新学期
「あっ、同じクラス!」
「えー、またお前とー」
「あーショック、離れちゃう」
私(笠松恵理菜)は数々の声を右から左に流し1人、教室(5組)へと足を向けた。
笠松恵理菜に友人はいない。理由は簡単、嫌われているから。心当たりはある。
私はウソしか言えない。
つまり、ウソつきなのだ。
そんな友人もいない私は、一人真ん中の列の真ん中の席に座った。「笠松」という名字だから窓側の席だと思ったけど、このクラスは異様にあ行が多い。だから私は窓側の席にはなれなかった。
話が大分ずれてしまった。
鞄から全ての物を出し終え、することがない私は本を読んでいた。
「あれ?早いね。俺が一番だと思ったのに残念だな」
ビクッ
不覚にも私は驚いてしまった。
声の主を見ると男子が立っていた。
赤星優弥
生徒の名前はもちろん先生の名前も覚えていない私ですら知っている名前。
通称『正直王子』。
その名の通りウソをつかない人。
ついでに、無遅刻、無欠席、無早退(無早退と一般的に言うのかは知りません)。
運動、勉強共に完璧!とまではいかないけどそれなりにいいとこまではいってるみたい。
生徒会長をやっていて、部活に入っているわけでもないのに後輩の信頼が分厚い。
まさに、人の鏡!
「おはようございます、正直王子」
「わー、光栄だなー。君に名前を知っててもらえてたなんて、ウソ姫」
姫?初めて聞いたんですけど。だいたい『ウソ姫』って今考えただろ!
赤星優弥はのんびりとした足取りで私の隣の席へ座った(通路を挟んでだけど)。
「その本面白い?」
無視しよう。こんなヤツと関わるとロクなことにならない。
嫌われ者と私と人気者のコイツが話してるのを見られたら私の大切な学校生活が地獄化する、きっと。
「ねえねえ、姫?……無視するんだったらその本取り上げちゃうよ?」
「ええ、とっても面白いよ。特にここの章はためになることが書かれているんだよ」
電光石火のごとく満面の笑みを浮かべて答えた。
「じゃあさ、その本貸してよ。姫が面白いって言うなら読みたい」
「いいけど、いつになるか分からないよ?」
誰が貸すかよ、バーカ。
「待ってるよ。ただし、一週間以内にね」
そう言って右手の小指を出してきた。
『指きりげんまん』というやつを私にやれというのか。冗談じゃない。
「は、や、く。人が来ちゃうよ?俺はいいけど、こんなトコ人に見られたらより一層嫌われちゃうよ?」
「ブチッ」
私の中の何かが切れた。ふざけんな。
私は無言で小指を絡めた。
「ゆーびきーりげんまん……ほら姫も」
歌えと!私に!
「ほら、早く」
「う~」
結局歌いました。