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まじましゅ! ~ さながら見果てぬ夢の夢 ~  作者: 楪羽 聡
第二章 師匠 - 役立たず晴佳と魔法茸屋ソノップ
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0030 紅炎 #03

 (はる)()は水筒のような器を覗き込む。飲み干す勢いで飲んだのに、まだ器の半分以上が満たされていた。


 ジェラーノの言葉の通りだとするなら、これは器に魔法が掛けてあるのではなく、シダレットの持つ特性のお陰ということらしい。



「そんな風にロードたちの鎧も魔法以外の力で姿を変えるのよ。その仕組みは昔から彼らにしかわからないから『伝説』とまで言われているの」


「わかったような、わからないような……」

 眉間に皺を寄せて晴佳は唸る。レグとジェラーノはくすくすと笑った。


「そんな簡単にわかったら、逆に驚きだけど。あたしも鎧の正体を知ったのは極最近の話だし」 


 どうやらレグは機嫌を直したようだ。もっとも、機嫌を損ねていたわけではなさそうなので、晴佳が感じたものは違う感情だったのかも知れない。



「じゃあロードたちが帰って来たら――」


 晴佳がそう言い掛けた時、突然キーンと耳鳴りのような音が響く。レグとジェラーノは顔色を変え、同時に叫んだ。



「ハル! 耳を塞いで!」



 わけもわからず晴佳が両手で耳を押さえると同時に、遠方に巨大な光が浮かび上がる。(あか)くまばゆい火柱だった。



「え――?」と晴佳が思わず声を上げた直後、火柱の色が金色に変わり、辺り一帯の空気が震える。空気だけではなく地面も震え、晴佳はビリビリするような圧を感じた。


 一歩遅れて、巨大な花火を間近で炸裂させたような音が響く。また地面が揺れ、轟音特有の衝撃が腹の奥を振動させる。



「なにが……っ」


 叫んだが自分の声すら耳に届かない。遠くの樹々は火柱に照らされて浮かび上がり、暴風に煽られ一方向へなびく。

 だが何故か、野営(キャンプ)を張った周囲の樹々はせいぜい強風程度といったなびき方だ。




 樹々を揺さぶる風が落ち着き、晴佳たちの視界から残像が消えるまで、とても長い時間が掛かった。



「……さっきのって」


 ようやく耳を塞いでいた手を離すが、得体の知れない恐怖と予想される最悪の状況が晴佳の心の中を黒く重く染める。


「ロードたちは――?」と、晴佳は誰ともなしに問う。


「あの人たちは大丈夫よ。それだけは言えるけど……」そう答えたレグの顔も白く血の気が引いていた。



「あれはトルキノールの領主が開発していた兵器だと思うの」

 やはり青ざめた表情のまま、ジェラーノが独り言のようにつぶやく。


「特殊な火薬と術式を組み合わせて使用するのだと聞いたわ。まだ実験段階だったはずなんだけど、何故それをギルドが持っているの?」


「ジェラーノ?」


 晴佳は首を傾げる。レグならともかく、ジェラーノがそのようなことに詳しいイメージはなかったので不思議な気がした。


「ジェラーノは歴史が好きだから、その流れで政治関係にも興味があるのよね。あたしの場合、最近の知識は新たに知らなければわからないし……その分野ではジェラーノに負けることも多いわ」とレグが代わりに答える。


