Let's go!異世界
こいつら他にやることねぇのかよ。
コスプレやらドルオタの集まりやらにぎわう秋葉原の人ごみを見てふとそう思う。
つい先日、高校という縛りから逃れ(不登校)、自分の聖域で自由に生きることを決めた(引きこもり)俺(南原 樹)からすれば、二次元の人物の真似事や整形や入念なキャラ作りで仮の自分を作っている者の応援に入り浸るやつらが急に惨めに見えてくる。
目的のフィギィア付の初回限定盤のRPGを買うために久しぶりに外界にでてみた俺であったが、外界は常変わりなく、人生の敗者共が集まり空虚な妄想に入り浸っている。
まったくつまらない世界だ。
そう再認識し、自宅に帰るため駅へ向かう。
俺は我が家に泥棒が入らぬ様に常監視、警備に当たらねばならないので、このような外界で時間をつぶすわけにはいかないのだ。
そんなことを思いながら歩みを始めたその時、
「キャァ!助けて」
そんな叫び声が聞こえて、どうせまたヒーローショーでも始まったのかと渋々振り返る。
しかし、そんな俺の目に飛び込んできたのは人ごみでナイフを振り回す男とその周りで逃げ惑う人々、そして倒れている1人の男だった。
「うわぁぁぁ」
思わずそんな声が出てしまう。
ゲームでドラゴンと戦っても、リアルでは喧嘩もしたことがない。
足がすくみ、ガタガタと震え上がるが、必死に逃げようとする。
だが、先ほど悲鳴を上げたと思われる少女がすぐ後ろで倒れてしまっている。
恐怖で足がもつれてこけたのだろう、しかも、震えて立てる気配がない、きっと同じくらいの歳であろうこの子を見捨てるのは多少心が痛む。
「なにやってんだよ!早く逃げろ!」
高校ではソロ生活を貫いてきた俺にはこんな時にかける言葉がわからない。
らしくねぇけどやるしかない、そう覚悟を決めた俺は必死に彼女の腕をつかみ立たせようとしたが、目の前に通り魔の顔が見える。
狂乱に満ちたその目を見た瞬間俺は悟った。
俺、死ぬんだ。ゲリライベントでクリアとは関係のないモブを助けようとして。
「こんなだからリアルでもゲームでもトップになれんのですわ」
そう呟いてそっと目を閉じる。きっと数秒後に俺の体をナイフが突き刺しそのまま死亡ENDだ。
こんなことならもっといろいろやっておくんだったな、そう反省して体の力を抜く。
―――途端。突然の浮遊感に襲われ、体がどこまでも落ちていく感覚になる。
これが死か。どこまでも落ちていく、底の無き深淵に。
「いって!」
突然、頭に衝撃が走る。どうやら深淵にも底があったようだ。
どこに落ちたんだ。落ちたんだから地獄か?天国なら昇っていくからな。
そんなことを思いながら目を開けると、
―――――そこは異世界だった。
中世の欧州人のような衣装を纏って走り回る子供たち。ノロノロと走る馬車。
ここが俺の待ち望んでいた異世界なのだ。
ここからだ、俺の人生強くてニューゲームが始まるのだ。
「イテテテ」
この隣に落ちてきた少女と共に。