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まじましゅ! ~ さながら見果てぬ夢の夢 ~  作者: 楪羽 聡
第一章 転移 - 茸採師見習いと魔道師見習い
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0008 領地 #02

 黒い女騎士(テラー)に押されて、よろめくようにまた歩き始めた(はる)()。しかしやはり茫然としてしまう。



 ――現実逃避、だと? 夢のくせに随分……




 これは夢だと繰り返し思っていても、徐々に不安がつのる。

 それにしては、ひとつひとつがあまりにも現実的なのだ。


 門を通った時の喧騒、ジェラーノにもらったあの果実、背中の荷物の重さも、じっとりと湿り気のある暑い風も――何もかもが。



 * * *



 一行は、ここの単位で(いっ)(とき)半の距離にあるらしい村に向かっていた。


 そう教えられても残念ながら晴佳はここの時間の概念がわからない。門からここまでの道中は、既に一時間以上経っている気がする。





 見晴らしのいい峠に出た。レグが「ここで休憩を取る」と宣言する。



 荷物を下ろし、晴佳にも簡素な服も与えられ――実は今までずっと、ローブの下は素っ裸だったので――これでようやく人心地つくというものだ。


 ローブは足首近くまでの長さがあったが、それでも万が一を考えると落ち着かないことこの上なかった晴佳である。




 ジェラーノとウィーテは休憩と聞いた途端、フードを脱ぎたいと大騒ぎだった。


 晴佳でさえ視界が狭まると歩きにくいのだ。まだ小さいウィーテなどは、歩いている最中には地面しか見えなかったのではないだろうか。


 微笑ましく眺めていた晴佳だったが、ウィーテがフードを外した途端、きらきらとまばゆい光が幼女を取り囲んだように見えて思わず感嘆する。



 光の正体は彼女の髪だった。プラチナブロンドというのか銀髪というのか、絹糸のようにも見える長い髪。ゆるく編まれているが、フードで擦れるせいかほどけたようにふわふわと乱れている。

 ジェラーノよりも更に色白の肌に、やはり色素の薄い唇。そして瞳の色はうさぎのように(あか)かった。


 その容姿はひと言で『かわいい』と表すような単純なものではなく、何か神聖な存在にも見える。




 ――やっぱ、誘拐されそうなのは俺なんかより()()(ι゛)()の方だと思うけどなぁ。



 ジェラーノと一緒にぴょんぴょん跳ね回っているウィーテを眺める晴佳は、そのような感想を(いだ)くのであった。





「ハル。ボケっとしている暇があるなら、今のうちに村の様子を見慣れておけ。村に入ってから不審な動きをされると迷惑が掛かるからな」と、ロードは晴佳に単眼鏡を押し付ける。



「あ、ありがとう、ゴザイマス……」


 晴佳は恐縮しながら受け取った。



 ロードもフードを脱いでいた。

 現れたのは見事な赤毛で、少し長めのショートカット。くせ毛だからか、風が吹くたびに炎が揺らめいているように見える。


 瞳の色は緑がかったグレー。ほんの少し目尻が垂れているため、厳しい言動から受けるイメージよりその容姿は優しそうに見える。

 うっすらとそばかすが浮いた顔は相変わらず不機嫌な様子だったが、実際は一行の中で一番面倒見がいいのでは、と晴佳は思う。


 口調から想像していたよりもずっと若く見えるが、晴佳よりは年上――おそらく二十代半ばといったところだろう。




「――なんだ、じろじろ見て。失礼なやつだな」


 ロードに指摘され、晴佳は慌てて謝ると単眼鏡を覗き込んだ。




 峠から眺めると、目的地の村は眼下に広がっている。

 近くには川が流れ、村付近一帯は少し盆地になっているようだ。


 この先は関所らしきものも見当たらず、村の中まで一本道が伸びている。偵察するにはもってこいのロケーションだが、このままではこちら側も丸見えだろう。



 家屋は三角屋根の木造が多いようだ。

 屋根の色が一件ずつ好き勝手に塗ったようにカラフルで、その色合いはミニチュアのおもちゃを思わせる。


 街並みも、おもちゃをばらまいたようだった。

 村の中の道があちらこちらで枝分かれしているらしい様子が、人の動きで見て取れた。どうも並び方に規則性があるようには見られない。



 ただ、村の中央部分には広場があるのか、そこだけはぽっかりと空いていた。





「へぇ……これが()()()の村の形なのかぁ」

 思わずそんな感想が口から洩れる。


「ハルのところの村は、これとは違うの?」

 いつの間にか寄って来ていたジェラーノが、オレンジがかった金髪のおかっぱを揺らしながら、晴佳を見上げる。




 ――ジェラーノって、俺のことを見上げる表情もかわいいなぁ。うちの(バカ)とは大違いだ。こんな妹が欲しかった……


 晴佳はジェラーノを見下ろしながら、三歳下の妹のことを思い出す。




 ――ガサツで乱暴で言葉遣いも悪く、兄を兄とも思わず(あし)()にする、あの可愛げのないサル女……



 昨日も口論になったことを思い出して、晴佳はムカムカしてきた。

 だが同時に、非常に遠い昔のように懐かしくも感じられ、狼狽する。





「ハル?」


「あ、ああ……」



 薄曇りの陽射しが差し込み、ハチミツ色に輝くジェラーノの瞳が、戸惑うように見開かれていた。晴佳が答えなかったのを、不安に感じたのかも知れない。



「そうだね、村ね。んー、ひょっとしたらこんな村もあるのかも知れないけど、俺のいた国では、もう少し道が整然としているか、逆に過疎っているところなら一本道沿いにぽつぽつと家があるとか……」


 言うほど詳しくはないのだが、少なくともこのような形ではないはずだ、と晴佳は考える。




 ジェラーノは、小さくうなずいた後にすっと表情を引き締める。


「ここいらの田舎は大体こんなものよ。だってこんな過疎の土地に道を整備する余裕はないもの……税が高くなってしまうだけだわ。そんなことをする領主はきっと、すぐ(たお)されるでしょうね」



 そして思案深げな言い方で続ける。


「領地の首都なら、もっと道も広くて街の造りも建物の造りもしっかりしているけど……ハルがいた所の(おや)(かた)さまって、随分大きな財力(ちから)をお持ちなのね。素晴らしいわ」


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