 晴佳は村の構造や領主についてジェラーノに質問されたことを思い出した。


「そうか、得意分野が違うんだな」と感心してうなずく。



「ハルは意外と平気そうね? 結構実戦向きなのかしら」

 レグはまだ血の気の戻らない顔で、無理に笑顔を作ろうとする。


「いや、怖いけど……なんていうんだろう。逆に実感が涌かなくて。平和ボケっていうか、俺らはこういうことに鈍いんだと思う」


「俺ら?」


「その、俺の元いた世界の、俺たちの国――領地の、俺くらいの年齢の人間は」

 晴佳は恥じ入る。


「そういえば平和な世界だって言ってたわね」

 ジェラーノが少しだけ笑みを浮かべる。


「羨ましいわ」と続けた言葉が嫌味などではなかったせいで、余計に晴佳の心に突き刺さった。




「レグ、もう少しでそちらに着く」


 急にロードの声が聞こえた。

 晴佳ははっとして周囲を見回すが、彼らの姿はおろか気配すらわからない。



「まだ姿は見えないと思うわ」とレグが言って、晴佳は耳茸の効果を思い出す。つまり『音声の届く範囲』に入ったということなのだろう。


「サパー、浄化をお願いしていい? あたしは陣に破損箇所がないか確認して来るわ。晴佳とジェラーノはここにいて」


 レグは表情を引き締めた。



 サパーからの返事はなかったが、本人がするりとテントから出て来た。その手には細長い花瓶のようなものを持っている。


「香油を使いますわよ。テラーは苦手でしょうけど、我慢してくださいね」


 柔らかいサパーの声が耳元で響き、直後に嫌そうなため息も聞こえる。

 今のはテラーのものだろう、と晴佳は想像して思わずクスリとする――だけのつもりが、何故か笑いが止まらなくなった。



「何笑ってんだお荷物」

 テラーの不愉快そうな声が聞こえる。


「ご、ごめ、でもなんか、あんなすごい、爆発だったのに、テラーがあまりにも、普通で……」頬が引きつりそうになりながら、どうにか晴佳は謝る。だが腹筋が痙攣したかのように笑いが止まらない。



「あぁちくしょう。香油は相変わらずクサイしこいつはゲラゲラ笑ってやがるし」


 今度はフードからではなく近くから声がする。

 晴佳が息を切らせながら声の方を向くと、テントの風下側で頭を下げたロードがいた。その頭にサパーが瓶の中身を振り掛け、もう片方の手をかざしている。



「あぁ……おかえりなさい。テラー、ロード」


 晴佳は安堵して声を掛ける。

 すると先に浄化を終えていたらしいテラーがずかずかと歩み寄り、その両手で晴佳の頬をがしっと挟む。同時にふわりと香油の甘い香りが漂った。



()()()()わや()()()()()わぅ()()()()……」


 両頬を挟まれたまま晴佳は怯える。



「ひとつだけお前に言っておくことがある……」

 テラーは女性のものとは思えないほどドスの利いた声を出し、不愉快さを全開にした険悪な表情をした。


「は、はぃ」


 ぴくぴくと頬が痙攣している晴佳に、テラーはずいっと自分の顔を近付ける。



「あのな……俺らはお前らのようなひ弱な人間と違って、そう簡単に死んだりしないんだ。だからいちいち余計な心配はするんじゃねえ」


「……はい?」


「こんなことがあるたびに毎回ひきつけ起こしてたら、そのうちお前の腹がよじれきっちまうぜ。わかったかひよっこ」


 ニヤリとしたテラーは晴佳の両頬を軽く叩いた。

 ぺちん、という間抜けた音が響くが痛みはほとんどなく、晴佳は目を丸くしてテラーを見つめた。



「はい……」


「なんだよその目。お前、俺の嫁にでもなるつもりか? 悪いが先約が――」


「テラー、ふざけ過ぎだ」

 ため息と共にロードの声が割り込む。


「まぁテラーの言い方はいささか乱暴だが――いちいち他人の心配をするような余裕はハルにはないはずだ。まず自身を守れるようにならなければな」


 ロードは晴佳に向かって微笑む。


「――だが、我々の無事を喜んでくれたことは嬉しいよ」



「あ、あの……はい、わかりました師匠」


 晴佳は改めてロードとテラーに向かって頭を下げ掛けるが、「あ……これ、やめなきゃいけなかったんだっけ?」と、慌ててまた頭を上げる。


 ロードはくすくすと笑い、テラーはふん、と鼻を鳴らした。


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