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拝啓、乙女ゲーのヒロイン様へ   ~フラグの折れた先への案内状~  作者: TAKAHA
リクエスト:攻略対象者視点
6/11

運命の道

もう5話目。


5人目は、三宮 晴久 です。





『はんっ、なぜこの若くて美しいあたしが爺なんかと結婚したかって?そんなもの金の為に決まっているじゃない!服が汚れるわ、触るんじゃないわよ』



ゴテゴテと趣味の悪い貴金属で全身を飾りたて、唖然とする俺と泣いている弟をまるで虫けらでも見るような目で見て、俺の伸ばしていた手を振り払った。



『金しかとりえのない枯れた爺が、あたしの様な最高峰の女に触れるなんて光栄と思えこそ何か言われる筋合いなんてないじゃない。跡取りだってちゃ~んと産んでやったじゃない。その報酬でこれっぽっちじゃ割に合わないわ!』

『はっははは、そりゃちげーねぇ!けどよぉ、この子供を使ってもっと大金稼いだ方がいいんじゃね―の?』

『まさか、あの爺の血を引いた子だからこそじゃない。子供かねづるが居るからこその今の生活よ!』



下卑た笑いを浮かべる顔の良い若い男にもたれかかりながら、あの女は高笑いして家から悠々と出て行った。泣くこともできず唖然とあの女を見送った俺たちは、あの女が消えたのを見計らったかのように陰に控えていた使用人達に抱きしめられて屋敷の中へと入れられた。



俺達の母親は自分至上主義。顔だけは良い若い男をとっかえひっかえし、海外の富豪の爺共を侍らせてただ贅を繰り返すばかりの生活だ。



聞いた話によれば、当時まだ16になったばかりだった前妻の子供である姉を家から追い出すように、その時縁談の話が持ち上がった家へ半ば追い出すように姉を嫁がせたくせに、自分は当初こそは良妻を演じていたがのちのち家に近寄る事すら稀になっていった。



『私の可愛いハルちゃんとトーヤちゃん。コーちゃんと仲良くするんですよ~』



高校には通いつつも、母のいいなりとなって若くして母親になった姉は実子同様におれ達を可愛がってくれた。



『すまないな、秋華しゅうか

『良いのよ、お父様。私は幸せですわよ?大切な宝物むすこだってできましたし、ハルちゃんもトーヤちゃんもかわいいかわいい私の弟ですもの』

『本当、自慢の娘だよ』



忙しい父は居れば俺らを構ってくれたが、忙しくて居ないときは俺も弟も姉が引き取り嫁ぎ先で実際は俺たちの甥に当たる昂柳と共に育ててくれた。

強面な父には全く似ておらず、いつもにこにこと微笑み、その笑みはまるで木漏れ日の様に優しく俺達を包んでくれた優しい姉。



『ハルちゃんも、トーヤちゃんも、コーちゃんも・・・どんな子に育つのかしら、今から楽しみね』



俺たちにとって姉は母でもある、とても尊敬できるだ。












「ハル~!ねぇ、今日は私と過ごさない?」

「え~ちょっと何抜け駆けしてんのよ!ハルはあたしと一緒に過ごすのよ!」

「な~に言ってんだ、女ども!晴久は俺らと次行くんだよ」


俺に纏わりつく派手な女たち、そしてここでの仲間達。一言も発せずただ座って微笑んでいるだけの俺の周りで、俺の次の行動は勝手に決められていく。



―――――――・・で、何?俺が“三宮”じゃなかったらお前ら同じことやったわけ?




敢えてそんなことは口にしないけどさ。



こいつらの様に街でワイワイと騒ぐだけの仲間は多くいる・・・すべて俺の取り巻きで、砂糖に群がるありのごとく奴らは俺の金だけが目的だ。男も女も関係なく、俺の周りは色褪せている。


「ん・・はぁ・・ハルぅ~今日こそは泊まっていってくれる?」

「え~・・俺は帰るよ?」

「もう、いっつもそれ!付き合い悪~い!」


決められた道をワザと歩いてあげたじゃない?そんな意味を含む笑みを張り付けて女の言葉におどけたように返すと、シーツを纏ったままベッドから不満そうに俺を睨みつけてくる。



