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まじましゅ! ~ さながら見果てぬ夢の夢 ~  作者: 楪羽 聡
第二章 師匠 - 役立たず晴佳と魔法茸屋ソノップ
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0035 再会 #02

 寝ている間に知らない世界に飛ばされたことは、まず不運だっただろう。


 だがあのまま誰も通り掛からなかったら、(はる)()はスズナリに八つ裂きにされていたかも知れない、とレグに言われた。ゆうべは、場所によって野犬や盗賊がいるのだという話も聞いた。


 しかも自分は役立たずの余所者だ……下心もなしに――ひょっとしたらあるのかも知れないけど――保護して、旅の道連れにしてくれるような彼らに出逢ったのは、本当に運のいい話ではないだろうか、と。



「ほんとに……ロードやレグたちには感謝してるんだ。俺がひとりぼっちでここに放り出されてたら途方に暮れてただろうし、今こうして生きているかも怪しいとこだ」と、晴佳は微笑む。


「そうか。そういう意味では俺も運がいい方だったかもな。当時は『なんで俺がこんな悲惨な目に遭わなきゃいけないんだ』って思ってたけど、今まで生き延びれたんだしなぁ」


 晴佳に応えるように、ソノップも快活に笑う。


 相変わらず『悪い魔法使い』の笑みに見えてしまう瞬間があるが、その中にも園田の笑顔が重なる。晴佳は、だいぶソノップの顔を見慣れて来たと感じた。



「そして、こうやって園田と再会できたんだし――そうだ、園田お前……よく生きてたよな? だってお前は、その……」


 言い淀む晴佳を見て、ソノップは寂しそうに笑った。


「あぁ……火事だろ? ほら、俺、火傷(やけど)(あと)があるんだ。こことか、あと脇腹とかにも。そん時のやつさ。こっち来た時に丁度逗留していた呪術医師が治療してくれたんだけど、やっぱそこは魔道医師とは(ちが)くてさ、結局、左脚には少し痺れも残ってる」


 ローブをまくって見せられた左腕には、広範囲にひきつれたような痕が残っている。肌の色が変わっていても、その火傷痕ははっきりとしていた。


「そう、だったんだ……」

 晴佳には掛ける言葉が見つからなかった。


「まぁでも、お前の言う通りだよ。生きていただけでもありがたいと思わなきゃな」と視線を落とすソノップを眺め、晴佳は懐かしさとは違う複雑な寂しさを感じていた。




「――なぁ、俺がいなくなった時ってどうだったんだ?」


 しばらく沈黙が続いた後、ソノップはつぶやくように訊ねる。


「あぁ、うん……火事で、園田の家は全焼して……おじさんとおばさんは助かったけど、お兄さんは――」


 晴佳は当時の様子を思い出す。

 テレビのニュースで友人の名前を見ることになるなんて思ってもいなかったので、初めは同姓同名の別人だと考えた。だがその日のうちに元クラスメイトから連絡が回って来て、晴佳も認めざるを得なくなった。


「あと、ニュースでは園田が行方不明ってことだったけど、火元がお前の部屋だったのと、お前の服とか髪の毛とかが……だから」


 園田の両親は兄弟一緒に葬式を出した。兄の方はほぼ全身が包帯に包まれており、かろうじて目元が見える程度。

 園田の方は、棺の中一面に花を敷き詰め、あとは教科書や制服など思い出の品を込めた、遺体のない見送りとなった。


 特に晴佳の印象に残っていたのは、棺に入れられた一冊の本だった。いつだか園田が秘密基地に持って来た、象形文字のような文字で綴られている不思議な本。

 右上の端から四分の一ほど燃えてしまっており、表紙は煤けていた。それが火元近くにあったと園田の両親から聞いた。



「俺も、園田が生きていてくれて嬉しいよ。だって、高校でまた一緒に遊ぼうなって約束してたのに――あ、あんなこと、に」


 込み上げて来るものを抑えようとした晴佳は、言葉を詰まらせる。



「跡形もなく燃えるわけねえのにな。普通なら俺が火を()けて逃げたってことになっただろうに」


 自嘲のように言い捨てるソノップ。


 晴佳は、例え雑誌の付録の小冊子でもゴミ捨て場から拾った本でも、本であれば大切に扱っていた園田の性格をよく知っている。だから、園田のことを知らない、心ない者たちが好き勝手に流していた噂は間違っている、と自信を持って言えた。



