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とことこ村の常不軽

作者: 麦畑あきつ

 未だとことこ村に寺というものもなく仏様とは如何ようなものか定かには知られぬ頃の話である。

いつしか「常不軽じょうふきょう」と名のる乞食が村に住みついて、人を見れば「あなたは仏様です」と礼拝するようになった。なぜそんなことをするのか、そもそも仏様とは何者かと尋ねても、一向に答えずただ闇雲に大仰に礼拝するばかりなのだ。そこで薄気味悪くもあり何だか馬鹿にされているような気もして、初めこそ「常不軽じょうふきょう」を見ると追い払っていた村人だったが、やがては慣れて「常不軽じょうふきょう」のさせるに任せていた。

 とはいえ老婆などの中にはわけの判らぬながらも無暗にそれを有難がって施しをしてやるものもあり、それで「常不軽じょうふきょう」は露命を繋いでいるのだった。


 そんなある時、とことこ村に天地開闢以来の椿事が起こった。どこからともなく現れた盗賊がひとり、村はずれの一家を皆殺しにしたうえ、火を放って逃走したのである。村人は総出で山狩りをしてようやく捕えたその盗賊の首を刎ねようと河原に集まった。

 すると何としたことだろう。「常不軽じょうふきょう」がその盗賊を礼拝して止まないのだ。大声で「あなたは仏様です」と唱え続けるのだ。呆れて初めこそ笑っていた村人もとうとう仕舞には怒り出した。そして「常不軽じょうふきょう」を追い払おうとしたその時のことだ。「常不軽じょうふきょう」はその場に結跏趺坐けっかふざすると「南無妙法蓮華経なんみょうほうれんげきょう」と大音声で唱え始めたのである。


 初めに驚きの声を上げたのは子供らだった。

「光ってる。光ってる」

子供らの指し示す先を見て誰もが息を呑んだ。高手小手に縛り上げられた盗賊の額が輝き始めたのである。そしてぱっかり額が割れたかと見る間に中から燦然と光を放つ黄金の仏像が姿を現した。それを見て真っ先に腰を抜かしたのはほかならぬ「常不軽じょうふきょう」だった。

 やがて遠巻きに眺めていた村人が怖々と得体の知れぬその黄金の仏像に近付き始めたそのときである。突然走り寄った「常不軽じょうふきょう」が、その黄金の仏像を掠め取ると、後は一目散に駆け去った。


 そのまま都に上った「常不軽じょうふきょう」はその黄金の仏像をさる殿上人に言葉巧みに売りつけて、その後はお大尽として面白おかしく暮らし続けたということである。

 ただ往来で読経の声が聞こえようものなら慌てふためき逃げ去る様がひどく滑稽だったので、口さがない都雀みやこすずめに「常怖経じょうふきょう」と当て字されたということだった。

 とはいえ、以来、どうしたわけか「常不軽じょうふきょう」に倣って「あなたは仏様です」と人に会えば挨拶を交わすのが、とことこ村の長く慣わしとなったということである。






宇治拾遺物語に子供の額が割れてお地蔵様が現れるという気味の悪い話があって、それが元ネタです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ただの金銭欲を描いただけですね。それが残念で、何か別のテーマを見出したかったところです。
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