それは雄弁に物語る
あの日、ルノに告白した。
反乱軍による大規模な進撃、バラバラになった部隊、そして死んだと思っていた幼馴染みとの再会。
あれは事故だった。誰も悪くない。強いていうなら幼馴染みが彼女の刃によって貫かれるのを黙って見ていられなかったオレのせいだ。それでも彼女は自分のせいでオレが重症を負ったと思い、酷く塞ぎこんだ。
そんな時にやってきたオルブレイユ帝国からの宣戦布告。
オレたちは殆ど休む暇もなく、再び戦場に赴くことを余儀無くされた。
戦うことが、傷付けることが怖い、こんな気持ちは知らないと、肩を震わせて泣く彼女はまるで広い荒野に置き去りにされた子供のように小さく見えた。
その姿に堪らない気持ちになって、握り締め過ぎて白くなった手にそっと触れる。
そして告げた。
「好きだよ」、と。
その後、ルノは再び以前のような笑顔を見せてくれるようになったが、戦争の本格化を防ぐ為に波動砲破壊に動いたオレたちの行動が国に対する反逆だと捉えられ、オレとルノ、そしてワカとラストさんは軍から追われる身になった。
そんな状況が続いたからきっと彼女はオレに告白された事なんて忘れてるんだと……いや、ルノの事だからもしかしたらあれは告白だとすら思われていないかもしれないな、なんて苦笑混じりに思い始めたある日の夜、彼女から呼び出しがかかった。
「星がね、凄く綺麗だったから散歩しようかなって!」
キラキラ光る夜空を見上げながら、ルノはオレの数メートル先を歩く。その足取りは弾むように軽く、こんな状況になってしまったが、元気を取り戻してくれて本当によかったと思う。
「軍の中は建物で囲まれてるし、戦場では星をゆっくり見る時間なんてなかったから、こんな満天の空なんて感動だねぇ!」
「そうだね。」
「……でもまさかあそこから離れる時が来るなんておもわなかったなぁ。」
こんな景色が見れたんだから悪いことばかりじゃないんだけどね。と付け加え、彼女が軍での生活を懐かしむようにほんの少しだけ俯いたのがわかった。
「色々あったねぇ……。」
「……うん。」
「特にここ数週間はほんっとバタバタだった」
「そうだね……。」
「反乱軍との大きな戦いがあって、お父さんの最後を知ってる子や、フレッドの幼馴染みに会ったり……アタシのせいでフレッドが大怪我しちゃったり、さ。」
「あれは、ルノのせいじゃない。」
「……うん、ありがとう。」
振り向いたルノが月明かりに照らされている。少し眉を下げて笑うその表情が、もどかしくて、切なくて、悲しくて、……思わず言葉を失ってしまう。真っ直ぐ見つめてくる彼女の赤茶色を見ていられなくて、目を伏せる。
星たちの囁きが聞こえてきそうなまでの静寂。風が通り抜ける音がやけに大きく聞こえる。
「……好きだよ」
彼女の声色で、その言葉は紡がれた。
「へ……」
「フレッドさ、アタシにそう言ってくれたよね。」
いってる事は理解できる。けれどまさかこんなタイミングで持ち出されるなんて思っていなかった言葉になんて答えればいいか分からず、オレの口はハクハクと空気を食む事しか出来ない。彼女は言葉を続ける。
「色々ね考えてみたの。……あの時、フレッドが死んじゃうかと思って、本当に、本当に怖かった。初めてなんだよ、戦場であんな気持ちになったの。今まではね、アタシ達は戦争をしてるんだから、戦争で人が死んじゃうのをいちいち悲しんでなんかいられないって思ってた。だから相手の兵士を殺す時も、同じ部隊の子が大怪我した時も、お父さんが死んだ時さえも、仕方がないって、これが普通なんだからって。」
戦場でのルノの価値観が一般的なそれとは少しずれているのは知っていた。でもそれを彼女の口から直接聞いたのは初めてだった。
「でもね、フレッドだけはダメだった。フレッドが死んじゃうのだけはどうしても考えたくなかった。嫌だった。あの時は混乱してて、なんでかなってちゃんと考えられなかったけど、少し落ち着いてきた時に気付いたの。……きっと、フレッドがアタシにとって特別だからなんだ、って。」
そう言って、ルノは照れ臭そうに頬を染めた。
「えっ、と……。」
「……あっ!で、でもね、まだその、フレッドが言ってくれたみたいな、好き?とかそういうやつなのかはよくわかんなくて!その、だから……。」
ルノの言葉が上手く飲み込みきれず呆けた返事しか出来ないオレに、慌てたように口速に告げた後、彼女は俯き、そして真っ赤に染まった顔でオレを見た。
その表情は、彼女が恋をしているあのアイドルを見る時のものにそっくりで………。
「もう少し、待ってくれる……かな?」
あぁ、夢みたいだ。
そう思って仰いだ夜空では星達がそんなオレを笑うように煌めいていた。




