さいしょの。
青々とした空の下で、子供たちの楽しそうなはしゃぎ声が聞こえる。寒くはないのだろうか。その音を耳にしながら、またそっとコーヒカップを手に取る。また、真冬の候。それは、私の好きな冬のことだった。
ある吹雪の夕方、私は1人で卓也さんの家に向かっていた。卓也さんは大学時代の先輩で、同じ卓球サークルに所属していた。当時から卓也さんは一目置かれる存在だった。中学、高校と卓球で全国大会出場の経歴を持ち、大学在学中にも、様々な大会で上位に輝いていた。そんな彼に、私は密かに想いを寄せていた。卓也さんとは、卓也大会の打ち上げで話しているうちに、次第に仲良くなっていった。今でも、関係は続いている。関係といっても、特別なものではない。いままで私の一方通行の恋は続いていたのだ。いや、これからもだ。だから、ただの友達という関係であった。
最近は、彼とあまり会う機会がなくなっていた。それは、私ごとではあったのだが。最近、私は近くの料理教室に通い始めた。卓也さんと結婚した時に家事のできる嫁じゃないと!と、勝手に想像して、気付いた時には、まな板の上で野菜を切っていた。周りからは、馬鹿な奴という風に見られてしまうかもしれない、でも、そんなことは、私にとってどうでもよかった。彼のこと想い料理教室に通っていると、また、彼に会いたくなってきてしまった。彼には会いたい、しかし、将来彼と結婚して家事のできるいい嫁になる、という夢、妄想というべきか、そういうものがあるため、気付いた時にはまた料理教室に足を運んでいた。
そんな生活を送っていたある日、思いも寄らぬ事態が起こってしまった。私はいつも通り家で映画を見ながらコーヒーを飲んでいた。コーヒーがなくなったので、注ぐためにコーヒーカップを手に持った瞬間、目の前の携帯が鳴った。あまりにも大きな音だったので、私はコーヒーカップを落としてしまった。「あ!あー、大事なコーヒーカップだったのに…」慌ててコーヒーカップを拾っていると、電話は鳴り止んでしまった。「誰からだったんだろう…」そんなことを考えてる間もなく、また、携帯が鳴った。それは、知らない番号だった。「もしもし」「もしもし、札沼総合病院の戸塚と申しますが」「はい?」私はキョトンとしてしまった。なんだろう、知らない病院から掛かってくるなんて…」「あの、なにか私に御用ですか?」「中野さんでお間違えないでしょうか。」「そうですが…」言っていなかったが、私の名前は中野夕香である。「佐藤卓也さんが仕事中に事故に遭いまして、こちらに運ばれて来たんですよ。卓也さん、怪我の方は大したことなくて、意識もしっかりしています。先程、卓也さんと話しをしていたら、あなたの名前がでてきましてね。とても仲が良いそうで、あなたに会いたがっていましたよ。病院に面会に来ませんか?」初め、卓也さんが事故に遭ったと聞いたとき私は、絶望の淵に立たされたとおもった。しかし、話しを聞いているうに、卓也さんは大したことなく、私自身も卓也さんに会いたいという気持ちを抑えきれそうになかったので、すぐに、「い、行きます!住所教えてくださいと聞いていた」私は、すぐに家を飛び出し、財布と携帯をカバンに突込み、走り始めた。卓也さんのいる病院に向かっている時、私はふと、病院の先生が言った言葉を思い出した。(あなたに会いたがっていましたよ)(え?も、もしかして…?)勝手な自己満足な妄想を繰り広げていくうちに、病院に着いた。とても大きな病院だった。
中に入ると、待ち構えていたと言わんばかりに看護師が近づいて来た。