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まじましゅ! ~ さながら見果てぬ夢の夢 ~  作者: 楪羽 聡
第一章 転移 - 茸採師見習いと魔道師見習い
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0009 領地 #03

 ジェラーノの外見(みため)は、現在中学生の妹より二、三歳は幼く見える。


 それにしては、随分しっかりしているな――と(はる)()は感心した。

 もっとも、(あいつ)のレベルが低いだけかも知れないが。



「俺のとこが恵まれているわけじゃないけど……ここには国の公共事業とかはないのかな」


「クニノコウキョジギョ?」

 ジェラーノはきょとんとして首を傾げる。




「あれ? 国って言葉が――いや、ひょっとして『国』の概念がない? まさか」


 晴佳も戸惑う。



 ――この程度の概念の違いなど、そのまま通じるレベルの話じゃないのか?




「ハル、突っ立ってないで座っていたらどうだ。山道を下る前に少しでも回復させておけ」と、ロードが声を掛ける。


「え、あ、はい」



「最悪、盗賊どもとの戦闘ということもある。休むのも仕事のうちだ」


 村の近隣まで来ると気が緩むという旅人も多く、また、それを狙って来るような盗賊やスリなども出やすいらしい。



 晴佳は忠告を素直に聞き、ジェラーノと一緒に手近な岩に腰掛けた。

 お前は体力がなさそうだから、と言外に咎められている気がしないでもないが。


 もっとも、今の晴佳は荷役以外なんの役にも立たない。彼の場合は戦闘より、少しでも自力で逃げられるようにするためである。




「荷物持ちがお荷物にならないようにな」と、テラーは片頬でニヤつきながら言い放つ。だがそんなことは、晴佳自身も重々理解していた。



 * * *



「さて、中央に近い宿にするか、向こう側の方の宿にするか……どっちがいいかしら、ロード?」


 一行の荷物を置いてある辺りから聞き(おぼ)えのない少女の声がした。



「ここはまだ田舎だ。最近のできごとなど情報収集もしたいし、広場に近い宿が空いているといいのだが……祭りなどの予定は、今時期あるのか?」


 ロードが応える。



「そうね……確か、(ひと)(めぐり)先だったと思うけど。じゃあ中央の辺りで探すことにしましょうか。いい宿を知ってるわ。きっとロードも気に入るわよ」


 そう言って振り返ったのは、深緑のローブだった。




 声の主を探していた晴佳は困惑する。



 ――あれ着てたの、しわがれ声にしわくちゃ顔の老婆(おばあさん)だったよな。俺、散々喋ったし。




「ふぅ……暑い暑い。やっと楽になるわ」



 だがフードを脱いだ顔は、晴佳とそう変わらないくらいの年齢の少女に変わっていた。身長も少し伸びているようだ。


 きっちりとした三つ編みお下げに結わえられている少女の髪は、春の新緑のような、鮮やかな緑色だった。

 深緑のローブの襟元を掴んで風を入れたり、ぱたぱたと両手で顔を扇いでいる。



 晴佳は一瞬「バンドでもやってんの?」と問いたくなる衝動に駆られる。


 かろうじてその衝動を飲み込み、「えっと、きみ――誰? さっきのお婆さんは?」と目を丸くしたまま問うと、その少女は大袈裟なため息をついた。




「いきなり失礼ねー、あたしはレグノ。本人よ。ま、しょうがないのよ。騎士団の団長がこんな年端も行かない少女だと思われると、門を通る時に色々なめられるのだもの――――お前さんも、年配者だと思って態度を改めておったのじゃろう?」


 少女の顔のまま、レグは途中から声色を変えてみせる。その声は先ほどの老婆のものだった。




「え……同一人物?」



 晴佳は驚いたと同時に、数時間前に感じた違和感の原因にようやく突き当たった気がした。


「そうか――手だ。手だったんだ」



「手?」

 少女のレグは首を傾げる。


「うん。さっきはお婆さんなのに、手の甲がすべすべしていた。あんなの老婆じゃありえないんだ。それが違和感になって引っ掛かってた」




「ほう、ハルはいいところに目をつけているな」

 レグより早く、ロードが感心の言葉を述べた。



 今度はレグが目を丸くする。


「えー、じゃあ今までの何人かには、お婆さんじゃないってことがバレてたわけ? 信じらんない。とんでもない恥晒しだわ」



 レグの憤慨に対し、ロードはくすりと笑って軽くあしらう。


「まぁ、手形(リディ)の肩書や名前が合ってるなら、どんな容姿の者であっても文句の言いようがないからな。変化の練習中と勝手に解釈してくれていたのかも知れんぞ?」




「あ、でも、顔や背丈も変えられるし、次から手の甲も変化させれば――」

「無理よ。あたしはまだそこまでの魔法は使えないもの」


 晴佳の提案に対し、レグは悔しそうな表情をする。



「え、だって手形には魔道師って書いてあるのに?」


 『師』というからには一定以上の能力があるんだろう、と晴佳は考えていた。



「それは、今回の旅のために……」


 消え入るような小声で、レグは答える。



「それって――」

「ハル、その辺にしないか。まだ続けるなら諜報員としてここで切って捨てるぞ」



 険しい表情でロードが割り込み、晴佳は慌てる。


「あああごめんなさい。つい興味本位で……悪気があったわけじゃなくて、その、わからないことだらけだったから」




「――そういうことにしといてあげるわ。ロードも、それを収めてちょうだい」


 悔しそうな表情のまま、レグはつんと言い捨てる。

 ロードは剣から手を離し、晴佳はほっとする――が、ロードは晴佳と目が合うと苦笑した。



 ――え、今のどういう……ひょっとして、本気じゃなかったってこと?




 晴佳がどぎまぎする一方で、レグは空気を変えるようにパンパンと手を打つ。


「さ、もう(はん)(とき)以上休んでしまったわ。そろそろ峠を下りましょうよ。このままじゃ、村に着く前に夜になってしまうわ」



「だってまだ全然――」


 晴佳は空を見上げる。

 太陽は頭上に――しかも真上に輝いている。赤道に立ったことはないが、多分このように見えるのだろう、と考えていた。



「何を言ってるの? もう色が変わって来ているじゃない。あと一刻半もすればこの辺りは暗くなるわよ」


「え? まだあんな真上にあるのに?」


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