石神村の反対派の“が”
なろう高校で乱射立てこもり事件が起きる一時間前。三人の男がカフェでお茶をしていた。
「ミスター石神はひどいね。我々だけでお姫様に特攻するなんて身の程知らずがオチよ」
ウエスタンの西部劇に出てくるような男が一人。彼の名前はイースター。口ひげをたくわえ、昔のアメリカのギャングかマフィアのような恰好をしている。反対派の精鋭三人のリーダー格。魅空の兄の右腕だ。
イースターは魅空がテイムの力を持っていることを知っており、戦いになれば確実に負けることを悟っている。にも関わらず、これから突撃しようと言い出したのは、反対派の頂点、魅空の兄だ。反対派は賛成派に存在感を与えるため、できるだけ派手に、イースター含めた精鋭三人でテロ行為をしようと計画した。
イースターの対面には二人の男女が座っている。体長2mにおよびそうな巨人オボン、竹刀袋を背負ったキツネ目の女性ゴーウィーだ。精鋭三人は石神村の出身ではなく、魅空の兄に見出された殺しのプロ。各国のエリート殺し屋がなろう高近くのカフェに集結している。
イースターは吠える。
「プレイヤー以外の戦争が禁止になり、殺し屋は商売あがったりね。我々はミスター石神の指示に従い、日本政府とやらに戦争を解禁してもらわなければならない。その前哨戦ね」
勢いよくコーヒーを飲み干して店を出る。残りの二人もイースターの後ろに続く。
精鋭三人が最初に向かったのはなろう高校ではなく交番だった。
イースターは警察というものが大嫌いだった。彼が刑務所に入れられたのは十歳の時、銃の誤射で人を殺してしまったことがきっかけだった。それからというもの彼の地獄の人生が始まった。人を殺してはなぜいけないのか? それは自らの身を守るためである。法治国家において人を殺しても良いと定めると、自分も殺されても良い、ということになってしまう。人を殺さないということは自分も殺されないということだ。しかし、イースターは齢十歳にして人を殺してしまった。人殺しの汚名は晴れず、陰口を叩かれ石を投げられ住むべき場所を失った。警察からたくさんの暴力を受けた。
イースターは殺人賛歌を唱える。
「彼らは殺人を起こしたというだけで悪口を言い続け、居場所を奪い、我々の存在そのものを否定した。ならば証明し続けよう。世の中には不幸な事故によって殺人を犯してしまった者がたくさんいる。殺人者の諸君、法の裁きを受けるだけが人生ではない。人生を大いに楽しもうではないか、殺し屋として我々を攻撃し続けてきた差別をなくそうではないか」
不幸な事故や病気によって犯罪を起こすケースは存在する。イースターは居場所を奪われた犯罪者たちに新しい自由を与えてやりたかった。そのための正義だ。軍人が人を殺して何が悪い? 警察や自衛隊、軍に所属する人は人を殺しても文句は言われない。一生、職に困ることもなければ陰口をたたかれる心配すらない。殺し屋が人を殺すとき、それは軍人と同じだ。多数の幸福を守るためならば人は人を殺す権利を得る。
「お姫様は影響力を持ちすぎた。このままではいけないね。ミスター石神の邪魔になる前に排除するよ」
石神魅空。魅空の兄が育てた最大にして最悪の存在。石神村の忌み嫌われた子。人類の敵。殺し屋のターゲット。
イースターは寄った交番でオボンとゴーウィーに合図する。扉をノックし、出てきた警官を巨漢のオボンが羽交い絞めにする。ゴーウィーが続けざまに刃物で警官をめった刺しにする。警官は事切れる。それで終わるはずだった。しかし、戦争が禁止された今、プレイヤー以外の殺しは絶対禁止になり、オボンの絞めは警官を気絶させるだけにとどまり、ゴーウィーの刃物は謎の力によって弾き飛ばされた。イースターは悪態ついた。
「shit! 忌々しい制限ね。殺し屋は誰も殺せなくなったよ」
我慢の限界だった。それももう終わる。ミスター石神が勝てば、戦争代理家業の石神村は、殺し屋たちの天下は、じきに戻ってくる。
イースターは気絶した警官から拳銃を引き抜いて手触りを確認した。「M360J SAKURA」国産の拳銃だった。
「警察は恐ろしい。銃の規制されている日本でも拳銃の乱射事件は後を絶たないよ。悪人なら誰でも知っていることよ。殺したいやつがいれば警察から拳銃を奪えってね」
イースターは試し打ちとして現行モデル五連発の内の一発を発砲する。気絶した警官を殺すために打ったのだが、やはり謎の力が働いて弾丸は弾き飛ばされる。
日本の市民は犯罪者に差別的なレッテルを張り付け嘲笑う。あることないこと吹聴し、噂を広げてバカにする。イースターのような人間に人権なんて微塵もなかった。だから壊そう、この世界を。
気絶した警官を放り捨てて、なろう高校に向かう。途中、上空に威嚇射撃をして市民をビビらせる。
警官から奪った拳銃ほど人殺しに適したものはない。イースターは自前の武器を持っていない。だから奪ってきた。戦場で殺した兵士から銃を奪い、ナイフを奪い、さらに多くの敵を殺した。武器は現地調達が、この男の基本だった。
「さあ、ショーの始まりよ。配役は我々とお姫様。有象無象のゲストは退場願いたいね」
イースターは登校中の生徒に発砲する。もちろん無傷。しかし、恐怖のあまり生徒は腰を抜かす。すかさずオボンが羽交い絞めにし、人質にした。




