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まじましゅ! ~ さながら見果てぬ夢の夢 ~  作者: 楪羽 聡
第一章 転移 - 茸採師見習いと魔道師見習い
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0015 傷跡 #03

 * * *



「ごめんね。ハルはどこか辺境の出身だと思ってたの。異星人だなんて知らなくて」





「へ? い、いや、何冗談言ってんだよ?」




「本当よ、だって――」



 お互い顔を見合わせたレグ、ジェラーノ、サパーが、目の前で一斉にローブを脱ぎ始める。




「おい? ちょっとそれはさすがにっ」



 慌てて手をかざすが、本能は正直だ。


 つい、というかしっかり指の隙間からチラ見して――――





「って、ええぇっ?」




 驚愕の声をあげる。






 そこには――マスコットかゲームキャラのような――巨大なキノコがいた。



 * * *



「まじかよっ!」





 という、自分の声で(はる)()は飛び起きた。




「あー……よかった。夢か」



 ホッとしていると、前方に見えていた赤い塊がもそりと動く。


「え、っと? ロード? なんでそんなとこで」



 ロードは入り口側の壁にもたれて寝ていた。一瞬だけ顔を上げ晴佳を確認するが、そのまま再度目を閉じる。




 ――ひょっとして、俺がベッドを使ったから?



 それなら短時間でも場所を代わろう、と晴佳はベッドから降りた。

 ウィーテとラフィに掛け直すため、シーツに手を掛けるが、



「ぅぉっ?」



 また驚きの声をあげそうになり、必死に抑える。






 隣に全裸の幼女が寝ていた。






 ――お、俺の隣って()()()だったよな?



 慌ててシーツを被せる。




 シーツ越しに、幼女にぴったり寄り添っているもうひとつの塊を確認してほっとするが、直後にもう一度驚いた。



「増え、た?」





 茫然としているとレグが部屋に入って来た。


「あら、ハル早起きね? おはよう。テラーが戻って来ないのでちょっと連絡を――どうしたの? 変な顔して」




 晴佳はどう説明すべきか悩む。「その、ウィーテが増えてて、片っぽは裸で」



「何を言ってるのよ?」



 レグが歩み寄り、シーツの中の二つの凸凹を確認する。が、すぐに「ああ」とうなずいた。

「そうね、紹介し忘れてたわ。こっちはラフィ。獣人って言ったでしょ?」




 ――獣人って……化けるのか?



「あの、ちょっと色んなこと放棄して、風呂使っていいかな……」


 起き抜けで既に頭が疲れてしまった晴佳である。




「わかったわ。じゃあ使い方を教えてあげる」


 レグが何をわかったのか、晴佳にはわからない。だが考える気力もなかった。



 * * *



 壁に掛けてある水差しを倒すと湯が出た。(から)にならずにいつまでも流れ出るので、どうやら蛇口のようなものらしい。


 楕円形のたらいのようなバスタブに湯を張って使うようだ。

 バスタブの湯量は一定以上にはならず、溢れることがないとレグは言う。



 ――なんで……って、こういうのをいちいち気にしてちゃいけないんだろうな。




 一点だけ残念なのは、シャワーとして使えないことだ。

 水差しの位置が低過ぎるため、立った状態では下半身にしか掛からない。



 バスタブに掛けられた小さいカゴには、ラッパ状の細長い花がいくつか入っている。花の下部に丸い袋がついており、潰すと石けん液のような物が出て来た。



「これと似たような植物なら、テレビで観たことあるぞ」


 独り言だったが、レグは「てれび?」と首を傾げている。




 このようなやりとりは何度かあったが、通じない言葉だけが非常に異質な音に聞こえているようだ。




 着替えを受け取り、入り口側とベッド側に衝立をそれぞれ立て、晴佳は風呂に取り掛かった。




 ――そういや俺、起きてから普通にロードやレグを認めてたよな?



 何故か昨日よりはショックが少なかった。一晩寝たら諦めがついたのかも知れない、と晴佳は考える。

 諦めというより開き直ったと言った方が正確だろうか。



 それよりも夢の方が強烈だった、というのもあるだろう。


 レグたちがキノコ型宇宙人ということはないだろうが、もしいたら火星辺りに住んでいるのだろうか。





 石けんはよく泡立ち、気持ちよく洗えた。

 花由来なのか柔らかい香りがついている。便利な植物だ。



 脇腹を洗っている時、晴佳は違和感に気付く。



「盲腸の跡がない。あれ、ホクロも?」


 左の腰骨辺りのホクロも消えていた。

「小さい頃からあったのに……」



 更に気になり、あちこち確認してみた。

 どう見ても、触っていても晴佳自身の身体にしか思えない。だが傷跡やホクロがどこにも見当たらない。


 子どもの頃に花火で火傷をした(すね)の、痣のような跡も消えていた。




「どうしたの?」


 唐突に、衝立の隙間からレグがひょいと顔を出す。



「わー! な、なんで来るんだよ」

 晴佳は慌てて湯の中にしゃがみ込んだ。



「なんで見るのも見られるのも恥ずかしがるのよ。ハル、あたしのこと好きなの?」


「へ?」



「好きな人でもないなら、恥ずかしがることはないでしょ?」


「うーん……俺らの基準では、好き嫌い関係なく恥ずかしいものなんだよ。その、見たいとか見たくないとかとは別にして……」



「よくわからないわ。で、どうしたのよ」

「ああ、傷跡とかホクロとかなくなってて」


「どこ?」


 ずいと近寄るレグに、晴佳は思わず自分を両腕で抱え込む。



「だからなんで入って来るんだよ!」

「そんなの今更でしょ? 迷森(まよいのもり)で拾った時は全裸だったじゃない」




 ――そうだった!





「それはともかく、ホクロがないですって?」

「あと……傷跡、も……」


「別に普通だったわよ?」と、レグは付け加えた。




 ――もうやめて! ()()のライフはマイナスよ!





「ホクロがなくなるのはよく聞くわ。でも傷跡も消えるのね――なんで落ち込んでるのよ?」


 そう言うと、凹んだ晴佳を残してレグは出て行った。



「ごゆっくりと言いたいところだけど、そろそろみんなが起きる時間だから少しだけ急いでね」


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