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まじましゅ! ~ さながら見果てぬ夢の夢 ~  作者: 楪羽 聡
第一章 転移 - 茸採師見習いと魔道師見習い
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0001 迷森 #01

 ――確か、ゆうべは数Ⅱの課題を終えてから、ベッドで少しゲームをやって……


 ()(たる)(はる)()は記憶を辿った。



 モンスターを十匹くらいやっつけたところで急に睡魔に襲われたので、とりあえずアイテム回収して自宅まで移動した……よな。朦朧としながらセーブをした記憶は、なんとなくあったから。


 その後ゲーム機の電源を切ったかどうかはちょっと怪しいが、この際それはいいとして。





 ――さて、それを踏まえたうえで――ここ……()()だ?




 晴佳の首は何かにがっちりと固定されていた。

 そのせいで視界は右方向のほぼ水平に向けられたまま、動かすことができない。


 目の前の風景には、指二本分ほども太さがある蔓状の植物が好き勝手に絡まっている。そして、顔よりも大きくつやつやした葉が更に視界を狭めている。


 もっとも、視界の先に広がっているであろう風景も見渡す限り薄暗い緑色ばかりである。仮にこの目の前から蔓や葉を取り払ったとしても、状況把握には大差ないかも知れない。



 そしてこの蔓状の植物が、晴佳に絡まっているらしい。

 というより、()()()その植物に絡まっているようでもあった。


 まず上半身はうつ伏せから左肩を少し斜めに上げた状態だ。腰は右を下にして真横を向き、脚はやや上を向いた状態で左膝を立てるように曲げている。


 この非常にねじくれた体勢は、晴佳の寝相そのままだった――ただし、首の不自然な向きを除いて。




 ――これでよく窒息しないなぁ俺。



 全身を使って思いっきりのたうってみたが、拘束はびくともしなかった。

 そのうえ首が少し痛くなったので寝違えの危険もあると考え、晴佳はのたうつのを諦めた。

 次はどこか一部でも動かせないか、順に確かめてみることにする。



 右手首はどのように固定されているのか、曲げられなかった。だがゆっくりと回すことはできるようだ。そっと指を動かしてみると、しっとり冷たい葉の表面に時々触れた。


 手を握ったり開いたりはできなかった。目の前に伸びている蔓が指にも巻き付いているのかも知れない。



 右腕は軽く曲げているが、少し後ろに引いた状態で固定されている。そのせいで肩関節が()()()()する、と晴佳は思う。

 左手も右手同様だ。違うところを挙げるなら、左腕は身体の前面にあるらしいということくらいだろう。



 次は足を動かしてみることにする。





 ――これはきっと、いつもの夢の続きなんだ。



 視線だけをあちらこちらへ向けながら、晴佳は考えた。




 今週に入ってから妙な夢が増えていた。


 暴れてベッドから転げ落ちること既に三回。叫び声をあげてしまい「うるせー! この()()兄貴!」と妹が怒鳴り込んで来ること一回。



 目覚めた時には夢の内容が思い出せなかったが、『何かに拘束されて酷い目に遭っていた』という記憶だけがいつも残っていた。

 冷たい汗で全身がびっしょり濡れていることもあった。夢の中でよほどの恐怖を感じたのだろう。




 ――多分今回は、かろうじて掛け布団に引っ掛かっているとか、そんなところだろうなぁ。



 相変わらず身動きの取れないままため息をつく。足の方はそれほど動かせないことが判明しただけだった。



 しかし夢にしては随分リアルな感覚だ。

 周囲には、日本の夏のようにじっとりした熱を含む、重たい風が吹いている。

 汗をかいている感覚まではなかったが、このままでは脱水症状を起こしそうな気温だった。





 かさり





 枯葉を踏むような音が左方向で鳴る。


 晴佳にとっては左だが、重力に従えば晴佳が絡まっている場所より下方だった。




「見て、男が落ちているわよ」

「ほんとだ。また野良かしら」



 若い女性の声だ。




 ――落ちてる?



 その内容にまず疑問を抱いたため、晴佳は重要なことを見落とした。いや()()()()()()




「今月は大漁ねぇ」


 違う声が応える。



「ごく潰しになりそうな素材なら、見なかった振りしてそのまま行っちゃいましょうよう」

「でもお館さまが見て来いって言ったんだもの、絶対よ」

「見目麗しければ、ペットにでもなさるのかしらねぇ……」



「ねえねえ、あたし、おなかすいたぁ」




 ――ょぅι゛ょだ。ょぅι゛ょがいる。





 どうやら数人いるようだ。

 だが不思議なことに、足音はせいぜい二、三人分しか聞こえない。



「最近ほら、闘牛士が使い物にならなくなったから」

「あたしは庭師が脚を折ったって聞いたわよ?」

「最悪死んでいても、シチューの具にはなるかもしれなくってよ」


「シチューおいしい? おなかすいたってばあ」




 晴佳の意識は一瞬脱線しかけたが、続いて聞こえて来た会話に驚愕した。



 シチューにされてはたまらない。

 だが身動き一つ取れないこの状況では、逃げ出すことなどできない。


 せめて声の主たちがどんな顔なのかは確認したい、と晴佳は思う。

 最悪の場合は身動き取れないまま、串刺しにされ人生を終える羽目に陥るかも知れないのだ。





 ――まさか食人族の夢だったなんて。




 晴佳は以前、戦争の前線から一般人を誘導して避難する、という夢を見たことがあった。仲間が次々に倒れて行き必死に死地を駆け抜けたが、結局は避難した古い校舎で機銃掃射を受けた、という終わり方だった。


 その寝覚めが悪いことといったら、悪夢ランキングで首位争いができるレベルだったが、今のこの状況も、それに匹敵する悪夢ランクではないだろうか。




「つーっかまっえたーっ!」



 間近に聞こえた大声に、晴佳は思わずびくりとする。が、何かに触れられたりぶつかったりした感覚は、まるでなかった。




「こいつ、おとなしくしなさーい!」


「ちょっとジェラーノ足押さえてよっ!」

「そんなこと言ったって、レグ、こいつキモい……」


「だー! も、一発殴れば大人しくなるだろ!」

「やめてテラー、あたしに当たっちゃうってばー!」



 嬌声が聞こえるのは相変わらず遥か下方だった。ほう……と安堵の息が漏れる。動物が束縛から逃れようと必死に暴れているような、がさがさとくぐもった物音も聞こえる。




 晴佳は被害者に同情した。



 ――食われるかも知れない状態で「暴れるな」なんて、到底無理な話だ。




 例え囲んでいるのが絶世の美女軍団であったとしても、アマゾネスの食卓を彩る運命なんて、誰もがまっぴらごめんだろう。


 豚の頭のようにりんごをくわえさせられ、大皿に乗せられている自分の姿をうっかり想像してしまい、晴佳は思わず身震いをする。




 その途端――――周りの葉が一斉に、ウィンドチャイムのように鳴りだした。


 軽やかに響き渡る金属音。それは涼やかな音色でありながら、頭の中を恐怖で揺さぶるような騒音でもあった。

 何が起こったのか理解できず、晴佳は茫然とする。



 ――さっきあんなに全身を動かそうとしても何も起こらなかったのに、わずかな震えでどうして……?



 息を飲むような気配に続き、下界の物音がぴたりと止んだ。





 次の瞬間、晴佳の至近距離に突然、『何か』が現れた。


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