本当に君たち女はワンパターンだよね。俺はただの道化なのに・・・。



「何、満足できなかった?」

「・・・そぉじゃ、ないけどぉ」

「じゃあ良いじゃない?」


そう言ってにっこりと微笑んでやれば、名前も覚えていないただの俺の取り巻きの1人のこの女もいつもの女達と同じだと幻滅が俺を襲う。


こいつは明るくて笑った笑顔が姉に似ていると感じていたから気に入っていたのに、姉はこんな・・・俺を通して違うものを見つめる女と比べていたなんて、心底吐き気がする。

どいつもこいつもみんな同じだ。少し気を使ってやっていい顔を見せればすぐに俺の彼女気取りでめんどくせぇ。



―――――――――こいつとも、もう終わりだな・・・ホント、女ってめんどくせぇ。



所詮金を持っていて、顔のいい男に寄ってくる女なんて信じられる奴なんているわけがない。本当に、つくづくそう思う。唯一、姉貴を除いて・・な。


姉以外の女なんてみんな同じ。みんなみんなあの糞みたいな俺の母親と一緒だろう。唯一覚えているのは醜いまでの金切声で怒鳴り散らすその声だけ。自分の思い通りにならないと直ぐに使用人にあたり、注意する親父を罵って若い浮気相手や財布男の元へ飛んでいく・・・。


「・・・人間なんて禄でもねぇ」



ただし、学園に居る・・・生徒会メンバーを除いて、かな。




姉の側以外で、俺が唯一安らげる仲間がいる場所。実際の間柄は叔父と甥だが、姉の元で兄弟のように育った昂柳が認めている頼りがいのある魁有する有能な生徒会は、お飾り会長の様な俺を立てつつも支えてくれる大切な仲間だ・・・った。



あの柿本美咲、彼女と出会うまでは・・。



『はるひさせ~んぱぃ!おつかれですかぁ?甘いモノどぉぞ!つかれた時はぁ、甘いモノよぉ』



最初は女と言うだけで勿論無条件で警戒したさ。それに、あの間延びした喋り方と馴れ馴れしさに嫌悪感すら抱いた。

俺の行動を読んでいるかのように、気張らにし行った屋上や屋外コートで鉢合わせしたり、出先のクラブでトラブルにあっていたりと・・・何時しか気になる存在になっていた。


今思えば、何故当初感じた嫌悪感が愛おしいと言う感情に変わっていったのか、経緯が良く分からないし、何度考えてもその理由も出てこない。


似ても似つかないはずなのに、ふんわりと浮かべる彼女の笑顔に姉を重ねていた。料理上手な姉と同じく、彼女の作るおかしは優しい味がしたと言うのも理由だったのかもしれない。


『おつかれですかぁ?うふふ、みさが元気を分けてあげますぅ!えいっ!!』

『アホか・・そんなんで元気なんか分けれる訳ないだろうが、バーカ』

『バカっていうほぉがバカなんですよぉ~だ!先輩のばかぁ~っ』


まるで子供の様に無邪気かと思いきや少し抜けているし、たまに何やってんだこいつ?って思った時もあったけど、今まで俺の周りに居なかった人種に・・・ほだされたと言うのだろうか。

俺の周りに寄ってきたのは少し派手目な綺麗系が多かった。そんな中と比べるまでもなかったけど、みさは小動物な癒し系で、馬鹿にしていたはずなのに知らず知らずそんな彼女にひかれてしまったのだろう。


『たすけてくださぁい・・・魅って人が、みさの事・・みさの事虐めるんです!!』

『・・みいるって・・あの、斎賀魅の事か?』

『そぅですぅ~・・・お金持ちって事を、振りかざしてぇ・・・ぅうう・・いっつも、いじめられるのぉ!』


高等科を卒業して付属の大学に進級しても、放課後や休日にデートしたり毎日ライ●や電話をしていた俺に悲痛な声でSOSをしてきた彼女の声に、一も二もなく俺はついて行ってやると言ってしまった。


『みさ、みさ・・あしたの登校日が、こわぃの・・きっとまた虐められるんだわっ』


だから、みさの言葉を無条件で信じていたのかもしれない。魁によくついていたことで何度か会ったことあったのに、あの魁の妹で心がしっかりしていて、まがったことが嫌いな魅が・・・イジメ等するはずない何てこと、少し考えればわかる事なのに―――。



目の前で瞬く間に変わっていく情勢に、態度を豹変させた彼女の姿に―――・・俺は開いた口がふさがらなかった。



「うるさいうるさいうるさぁーーーい!!こんなストーリー認めないわ!リセットしてやる!どこよ、リセットボタンはどこよ!私の思い通りにならない世界なんていらないわ!!」



リセットボタンとは何なんだ?なんでそんな“ゲーム”の様な事を言っているんだ・・?



