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拝啓、乙女ゲーのヒロイン様へ   ~フラグの折れた先への案内状~  作者: TAKAHA
リクエスト:攻略対象者視点
7/11

始まりの日

6人目は、斎賀 魁 です。


本当は1番に書き上げた魁お兄様・・・くじ引きの結果6番目に・・?





「あの・・す、すすみませぇん!じょ、上級生の、かた・・で、ですか?」


恐る恐ると言った様に僕に近寄り、小首を傾げて見上げてくる小動物の様な可憐な少女。


形のいい眉辺りで切りそろえられた前髪に、ふわふわのピンク色の髪をピンで両サイドに纏めている。背は僕の胸のあたりくらいまでしかないので、一見すると小学生かと見まごうばかりだった。


「えぇ、2年生の生徒会の役員です。どうされました?入学式にはまだ時間がありますけど、講堂は向こうですよ」


「迷ってしまったんですか?」そう警戒心を抱かせないような笑みを心掛けて声を掛ければ、タイミングよく彼女の髪をさらった風に乗り、桜の花びらが舞う中でその少女は少し恥ずかしそうに微笑んだ。


「僕も講堂に行きますので、案内しますよ。ついてきてください“お姫様”」

「!」


持っていた書類を持ち替えて、開けた左手でその彼女の背にエスコートするように添えて歩き出せば、顔を真っ赤にさせた彼女はうっとりとしたような表情で僕を見上げてくる。


「どうされました?僕の顔に何かついていますか?」

「い、いいぃえっ!えっと、あの・・その・・お、王子様みたいだと、思って」

「ハハハ、王子様ですか」


キョトンとした後にそう笑って見せれば、彼女はますます赤く染めた顔を手で覆って俯いてしまった。この子は“守らなくてはいけない”“可愛らしい子”と言うのが何故か頭の中で僕に言い聞かせるように浮かぶ。

そんな姿にますます笑みを深めた僕は、人通りの少ない道を通って講堂までの道を歩いて行った。


「あ、あのっ」

「はい、如何しました?」


講堂に着き、新入生はあちらの扉から入ってくださいと言って彼女に背を向けた僕に、彼女は僕の上着の裾を握りしめながら顔を赤くしたまま見上げてきた。


「お、お忙しい中・・あ、あああありがっ・・とう、ございましたぁっ」

「大丈夫ですよ。これも仕事の内・・・あぁ、気を付けて行くんですよ。貴女はそそっかしいみたいなので」


視線を合わせてにっこりと笑って見せれば、彼女は言葉を詰まらせながらも真っ赤な顔で何度も首を縦に振る。


そのまま講堂の入り口近くでオドオドする小動物の様な彼女を見送り、数度振り返って頭を下げる彼女に・・・





―――――・・ゲームの設定通り、僕は微笑を絶やさずに手を振ってあげた。





「鳥肌が立った・・・案の定というか、らしいね」


姿が講堂の中に言えるや否や、僕は引きつりそうになっていた笑みを顔から消した。



『やった、やった!ランダム登場の中でも一番確率の低い魁様じゃな~い!らっきぃ~』



そんな呟きと共にあの女が植木の影から出てきて、僕に接触してきたのは入学式当日だった。あの女の言うようにオープニングのランダムで登場するキャラと言う意味なのならば、あの女に出会った攻略キャラは僕が最初という事だろう。


ゲームだと思ってそんな風に言っていたのか、聞こえるわけがないと思って口にしたかは定かではないが・・・演技派の転生者だと認識すると同時に、『あぁ、おめでたい頭の持ち主だな』と思ったものだ。



勿論僕がその時講堂から離れた中庭に居たのはただ単に偶然だが、ゲームの強制力というモノが全くないと言い切るには判断材料が足りないので何とも言えない。

現時点でも、多少のフラグと呼べるだろう物は多少折れる物は折り、砕ける物は粉々に粉砕してやっている。



今回は頭の中であの女に対する気持ちの植え付けみたいな感情が流れたが、僕の体は正直で言いようのない気持ち悪さと苛立ちが全身を駆け巡った。そして僕が一番恐れている強制力が作用するのか、はたまたしないのか・・・そこだけの為だけに、まずは様子見と行こうと思う。




ただし、覚悟してよね自称ヒロインさん。




僕の大切な、た~いせつな日常を少しでも乱そうものなら、全力でぶっ潰してあげるから。




「フフフフ・・」




考えていたのはそんな仄暗い感情交じりの事。




今日の学校行事は新入生の入学式のみなので、今日学園にわざわざ来ているのは新入生と教師陣を覗き生徒会役員を始めとした各委員会の委員長達だけ。因みに僕は生徒会書記。



勿論、エスカレーター式のマンモス校でもあるこの学園は、小中で生徒会に入っていたりと能力を知っている生徒もいるので、生徒会補佐など入学式後に1年生を入れることだってある。


「何笑ってるんだよ、魁・・・壊れたのか?」


クスクス笑いながら役員用の扉に向かうと、制服を着崩した生徒会長がそわそわしながら僕を出迎えた。

何でも、この男・・・今日の入学式で必要な書類と祝辞を書いた用紙の一式を家に置き忘れると言う凡ミスをしでかしやがったのだ。たまにやるこのうっかりさえ無ければ、仕事に対する能力だけは尊敬できると言う残念ぶりだ。