「誰もそんなこと言わなかったよ。でも、死んだとも思いたくなかったし、おじさんたちも、どこかできっと生きてるって、いつか帰って来てくれるって――」


「無理だろ、普通」

 ソノップの声は冷めていた。


「俺が火を点けたんなら、戻って来るはずがない。それに、俺が火を点けられた方だとしても、逃げたんならそれなりの理由があってのことで……俺がそういう行動を取るのなら、少なくとも数十年は音信不通になるはずだ、と、親父ならわかってたと思うんだけどな」



 晴佳は、実はそういった話も園田の父親から聞いていた。

 それから、園田の兄が受験に失敗し、ノイローゼになっていたという話も。


「分け隔てなく育てたつもりだったが、『弟ばかり褒められている、可愛がられて優遇されている』といつもこぼしていて……受験も、無理をしなくていいんだと、いつも言ってやっていたんだがなぁ」


 一度に息子を二人とも失くし、園田の両親は一気に老け込んだようだった。



 四十九日にあたる日、晴佳は園田が愛用していた工具を形見として譲り受けた。通販で売っているような、安物の工具セットだったが、小学生だった園田がお年玉で買ったのだと自慢していたものだ。


 ガラクタを拾って来てはそれで解体し、また組み立てる。秘密基地での楽しい遊びのひとつだった。園田の両親はこれも棺に入れる予定だったが、最終的に焼け残ってしまうことに思い至り、もし嫌でなければ……と言われたのだ。


「――俺、園田が引っ越した理由も知らなくて……いっつも一緒に遊んでたのに、何もしてやれなかった、って」


「あぁ、なんだよ莫迦だなぁ、そんな顔すんなよ」と、ソノップは慌てたような声をあげた。


「俺さ、こっち来てからもう十五年なんだわ。だから実際はもう二十八くらいでさ。こっちにいる期間の方が長くなっちまったし、今更向こうに還りたいとかもないんだよね。あとこっちの生活、これはこれで楽しいし」


「――ほんとに?」


「向こうに帰りたいと思ってたら、こんな顔色になるような仕事を選ぶか?」

 ソノップは癖のある笑顔を見せて笑う。



 晴佳の記憶の中にある園田は、自分が興味を持ったことなら、自身の危険も顧みず突進して行くようなところがあった。

 ブラウン管テレビの解体の時にしても、感電の危険性を知らなかったわけではない。しばらく放置しておけば自然に放電して感電しなくなるらしい、という知識も持っていたが、「そんなに待ってらんねえ。我慢できねえしっ」と言ってテレビと一緒に工具も持参して来たのだ。



「そっか……ある意味、園田らしいかもな」


 後日、両親や教師たちにこっぴどく叱られたのを思い出しながら、晴佳はようやく笑顔になった。





「ハル、済まないんだが、できたら通訳してくれないか?」


 話が一段落したところで、遠慮がちにロードが割り込んだ。

 いつの間にかロードの手は剣から離れ、腕を組みながら晴佳たちの話を聞いていたようだ。


「え? なんで?」晴佳は思わず問い返す。


「ハルたちが使ってるのは、ニホンというところの言葉だろう? ハルの言葉はまだ理解できるんだが、ソノップの言葉は途中からまるで通じない」


「あ、そういうもんなんだ?」


 晴佳は意味がよくわからず首を傾げた。


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