバルゲームの始まりだ」
お互いの体が光り輝き、ゲームの延長戦が決まる。この時、休憩は精鋭三人の身柄など実はどうでもよかった。本当に欲しかったのは時間、魔王汽笛と話し合うための時間だった。日本政府に保護されている魔王汽笛は許可がないと会えない。その許可をもらうための延長戦だった。
「大晦日。このゲームは魔王汽笛がいないと勝てないゲームだ。どうしても彼女に合わせてほしい。ダメかな?」
休憩は憩いの目をじっと見つめる。何かを訝しんでいる様子はなかった。大晦日憩いとはその剣と同じように基本真っ直ぐで良い子なのだ。
「ええ、いいわ。特例として魔王さんを動かしましょう。あとラノベ警察の力も借りるわよ」
「ああ、ありがとう。ちなみに今の僕は正月休憩に戻りました」
休憩は嘘をついた。本当にどうしようもないほどのモブキャラな休憩が主人公のフリをするのは本当にまっぴらごめんだった。休憩はレストが大好きなのだ。なぜなら彼はヒーローなのだから。レストのフリをするのは、自分の作った芸術作品が汚されているようで、ひどく休憩の心を痛めた。




