0013 傷跡 #01
* * *
「とりあえず、お勧めの料理を五人前ずつちょうだい。安くていいから、量が多いものでね。あと飲み物を八人分――」
「俺は酒だ。確か果実酒の地酒があっただろう? それを。辛口があれば辛口で」
ウェイターらしい男に向かってレグが注文している最中に、テラーが割り込む。
「――じゃあ飲み物は七人分で」
レグはため息とともに注文を終えた。
ジェラーノ曰く、ラフィは『獣人』という亜人間に属しているため、一匹ではなく一人として数えられるのだという。だから晴佳たち一行は、七人と一匹ではなく八人というのが正しいらしい。
――飲み物って頼むと、ノンアルコールなんだな。
オレンジジュース、やコーラ、という注文の仕方じゃないのは不思議だった。
だが間もなくウェイターが少し大きめのマグカップを七つと陶器製らしき大ジョッキを運んで来て、晴佳は理解する。
「なるほど、一種のドリンクバーか……」
酒場というよりは、ショッピングセンターのフードコートのようにも見える広い店内を、小さめの樽を二つずつ背負った男がうろうろしていた。
飲み物は何種類かあるらしく、客がそれぞれ呼びつけたり売り子がテーブルに寄って来て勧めたりするらしい。
ウェイターや売り子の服装は、晴佳と同じような型のいたってシンプルなシャツにパンツ姿だったが、皆揃いの前掛けとバンダナをしている。それが制服ということらしい。
店内の客は、大まかに二手に分かれていた。
その大半は男性ばかりの客だった。
見ていると、ジョッキ一杯と多少のつまみを頼み、ちびりちびりと飲んでいる。
食事を摂っている客たちの大半がローブを着たままである。
だが男たちの集団の中には、ローブを脱いで椅子の背に掛けている者もいた。
晴佳たちがいるのは店内の奥まった一帯である。壁際の一番奥の席を取ったので、ベンチ状の座席の端にラフィも載っている。
奥の席には、女性だけの集団や男女混合といった客が多い。
「向こうにいるのはこの辺の住人で、その多くはただの飲んだくれども。こっち側にいるのは、ここの泊まり客よ――それが気になったんでしょ?」
レグが晴佳の視線を追いながら説明する。
「あ、そうなんだ……うん」
そんな会話をしている間に、ウェイターが大皿を二つ運んで来た。
直径五十センチほどの皿には、あふれんばかりに料理が盛られている。
ひとつは何かの肉を焼いた物、もうひとつはショートパスタらしき具の入った野菜サラダに見えた。
「お勧めはまず三種類出しますが、その後はどうなされますか」
取り皿用のボウルを積み上げ、ウェイターが丁寧な口調で確認する。
「今追加したら、それだけでテーブルがいっぱいになっちゃうわ。欲しい時に呼ぶので大丈夫よ」
「かしこまりました」
一礼して下がる様子を眺めながら、酒場の店員にしては随分丁寧なんだな、と晴佳が考えていると、レグがため息をついた。
「どうやらあの受付け、あたしたちを貴族か何かと勘違いしたみたいね。付け焼刃の公用語なら使わない方がマシなのに――ま、とりあえず食べましょ」
そう言うと、ウィーテとラフィの分を取り分け始めた。
――フォークはふたまたか。ちょっと使いづらそうだな。
スプーンは木製らしく、フォークとナイフは金属製だった。
晴佳は初めのうち、下っ端らしく大人しく様子を見ていたが、「ここでは自分で取り分けて食べるの」と言われ、肉をふた切れとサラダをボウルに取る。
ひと切れがコロッケ大という肉は、焼いた後にタレに絡めてあるらしく、甘辛い味付けだった。肉質は柔らかい豚肉のようだが、味はタレの味しかしない。
どことなく羊肉のような特徴的な匂いがあるようだ。
サラダに入っていたパスタのようなものは、食べてみるとパスタというよりは白玉団子のような弾力があり、塩味と香辛料が効いている。
野菜も熱を加えてあるので、サラダというよりは野菜炒めに近い気がした。
三皿目に出て来たのは、トマトソースのミートボールスパゲッティ――に見える料理で、おそるおそる食べてみるとほぼそのままの味だった。
「どう? 口に合う?」
ジェラーノが問う。
「うん、旨いよ。特にこの肉のタレは、俺も似たような味付けの料理を知ってて、あとこの――麺も、ほぼこのまま同じ料理を食べたことがある」
「そう。よかったわ」
そうこたえたのはレグだった。
食べろと言われたので晴佳は遠慮なく食べた。だが彼女たちもまた大した食欲である。ウィーテが口周りとローブを赤く染めてミートボールを頬張っている姿も可愛らしかった。
その後はお勧め料理を更に二品追加した。
ロードは別のメニューやハーブ酒を頼み、ジェラーノとサパーは最後にデザートを追加していた。
肉らしき物から魚らしき物から、なんだかよくわからない食感の団子状の物まで、不味い物はひとつとしてない。
晴佳が初めて口にする味もあったが、いくつかは知っているような味だった。醤油やソースなどと同じような調味料が存在するらしい。
肉や魚に対し野菜料理が少なめだった。
訊いてみると、この村にはハーブ畑はあっても野菜畑はあまりない、ということらしい。
「その代わり、この辺りは果物や木の実が多く採れるから、それを生かした料理が多いのよ」と、レグが説明する。
木の実はそのまま食べることもできるし、果物も干せばある程度携帯が可能なので、料理以外でも土産に買う旅人も多いということだ。
テラーは食事も摂らずジョッキを七杯飲み干し、八杯目を頼もうとしたところでレグに止められていた。
見た限り特に変化はないようだが、これ以上飲むと絡んだり暴れたり記憶を失くしたりするという。
――やっぱり残念騎士さまなんだな。
口には出さなかったが、晴佳はテラーに呆れていた。




