魔王の“お”
なろう高に帰った休憩は憩いに事の詳細を懸命に説明した。妨害工作が認められている性質上、先に相手の手の内を明かしてもらい対策をたてるほうがやりやすい。休憩は必要な一敗だったと言い訳した。メールで妨害工作の内容を聞き出して、一日かけて反撃の手を練るのだ。
「御託を並べるのは結構。正攻法を提示してもらえないかしら?」
痺れを切らした憩い。休憩はパソコンを起動し、USBメモリを差しこんでパワーポイントを開く。中身は虫食いしりとりの攻略法。休憩が昨日、必死に考えた内容だ。
「事前にゲーム内容を聞いていたから大晦日さんに正攻法を説明する。虫食いしりとりは準備さえできていれば必ず勝てるゲームだ」
メモ帳には、あ行からわ行までの三文字がびっしり書かれていた。
【あ行】(真ん中の文字)
・アート(ー)
・アイス(い)
・アウト(う)
・喘ぐ(え)
・青い(お)
・赤い(か)
・飽きる(き)
・悪魔
・開ける(け)
・アコム(こ)
・朝日
・明日
・飛鳥
・汗疹
・遊び(そ)
・頭
・彼方
・熱い(つ)
・宛名
・アトム(と)
・あなた(な)
・兄貴
・アヌス(ぬ)
・姉御
・アノア(の)
・あはや(は)
・アヒル(ひ)
・アフタ(ふ)
・アヘン(へ)
・阿呆
・甘い(ま)
・編み機
・あむす(む)
・あめく(め)
・アモイ(も)
・あやす(や)
・歩む(ゆ)
・あよく(よ)
・新手
・アリア(り)
・アルミ(る)
・あれい(れ)
・アロマ(ろ)
・あわら(わ)
・あんい(ん)
あ行だけではなく、い、う、え、お、を網羅し、か行やさ行、わ行に至るまですべての三文字が、それぞれ“あ~ん”までの言葉を用意していた。
「僕は、あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわ、のすべての真ん中に“あ~ん”まで付く言葉を探していました。加えて“を”の、ヲタクという言葉まで知っています。それでも負けました」
45文字×44文字+オタク。休憩は約1980文字の言葉をメモ帳に書きこんでいた。だからこのゲームは、じゃんけんで先攻後攻のどちらかを決めたほうの勝ちだと思っていた。虫食いは45文字。“を”を制して、46文字目を言う番の後攻が必ず負けるゲーム。そう思っていた。けれど違った。何の前触れもなく唐突に休憩は負けた。
「“を”がネックだった。真ん中に“を”の付く三文字が思い浮かばなかった。けれどこれだけ準備していれば負ける要素は皆無だった。なのに負けた。僕の思い違いでした。このゲームは言葉をストックするゲームじゃない。妨害工作して相手に最後“ん”を言わせるゲームだったんです」




