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石神村の反対派の“し”

 少し昔の話。兄と妹。石神村にて散歩の最中。


「エラトステネスを知っているかい、魅空?」


 兄は妹に優しく語り掛ける。


「知らない。何の人?」


「初めて地球の大きさを測った人だよ。日本では弥生時代が始まったばかりの頃に生きていた人だ。魅空は弥生時代を習ったかい?」


「うん、学校で習った。高床式倉庫のある時代だよね?」


「そうそう」


 兄は優しく微笑む。


 妹は自分の頭の良さを必死にアピールする。兄が好きだから認めてもらいたいのだ。


「ネズミ返しはテストに必ず出るよ。次のテストで100点取るんだ」


「偉い偉い。これは中学の社会とはまるで関係のない話だけれど覚えておくといいよ」


「わかったー」


 兄は語り始める。


「本当に頭の良い人とはどうしようもない天才で、50年や100年も先を見据えることができる。エラトステネスのように科学が発達していない時代でも数学の力で正確な地球の大きさを測った。魅空、頭の悪い人が手っ取り早く頭を良くするためにはどうしたらいいと思う?」


「う~ん」妹は少し考えてから「勉強する!」と発した。


「そうだね。でもそれは質と量、興味があるかないかの違いでしかない。真の知恵を手に入れるためにはエラトステネスのような天才が書いた本を読むんだ」


「それってお勉強と同じじゃない?」


 妹の疑問を兄は笑って返した。


「くすくす。勉強することと知恵を手に入れることは全然違うよ。より正確に言うならばエラトステネスとお喋りすることが必要だ。頭の悪い人が手っ取り早く頭を良くするには、天才を師として仰ぎ、師の本を読んで教えを乞うことなんだよ」


「ふ~ん」


 中学生になったばかりの妹は兄の言葉を飲みこめず、自分なりに解釈しました。


 中学校で先生とお喋りすること。これが重要だと思いました。けれども兄は即否定しました。


「勉強ができるのと頭が良いのは違う。中学校はあくまで勉強を覚える場だ。昔から、頭の良い人は義務教育を必要とせず、家庭内で優秀な家庭教師を付け独学で学んでいたのさ」


 兄は言います。文学界で最高峰の頭脳ドストエフスキーはウィキに低学歴だと書かれています、が実際は違います。医者である父親、もしくは法律家を目指す人に家庭教師をしてもらったのだと予想します。で、なければ、あんな小説は書けないだろうと兄は言いました。


「知識とは積み重ねに過ぎない。知恵を欲すのであれば天才の残した疑問を一つ一つ読み解いていくことだ。残念極まりないのは、その天才たちがすでに死んでいることだね。もし彼らが生きているのであれば私は間違いなく飛行機に乗って彼らに教えを乞うただろう。なぜなら1000年前、2000年前の彼らはすでにインターネットを駆使した私よりもはるかに上で頭が良いのだから」


 妹は兄が変わり者であることを知っていました。


 社会のテストで100点満点を何度も取った妹ですが、妹は、兄と自分は別の生き物なのだろう、と思っていました。


 兄は続けざまに言いました。まるで自分に言いきかせるように、です。


「天才を育てたいのであれば幼少期から思想、哲学を取り入れることが重要だ。できれば直接会ってソクラテスのように問答法を繰り返すのだ。子供を優秀にするには優秀な両親との会話である。ね、魅空?」


 兄はにっこり笑いました。まるでホラーのようです。


「君は私の最高傑作だ。いつか私を殺してくれるのだと信じているよ」


 兄と妹の対話。散歩は毎日の日課でした。

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