俺は確かに兄としては抜けた性格とお気楽主義ではあった。どうしようもない兄だったとは思うが、それでも弟たちは『さすがは兄さん』位の態度で、呆れられたような表情を見たことはあったけど・・・冬弥の、こんなにも軽蔑した表情を向けられたことは初めての事だった。



冷水を浴びせられたとはこのことを言うのだろうか。体の芯から急激に冷えていくのがわかった。



何故か必死な明斗と大稀の・・いや、何故お前たちはそこまで執着し、ご機嫌取りをやっているんだ?二人の姿と周りの視線に、漸く俺の視界がクリアになったのが不思議でたまらない。





一体今までの茶番はなんだったんだ?






これはなんだったのだろう。







何・・何故?













――――・・あぁ、姉さんに軽蔑されてしまう・・。













「何故だ・・これは一体どういう事だ」

「・・・分からない、何なんだ」

「・・・」


思わずつぶやいた俺の言葉に、同じく顔色を悪くした鷹彰がポツリと声を漏らした。

将彦に至っては、一体何が起きたのかわからないのか唖然とした顔で固まっている。


美咲と共にいつの間にか明斗と大稀が周りのギャラリー諸共消えているのに気が付き、呆れた表情以上の、初めて見る・・―――いや、昂柳は何度か俺に目を覚ますようにと言ってくれていた。


『ハル兄さん・・柿本さんには入れ込まない方がいいですよ』


最初こそは『そうだな』と返していたのに、『お前もみさの事を狙っているからだろう』と俺が口にするようになった頃から、昂柳は俺への視線が凍ったような寒々しいモノになった。


「なぁ、昂柳」

「・・・なんでしょう、“先輩”」


恐る恐る俺らの前に立つ昂柳を見上げれば、眼鏡の奥に絶対零度の表情で見下ろす昂柳と目が合った。そういえば、いつからだっただろう・・・昂柳が、プライベートの時も俺の事を“先輩”と呼ぶようになったのは・・。


「明斗はどうなる?大稀は?」


昂柳のこの表情は以前見たことがある。俺の実母が伏見家にまで迷惑をかけた時、あの女を伏見の義兄さんや親父と共に破滅に追いやった時の顔だ。


「・・・柿本美咲あのおんなは?と聞かなかっただけ、目が覚めている証ですね」


頭のどこかでは分かっていた。でも、確認せずにはいられず昂柳に問うと、表情も声色も変えない昂柳にもはや挽回の余地がない事を思い知る。

あからさまにため息をついた昂柳は、一層冷めた目をして昇降口を睨みつける。


「今朝の新聞をご覧になっていれば椎名家が没落したの知っているはずですよね」


椎名家はそこまで身分は高くなかったにしても、名だたる病院や海外にまで手を伸ばしていたほど医療関係の中ではその名を知らぬ者は居なかったほどの資産家の家だった。そういえば、冬弥と昂柳が魁と共に何かの会社を立ち上げたと聞いたことがあったな・・・。


そこまで頭の中で思ったところで、昂柳の表情がより一層嫌悪に歪んだ。傍から見たら変化がなかっただろうが、生まれたころから一緒に育った俺には分かる。


は教師免許剥奪の上一族から抹消でしょうか?我が学園に変な黒歴史は必要ありませんから。あぁ、通う意思があるのなら卒業まで通学してくる分にはこちらは拒みませんよ」




昇降口から俺たちの方へ視線を戻した昂柳の瞳は、深く・・暗く・・・明らかに失望と拒絶が感じられた。



あれだけ仲が良く、尊敬の念すら抱いていた大稀をあっさり捨てる昂柳の笑顔は、俺に対しても・・・。













+++













他人と、特に女と敢えて必要以上の交流はもたずに、俺は朝も晩もそれこそ寝る間を惜しんで動いていた。元々勉強はもとより語学や新しい知識を知ることは俺にとっては娯楽みたいなこともあった。