「いいえ、お疲れ様です三宮会長。書類受け取ってきましたよ、家に置き忘れてくるとかヤメテクダサイ」

「あぁ、雑務頼んで悪い。本気で次は無いようにする!・・・って、お前上着はどうしたんだ?」


にっこりと二度とするなと言う意味を込めて会長の家の執事が持ってきた書類を手渡せば、彼は少し青ざめた表情でコクコクと頷き・・・必死に話題転換の為か、僕が脱いで手に持った上着に視線を向けた。


「えぇ・・雑菌塗れのモノをうっかり触ってしまいまして、上着までその雑菌に毒されましてショックですよ。でも、書類は無事です」

「魁は相変わらず潔癖だな。あ、書類は悪かった。ありがとな」


そう言って渡した書類をパラパラめくり確認していく会長を視界に止めつつも、気持ちが悪い左手を脱いだ上着で拭いていると。


「魁」

「・・昂柳?」


今日の入学式には出席はない昂柳が色々と見越したように突然現れた。僕の方には困ったような表情を向け、一通り書類をチェックし終わって顔を上げた会長に厳しい視線を向ける。


・・心配で来てみれば案の定。会長ともあろう人が、制服を着崩して入学式に参加ですか?」

「え・・いや、ちゃんとキマスヨ。昂柳サン」

「そう言って卒業式の時は送辞を読むため壇上に上がる直前に注意されるまで着崩していましたよね?」

「え・・・えへ・・ちょ、やめて!その顔怖いって」


人の上にも立てる度胸もあるしカリスマ性だってある上にやる時はやるのに、ズボラで無頓着で有名な先輩に延々と説教をする後輩という一種の名物が繰り広げられた。教師陣も注意はするのだが、何度言っても彼は昂柳以外のいう事は聞き流すために最近では昂柳が一種の保護者的な立場になっているようなものだ。

まぁそれも、三宮会長と昂柳が叔父と甥という事もあった為に成立しているようなものだろう。(三宮会長の年の離れた姉が昂柳の母で、会長はその年の離れた姉には絶対逆らわないと言う話だ)


「魁、もういらないだろ。ソレ」

「あぁ、見てた?」

「見えたんだ」


そして、一通り説教が終り無表情な中にも呆れた様な色の滲む昂柳が持ってきたゴミ袋に躊躇なく僕は上着を突っ込む。


「ほら、それとこれも」

「ん」


そして、昂柳の持ってきたアルコール消毒液で手を消毒して、渡された新品の上着の袖に腕を通す。まだ少し手が気持ち悪いので無言で会長の服で拭かせてもらう。

『なんなのこの後輩達!仮にも先輩に対して酷くない?!』と、騒いでいる会長には、これはまぁ仕方がないと諦めてもらい、もうすぐで入学式が始まるなと腕時計に視線を落とす。













+++













あの時とはもう別のモノなのに、時間を確認しようとして腕時計を見た俺は懐かしくも腹立たしい記憶を思い返してしまった。

しまった、この腕時計はあの時のモノと似ていたな・・・よし、捨てよう。



そう思って外した時計をバルコニーから外に投げ捨てた時だった。



「準備はでき・・・どうなさいましたの?」

「・・・」


カチャリという小さな音と共に、愛おしい女性の声が聞こえてささくれ立っていた心が凪ぎ、僕の口角は上がるが・・・あえて僕は振り向かない。


「もう時間ですわよ?早くいきませんと・・」

「・・・」

「魁さん?」


返事をしない僕に不安そうな声を出す彼女は、ドアから離れて僕の方へ近づいてくる気配がする。

知っているよ、君の事なら何でもね。フフっと思わず笑いそうになるのを堪えて、僕は未だに無視を決め込む。


「魁さん・・・聞こえていませんの?」

「・・・」

「魁さん?魁さ~~~~~~・・っ」


僕の真後ろで君は多分首を傾げて不安そうに見上げていて、漸く気が付いたんだろうね。僕が敢えて返事をしていないのを。


「あ・・ぅ~~~あなたっ・・もう、魁!わたくしを困らせて楽しいんですの?!」


叫ぶ君に満足そうに振り返れば、君は顔を真っ赤にさせて僕を見上げている。そういう反応がかわいくて、君が年上って言うのを忘れてしまうよ。


「フフ、うん。君が僕の名前を呼んでくれるのがとてつもなく嬉しいよ」

「っ///」


バルコニーの手すりに凭れながらそう言って微笑めば、顔を真っ赤にさせて俯いてしまう。何年たってもその初々しい感じが僕を虜にするのを、君は分かってやっているの?


「少し・・昔を思い出していたんだ。高等科の時の事をね」

「・・あっ」


あまり虐めすぎると君が拗ねてしまうから、正直にそういえば案の定君は泣きそうな顔をして、まるで迷子の子供の様な顔をして僕を見上げてくる。



あの時からもう幾重の月日が流れている。君もつらい思いをした。僕も嫌な思いをした。たった1人の女に一体何人の運命が狂わされたんだろうね。



でも、正直な気持ちを言うと・・僕はあの事件にとても感謝しているよ。



君を抱きしめてそういえば、君は不謹慎だって怒るよね。でも、そのおかげで君は僕の腕の中にいるんじゃないか・・・ねぇ、僕の可愛い人。








「愛しているよ、由香利」









魁お兄様はとても幸せになりました。


魅はいつまでも大切ですが、奥さんの方が大好きです。

奥様共々いつまでたっても魅をネコっ可愛がりします!


次は、一応ラストです。

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