新しい事もスポンジが水を吸うかのごとく吸収し、教授のお気に入りと呼ばれるようになるまでそうかからなかった。それでも驕らず、俺は下に留まることを望んだ。


「半年振りか・・もう少し居てもよかったな」


昔の俺が絶対口にしなかったであろうことを呟き、自身の変化に苦笑を漏らした俺は、辺境の地から戻ったそのままの姿でレポートを手に学園の教授の元へ行った・・・だけだったのに。


「あぁ、元気そうでよか・・・いいえ、まずはそこにお坐りなさい!」

「え・・・は・・・あの・・・」

「早くお坐りなさい!正座ですわ!!」

「は、ハイ!姉さん!」


長く伸びた髪を無造作に一つ見纏めた俺は、寝不足でヨレヨレになった格好のままその場で正座したうえで―――



―――――・・・土下座した。



俺の目の前に仁王立ちするのは、俺と同じ髪を持ったふわっとした雰囲気の女性。最後に会った時から少しも変わらない会いたくて、謝りたくて・・でも、絶対に無理だとあきらめていたのに。


「もう、ハルちゃん!姉さんは二度と許しませんからね!!」

「・・・はい、ごめんなさい!!!」


正座する俺を説教しているのは、もう2度と会わないと・・・いや、2度と会えないと思っていた姉だった。


「トーヤちゃんもコーちゃんも・・・お父様も、だぁれもっ、だれもっ・・ぅわぁぁん!」

「ね、ねぇさっ・・」

「だれがっ、正座を辞めていいと言ったのですっ!」

「はいぃっ!!」


大泣きしながらも俺をしかりつける姉は、どう見ても大学生の子を持つ親には見えないほど幼く見える。そして、そんな姉の後ろには懐かしい“しょうがないなぁ”という顔をした昂柳と冬弥の姿・・・やばい、少し泣きそうだ。


あの後、親父に頭を下げた俺は、絶縁を受け入れるし養子の話も無しでいいと、留学する事を・・・情けないが、二度と三宮家を名乗らないし関わらないことを条件にその費用を頼んだ。親父も知っている通りの、俺が心底嫌うあの実母の旧姓を自ら名乗ることを口にしたことには、さすがの親父も驚愕の表情を見せていた。





あの時から、もう5年が経っている。





働いたこともなく、誰かのためなんて考えたことなど無いに等しかった俺は、常識を学ぶことからやり直し、いつか・・・いつか、もしも許されるのならば、胸を張って姉さんたちに謝りに行こうとそれだけで頑張っていた。



そこで考えた俺は学部を変えて留学し、現在は医療の方面で勉強をし直しボランティアで国境なき医師団の手伝いをして・・学部に帰ってきたところを懐かしい顔に出迎えられ・・・――――教授や他の生徒達の前で正座をさせられた。



実際は屈辱的な光景だろうが、姉さんを始め冬弥や昂柳に会えて・・心底嬉しかったんだ。少しにやついた表情になったのはしょうがない事だろう。


「ハルちゃん!本当に反省しているのね?!」

「も、勿論!」


目ざとくそれを見つけた姉さんに注意され、説教の時間が伸びたが・・それすらも俺には嬉しい。マゾとかいうなよ?ただ俺は、1人の足で立って人の為にと考えて行動するようになり、色々な経験を経て・・・家族が、人との繋がりが、本当に大切なモノが何かを学んだんだ。



『兄さん・・嬉しそうだな。でも、元気そうでよかった』

『母さんの説教伸びましたね・・ハル兄さんが元気ないとか、無いでしょう』



泣きながら説教する姉さんの後ろからぼそぼそと話をする二人の声も俺の耳には届き、本当に色んな意味で感謝の言葉が出た。




それから数年後、俺はある子と出会うことになり・・また人生が変わるんだった。










少しは幸せにさせてあげられただろうか?


因みに自分の友達に意外と好かれた秋華姉さん・・・意外だ・・。


あと、2人。

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